アイアムアヒーロー2
ヒーローの名前。
それは子供にとって、とても意味のある事だと思う。
俺達が子供の頃に観たアニメや特撮は、歳をとってもそのヒーロー名を出すと話が盛り上がったりした。
それは世界が違っても、同じだと思いたい。
だからこそ、名前は重要なのだ。
(子供達に聞くって言ってたけど、その名前で決めちゃうの?)
それはどうだろう。
流石に変な名前だと、俺もちょっと嫌だし。
参考程度って感じで聞きたいかな。
もしかしたら、子供達から良いインスピレーションを受けるかもしれないし。
(それならいいけど。子供って、時には残酷だからね。下ネタ好きだし、変な名前もあり得ると思ったから。そういう考えなら安心だよ)
「皆、元気にしてたか?」
子供達が遊んでいるところに、颯爽と登場。
ババっとポーズを決め、ちょっと高い所からジャンプ!
そう、俺はヒーローだから!
「あー、まおうさまだ!」
「何で変な動きしてるのー?」
「まおうさま、おもしろーい」
別にウケる為にやったわけじゃないんだが。
だが好評なのは間違いない。
これが10歳くらい上になると、話は変わる。
マメが飛んだわとか無駄な動きが多いとか、辛辣な言葉が返ってくる事間違い無し。
しかし、この子達は違う。
俺とそんなに背は変わらないが、とても好印象を持たれている。
今も両手を引っ張る女の子達。
俺、日本でもこんな扱いされた事無いよ。
すげー嬉しい。
(兄さん!まさかロリ・・・)
だから違うから!
毎回そっちに持っていくのやめて!
「今日はね、皆に相談があって来たんだ。ちょっとこれ見てくれるかな?」
俺は、変身したその日から考えていたポーズを決め、こう叫んだ。
「へん、しん!トゥ!」
前回り宙返りをしながら、身体が光り輝く。
着地した時、それは機械感のあるユニフォーム姿になっていた。
「どう?」
俺は心の中でドヤ顔を決め、子供達に問い掛ける。
「す、すっげー!やべーすげー!」
「変身した!まおうさま、すげーぜ!」
「背まで大きくなってる。凄いわね!」
男の子達を筆頭に、皆から感嘆の声が聞こえる。
フッフッフ、俺カッコ良い!
(馬鹿な事してないで、早く聞きなさいよ)
ちょっとくらい、この気分に浸らせてくれてもいいじゃない。
皆も盛り上がってくれてるんだし。
(当初の目的を果たしてからにしてよね)
分かったよ。
「皆の期待に応えて、英雄に変身してみたんだ。でも、まだ名前が決まってないんだよね。皆が考える似合う名前、教えてくれないかな?」
なんか幼稚園の先生みたいな言い回しになってきた気がする。
でも効果は抜群。
ハイハイハーイ!という大きな声と小さな手が、沢山上がっている。
「はい、そこのキミ」
「黒ピカ!」
うん、まんま見た目だね。
小さな子の考える名前だし、仕方ないよね。
「野球選手!」
それはちょっと違うかな?
この格好でも出来るけど、野球やるなら普通にやるかな。
「変態マスク!」
おい、何処に変態要素がある!?
とりあえず言ってみた的な感じだろ!
「バット男!」
それは既に、似た名前のダークヒーローが居るんだよね。
ちょっと使いづらいかなぁ。
「怪しい人!」
誰が怪しい人やねん!
変態と変わらないじゃないか。
お前さっき、変態マスクって言った奴じゃねーか。
「ホームランストライク!」
んん?
どっちなの?
ホームランなの、ストライクなの。
「他には出てこないかなぁ?」
子供達はウンウン唸りながら、考えてくれている。
しかし、この中から決めるのは難しいな。
「傾奇者だ!」
傾奇者?
俺、別に傾いてないと思うんだけど。
ん?
何か走ってくる。
(あの特別仕様のトライクは・・・)
アレ、何でコイツが此処に居るんだ?
「太田!」
「キャプテン!御無事でなによりです」
牛の頭蓋骨を模した飾りがとても目立つ。
そしてその兜。
ヒャッハー!としか言いようがない。
「お前、やっぱりイイぞ。とても似合ってるな」
「!?光栄の極み。更に似合うよう、心より励みたいと思いますして、そのお姿は?」
別に励まなくてもいいんだが。
とにかく、早くサングラスを作りたい。
つーか俺、大人と同じ身長でマスクまでしてるはず。
何故コイツは、俺が一瞬で分かるのだろうか。
「なあ。何でお前、俺の事が分かるの?」
「キャプテンはキャプテンですから。見た目が変わろうともこの太田、間違える事はございませんぞ!?」
全然理由になってない。
なんか本当にストーカーみたいで怖い。
「それに魔王様とも雰囲気というか、なんとなく纏っているモノが違います」
魔力が違うのか?
