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右顧左眄の森

 オーガの町から安土と名を変えた町を出て、僕達は妖精都市若狭へと向かった。

 500人という人数だと、本来なら行軍速度が落ちる。

 しかしトライクというこの世界では未知の乗り物での移動は、案内役のギリーですら予想だにしていなかった。

 少人数で歩けば約一ヶ月で到着するみたいだが、大人数な挙句よく分からない乗り物での移動。

 複数の要素のおかげで、どれくらいの時間が掛かるか不明しまった。


「申し訳ありません。ただ、近くまで行くと、若狭に近いというのは分かりますから」


「まあ普通はこんな経験しないからね。仕方ないよ」


 半年近く時間が掛かるなら未だしも、約一ヶ月が前後するだけだろう。

 食料事情を考えても、そこまで焦ってはいない。


「ところで、若狭ってどんな所なの?」


 僕等は町や村以外の場所に行った事が無い。

 都と言っても、東京みたいなビル群があるわけじゃなし。

 正直なところ、想像出来ないのだ。


「若狭は一言で言えば、森の中の森ですかね」


 森の中の森?

 勇者の中の勇者みたいな感じの意味合いかな?

 理解出来ていないのが顔に出たのか、言い方を変えてくれた。


「若狭は森の中にあるんですが、森の外側に樹木の壁があり、その内側にまた森のような街並みが広がります。家の一軒一軒が、木の形をしているというか、中をくり抜いて作った家なんです。だから一見すると、また森の中に入ったような気持ちになります」


 なんとなく理解はした。

 でも何でそんな家にしたんだろう?

 縦長で、使いづらい気もするんだけど。


「妖精族って、皆小さいの?」


 皆小さいなら、そんな家でも使い勝手が悪いわけじゃないんだろう。

 でも違うなら、そんな家に住む必要無くない?


「大半は私と同じくらいですね。でも丹羽様や一部の方々は、普段はヒト族の方々と同じ大きさですよ」


 普段は?

 サイズ変えられるって事か!

 小さくなれるなら、最初から小さい方が便利なはず。

 だから巨大化する方が正解かな?


「丹羽長秀はどんな人なの?」


「丹羽様ですか。文武両道ですが、あまり表に出るのが苦手な気がします。人との衝突を極端に避けるんですよね」


 うーん、頭も良くて運動神経もそこそこ。

 でも目立ちたくなくて、喧嘩が嫌いって感じ?


【なんかそれだけ聞くと、陰キャっぽいな。それでも都市を任された領主なんだから、凄い人なんだろうけど】


 有能な陰キャねぇ。

 話を聞くと、僕が思ってたタイプとはちょっと違うんだよなぁ。


「ただし、敵対する者には結構手厳しいと思いますよ。若狭は王国から何度かちょっかい出されているんですが、捕まった敵兵は全て死刑になっていますから」


 あー、なるほどね。

 なんとなく繋がったかも。


【何が繋がったんだ?】


 この人、めっちゃ忠義に厚い人なんだよ。

 信長に対する忠義だと考えると、しっくり来るんだよね。

 味方とは揉めると信長の迷惑になるから、衝突を避ける。

 表に出ないのも、味方が活躍出来るように自分が引き立て役に回る為。

 それで味方が信長の役に立つなら、構わないって考えじゃない?

 それに敵対するなら、普通に戦う。

 そして信長に歯向かうとどうなるか知らしめる為、容赦無く殺す。


【永遠のナンバー2タイプか。信長の時代って下剋上が普通だろ?めっちゃ珍しくないか?】


 それは日本の話でしょ。

 この世界では、下剋上という考えが無かったんじゃないの?


【そうかなぁ?信長が下剋上して統一したのを間近で見てるわけだから、そういう考えがあってもおかしくない気もするんだけど】


 魔族は弱肉強食の考えだけど、信長は力だけじゃないって示したんじゃないの?

 信長も日本から来たって事は、召喚者みたいに特殊な力があってもおかしくないだろうし。


【そういえばそうか。戦えば戦うほど強くなるなら、信長なんかずっと戦ってばかりっぽいもんな。そしたらヒト族でも魔族より強いってのは、なんか納得出来る】


 実際のところは分からないけどさ、それでも信長は丹羽長秀から厚い忠義を受けていたんじゃないかな。


「丹羽長秀については、なんとなく分かったわ。ただ、僕の事をどう見るかで大きく変わりそうだね」


「どう見るとは?」


「味方として見るのか。それとも敵として見るのか」


「魔王様を敵として見るなどと!そんな事を丹羽様がされるとは思いませんが?」


 魔王の器に足る人物じゃないって思われたら、僕も危ないと思うんだけど。

 丁度良い具合に、敵対しているはずのヒト族を二人も連れていて、更に部隊長にまで任命してるからねぇ。

 彼がそれをどう見るか。

 それ次第で、戦争相手も増えるかもしれない。


「ま、会ってみないと分からんか。それに戦っても、負けるとも思えないし」


「そのような戯言は、おやめください!まだ若狭領地から遠いので大丈夫だと思いますが、丹羽様は土魔法の他にも樹木魔法や花魔法をお使いになられます。樹木を通して監視されているという噂もございますので、あまり下手な事を申すのは危険かと思われます」


 樹木魔法に花魔法?

