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神速の慶次

 褒めるべきか、怒るべきか。

 非常に迷うところである。

 その対象となっているのは、無論慶次の話だ。


 僕は確かに、強い奴を倒してこいという話をした。

 何故そう言ったかというと、アレだけの人数だ。

 探している間に、帝国兵を蹴散らしてくれると考えていた。

 途中で何故か起こった火柱騒動で、敵味方関係無く中央に寄っていっている。

 あの時は慶次も御多分に洩れず、中央に寄っていくものだと思ってたしね。

 これで帝国兵を一掃してくれるなら、助かると思っていた。

 なのにあの男は、ゴミゴミしていて面倒だったからという理由で、流れに逆らって外に出てしまったのだ。


 でも、そのおかげでマオエの危機を救う事が出来たとも言える。

 マオエの頭がかち割られる寸前に助けたという事は、本当に危機一髪だったんだろう。

 素晴らしい。

 素晴らしい活躍だと思う。

 でもこれ、褒めていいのかな?

 スマジの連中はウケフジに任せていたんだから、あまりよろしくない行動にも思えるんだけど。

 中央から離れた事を叱るべきか、助けたから不問に付すか。

 この戦いが終わるまで、悩むところだなぁ。






 危険を察知する能力。

 それだけ聞くと、大した事の無い能力に思える。

 実際に慶次もそう思っていた。

 だけどこの能力、偉くなればなるほど、喉から手が出る程に欲しい能力だとも言える。

 理由は単純だ。

 暗殺の危険が無いからだ。



 もしこの能力を常時発動出来ていれば、不意に銃で撃たれても当たる事は無い。

 それに加えて、夜襲や奇襲も通じないだろう。

 もっと言ってしまえば、毒殺等にも使えると思う。


 危険を察知する能力は、ある意味万能だと思う。



「その能力があれば、拙者の攻撃は当たらないという話でござるか?」


「その通りだ。だからおいは、全てを一撃に注ぎ込む事が出来る」


「ふむ、なるほど。でもそれって、自分の身体能力を超えていた場合はどうなるのでござるか?」


「どういう意味だ?」


「例えば雷の如く速い攻撃や、回避不可な程の広範囲攻撃でござる」


 スマジは一瞬迷ったが、それを笑って一蹴する。

 そうは言っても、慶次がそれを出来ると思えないからだ。



「無駄なハッタリを言う。確かにそれは、察知しても無駄かもしれない。だがお前に、それが出来るとは思えん」


「やってみないと分からないのに、随分と自信過剰でござるな」


 自信過剰と言われたホノヒサだが、確かにその通りかもしれないと心に思った。

 だがそれは、自分が負けないという自負から来ている。

 負けたらそれまで。

 この能力と共に死ぬだけだと覚悟は決まっていた。



「どうとでも言うが良い。おいの一撃を食らい、苦しまずに死ねぃ!」


「嫌でござる」


「キイイエェェェ!!」


 奇妙な掛け声と共に、上段から大きな剣を振り下ろす。

 慶次は余裕で避けられると思った。



「なんと!」


 バックステップで避けると、剣が伸びて更に速度が増した。

 慌てて横へ飛ぶ慶次。



「一の太刀を避けるとは。言うだけはあるな」


「凄い威力でござるな・・・」


 自分が立っていた場所を見ると、一直線に穴が空いていた。

 伸びた剣に遠心力が働いたのか、それとも重さが変わったのか。

 地面を見る限り、食らえば一撃で死ぬ事を意味していた。


 だが、慶次の反応はホノヒサの予想と反していた。



「い、良い。素晴らしいでござる!拙者の命を懸けるだけの戦いが、此処にある!」


「お前、気持ち悪いな」


「気持ち悪くて結構。拙者も行くでござるよ!」


 腕を引くと一直線にホノヒサへ腕を伸ばす。

 槍が真っ直ぐにホノヒサへ向かっていった。



「甘いわ!」


「くっ!重っ!」


 槍を叩き落とされた慶次だが、それに加えて剣を重くして武器破壊を狙っている。

 それに気付いた慶次も、慌てて槍を引き戻した。



「やるでござるな。だが拙者の槍は特別製。簡単には壊れ、ええぇぇ!!」


 慶次は余裕のある顔で話していたが、途中で槍の先端にヒビが入っている事に気付いた。

 まさか、コバ達が作った槍が壊れるとは思っていなかったのだ。



「フフ、その様子だと壊れかけという感じか。貴様の主力武器が無くなれば、もはや勝機は無いな」


「ばばば馬鹿を言うな。拙者、この槍以外にも使えるぞ」


 動揺する慶次に、ホノヒサは余裕の笑みを浮かべている。

 このまま槍を使い続けるか迷っていると、マオエが遠くから槍を投げてきた。



「マエダケ殿!それをお使い下され!ウケフジでも有名な槍です」


「かたじけない!」


 地面に刺さった槍を抜き、ホノヒサと対峙する慶次。

 問題は、槍を受け取ったところで対策は無いという事だった。



 普通の槍では、自分がいくら速く動いても、危機察知能力で避けられてしまう。

 ならば相打ち覚悟で、ホノヒサが向かってくるのに合わせるか?

 いや、あの威力では自分が死ぬだけだ。

 慶次は頭の中で、何をするべきか考えを巡らせた。



「先程のような変わり種の槍ならまだしも、普通の槍で当たるはずが無いであろう」


「むむむ!」


「いつまでも逃げるだけでは、勝てんぞ?早く楽になれ」


 小馬鹿にしたようなホノヒサの態度に、慶次は少し苛立ちを感じた。

 しかしその通りなので、反論する事も出来ない。



「では、そっちが動かないなら、こちらから行かせてもらう。キイイエェェェ!!」



 避けるだけなら簡単なんだが、その後がどうにもならない。

 トライクで特攻するか?