でも蘭丸やハクトは気付かないし。
コイツ、見た目に反して繊細な感性で謎過ぎる。
「まおうさまー、この人だれー?」
「この人は太田牛一。一応、俺の部下になるのかな?」
部下という言葉に太田は天を仰ぎ、悦に入っている。
「キャプテン、猫田殿という方がこの町の様子がおかしい事を伝えてくださったのですが。まさか、キャプテンが既に解決済み!?」
「俺というか、まあ前田さんがトドメを刺した感じか?とにかく、既に落ち着いているから大丈夫」
なるほど。
途中で猫田さんが、オーガの町で伝えてくれたのか。
あの人も活動範囲が謎だ。
ほとんど会わないし、何をしているんだろう。
「まおうさまー、キャプテンってなにー?」
そうか。
キャプテンって、この町では誰も知らないのか。
そういえば太田に会った時に、初めて使ったんだっけ。
今ではズンタッタ達も言ってるから、普通に呼ばれ慣れてしまった。
しかし、キャプテンの説明は何てすればいいんだろう。
(そうだね。大人なら理解出来ても、子供は難しいかもしれない)
どうしよう。
自分の事なのに説明出来ない。
「子供達よ。キャプテンというのは、魔王様と同じくらい偉大な方なのだ。キャプテンはとても強い!そして剛毅な方でもある」
「ごうきってなに?」
「剛毅とは、何か起きても簡単に動じない人の事を言うのだ」
え?
俺、そんな印象なの?
(マメとかチビ言われてめっちゃ動揺はするし、凹みまくってるけどね)
それはお互い様でしょう。
しかし、変な印象を持たれていてちょっと困る。
本性がバレた時、その落差に落ち込まれそうな気がする。
「キャプテンー!まおうさまキャプテン!」
「キャプテンキャプテン!」
「黒ピカキャプテン!」
とにかくキャプテンと言いたいのだろう。
子供達がキャプテンと言いながら、近くを走り回っている。
「キャプテン。先程も書きましたが、そのお姿はどうされたのですか?」
そういえばそんな事言ってたな。
ガン無視してしまった。
「最近、俺の魂の欠片を取り戻したんだ。変身と組み合わせて使ったら、この姿になれる」
しかしそろそろ限界だ。
これ以上この姿で居ると、多分また倒れる。
「おぉ!いつものキャプテンに戻られましたね」
「キャプテン!キャプテンマスク!」
「キャプテン!キャプテンバット!」
とにかくキャプテンが気に入ったようだ。
このままヒーロー名はキャプテンにしちゃうか?
「キャプテン!キャプテンストライク!」
ん!?
キャプテンストライク!?
なかなかカッコ良くないか?
(キャプテン黒ピカとか、キャプテンマスクよりはマシだよね)
キャプテンバットとかキャプテンホームランよりも、全然良い。
これはアリだと思う。
「決めた!キャプテン。俺の名前は、キャプテンストライクだ!」
そう言った瞬間、子供達はピタッと止まりこっちを見た。
不思議そうな顔をしている。
「まおうさまなのに、キャプテン?」
あぁ!元の姿に戻ったんだった!
ちょっとしんどいけど、また変身するしかない。
「へん、しん!トゥ!」
決めポーズからの、クルッと空中一回転。
変身した俺に、子供達から拍手が送られる。
「そう!俺がキャプテン!キャプテンストライクだ!」
「キャプテン!カッコ良い!」
「ストライク!必殺技見せてー!」
ひ、必殺技!?
今やったら、確実に魔力切れだ。
諦めてもらいたい。
「今日はちょっと体調が悪くて・・・」
「え〜!キャプテン技使えないの〜!?」
「キャプテン、ダサいね」
「何だ、見掛け倒しか」
おい、最後の奴!
お前、さっきまでワァ〜!って言いながら騒いでたくせに、いきなり大人びた感じで言いやがったな!
ちくしょー!
やってやろうじゃねえか!
「分かったよ。必殺技出せば良いんだろ。見せてやる!」
「流石キャプテン!」
「やっぱりカッコ良い!」
「無理してんじゃないの?」
オイィィィ!!
何なの!?
この最後の子は何なの!?
