騎士達の思惑
鵺の力、実際はどうなんだろう?
本人曰く、その刃は何でも斬り裂き、更に伸ばす事も出来る。
防御力も上げられるし、何より喋るケモノは少ないという話だった。
凄いと思う反面、本当かよと疑いたくなる気持ちの方が大きい。
ツムジにも相談したけど、召喚獣と似ていて類似点も多いみたいだ。
認めた人しか呼び出せないとか、召喚魔法と同じだと思う。
ただ、一つだけ疑問な点もあった。
どうして一人につき一体しか、ケモノは宿せないのだろうか?
だって修行した人なら認められるって話なら、既に宿していた人でも問題無い気がする。
それこそ強い人に宿りたいなら、別に一体しゃなく二対でも構わないでしょ。
それともう一つ。
鵺しか喋れないのであれば、それが嘘か真か分からないのも問題だと思う。
本当は皆喋れるのに、本人がそれを知らないだけかもしれないし。
一人だけ喋れるっていうのが、胡散臭いんだよなぁ。
本人は紅虎や白龍より上だって言ってたけど、その胡散臭さが格下に思わせるんだよね。
そしたらほら、この有様だよ。
トキドとウケフジは、剣へ手を掛けた。
だが抜かなかったのは、ムサシから殺気が無かったからだろう。
ただ、彼等も驚いたのは確かだ。
だって二人とも、ムサシの肩を見て固まってるからね。
「何言ってんだ?お前、ナニ虎とか龍より格上言ってなかったか?」
「こら!ムサシくん、失礼な口調はやめなさい!」
「に、人形殿、これは一体?」
「この子が宿したケモノなんだけど。喋れる稀有なケモノらしいよ」
僕の言葉に戦闘終わりの二人は、疲れも見せずにムサシの肩の方へと早歩きで近付いていく。
「む、ムサシ!修行だ!この場から離れろ!」
「修行!?分かった!走る!」
「待って!ムサシちゃん!」
二人へ背を向けて、走って逃げるムサシ。
まさか逃亡するとは思わなかった。
呼び止める事も出来たけど、別にする必要も無いか。
だって、しばらくはここに居る事になるんだ。
二人と会う機会なんて、いつだってあるし。
二人もそれが分かってるみたいで、呼び止めるのをしなかった節がある。
「詳しい話を聞かせてもらえるか?」
二人にウケフジと別れた後の話をすると、やはり不思議そうな顔をしていた。
「喋るケモノ。ウケフジ殿は知っていたか?」
「その調子なら、トキド殿も初耳のようですね」
「一部のケモノは喋れると言っていたんだよな?しかし俺達は、誰もその存在を知らない」
「謎ですね」
二人は世襲だからかもしれない。
もしかしたら、ヤヤとかマオエの方が詳しいかも。
「ヤヤ達は?」
「いえ」
「私も同じく知りません」
やはり知らないか。
「鵺以外に喋るケモノが居れば、多少は情報収集しやすいんだけど」
「さっきの肩のケモノは、鵺と言うんですか?彼に聞くのは?」
ウケフジの言葉は、確かに誰もが思うだろう。
ただし、一つ問題がある。
「だってアイツ、胡散臭いんだもん」
「それは・・・まあ」
苦笑いで同意するトキド。
ウケフジも同じ表情を浮かべた。
やっぱりさっきの挨拶は、鵺の胡散臭さを引き立てたようだ。
「しかし、それを抜きにしても異質な存在だと言わざるを得ない」
「誰も知らないケモノを宿す少年。下手をすれば、実験台になりかねません」
「負けられない理由が、もう一つ増えたのかもしれんな」
トキド達にはムサシの存在が、奮起する理由にもなったようだ。
ただ、聞き捨てならないのは実験台という言葉。
でも僕としては、ムサシはハッシマーの手に渡っても帝国へ引き渡されても、そこまで酷い扱いは受けないんじゃないかという考えである。
理由として挙げられるのは、ハッシマーは有能な人材はヒト族魔族関係無く雇用しているという点だ。
喋るケモノを持ってるなんて知れば、両手を広げて迎え入れてくれそうな気がする。
そして帝国。
こちらもヒト族であるムサシなら、酷い目に遭う事は無いんじゃないかなと思っている。
懸念するのは、戦力として考えられず、ロック達のような扱いで終わるかもしれないという事くらいか。
最大の問題は、礼儀がなってないという点だろう。
失言から酷い扱いになりかねないというのが、僕が一番気にするところだと思っている。
こんな事を考えているけど、負ける気なんかサラサラ無いし、奴等にムサシを引き渡すつもりなんて無い。
とまあ、ムサシに関してはこの辺りで良いだろう。
このままムサシが離れるわけじゃないし、いつでも話す事は出来る。
それよりも、僕の知らない情報が聞きたい。
「オーサコの包囲はどうなってる?」
「それに関しては、俺達よりも適任者が居るだろ」
トキド達と移動をすると、そこには兄と官兵衛が待っていた。
少し疲れた顔を見せる兄。
何かあったのか?
