宿る鵺
ホラーはゲームだけにしてほしい。
幽霊とかお化けとか、見えないモノは信じない。
それがこの僕、魔王こと孫市です。
何も聞こえないのにうるさいとか言われても、困るんですよ。
これがムサシじゃなくて、ロックとかマッツンなら多分殴ってた。
アイツ等、冗談でそういう話をしてきそうだし、何より殴りやすい。
だけど、ムサシはそういう嘘は言わないと思った。
しかもツムジにも聞こえていたというのが、真実味が増した最大の理由だ。
しかし姿を見せたそれは、微妙なモノだった。
見た目は確かに怖いのよ。
でも、手乗りサイズ?
全長で三十センチくらいしかない。
イノリのような一般人なら、怖がっても仕方ないと思う。
でも僕達はねぇ。
これまでの恐怖が失せるレベルだった。
そんな自称鵺を名乗る化け物は、ムサシに力を貸すという。
ただね、見た目に反して微妙なんだよね。
ムサシもそれを思ったのか、即答で断る始末。
ただ彼は言った。
本当の自分は強いと。
封印されるまでは無敗だったと。
それが本当なら、ムサシは飛びつくと思うだよね。
誇らしげに語る鵺。
胸を張っているのか、少し上を見ている。
その様子を見たイノリは、やはり滑稽に思えたのか、ツムジの背後から顔を覗かせた。
「す、すげーじゃんか!だったら力を貸してもらおうかなぁ!?」
おいおい、そう簡単に信じるなよ。
そこはやはり子供なのか、疑う事を知らないムサシはすんなりと鵺の言葉を受け入れている。
「待て待て。嘘を言ってるのかもしれないんだぞ」
「嘘じゃないやい!我は負け知らずの鵺様だ!」
「よし!お前、オレに力を貸せ」
「貸せじゃない。貸して下さいだろ」
「どうしてオレが、下手に出ないといけないんだ?」
この二人の相性、あまり良くない気がするのだが。
お互いに俺様系だし、引くというか譲る気持ちが無いと思われる。
だけど、そこは保護者が口を挟んだ。
「ムサシちゃん、貸せはダメ。こんなチンチクリンに敬語を使うのは、確かに良い気分じゃないかもしれない。だからせめて、貸してってお願いするの」
この子、天然なのか?
相手を目の前にして、結構ボロクソ言うなぁ。
鵺もそれを言われて、あ・・・とか、うぅ・・・って唸ってるんだけど。
「分かった。鵺、力を貸してくれ」
「そ、そうか!任せろ!真の力を見たら、我の事を見直すだろう」
「ムサシちゃん、期待半分よ。期待し過ぎると、後で後悔するからね」
「我、この女嫌いなんだけど」
既に隠れる事をやめたイノリ。
ただただ悪口を言うだけになっている。
「それで、どうすれば良いんだ?」
「我に手を差し出せ」
「こう?」
お手をさせるかのように、手のひらを見せるムサシ。
「ちょっと違うけど、まあ良いか。トウ!」
岩からジャンプした鵺は、ムサシの手のひらに乗った。
すると、姿が薄くなって消えていってしまう。
「消えちゃった」
「我はお前の中に居る。ムサシ、お前が宿れと叫べば、我はお前に力を貸すだろう」
「宿れ、鵺!」
すると、ムサシの身体に鎧が装着されていく。
見た感じ赤一色とかではなく、統一感の無い色だ。
なんというか、余り物の武具で揃えましたって印象かな。
「お前、呼び出すの早いだろ!」
アレ?
