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妖精の助言

 次の日に全町長と村長での会談を控えた夜、僕達は仕事をしていた。


「いらっしゃいませ〜!神の世界の食べ物、白い兎のラーメンだよ〜」


「ラーメンください」


「ハイ、ラーメン一丁!」


 大半の魔族には、見た事も聞いた事も無い食べ物だった。

 しかし、リザードマンだけが行列を作っているのを見て興味が湧いたのか、気付くと色々な種族が並んでいたのだった。


「魔王様。やはりラーメンは格別です!私はこの食べられなかった期間に、どうにかして自作しようとしたのですが。食材は分かっても、味だけは真似出来ませんでした・・・」


 そう言うのは、長い列に並びラーメンを一人で二人前頼んだ蜥蜴。

 ではなく、リザードマンの町長であるアウラールさんだ。

 ラーメンを作りに戻ってきてほしいとまで言ってくるほどの、ラーメン好きになってしまった。


「そこまで好きになってくれるのは、とても嬉しいしです。でもね、このラーメンは僕が長い時間を掛けて作り上げた味。そうそう簡単には真似出来ませんよ!」


 店主であるハクトが笑顔で応対しているものの、その裏にはプライドが見え隠れしている。

 確かにラーメンを作ってくれと頼んだが、あそこまで本気になるとは予想だにしなかった。


「それと近いうちに、新しい味も出せそうです。新味は味噌。味噌ラーメンですね」


「な、なんだってぇぇぇ!!」

「味噌ラーメンだと!?」


 行列の前列の方から、別々に驚く声が聞こえる。

 誰だろうと列の方を覗き込むと、一人は普通のヒト族。

 一人は怪しい石の仮面の男だった。


「あ・・・。そういう事ね」


 どうせだから、このタイミングで二人を紹介しよう。

 明日も戦力的な意味で期待しているので、おそらく会談にも参加してもらうつもりだ。

 ただし、あまり目立たせるのも悪いので、僕の後ろに控えてもらう形になるが。


「こんばんは、佐藤さん」


「阿久野くん。まさかラーメンまで作ってるなんて、思いもよらなかった!ちなみに中身が日本人であるキミがプロデュースしたのなら、味は期待しても良いんだよね?」


 その返事は敢えてハッキリとしなかった。

 ニヤリとだけして、後は食べて判断してほしい。


「う、美味い!これ、都心のラーメン屋の醤油と同じ。もしくはもっと美味くないか!?」


 都心のラーメン屋と言われても、僕は通っていた大学近辺のラーメン屋くらいしか知らない。

 あの辺は学生向けの安いお得なラーメンだったり、ガッツリ系だったりが多かったイメージがある。

 わざわざラーメンを食べに出掛けるという経験が無いので、そこまでとは思わなかった。


「それ、めっちゃ美味いですよね。素材が日本と違うからかな?味が濃厚なのに、くどくないというか。俺が食べたラーメンの中でも、トップクラスですよ」


「え?」


 ラーメンを食べていた佐藤さんに、妙な石仮面の男が話し掛けてきた。

 佐藤さんは微妙に距離を取ったが、素材が日本と違うという言葉から、驚きの声を上げた。


「紹介します。此方が獣人が多く住む能登村に帝国兵としてやってきた佐藤さん。精神魔法で強制的に戦わされてたところを、契約破棄して助けました」


「ど、どうもはじめまして。佐藤俊輔と申します」


 石仮面の男に挨拶するが、流石に怪しい事この上ない男にはそう簡単に気を許せないんだろう。

 ちょっと他人行儀だった。


「対して此方が斎田さん。リザードマンの町で僕の魂の欠片を使って、盗みや無銭飲食を繰り返してました。元帝国の脱走兵で、この中ではこの世界に来た最古参になるのかな」


「はじめまして、斎田健二郎です。こんな姿で申し訳ない。俺はまだ正体を明かしたくないんでね」


 そう言った後、僕が佐藤さんに小声で償いの旅の途中だったと伝えた。


「そういう意味での石の仮面ですか。てっきり、また転生してきた元日本人の吸血鬼かと思いましたよ」