「おぉ!帰ってきたか!早く、早く戻ってくれ!」
「ど、どうした?」
「もう嫌だ!もうめんどくさい!頼むー!」
頭を抱えて叫ぶ兄。
トキドとウケフジを見ると、目を逸らされた。
ここは官兵衛に聞くしかないな。
「どうなってんの?」
「何故かここの総指揮権が、孫市様にあるという話になっていまして。騎士達がひっきりなしに面会を求めてくるのです」
「面会?どうして?」
「前線に出せという話みたいです」
「出せば良いじゃないの」
すると横から、トキドが口を挟んできた。
「お前は俺達と戦っているが、これは自慢じゃないからな」
「私達はこの国でも、有数の騎士です。ここに駆けつけた騎士の中でも、飛び抜けた強さを持っています。しかし他の騎士に、同じだけの能力は求められません」
「それくらいは分かるよ」
僕は兄と違って馬鹿じゃない。
戦力の把握くらいは出来てるつもりだ。
官兵衛は僕のその言葉を聞いて、話をようやくし始めた。
「分かりやすく言うと、彼等にあまり戦果を挙げさせたくないのですよ」
「どうして?」
「今回は勅命という、特別な権限が発令されています。では今回、ハッシマーに勝利した際の褒賞はどうなりますか?」
「そりゃ帝が考えるべき話で、僕達には関係無いでしょ」
「そこが問題なのです。何故か孫市様が全権を持っているという話になり、僕達の采配次第で褒賞が大きく変わる。この戦いに参加してきた騎士達は、そう考えているのです」
「ハァ!?」
誰がそんな事を言い出したんだ?
そりゃ確かに面倒な事になってるけど。
ん?
そういえばコイツ等、どうして目を逸らしたんだ?
「おい、アンタ等」
「ふぇ?私に何か?」
「そのとぼけた面はどういう意味かな?」
ウケフジは明らかに何かを隠している。
官兵衛がため息を吐いた後、その説明を始めた。
「彼等がその話をしてしまったんですよ」
「は?」
「トキドとウケフジという強大な騎士に、文句を言える人は居ません。彼等は前線で戦っているのに、何故自分達が補佐のみなのか。そう言う苦情が、こちらに殺到しているのです」
「お前等が原因なんじゃないか!」
というより、どうして僕達の名前を出したんだ?
ここは普通、オケツの名前を出すべきだろ。
「オケツはその件に関して、何て言ってるの?」
「非常に助かると」
あの野郎!
面倒な事は押し付けるつもりだな。
「ちなみに全権を持っているというのはホント?」
「ある意味本当ですね。我々が一番最初に戦場に着いてますし、元アド家の家臣団であるタコガマ殿やオケツ殿を連れていますから。主君殺しのハッシマーへの粛清も考えると、そう思われても不思議じゃないです」
「むう、それなら仕方ない」
ならばこれは、僕達も押し付けるに限る。
いや、待てよ。
その前に確認するべき点があったな。
「そもそも戦力的には、現状はどうなったんだ?タツザマみたいな連中だって、居るんだろう?」
「少数ですが居るぞ」
「厄介なのは、スマジですね」
「スマジ?」
「最西端に位置する土地を持っている者なので、私達もほぼ初対面です。しかしその強さは、我々と比肩します」
つまりはタツザマ級の強さを持っている相手か。
スマジ・・・誰だろ?
