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翻弄される騎士

 木を隠すなら森の中。

 隠れられないなら、どうするか。

 誘導して自分の姿を極力視線に入れないとか、頭良いよね。


 でも、やり方が良くなかった。

 あの火柱は敵味方関係無く、巻き込んでいた。

 お互いに逃げてるんだから、どっちの攻撃かなんて分からないし。

 お互いに疑心暗鬼になっても、お前等の攻撃だろ!って言ったところで、敵の言葉を信じるわけがない。

 秀吉に居場所がバレて、初めて誰の攻撃か判明したわけだ。

 そりゃ帝国兵も騎士達も、誰か気になるよね。

 最初は小人族という事から、魔族が居る雑賀衆だと偽ろうとしていたけど、今回小人族は同行していない。

 せめてネズミ族なら、裏方として来ていたんだけどね。

 あ、秀吉も居るわ。


 ただ、ちょっと疑問もあるんだよね。

 ハッシマーに魔法の才能を見出されたと言っていたけど、彼はどうして騎士王国に居たんだろう?

 小人族が一人で他国に居るなんて、普通ならありえる話じゃない。

 僕の予想だと、実際はもっと裏があるんじゃないかとも思うんだよね。







 普通に考えれば、小人族であるミスタが前に出てくる理由は無い。

 それこそ帝国兵に身を守らせて、後方から魔法で攻撃した方が効率的だからだ。

 それに小人族は、ヒト族にすら力で劣る。

 魔法は使えるかもしれないが、ただの人よりも力が無い小人族では、騎士達に接近戦で勝てるはずが無いのだ。



「どうして答えないのですか?」


 理由を言わないミスタに、秀吉は問い掛ける。

 それでも答えないミスタだったが、予想外の出来事が起きた。



「お前のせいで!」


「味方殺しが!」


 なんと地面を足ごと凍らされた帝国兵達が、ミスタに向かって剣を投げつけ始めたのだ。

 まさかの状況を呆然と見ていた騎士達も、我に返る。



「お前達、味方に向かって攻撃とは恥ずかしくないのか!?」


「うるせえ!先に炎なんかで攻撃してきたのは、向こうじゃねえか!」


「う・・・。だが、あんなに小さいぞ」


「小さくても魔法使って、味方が殺されたんだぞ。お前はそれでも許すというのか!」


 騎士と帝国兵の言い合いは続くが、話を聞く限り騎士達の分が悪い。

 ミスタは風魔法を使って剣を弾いているので、全く傷は負っていないが、彼等の罵詈雑言は聞こえている。



「言い返さないんですか?」


「帝国兵など今だけの関係。どうせこの戦いが終われば、牙を剥いてくるのは分かっている。だったら今のうちに減らしておいても、問題は無い」


 ミスタは逆に、帝国兵を煽った。



「何がそこまで気に入らないのですか?」


「全てだ。ハッシマー様に歯向かうお前達も、騎士王国へ入り込んできた帝国も。だから両者消えたところで、問題無い。本来ならもっと減らすはずだったのに、貴様のせいで!そうだ、お前は何者だ!」


「私?私の名は・・・まあ何でも良いじゃないですか。雑賀衆の一人ですよ」


「嘘を言え!その声は聞き覚えがある。お前、秀吉だろ!」


「あら、バレてましたか?」


 ハッシマーに世話になっていた手前、顔は隠して行動していた秀吉。

 なかなか優秀だった彼は、ハッシマーからも目を掛けられていた。

 その為、ミスタ達優秀な家臣団とも面識がある人も居た。

 彼はその中の一人だったようだ。



「ハッシマー様に助けられておきながら、恩を仇で返すとは。お前は絶対に許さん!」


「ハッシマー殿には助けていただき、本当に感謝しています。ですがその分、私は働いたつもりです。恩を仇でなどと言われてもね。特に貴方はハッシマー殿ではないし」


「き、貴様!侮辱するか!?」


 興奮するミスタに、数多くの剣が飛んでくる。

 当たらないにしても邪魔な剣に、ミスタは苛立ちを募らせていく。

 そして彼は、敵味方関係無く攻撃を始めた。



「無能なゴミどもは黙ってろ!」


「貴方、最低ですね」


「うるさい!たかだか氷魔法が使えるだけで、足止め出来ると思ったか!?」


 ミスタは火魔法と風魔法を、同時に使用してきた。

 しかし格が違う。

 秀吉は水魔法で大きな波を起こすと、辺り一帯を飲み込んだ。



「馬鹿な!?近くに川も池も無いのに!」


「貴方はもう少し、魔法への探究が必要ですね」


「どういう意味だ?」


「常識に囚われ過ぎなんですよ。火魔法だって何も無い手から出ているのに、どうして水魔法は川や池が必要なんです?風は?地面が無いと、土魔法は使えないとでも思ってますか?」


