遠征選抜試験
ギリーの一言で始まった、妖精都市若狭への遠征。
出発はすんなり決まると思っていたのだが、こんなところで躓く事になるとは思わなかった。
「魔王様、私がお供致します!」
「いやいや!私を是非!」
「私の方が役に立ちます!何卒!」
代表者の中で、誰が遠征に同行するかで揉め始めてしまった。
ギリーは案内役なので確定なのだが、他はどうするのか。
戦闘を担当するだけでなく、丹羽長秀との交渉をする者も選ばなくてはならない。
僕が直接してもいいのだが、魔王が他の魔族に頭を下げるという行為は厳禁らしい。
僕も行くには行くが、ほとんどお飾りだ。
「何でそんなに揉めるんだ?」
率直な疑問をギリーにぶつけると、苦笑いしながら答えてくれた。
「魔王様、もう少しご自分の事を考えてください。魔王様のお供をするというのは、魔族にとってはとても栄誉な事。それこそ信長様からお名前を頂戴した方以外には、とても重大な事なのですよ」
ふーん。
中身は大学生だけど、そこまで有難いか?
しかも見た目はガキンチョだぞ。
あまり興奮し過ぎて、喧嘩になっても困る。
とりあえず同行不参加の者は、先に伝えておこう。
「まずズンタッタは不参加だな。町の拡大に専念してもらいたい。そしてオグル町長とその代理ゴリアテは、町の代表者なので駄目ね。」
ズンタッタは自分の立場が分かっていたのだろう。
すんなりと受け入れた。
しかしゴリアテは食い下がる。
「いやいや、この人数でこれだけの多種族。私はまだ代表でもないですし、問題無いですよ!」
言ってる事は分からなくもない。
でも此処は元々、オーガの町。
その代表というか、代理が居なくなるのも、どうなのだろう?
オグルさんだけだと、もう対応しきれないような気がする。
「残念だけど・・・」
「ちょっと待ってください!」
代表者以外の方から声が聞こえる。
なんかこの待ってくださいコール、オーガのお見合いが懐かしい。
「代理の仕事であれば、僕等が頑張ります!なのでゴリアテさんを連れて行くかは、再考してもらえませんか?」
そう言ってきたのは、お見合い勝者のダビデだった。
傍らには彼女のオーグさんも居る。
見せつけにでも来たのかね?
などとは思いませんとも。
袖をちょこんと持たれてるのは、少し羨ましいと思うけど。
「ゴリアテは必ず役に立つ男です。オーガの代表として、連れて行ってもらえませぬか?」
おぉ!
プロテインにしか興味無いと思っていたオグルさんが、マトモな発言を!
「ゴリアテだけを特別扱い出来ないからなぁ」
「魔王様、それならば同行者選抜試験を行なっては如何でしょう?」
太田がまた妙な事を言い出した。
コイツは、自分が行く事は確定と疑わない。
本当は置いていこうと考えたのだが、僕等が居ない間に暴走されるのが怖い。
止められる人が限られるので、目に届く所に置くのが一番だと考えを改めたのだった。
「試験って、何するのさ?」
「そうですね。戦闘力、トライクの運転能力、交渉力等ですか。後は肝心なのは、魔王様への理解力じゃないでしょうか?」
「最初の三項目はまだ分かる。でも僕への理解力って何だ?」
「それは魔王様の好きな食べ物とか普段は何をしているとか。それとどんな女性を目で追っているか等、色々とありますよ」
オイィィィ!!
お前、そんな事知ってるのかよ!
怖いよ。
ストーカーだよ。
ジト目で見ていたら視線に気付いたのか、反論してきた。
「冗談ですよ。そんな事、聞くわけないじゃないですか。本当は、魔王様の意向を汲んでいるか。それを確認した方がよろしいかと?」
「どういう事?」
「魔王様は今後どうしたいのですか?戦争ですか?それとも自衛のみですか?」
「あぁ、そういう事か」
【どういう事?】
僕等がどうしたいか。
それをまず決めないといけないって事。
その上で僕等の意思と違う方向性の人は、交渉なんか出来ないでしょ?
例えば、僕等が戦争推進派だとしよう。
それなのに、交渉役が勝手に戦争反対だって言ったらマズイじゃない?
