モテ期が来た!?
とても良い笑顔で脅された、どうも魔王です。
わざと叩いたわけじゃない。
貴女が洗脳されて、身の安全を確保する為にやったんだ。
もっと言えば、僕じゃないんです。
兄がやりました。
【おい、それはズルイだろ!お前も同罪だろ】
え?
何か言いましたか?
言ってない?
ですよね〜。
【お前、後で蘭丸に長可さんをエロい目で見てたって言うからな】
それはやっちゃ駄目だろう。
しかもそれ自爆行為だからね?
「ところで魔王様。私のお腹は置いておいて、何故此方にいらっしゃったのかしら?」
そういえばまだ説明してなかった。
王国の話をして、今後の展開を伝える。
「そうでございましたか。私達の所には再び帝国が来たようですが、幸いな事に町民に被害は大きく出ていないようですね。町の方は・・・魔王様と利家殿の破壊痕以外は無いようで」
う・・・。
それも兄がやりました。
そして前田さん。
さりげなく離れていくのやめてください。
ズルイです。
「利家殿、お久しぶりですね。村民の方々はお疲れではないのですか?」
「お、お久しぶりです。運転してきた者達は少々疲れを感じていると思いますが、馬車モドキに乗ってきた者は大丈夫かと」
フェードアウトしようとして失敗したからか、声が少し挙動不審だ。
僕を置いて逃げようとするからである。
そしてキャリアカーに乗っていた人達だが、全然元気じゃなかった。
「村長、駄目です。皆吐いてます」
佐藤さんだけでなく、全員が車酔いのようだ。
むしろ怪我人が居ない方が幸いだと思う。
【二日酔いなら経験あるけど、車酔いの経験は無いんだよな】
それは僕も同じ。
どんなに荒い運転でも酔わないよね。
遺伝なのかな?
「酔い止めの薬とかないの?」
「二日酔いの時の薬でも効きますかね?」
それは僕も知らない。
この町で病院なんて見た事無いし、医者も居ないだろうな。
薬剤師とかなら存在しそうだけど、この町に居るかは不明だ。
「分からなければ、飲ませておけば問題無かろう。薬で体調が悪くなるという事も無いだろうし」
前田さんの一言で、飲ませる事に決まった。
でも薬も毒も紙一重って言うんだけど。
飲み合わせが悪いと、体調崩れる事もあるんじゃないかな。
「長可さんは、もう混乱とかしていないですか?」
「そうね。私も長い間、夢の中に微睡んでいたような気分だったわ。今はもう大丈夫」
「私も大丈夫ですね。さっきの光を見て、そんなに時間経ってないからですかね?」
長可さんは安心させようとしているような感じはある。
だがお前は違うだろ!
見るなって言ったのに、村長のアンタがガン見してどうするよ。
他の人に示しがつかないでしょうが。
「前田さんは黙っててください。右腕の話は無かった事にします」
どうして!?って顔してるけど、そりゃアンタがやらかさなければ、もう少し穏便に出来たかもしれないんだから。
「でも部下は増えたじゃないですか。今回はそれが褒美という事で」
帝国の兵士だったハーフ獣人の女性達を、そのまま能登村の守備部隊に組み込んだ。
エルフの戦士団と比べても、遜色ない戦力だろう。
そんな事を考えていたが、長可さんが軽く頭を左右に振っている。
やっぱり何か違和感があるのかもしれない。
「長可さん、出発は皆が落ち着いてからにします。体調に優れない人を無理して連れて行っても、途中で酷くなるのは目に見えてますから。長可さんも安静にしてください」
「そうですか。ではお言葉に甘えて。町の皆への伝達、お任せしてもよろしいでしょうか?」
僕は首肯して、他の皆が集まっている所へ向かった。
【俺等が行くと、またチビとか言われるんだろうな。今回、蘭丸もハクトも来てないしさ】
あぁ、その可能性はあるね。
チビとかマメとか、アレはアレで凹むんだよなぁ。
でも、皆の体調が優れるまで出発しないって言うだけだし。
気にしてても仕方ないか。
「お久しぶりです!ちょっと野暮用で帰ってまいりました」
そんな事を言ってから、体調が良くなってからオーガの町へと向かう話を皆に伝えた。
此方へと視線は向けているが、どうにも反応が薄い。
これから蘭丸達は来てないの?とか、女子から罵声を浴びるんだろう。
「お、おぉ!魔王様が来てくれた!」
「チビ魔王が助けてくれたんですってね。やるじゃない!」
「マメ魔王様、蘭丸くん達が居なくても凄いのね」
ん?