 そんな物もあるのか。

 僕も使えるようにならないかな。


「分かった。気をつけるよ」



 若狭を目指して約二週間。

 見慣れた森とは少し様相が変わってきた。

 今までの森とは確実に違いがある。

 広葉樹が主だった森から、南国系のヤシの木等が目の前に広がっている。

 かと思いきや、その先には凍てつく寒さを感じさせる針葉樹林が見える。

 花も季節関係無く咲き乱れ、明らかにこの先が怪しいと分かるものとなっていた。


「なんか凄いな。季節感がおかしい生花でも見てるみたいだ」


「私が若狭を出た時とは、だいぶ違っていますね。しかし、この先に若狭があると分かりやすいとは思います」


 それはそうだけど。

 何かしらの罠とかあったりしそうなんだが。


「この森は右顧左眄の森と申しまして、自分の意思を固く持たないと迷うと言われています。例えば、怪しいからやっぱり帰ろう。などと考えると、帰り道が分からなくなり森からは出られません」


「何故そんな作りになってるのかな?」


「一つは、無用な人物を近づけない為。用も無いのに来るなという事ですね。それと防犯対策もあります。若狭で犯罪をするぞ!なんて考えを持ったままこの森に入ると、それに反応して魔法が使用されます」


「なるほど。参考になった」


 これはもしかすると、試されている感が否めない。

 一人一人が若狭に行くと初志貫徹していかないと、おそらくは皆とはぐれる事になりそうだ。

 その前に、皆の気持ちを統一しないと危ないかもしれない。

 右顧左眄の森の前で止まり、ひとまず休憩がてら説明をした。


「此処から先は迷う事は許されない。お前達の気持ちに迷いが生じれば、その時点でこの森から出られない仕組みになっているらしい。お前達一人一人が、自らの意思で若狭に行くという気持ちを強く持ってくれ。誰も脱落しない事を期待する」


 なんか演説みたいになってしまったが、そのおかげか盛り上がりを見せたので悪くはなかったと思いたい。

 こういう演説みたいな事も、慣れないといけないんだよなぁ。

 十人くらいの旅で意見を言うなら、そこまで苦ではない。

 でも500人って、そんな人数の代表なんかやった事ないっつーの。

 全く、凄いプレッシャーだよ。

 少し胃が痛い気もする。



「小一時間経ったし、そろそろ行くとしよう」


 僕等は覚悟を決め、右顧左眄の森へと入っていった。

 気持ち程度の対策として、トライク同士でロープを結んでいる。

 もし見えなくなっても、ロープが繋がっていれば迷う事は無いかなと思ったからだ。

 と言っても、気休めだけど。

 そんな事で魔法が破れるなら、とっくに皆やってるはずだし。



 今のところ、はぐれた者は居ないようだ。

 結構走ってきたとは思うんだけど。


「魔王様、少々よろしいでしょうか?」


 この人誰?

 知らないんだけど。


「私、第二部隊に所属してます、レットと申します」


 話を聞くと、オーガの町へ向かう途中にズンタッタ達と合流した獣人らしい。


「それで、話って?」


「はい!ラコーン部隊長なんですが、どうやら気分が優れない様子なのです。本人は大丈夫の一点張りなのですが、森に入ってから体調を崩されたので、何かあるのではと思いまして、連絡させていただきました」


 ラコーンが体調不良?

 さっきまでご飯ガッツリ食べてたのに。

 食べ過ぎじゃないだろうな?

 一応様子を見ておくか。


「ラコーン、大丈夫か?」


「魔王様。申し訳ありません。何故か段々と頭痛が酷くなり、今では眩暈もしてきてまして。キャリアカーに乗っているだけなので、あまり言いたくなかったのです」


 そんな事言ってるけど、かなり顔色も悪い。

 横になっているが、思った以上に重症だ。


「魔王様!すいませんが、此方へ来ていただけますか!?」


 キャリアカーの後ろから大きな声で叫ぶ男が居た。

 コイツは第三部隊長だな。

 頭が薄いから分かる。


「どうした?」


「隊長が!イッシー(仮)部隊長が倒れました!」


 説明に(仮)は要らんだろ。

 しかし倒れたのはマズイ。

 僕は斎田さんの元へ走っていった。


「うぅ・・・」


 意識が無いじゃないか!