「ちなみに先走った騎士団がスマジに戦いを挑み、全滅してる」
「ぜ、全滅!?」
「とにかく強い!一人一人も強いのだが、あの結束力はタツザマをも超えると思われる」
「は?何だそりゃ!」
タツザマの騎士団に、ニラはやられたんだぞ。
そのタツザマよりも強い騎士団って、どうやって対抗すれば良いのよ。
「心配なさるな、人形殿。スマジはこのウケフジが、責任を持って対応している」
「そう。タツザマは俺達トキドが、スマジにはウケフジ殿が抑えている」
「そっか。それは安心出来るね」
この二人なら負けるとも思えないし、大丈夫だろう。
そんな時だった。
誰か知らない人が、急に僕等の下へやって来た。
「失礼!拙者、オナキギャワと申す」
「オナキギャワ?」
するとトキドとウケフジの二人が、不快そうな顔をした。
この人、あんまり良い印象が無いっぽいな。
何でだろ?
「人形殿、彼はハッシマーの血筋にも関わらず、こちらへ寝返った者です」
「え?」
ウケフジが耳打ちしてくれて、ようやく理解出来た。
小早川秀秋だ。
確かに彼は、今の時代になっても裏切り者やら何やら言われている。
だけど歴史に詳しい人は、中にはちゃんとそう思わない人も居るんだよね。
秀吉は秀頼が生まれたから、養子にした彼をまた追い出したりしてる。
対して家康は、所領安堵どころか加領までしてるわけだし、自分を評価してくれた家康側に寝返ったのは、僕としては間違いではないかなと思っている。
「それで、オナキギャワさんは何をしにここへ?」
「拙者を前線に出して下され!」
「まただー!もう嫌だー!」
兄が再び叫び始めた。
このままだとみっともないな。
「オホン!失礼した」
僕は元の身体に戻り、狼狽える兄をさっさと追い出した。
兄は喜んで身体を受け渡すと、頭の中でやった!とかようやく解放されると言っている。
正直うるさい。
「オナキギャワ殿、それは前に出過ぎなのでは?」
「ウケフジ殿達に言われたくはありませんな。貴殿等は前線に出ているではないか」
「では、我々の代わりにタツザマとスマジを抑えると?スマジは強いぞ」
「むう!」
言い返せない辺り、自分の力量は分かっているみたいだ。
無理をして前線崩壊。
他の皆を巻き込んで、大敗するなんて事は無さそうな気がする。
こういう人は嫌いじゃない。
「正直に聞くけど、どうして前線に出たいの?やっぱり褒賞目当て?」
「それも無いとは言いませぬ。しかし、それよりも大きいのは、オナキギャワが勅命に従っているという証拠が欲しいのです」
あ、そういう事か。
トキドやウケフジみたいに、ハッシマーの血筋なのにこっち側に来た事を快く思わない連中が居る。
もしかしたら裏切るかもと、考えているかもしれない。
そういう人達に自分達の考えを、行動で知ってもらいたいって事かな。
「しかしオナキギャワ殿では、タツザマやスマジを相手にするのは無謀ですぞ」
「だったら他の連中を相手にすれば良い」
「そ、それは!?」
「タコガマ達に代わって、帝国兵を相手にしてもらおう」
「よろしいのですか?」
兄の話だと、ニラを失った彼等は限界みたいだ。
シッチもスマジが来た事で大怪我をしてしまって、既に戦場には出れていないらしいし、これ以上彼等に頼るのは酷というものだ。
「オナキギャワさんには明日以降、帝国兵の相手をしてもらう。どうせだから他の騎士団も、帝国兵の相手をしてもらおう。ここで一気に数を減らして、ハッシマーへと近付かせてもらう」