 言い立てまくる秀吉に、ミスタは間髪入れずに攻撃を続ける。

 しかし届かない魔法を見て、ミスタの焦りは大きくなっていく。



「どうして!」


「貴方より魔力が大きいからでしょ。それくらいは分からないと」


「それなら、命を削って!」


 ミスタの身体から、異様な雰囲気を感じる秀吉。

 それは魔力が少ない、ヒト族にも感じる事が出来た。

 吐血しながらも、無詠唱ではなく詠唱をするミスタ。



「食らいなさい!豪炎の大蛇!」


 火柱よりも三回りくらいさ大きな炎が、不規則な動きをしながら秀吉へと襲いかかる。

 周りに居た帝国兵も騎士達も、その炎に巻き込まれて蒸発していった。



「無意味な。魔法を使うには、常識に囚われ過ぎだと言っているでしょう」


 両手を広げ、柏手を鳴らす秀吉。

 その音と共に、ミスタの炎は酸素を失ったかのように消えてしまった。



「どうして!?」


「それよりも貴方、風魔法は」


 その瞬間、ミスタの胸を貫く剣。

 ミスタは大量の血を吐きながら、勢いで後ろへ倒れ込んだ。



「誰だ!」


 秀吉が叫んだのには、理由があった。

 帝国兵が持つ剣ではなかったのだ。

 一般兵と変わらない帝国兵の持つ剣は、量産品だった。

 それなのにこの剣には、柄に装飾が施されている。

 そんな物を持つ者は、帝国兵どころか騎士達にも見当たらなかった。



「ゴホッ!」


「しっかりしなさい!」


「て、敵の施しは受けない。ハッシマー様に、え、栄光あれ!」



 血を吐き出したミスタは、最期の魔法を使った。

 全魔力を使った火魔法と風魔法は、自分を核として炎を爆散させるものだった。

 しかし力の差というものがある。

 秀吉の風魔法の前に、炎はミスタ周辺のみでしか爆発は起きなかった。



「もっと視野が広ければ、違う道を選ぶ事も出来たでしょうに」


 秀吉は一言呟くと、その場を立ち去る。

 その時だった。



「ちょ、ちょっと!」


「ハイ?」


「拙者達の氷は、どうにかしてもらえないのか?」


「あ・・・」


 秀吉は立ち止まると、周りを見回してみる。

 帝国兵と騎士達の両方の多くが、まだ氷によって足が凍っていた。

 慌てて騎士達の前に移動した秀吉は、騎士達の氷を溶かしていく。



「俺達は?」


「どうして敵である帝国兵を、助けなくてはならないのです?」


「チクショウ!」


 一部の騎士を除いた者達は、再び戦場に戻っていった。



「さて、私の本来の役目を果たしましょうかね」


 秀吉は騎士達に支援魔法を使うと、形勢は一気に騎士達に傾いていく。

 敵味方入り乱れている今の状況では、広範囲魔法で攻撃するよりも、支援魔法の方が確実だと判断したのだった。






 皆が雌雄を決する頃、ただ一人困惑している人物が居た。

 右の戦場でスマジと戦っていたウケフジだ。


 前日までとは打って変わり、スマジ達はウケフジ達との衝突を避けているのだ。

 前日までのスマジ隊は、むしろ向こうから全面衝突を仕掛けてくるくらいの苛烈な攻撃だった。

 今日も力と力の勝負が避けられないと、ウケフジは覚悟を決めていた。

 それが蓋を開けると、自分達との戦闘を回避し、更に戦場であるオーサコ城から離れていく。



「追いなさい!」


 そのまま放置して、オーサコ城の中央。

 もしくは城の裏から、攻撃をする事も考えた。

 しかしこのまま見過ごすと、逆にこちらの本陣にも向かいかねない。

 そう結論に至った彼は、スマジ隊との鬼ごっこが始まったのだった。



「逃げるな!軟弱者!」


 ウケフジがスマジ隊に向かって挑発するも、彼等はそれを笑って受け流す。



「奴等、何が目的なんだ?マオエ、どう思う?」


「私も分かりかねます。ただ一つ言えるのは、彼等が無策に逃げているわけではないという事です」