 ここまで重症だと思わなかったぞ!


「おい!第一部隊にも病人が出てないか確認しろ。いや、全部隊にだ!」



「魔王様。全部隊員に確認しましたが、特に体調が優れていない者は居りませんでした」


 体調が悪くなったのは二人だけ?

 しかも部隊長に限る。

 でもゴリアテはすこぶる元気だし、限定的ではない。


「マオくん、大丈夫?」


 ハクトが料理部隊の方から、わざわざ心配して来てくれたらしい。

 ちょっと気を張ってたから、少し嬉しい気にもなった。


「僕は大丈夫なんだけどね。ラコーンとイッシー(仮)がかなりヤバイんだよ。流石にこのまま行軍は・・・」


 マズイ!

 若狭まで行くのを諦めると、道に迷う。

 クソッ!

 今になって思えば、完全に罠じゃないか!

 皆が動揺する前に、先に言っておかなくては。


「これは罠だ。皆に若狭まで行けるという気持ちを途切れさせるな!全部隊に伝えろ」


 伝令は出したけど、もしかしたら既に迷ってしまった者も居るかもしれない。

 しかし、僕の勘が間違っていなければ、すぐに殺されたりはしないはず。


【何でそう思うんだ?】


 さっきギリーが、樹木魔法で監視していると言っただろ?

 それなら僕等の事も分かっているはず。

 何処までの監視能力か分からないけど、絶対に敵対していると分からない相手を、いきなり殺す馬鹿は居ないだろう?


【人質としての価値もあるって事か】


 多分ね。

 だから迷っても、いきなり死ぬ事は無いだろう。

 しかし分からん。

 何故、この二人だけが倒れたんだ?


「しかし大変だね。ラコーンさんも斎田さん・・・じゃなくてイッシー(仮)さんも。治るのかな?」


「分からない。でもこのまま進むのは危険だと思う」


「だよね。僕の回復魔法も効かなかったし。しかし、何でこの二人なんだろうね。ヒト族って、何か僕等と違いがあるのかな?」


 え?

 あ!

 それだ!


「流石ハクトだ!グッジョブとしか言いようがない!」


「え?ぐっじょ?何それ?」


 そうか。

 ヒト族だけにしか効かない何かがあるんだ。

 そう考えれば不思議じゃない。

 イッシー(仮)は、皆にはヒト族だと公にしていない。

 だから気付くのが遅れた。

 あー、僕がすぐに気付かないといけない点だった!


【そんな反省は後にしろ。ヒト族にしか効かない何か、手っ取り早いのは魔法だろ】


 それしかないよね。

 魔族は魔力を持っているけど、ヒト族はその魔力が無い。

 だから魔力が無い者にしか効かない魔法をかければいい。


「回復魔法が効かないなら、毒魔法は効かないかな?」


 毒魔法で解毒か。

 種類が分からないから、とにかく病状を診て判断するしかない。


「ラコーン、話せるか?」


「・・・」


 駄目だな。

 こうなりゃ、片っ端から知ってる解毒魔法掛けまくってやる!



 これも駄目、これも効かない。

 これはさっき試した。

 マズイな。

 残り三つしかないけど、魔力の残りも少ない。


「外すと二人分の魔力を残しておくのは難しい。これはもう賭けだな」


「賭けって、それ大丈夫なの!?」


 大丈夫なわけないだろう!

 トライクで長々と運転してきたから、魔力の残りもヤバイんだよ。

 皆は交代しながらだけど、僕は魔力量が多いからずっと一人なんだから。

 今度からこういう事も考えて、やっぱり交代制にしておこう。


「これでどうだ!」


 最後の魔力を使って、二人に向かって解毒を掛ける。

 あぁ、倦怠感が襲ってきた。


「マオくん!顔色が、ラコーンさんの顔色が良くなってきた!」


 ラコーンは成功か!

 良かった。

 賭けには半分は勝ったらしい。

 あとはもう一人。


「イッシー(仮)さんは、顔色が分からないんだけど・・・」


 そうなんだよ。

 精神魔法の契約しちゃってるから、仮面も外せないし。

 顔色が見えないから、解毒成功したか分からん!


「あ、これは・・・元気って事で良いんだよね?」


 ハクトが目線を別にやると、そんな事を言ってきた。

 僕も分かった。

 もう大丈夫です。




 下半身見たら、勃ってました。

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