 しかし、イッシーのようには上手く扱えない。



「よ、避け過ぎだ!」


「お前の動きは読みやすいでござるよ」



 あの威力を見れば、身体が竦む人も多いだろう。

 恐怖で身体が動かなければ、避けられる攻撃も避けられない。

 ホノヒサが今まで相手をしてきた者は、大半が恐怖で身体を強張らせて、あの強力な一撃で葬られてきたに違いない。


 だが慶次は違う。

 今までの戦闘経験から、このような攻撃など何度も見てきている。

 この程度で恐怖など、微塵も感じなかった。

 それ故にホノヒサには、慶次が異常な精神の持ち主に見えたのだろう。



「だ、だが!お前の攻撃は通用しない。二本の槍を使っても、おいには当たらないだろう」


「チィ!久しぶりにムカつくでござる」


 負け惜しみを言うホノヒサに対し、対抗策が無い慶次も苛立っていた。

 しかし、彼は冷静だった。



「二本の槍か・・・」


 攻撃を避けながら、考える慶次。

 ある意味、ホノヒサの能力並みに、何も考えず避けていた。

 そして慶次は、とある事を思いつく。



「倒せるかもしれないでござる」






 慶次は折れかけた槍を見た。

 クリスタルの魔力は、まだ十分に残っている。

 マオエから借りた槍を軽く振ってみると、そこまで扱いづらいという気もしない。

 これなら大丈夫。



 慶次はニヤリと笑うと、ホノヒサは悪寒を感じて立ち止まる。



「何をしようとしても無駄だと言っておこう」


「その割には警戒しているようだが?」


「お前の顔が怖いからだ!」


「ひ、酷いでござる!兄上にも言われた事無いのに!」


 憤慨する慶次だが、それは演技だ。

 彼はホノヒサとのやりとりの中で、ある細工をしていた。

 幸いにも大袈裟な演技のおかげか、ホノヒサは何も気付いていない。



「自分の能力ながら、恐ろしいと思う時がある。この能力を持ってすれば、誰もおいに触れる事も出来ないのだから」


「自意識過剰でござるな。それは佐藤殿と戦ってから吐くと良い。彼こそ神速に近い人物だと、拙者は思っているでござるよ」


「フン!神速だろうがなんだろうが、当たらなければ意味が無い」


「ではその驕り、拙者が打ち砕く」


 慶次は真剣な眼差しを見せた。



 さっきまでとは違う、何かを決意した目だ。

 それに気付いたホノヒサも、今までの悪態や軽口を止めると、慶次の一挙手一投足を見逃さないように警戒している。


 そして慶次が動こうとすると、ホノヒサは危険を察知する。



「行くぞ!慶次、ブロウゥゥゥイングゥゥゥ!!」


「甘いわ!」


 慶次が突進してくるのを感じたホノヒサ。

 真っ直ぐに、腹目掛けてやって来る。

 そこまで分かっているのだから、彼がする事は容易だ。

 横に避けるだけ。


 そこでホノヒサは、更にある考えを持った。

 敢えてギリギリを狙い、カウンターで逆に腹を薙いでしまおうというのだ。

 剣を伸ばして突進に当てる。

 それだけで慶次は、腹から五臓六腑を吐き出すだろう。

 しかも、アレだけの覚悟をした目をしている。

 ならば通常の突進ではないはずだ。

 慶次の目を見たホノヒサは、多少は余裕を持って動こうとしていた。



 と、そこまではホノヒサが考えていた事だ。

 だが、現実は想像とは大きく違っていたのだ。



「ぬおあっ!?」


「何!?」