【なるほど。そういう事か】
今回は極論だったけど、丹羽長秀と交渉するにしても僕等の意思と違う方向に行かないように、僕等の事を理解しているかを確認しろって事なんだろう。
【極論って言ってたけど、結局はそこに行き着かないか?帝国と戦争するのか。王国と戦争するのか。帝国なら王子だけと敵対して、国王派とは友好的に行くのか。いつかは考えないと駄目だろう?】
先延ばしにしてきたけど、そうなると思う。
だからこの機会に、その話し合いもしたかった。
でも皆、僕等の言う事なら賛成みたいな考えだからなぁ。
話し合いというより、ただの確認になりそうなんだよね。
【試しに目の前の太田に聞いてみればいいじゃん。コイツなら、俺達の事分かってる方だと思うよ】
それもそうだ。
ハクトと蘭丸より、分かってそうでちょっと怖いけど。
「太田。お前は今後、どうするべきだと思ってるの?」
「それは魔王様の意図するままに」
「違う!お前の考えはどうだって聞いてるんだ!」
「ワタクシの考えですか!?うーん、どうなんでしょう。あまり深く考えてませんでした」
僕等に依存し過ぎだな。
コイツも選抜試験受けさせて、宿題として考えるように言っておこう。
「お前も試験は受けなさい!落ちる事もあると思って、真剣に受けろよ」
「そ、そんな!?いや、腹筋板チョコまで変わったワタクシの本気をお見せする、丁度良い機会かもしれません」
何故か逆にやる気になった。
やっぱりよく分からん奴である。
「では、選抜試験の内容を発表する。先に言っておくが、平均した点数よりも何かずば抜けた方が採用されるからな。そのつもりで頑張ってくれ」
高台に上がった僕は、広場に集まった遠征希望者に試験内容を伝えた。
そして敢えて伝えなかったのが、合格者数。
遠征には500人でいいかなと考えている。
町の防衛を考えて、減らしはしても増やす事は無いと思っている。
ちなみに試験内容は少し変更した。
戦闘と交渉の他に、料理も含めてみた。
これはラーメン作りに加えて、他にも何か作れないか考えているからだ。
丹羽長秀には魔王以外に、神の使徒だとも伝えるつもりでいる。
信用してもらう為には、食べた事の無い物を用意するのが良いと思ったからだ。
最後に、今後について自分の考えを述べる事。
これには特に合否は関わっていない。
自分の考えを述べるというのは、意外と難しい。
特に目上の人に対してはね。
だから、試験という名で語ってもらおうと思った。
僕自身、まだ考えが固まっていない。
出来れば戦争なんかしたくないとは思う。
でもそんな事は、僕等の都合で止まってはくれない。
だから皆の意見を取り入れつつ、自分の中に落とし込みたいと考えている。
ぶっちゃけ、皆を言い訳に自分の考えを定めていると言ってもいい。
戦争するかしないかとか。
種族の存続に関わるとか。
そんな事を戦争未経験のたかが日本の学生如きが、一人で決められるわけはないのである。
皆を言い訳に使ってごめんよ。
とは思うけど、魔王に担ぎ上げたのはキミ達だから。
そこは文句言わないでほしいな。
「試験終了!皆、お疲れ様でした。後日、結果発表するので、それまでは待機しててください」
流石に希望者全員の事を見るのは疲れた。
倍率四倍くらいはあるのかな?
約2千人近くは参加していた。
四人に一人は参加していた感じだと思う。
【お疲れさん。戦闘面だけは俺が見てて正解だったな。もしお前が一人で見てたら、途中で倒れてたんじゃないか?】
僕もそう思ったよ。
本当に助かった。
しかし思いもよらない人が来てたね。
【あぁ。何で受けたんだか直接聞いてないけど、結構マジでやってたぞ?】
何で遠征に行きたいんだろう?
合格だったら聞いてみよう。
料理に関しても、ハクトと前田さんが大半見てくれたのも大きい。
二人とも料理が上手くないので、判断が出来ないからね。
判断材料は食べるんじゃなく、包丁さばきとかそういう方だったし。
交渉力の方は希望者だけ面接。
よく分からないので、スマホでプレゼンとかの内容を真似て作ってみた。
仮想丹羽さんとして僕と話してもらって、どういう対応をするか見させてもらった。
希望者だけとはいえ、とても多くて疲れた。
こちらもビックリした事もあった。
後は、自分の考えを述べた用紙を読ませてもらおう。
ただ、今日じゃなくてもいいよね?