 ウケフジから相談を受けたマオエだが、神妙な面持ちで答える。



 前日までのスマジ隊との衝突で、ウケフジ隊も結構な打撃を受けていた。

 マオエ自身もスマジと刃を交え、その強さは認めている。

 そんなスマジ隊が、ウケフジ隊に恐れをなして逃げるとは思えなかった。



「このまま追って、問題無いと思うか?」


「罠の可能性ですか。しかしスマジ殿の性格上、それは無いような気もしますが」


 二人がスマジの考えに翻弄されていると、急に慌ただしくなった。

 スマジ隊が再び方向を変えたのだ。



「あの方向、本陣です!」


「奴め、やはり本陣狙いだったか!?」


「しかしこのまま追えば、本陣と我々で挟撃が可能ですね」


 マオエはスマジの考えが浅はかだと、鼻で笑う。

 しかしウケフジは、逆に危機感を募らせた。



「おかしい。本陣がスマジの動きに気付いていないぞ」


「あっ!壁です!本陣の前に大きな壁が張り巡らされて、スマジ隊の動きを確認出来ていないみたいです」


 戦車の砲撃から身を守る為の壁は、かなり大きかった。

 どれくらいの距離が砲撃範囲なのか分からなかった本陣組は、広く厚い壁を作っていた。

 それが逆に、彼等の視野を狭くしていた。



「マズイ!このままでは本陣が、壁の横から抜かれる」


「私が本陣まで先回りします」


「半分任せる。マオエ、頼んだぞ!」


 マオエは部隊の半分を引き連れて、先に本陣へと向かっていった。



 トキドのワイバーン隊と対等に戦えるウケフジ騎馬隊。

 彼等はタツザマ隊よりもスピードでは劣るが、その分統率力と突破力は群を抜いている。



 先回りに成功したマオエは、ウケフジが追うスマジ隊を待ち構えている。

 数は半分だが、挟撃には成功した。

 マオエは今日のスマジ隊との戦いの勝利を確信する。

 だが、思わぬ展開が待ち受けていた。



「スマジ隊、転身します!」


「何だと!?」


 スマジ隊は本陣を狙うと見せかけて、マオエ隊と衝突する前に方向を変えた。

 部隊を左右に分けると、そのまま半分の数になったウケフジ隊へと強襲を開始したのだ。



「しまった!追うぞ!」


 慌ててウケフジ隊の方へと走るマオエ。

 しかしマオエは、再びスマジにしてやられる事になる。



「スマジ隊、突進してきます!」


「なっ!?」


 左右に展開して反転していたスマジ隊。

 そのまま半分になったウケフジ隊と真正面からぶつかると思いきや、スマジ隊の半分はそのままマオエ隊へと直進してきたのだ。

 思わぬ行動にマオエ隊は虚を突かれ、部隊の後方がスマジ隊の餌食になった。



「守備に専念しろ!今は耐えろ!」


「おい達の攻撃を耐えられると?馬鹿にするなや!」


「グッ!」


 マオエは大きな太い何かに弾き飛ばされ、落馬する。

 真後ろを走っていた部下に助けられ再び騎乗したが、その勢いは止まってしまった。

 ウケフジ隊とマオエ隊は、真っ二つに分断されてしまったのだ。



「お、お前は何者だ!?」


「おいはスマジだ」


「スマジ?スマジはもっと年上のはず」


「それはおいのオジキだ。おいはスマジ・ホノヒサ。この隊の指揮をしている」



 マオエは驚きを隠せなかった。

 彼が指揮をしている。

 それは自分とほぼ同年齢の男に、ウケフジ隊が振り回されたという事に他ならないからだ。







「アンタがマオエだな?ウケフジ隊の強さは、統率力と突破力。その半分はアンタが請け負っている。だからアンタとウケフジを分断させれば、その力は半分、いやもっと低くなる。悪いな、アンタを嵌めさせてもらった」

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