「驚かせて申し訳ない。ウリィィィ!!とか言わないので、安心してください」


 二人とも、波紋が合ったのだろう。

 すぐに打ち解けてくれた。

 明日の話も伝え、僕はお客さんの案内を続けた。


 スープがとうとう無くなった頃、周りには満足気な人達で溢れかえっている。

 命の安全の為とはいえ、知らない土地にいきなり連れてこられたわけだ。

 精神的にも疲れがあるだろうけど、少しでも減らす事が出来たなら幸いだと思う。

 いつまでも、借り暮らしは駄目だと思うし。



 翌日、各町村の代表者に集まってもらった。

 青空会議状態だが、テーブルと椅子だけは僕が創造魔法で木から作っておいた。

 地べたにそのままというのは、代表者会議としては少し情けないのでね。

 そして僕は上座というか、少し違う所に座っている。

 他の人は半円状に並べたテーブルに、各自座ってもらっている。


「さて、会議を始めたいと思います。皆さんは種族問わず、忌憚のない意見を出してください」


「魔王様、私達に敬語は不要です」


「そ、そうですか。分かり・・・分かった。まずはお礼を言わせてほしい。自分達が住み慣れた土地を離れ、わざわざ此処まで集まってくれた事、感謝する。そして今後、僕等がどうすればいいか、その事を考えたい」


 魔王の感謝の言葉に、会った事の無い代表者は驚いている。

 僕の事をどのように想像していたのか分からないけど、前魔王の印象でもあったのかな?

 前魔王は力が全てという脳筋タイプだったから、傲岸不遜な態度だと思ってたのかもしれない。


「少し意見をよろしいでしょうか?」


「どうぞ」


 リザードマンの町長、アウラールさんが軽く挙手した。


「昨日、エルフや獣人の方々が集まり、この近辺と言われる全ての魔族が集結したと思われます。私はこの町にやってきた魔族の方々の調査をしていましたが、その数は約八千人。皆、身元も確かで特に怪しい点はありませんでした」


 石仮面の斎田さんの身元は?

 怪しい点には入らないのか?

 そこを突っ込むと、後ろに控えている斎田さんの立場が危うい。

 今回は見逃しておこう。

 今度は違う人から手が挙がった。


「昨日此処に着いたばかりの前田です。着いたばかりでこの町について詳しくないのですが、食料問題は万全なのでしょうか?今、八千人という数字が出ましたが、全ての人に等しく行き渡るだけの量はありますか?」


 チラッとスイフトの方を見た気もする。

 要は力ある種族だけじゃなく、均等に扱われるかという事かな?


「私はこの町の町長代理、ゴリアテだ。前田さんの発言の返答だが、まず前者の食料問題は解決していない。流石にこんな大人数、町としては受け入れ切れるものではない。ハッキリと言うが、このような人数を受け入れられるのは、大都市しか無理だと思われる」


 食料問題の意見に、周りが騒ついた。

 長期間になればなるほど、困窮を極める事になりそうだ。


「そして後者の意見だが、等しい量という点では行き渡っていない。しかし、満足するという意味では均等にしているという自負はある」


「それはどう言った意味で?」


「こ、小人族のスイフトです。今のゴリアテさんの意見ですが、私達や身体の小さな種族にも、ちゃんとした対応をしていただいております。流石にオーガやミノタウロスの方々と同じ量は、私達には食べきれません。適切な量を分配していただいているので、そのような心配は必要無いでしょう」


 身体の大きさに合わせた、均等な分配がされているという事らしい。

 これは、力だけではないという教訓を得たオーガの考えだった。

 信長の教訓が、数百年経った今も生き続けているのは素晴らしいと思う。


「食料以外で何か問題になっている事は?例えば居住施設とか」


「私は帝国子爵ズンタッタと申します。故あって魔王様と旅を共にしています。魔族の方とは敵対しない事をお約束します。それで居住施設という点ですが、時間を掛ければ私共の方で準備可能です。しかしすぐには、人数分の家を準備しろと言われても難しいですね」