反応が以前と違うぞ。
チビとかマメは変わらないけど、好意的な意見が多い気がする。
以前は蘭丸とハクトの腰巾着扱いだったのに。
【何で急に変わったんだろう?】
急に変わるって言っても、そこまで変わるような事してない。
町を出る前と違うのは・・・
「魂の欠片だ!」
【魂の欠片だ!】
思わぬところでハモってしまった。
でもそれしか思いつかない。
それとこの力、僕の変身じゃないよね。
【そうか、俺の英雄願望ってヤツか】
それしか考えられないね。
今までの反応を考えると、欠片が僕等の人望みたいなモノに影響してたのかも。
【欠片にほとんどの人望を持っていかれたから、マメチビ扱いから抜けられなかったって事か?】
そうじゃないかな?
じゃないと僕等の人受けの悪さ、元からって事になるからね。
そうは思いたくない。
【しかも若い女の子にだけ、めっちゃ嫌われてたからな。欠片のせいじゃなかったら、俺もう立ち直れない気がする】
確かに。
そんな凹む姿なんか想像したくない!
【ちょっと待て!この欠片を取り戻したわけだ。しかも徐々に人受けも戻ってきている。もしかしたら俺達、蘭丸達に人気で負けないんじゃないか!?】
まさかそんなわけ・・・あるかもしれないな。
あのアントっていう微妙な奴が、アレだけの力を発揮したんだ。
本来の持ち主である僕等なら・・・。
【来たな。俺達の時代が】
そうだね。
僕達はこの世界で、三人組のアイドルになる!
脱マネージャー。
よし、女子に話を聞きに行こう。
もしかしたら、既に僕等のファンも居るかもしれないしね。
【それは待たせたらマズイな。なんたって、俺等は魔王だから!】
「ちょっといいですか?」
「ん?どうしたの?」
ほら!
この時点で以前と違う!
前だったらチビ邪魔よ!とか、マメに用は無いわとか言われてたのに。
これは本気で脈アリなのでは?
「僕を見て、どう思いますか?」
「どうって、どういう意味?」
「ちょっとは可愛いな〜とか、カッコ良くなったんじゃないかみたいな」
【おいおい!自分で言ってて恥ずかしくないのかよ。俺なら赤面しちゃってるぜ!】
今日の僕は一味違うぜ。
ここは一気に攻めるのみ!
「少しは男らしくなったかなって。自分で思っちゃったりなんかしちゃったりして」
「ハァ?貴方がマメなのは変わりないわ。小豆から大豆にはなったんじゃないかしら」
小豆から大豆・・・。
僕はぜんざいから味噌に進化したんだ。
こんなに嬉しい事は・・・って、そんなわけあるか!
結局はマメじゃねーか!
「ハ、ハハ。あ、ありがとうございます。参考になりました」
僕のハートにヒビが入ったよ。
このままだと砕けるのも時間の問題だ。
【任せろマイブラザー。此処からは俺がやる】
「ちょっとそこの綺麗なお姉さん!少しお時間よろしいですか?」
「あら?可愛い顔して嬉しい事言うわね」
ほほぅ?
可愛いと来ましたか。
これは、これこそは脈アリなんじゃないのかね?
「お姉さん、もし蘭丸とハクトと俺。この3人のうち1人とご飯食べに行くってなったら、誰と行く?」
「ハクトって誰?」
そういえばハクトって、旅に出てから名前変えたんだっけ。
忘れてたわ。
「ハクトは因幡くんだよ。俺が名前付けたんだ」
「何ですって!?皆!聞いた!?」
「聞こえたわ!因幡くんの名前がハクトに変わったって!」
「これからは私達も、因幡くん改めハクトくん応援隊に改名よ!」
あ、これ駄目な流れだ。
俺、もう聞かなくても駄目だって分かる。
(一応聞いておこうよ。誰か推し変の人が居るかもしれないし)
お前は俺の心を打ち砕きに来てるのか?