 慶次が慌てた声で突進してくる。

 いや、突進というレベルじゃなかった。

 一直線に飛んできていると言っても、過言ではない。

 あまりの速度に、ホノヒサは泡を食った。






 ホノヒサの想像を超えた突進は慶次が行なった細工が原因だ。

 彼が行なったのは、腰に自分の槍を逆さに固定する事だった。

 そしてクリスタルの魔法を使い、爆発的な推進力を生み出せると考えたのだ。



 ぶっつけ本番の作戦だが、そこは一か八かの賭けである。

 慶次は自分のバランス感覚を信じて、どうにか真っ直ぐ進む事くらいは出来るだろうと考えていた。

 しかし予想以上の威力に、腰が前へ突き出ていて、武器は構えられていない。



「ぐぬぬっ!」


 どうにか槍を持った腕を前に出そうとするも、横にするのが精一杯だった。

 仕方ないので慶次は、一番当たりやすそうな腹に穂先を向けた。

 面を食らっているホノヒサは、まだ避けようと動いていない。



「ふんぬっ!」


 ホノヒサの腹に槍が当たった。

 力負けして手放さないように、慶次は力を入れる。

 するとホノヒサは、上下真っ二つにされてしまった。



「せ、拙者が思い上がっていたか・・・。無念」


 ホノヒサの上半身から、そう呟いたのが耳に入った。

 少し後ろを見ると、ホノヒサの身体が二つ転がっている。



「勝った。拙者の勝ちでござる!」


 喜びを声にする慶次。

 だが、それも長くは続かない。



「と、止まらないでござる!」


 ホノヒサの死体から遠ざかっていくと、気付くとマオエ達が戦っている辺りの近くまでやって来た。



「マオエ殿、勝ったでござる!」


「はい?」


「勝ったでござるぅぅぅ!!」



 そのまま素通りしていく慶次。

 よく分からない男が、猛スピードで通り過ぎる。

 異様な光景に、マオエとホノヒサの両方の隊の手が緩んでいた。



「しかし、どうやって止まれば良いのだろうか」



 まず最初に考えたのは、マオエから借りた槍を地面に突き刺す方法だ。

 勢いが弱まり、止まる事が出来るだろう。


 だが問題もある。

 槍が折れる可能性がある。

 借り物を折るのは、流石の慶次でも躊躇われた。



「ち、ちょっとだけなら・・・」


 少しスピードが落ちないか。

 慶次は軽く石突で地面を突いた。



「うわっ!へぶっ!イダダダダ!!あぁぁぁ!!」


 完全に失敗だった。

 バランスを崩した慶次は、そのまま転倒。

 そして槍の推進力がおかしな方向を向きながら、慶次は転がりながら進んでいく。



「め、目が回る・・・。フン!のわあぁぁぁ!!」


 グルグルと回転していた慶次は、思い切って腹に力を入れてみた。

 どうにか姿勢を保てたのだが、それも失敗だった。

 槍の推進力が地面へと当たり、慶次は空へ向かって飛んでいく。



「ああぁぁぁ!!」


 戦場に舞う慶次。

 戦闘に参加している誰もが、その不思議な飛行物を目にした。



「なあ、孫市の兄ちゃん。アレ何だ?」






「アレは・・・。シッ!見ちゃいけません!ちょっと?いや、かなり頭の悪い男の末路だな。アイツは何で空を飛んでいるんだ?そうそう、ムサシがあんな風に成長しないように、イノリさんもしっかり育ててね」

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