ちっくしょー!
絶対に見返してやる!
「見てろよ!必殺、スーパーストレート!」
と言う名の、ただの火球をストレートで投げるだけ。
町中なので、はるか空の彼方に向かって投げ込んだ。
「おぉ〜!すっげー!」
「はやーい!もう見えなくなっちゃった」
「空に火球投げるのが必殺技なんだ。変なの」
クッ!
俺の心のヒットポイントが・・・。
しんどい!
もう魔力も切れそうで、心も身体もしんどい!
「今日はここまでね。また今度、遊びに来るからね」
変身を解いて、子供達に挨拶をする。
「まおうさま、またね」
「今日もカッコ良かった!」
「もっとマシな必殺技用意した方が良いですよ?」
最後まで辛辣な言葉、ありがとう。
俺、帰って寝るわ。
「太田!トライクに乗せてってくれ。もう、いろんな意味で辛い・・・」
俺はヒャッハー号の後ろに座り、何故か目に染みる夕日を見ながら帰っていった。
次は絶対に泣かす。
じゃなかった、喜ばせる。
(最後、ちょっと本音出たよね?)
うるさい、凹むから言うな。
翌日、太田と共に前田さんと長可さんに会いに行った。
太田は海津町を出てから知り合ったので、この2人とは初対面なのだ。
「はじめまして。ワタクシ、魔王様とキャプテンの部下!でございます、太田牛一と申します」
やけに部下という言葉だけが大きく聞こえたが、まあ気のせいだろう。
「な!?部下ですと!?私は魔王様が旅に出る時、連れてって言ったら断られたのに!」
だってアンタ、村長じゃん。
村人見捨てて旅について行くって、駄目でしょ。
そして太田も、微妙に誇った顔をするな。
前田さんの顔が真っ赤になってるじゃないか。
「はじめまして、太田殿。私は森長可。この町の町長をやっております。そして此方が、能登という村の村長、前田利家殿でございます」
あまりに興奮が冷めないので、長可さんから扇子で頭を叩かれて、ようやく冷静になった。
「す、すまぬ。私が前田利家です。以後、よろしくお願い致します」
前田さんから握手を求め、太田と手を握り合う。
和やかなムードになるかと思いきや、握手じゃなかった。
最早、握り潰す勢いである。
前田さんは青筋を立てながら、犬歯を見せ笑っている。
太田も軽く汗をかきながら、握り返しているようだ。
「前田殿、なかなかやりますな。キャプテンから鍛えられしこの肉体。そうそう悲鳴を上げぬと思ったのですが、なかなかどうして!」
「太田殿は見た目通りの豪傑ですな。私、まだ余力を残しているとはいえ、ここまで耐えられるとは思いませんでした」
「ほぅ?余力がおありで?全力でもよろしいのですが」
太田、煽るな!
前田さん、段々と犬歯というより牙が見えてきている。
獰猛さが垣間見えて、これ以上になると危険な気がする。
「おやめなさいな。魔王様の御前ですよ?」
そう言って、2人の頭を扇子で叩く。
ようやく手を離した2人は、ジッと見つめ合った後に何故か笑い始めた。
「フハハハ!流石は魔王様が認めた方ですな。部下と名乗るのも分かります」
「ハッハッハ!ご謙遜を。前田殿こそ、本質は力ではないですよね?昨夜、村の方から帝国兵を一撃で屠ったとお聞きになりましたぞ!」
何かよく分からんが、どうやら認め合ったらしい。
これなら今後も仲良くやっていけそうかな。
「ところで魔王様。最近、何かを試していらっしゃるようですね。子供達から色々と聞いてますよ」
長可さんはお茶を入れながら、此方に話し掛けてくる。
前田さんは知らなかったらしく、興味津々だ。
「新しい力を手に入れたので、試行錯誤してる最中です。子供達を守る為にも、使いこなしたいので」
「そうですか。私達の為にありがとうございます。私はもう、快方に向かってますが、まだ体調に優れぬ者もおりますので。もうしばらくお待ち下さい」
お茶を飲み、最近の様子を教えてくれた。
太田も紹介出来たし、そろそろお暇しよう。
まだ試したい事がある。
「そろそろ俺は出ますね。まだちょっとやってみたい事があるので」
「やってみたい事ですか?どのような事ですか?」
「町中では出来ないので、森に行きたいんですよ」
町中でも出来るかもしれないが、危険かもしれない。
安全を期してやるなら、森の方が確実だ。
「何をするんです?」
「ヒーローに相応しい乗り物を作ります」