まあいい。
聞くだけ聞いてあげよう。
その前に、心を閉じさせてくれ。
「あのー、さっきの質問なんですけど」
「ねえ!ハクトってどういう字?」
「え?」
「だから、どうやって書くの?」
「あぁ、白い兎でハクトだけど」
「キャー!カッコ良い!名前までイケメンだわ」
名前までイケメンって。
名前決めたの弟なんだけど。
「それでさっきの質問なんだけど」
「私達、これから新しい団扇を作るわ。今日は本当にありがとう!またね」
「あ、ハイ」
質問の回答すらしてくれなかったわ。
強いて言えば、ありがとうとまたねって言われた。
ハハ、俺もちょっとは会話出来るようになったな。
(兄さん、そっちの世界に行っちゃ駄目だ!戻ってきてよ)
俺達に時代なんて来なかった。
俺達はマメのままなんだ。
トボトボ歩いてたから、何処に来たのか分からない。
そしたら小さい子供に囲まれた。
「うわ、まおうさまだ!」
「すっげー!ナマまおうだぜ!」
「まおうさまー!創造魔法見せてー!」
チビッコの人気は凄まじく上がった気がする。
創造魔法でバットを作ると、大きな歓声が上がった。
「やっぱりまおうさまのバットは、形がカッコ良いな」
「そうだね。先生達の作るバットと違うもんね」
「まおうさま、かっこいー!」
なんだろう。
とても心が暖かくなってきました。
わたしは今、とても気持ちがよろしゅうございます。
(今までに無かった人気に、おかしな口調になってるよ。また違う変な世界に行ってるよ)
何でこんなに、子供には人気があるんだろう?
謎だ。
「まおうさまは、この後どうするの?」
「どうするって?」
「てーこくと戦うの?どこか行っちゃうの?」
小さい女の子が、服の袖を持って話し掛けてくる。
可愛いな、おい。
(え!?まさかロリ・・・)
ちっがうよ!
ただ普通に思っただけだよ!
可愛いって言っただけで、そっちに持っていかないでくれ。
「俺は、皆が傷つけられるなら、帝国とも戦うよ?それに王国も来てるからね。皆が安全に楽しく暮らせるように、頑張るつもりだよ」
「そっかー。まおうさまは皆の為に戦うのかー」
魂の欠片の回収が本来の目的だけどな。
でも、今言った事に嘘偽りは無い。
やっぱりお世話になった皆には、楽しく生きてほしいから。
「別に魔王じゃなくても変わらないよ。皆が危ない目に遭ってたら、俺は助けに行くけどね」
「まおうじゃなくても、助けてくれるの?まおうさまって、英雄じゃん!」
「英雄か。そうだな。英雄にもなりたかったんだよな」
お立ち台に上がって、ヒーローインタビューを受ける。
それって野球少年からしたら、ヒーローになるのかな。
今思うと子供から人気があるのは、こういう力が作用してるからかもしれない。
(その考え、あながち間違ってないんじゃない?僕もその話を聞いたら、すんなり納得出来たし)
それを考えると、若い女子に人気があまり無かったのはそういう理由だからかもな。
女子でも一部の熱狂的な野球ファンなら、俺達の事を好きになってくれるかもしれないけど。
でも、この世界に野球ファン自体居ない。
佐藤さんがそのうち野球を広めてくれれば、俺達にもチャンスは回ってくる気がする。
(それは随分と気の長い話だね)
そうだな。
いつ広まるか分からない野球でヒーローインタビュー受けるなら、俺達がヒーローになった方が早いだろう。
(ん?ヒーローになる?)
あぁ、俺達が活躍すれば、子供達からは魔王で英雄に見えるんだろ。
(魔王でヒーローか・・・。あのさ、ちょっと思いついたんだけど)
何を?
この欠片の使い道か?
(それもある。欠片って、同時に使えないかな?)
同時?
俺の欠片とお前の欠片を同時に使うの?
(その2つ、組み合わせてみてよ。面白くない?)
変身と英雄・・・変身ヒーロー!?