もう疲れたわ。
数日後、遠征選抜試験の結果発表の日となった。
僕は前と同じように高台に上がり、受験者と対面している。
前回と違うのは、参加決定の数人が一緒に上がっている事だ。
数人と言っても、ハクトと蘭丸、太田とツムジの四人だけだが。
「チキチキ第一回、遠征選抜試験の結果発表!」
「チキチキって何?」
蘭丸が小声で聞いてきた。
僕も知らない。
テレビで言ってたから使ってみただけだ。
なので聞こえないフリをした。
「今回の合格者に関して、最初に言っておく事がある。戦闘面で絶対に受かったと思った連中も居るだろう。ただし、町の防衛を疎かに出来ないという意味もあり、意図的に落とした者も存在する。だから不合格だからといって、悲観的にならないでほしい」
小声で文句を言っている蘭丸を無視し、真面目な口調で受験者に伝えた。
皆、静かに聞いてくれている。
これが校長先生の気分か。
少しだけ気持ちが良い。
あの無駄な長話の理由が少し分かった気がする。
「最初に料理担当から。ハクトよろしく」
「え!?僕が直接言うの!?」
驚いているけど、当たり前だ。
だって僕ほとんど知らないし。
どんな事を評価したのかすら分からない。
だったら担当する者に、最初から任せた方がいい。
「・・・以上です。呼ばれた方は、彼方は移動してください」
知らぬ間に呼び終わったようだ。
ある意味、交渉の鍵にもなる料理担当。
若狭に着く前には、新しい料理も完成させてほしい。
「次、交渉担当。これは本当に狭き門だったな。合格者は五人だ」
たったの五人という事で、周囲も騒めいている。
これは戦闘力と関係無いので、意外と受験者も多かったからだ。
「発表する。交渉担当代表者、森長可」
「なにいぃぃぃ!!!」
うるさいな。
耳元で叫ぶな。
前に居る受験者よりも大きい声出すから、皆驚いているじゃないか。
長可さんが高台へ上がってくる。
「えっ?えっ?何で?」
「受験者に居たからに決まってるだろう。ちゃんと贔屓目無しに採点して、一番だったぞ」
「蘭丸、みっともないからやめなさい。貴方も代表なんでしょう?」
母親から怒られて、シャキッとする蘭丸。
やはり長可さんには弱いな。
今回の遠征、蘭丸は心が落ち着かないかもしれない。
「よろしくお願いしますね、魔王様」
うん、ちょっと僕も心が落ち着かないかも。
「最後の五人目、小人族スイフト」
「えっ!?」
自分が受かるとは思ってなかったらしい。
周りをキョロキョロしながら、高台に上がってくる。
ちょっと小さいから、創造魔法で足元を盛り上げた。
「場違いじゃないから安心してくれ。お前にも活躍する場はあるからな」
「あ、ありがとうございます」
緊張してるのか、噛み噛みで返事をしてくれた。
これで交渉担当も終わり。
ラストは華のある戦闘班だな。
「最後に戦闘班だが、さっき言った通り、落ちていても弱いわけじゃない。これは人数が多い為、受験番号を呼んでいく。呼ばれた者だけ残ってくれ」
呼ばれた者だけを残し、その中から隊長を任命していく。
「隊長だが、三人を任命する。第一部隊長ゴリアテ」
その名前に、残ったオーガ達が盛り上がる。
正直迷った。
残って防衛組に入ってもらおうとも思った。
しかし防衛の適任者が居たので、ゴリアテを選択した。
「第二部隊長ラコーン」
ヒト族だろうと仕事は出来る。
対人戦闘なら、下手な魔族よりは強くなっている。
ズンタッタの元でやってきたおかげか、指揮も上手い。
選んで損はないはず。
「そして最後!第三部隊長」
皆が息を飲んで、呼ばれるのを待っている。
何故なら、他の二人は周囲も納得の人選だが、もう一人は誰が呼ばれるか分からないからだ。
自分が隊長かも?
そう思っている人の視線が、僕を突き刺す。
「第三部隊長、石仮面の人!」
周りから驚きの声と共に聞こえてくる。
誰だ、あのハゲは!