 建物に関しては、僕も作る事は出来る。

 身体の小さな種族には、コンクリートで建てたアパートとかでもなんとかなると思う。

 ただしアパートを作った際の問題は、電気や火は置いておいても水だけが大変かもしれない。

 上の階は、わざわざ運ばないといけない。

 水道を作るとなると、流石に専門の知識が必要だろう。

 ちょっと僕だけじゃ難しい。


「建物に関しては、少し我慢すれば何とかなるという意見で問題無いな。僕も創造魔法で作れるし。ただ食料の方はそうもいかない。早急に開拓しても、やはりすぐに解決は出来ないだろう」


「狩りで魔物を食料にするとしても、やっぱり数が難しいですね。下手に人数分の肉を用意しようとすると、この辺りの生態系に影響を及ぼしかねないと思います」


 うーん、やっぱり行き詰まったな。

 食料問題とかどうしよう・・・。

 歴史上、こういう問題が出ると戦争に発展する。

 無い物は奪えという考えだ。

 しかし、日本人である僕等に戦争という考えは少しキツイ。


「あの、私の意見を聞いてもらってもよろしいですか?」


 誰だ?

 この小さい人、小人族とは違った姿をしているな。


「グレムリンのギリーと言います。私の意見なのですが、妖精族を頼っては如何でしょう?」


 グレムリンって、凄い古い映画であった気がする。

 チラッとレンタルDVDで見かけただけだから、どんな話か知らないけど。

 ギリーという人、妖精というにはちょっと怖い。

 爪が長かったり、牙が少し見えてたりくらいはいい。

 毛深いのだが、微妙に爬虫類のような鱗も見えたりする。

 妖精なので、哺乳類に近いのか爬虫類に近いのか、よく分からないところもある。

 それは置いといて、妖精族?

 また知らない種族が出てきたな。


【だいぶ前に、佐藤さんがアングラーフェアリーとかって言ってなかったっけ?】


 そんな事あったな!

 要注意人物だったような?

 じゃあ妖精族って、名前の割に危険なんじゃ・・・。


「ギリーさん。妖精族って、どの辺に居るの?」


「ギリーとお呼びください。魔王様にさん付けは、恐れ多いです。それと妖精族ですが、大きな都市が王国の近隣にあります。スプリガンである丹羽長秀様が治めていて、王国に睨みを利かせているはずです」


 丹羽長秀だって!?


【知ってるのか?】


 信長からもかなり重宝された人物だよ。

 長秀って名前で分かるけど、信長の家臣で名前に一文字与えられたのはこの人だけなんだ。

 信長の中では、丹羽長秀は使い勝手が良くて、何にでも活躍出来るマルチな人って扱いらしい。


【そんな人だからこそ、面倒な王国の近くに領地を構えているのかもしれないな。もしかしたら、王国を開拓していたヒト族が、問題を起こすかもって予想していたんじゃないか?】


 そこまでは僕にも分からないけど、あり得ないとも言い切れないね。

 とにかく、凄い人物なのは間違いない。


「丹羽長秀か。何故、丹羽さんに頼ると良いのかな?」


「長秀様の家臣には、ノームやノーミードがおります。あの方達なら、大地に影響を及ぼす魔法を多々使えるはず。開拓や田畑にも活躍してくれると思われます」


 ノームが居るのか!

 ゲームでも四大属性の土を司ってたな。

 これは期待出来るかもしれない。


「ギリーの言いたい事は分かった。で、その丹羽さんの居る都は場所分かるの?」


「妖精都市若狭ですね。私も若狭出身ですので、問題無いです」


「なら案内はギリーに任せる。後は部隊を編成して、オーガの町防衛と遠征組に分けよう」


「かしこまりました。では、そのように準備を行いたいと思います」




 妖精って羽生えたりしてるのかな?

 可愛い子が居たら嬉しい。

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