肩に鵺が乗ってるぞ。
ケモノって姿を現す事も出来るんだ。
「うわぁ、あんまりカッコ良くないな」
「バッカ!お前、それはまだ真の力を使いこなせてないからだぞ。本当の我は、もっと凄いんだから」
「例えば?」
「まずは、こうやって人の言葉を話せるのは少ない。我はその点、珍しいんだ」
そういえば、トキドやウケフジ達、それにオケツやボブハガーも話したりはしてなかったな。
認められるっていっても、会話をするわけじゃないんだな。
「それに我の手脚の爪は鋭く、何でも切り裂く。お前が使いこなせるようになれば、武器の切れ味は増すだろう」
ふ、普通な気がする。
何処が凄いんだろうか。
「ショボいね」
「ショボくない!それにだな、蛇のように武器を伸ばせるようにもなるし、はたまた防御力も上げられる」
「それは凄い!」
「だろう!?お前が本当に我を使いこなせるようになれば、雷も操れる。そう、我は凄いのだ!」
それが本当なら、マジで凄い。
ツムジも少し悔しさを見せているけど、ぶっちゃけ話半分だよね。
それが本当なら、どうして封印なんかされてたんだって話だし、もっと言ってしまえば何故誰も鵺を求めて来なかったんだって話になる。
「鵺、すげーんだな。あら、何か力が」
急に膝をつくムサシ。
そのまま両手も地面について、四つん這いになっている。
気付くと、顔の汗が凄い。
すると、ムサシの姿が元に戻った。
「体力不足だな。我は凄い反面、物凄く体力を使用する。ぱうわーが足りんのだ。もっと食べて、体力をつけろ」
「そうか。じゃあこの肉、全部食べないとな」
「イノリとツムジの分は残しとけよ」
「私は良いです!」
「アタシは食べるわよ」
イノリは遠慮してるっぽいけど、ツムジにそんなものは無い。
むしろ明日以降も飛んでもらうし、体力を回復してもらう意味でも、食べてもらわないと困る。
「それじゃ、我はお前の中で眠っているからな」
濃ゆい夜だった。
ムサシは食事を終えると、初めての空の旅と鵺を呼び出した消耗で、すぐに寝てしまった。
イノリも同様に、食事を終えて少し僕達に遠慮していた後、疲れからそのまま横になっている。
だから今は、人形の時は眠らない僕とツムジの二人だけだ。
「ツムジはどう思った?」
「鵺の事?」
「鵺というよりは、ケモノかな?」
ツムジは他の人達の、ケモノを宿した姿を見ている。
ケモノとは何なのか?
召喚するという点では同じツムジに、率直な意見を聞きたかった。
「あまり分からない、というのが本心かしら。でも、召喚獣に似ていなくはないわ」
「ツムジでも分からないか」
「アタシ達と似てるのは、認めた人にしか呼び出せない点。そして、契約をする点かしらね」
確かにその通りだ。
ツムジと僕は、契約をして召喚出来るようになった。
それはツムジやコルニクスの意思で契約していて、ケモノも認めた相手に宿るという点は似ている。
でも、僕は修行なんかしていないんだよね。
「どうして修行なんかするんだろう?呼ぶ方法が修行しかないのかな?」
「それをする事で、姿を現すんじゃないかしら?」
「修行をした事で、姿を現すねえ」
なんか引っ掛かるんだよなぁ。
昔、映画か漫画で読んだような。
何だったかなぁ・・・。
思い出せない。
あぁ僕の脳、もう少し頑張って働いてくれ。
・・・ん?
「あっ!お祈りだ!」
「祈る?」
「修行はお祈りと一緒なんだよ。出てきて下さいってお願いして、ケモノが姿を現す。それで契約して、身体に憑依させるか。あ、なんとなく分かった。式神に似てるんだ」
「式神?」
「主に陰陽師っていう神官が・・・」
って、この世界には神様の存在を認めている人の方が、少ないんだったっけ。
神官なんて言っても伝わらないな。
「陰陽師っていう、召喚魔法が使える人が契約するんだ」
「召喚魔法師の事ね」
「そんな感じ。だから簡単に言えば、騎士王国の騎士は、召喚魔法師見習いなんだよ。修行して一体だけ、契約を結ぶ事が出来るんだ」
「なるほどね〜」
ツムジに説明していて、自分でも腑に落ちた。
鎧はフルプレートだったりしていて、和洋折衷感が否めないけど、多分そうだろう。
「それじゃ鵺は、忘れられた式神って事?」
「そうなるね。アイツの話は半分本当だとしても、そこそこ有能な能力だと思う。どうして存在が忘れられたかは、ちょっと謎だけどね」
「ウザいからでしょ」
「ハハ・・・」
笑ってはみたものの、鵺は俺様系で話し掛けてくるし、話すケモノなんか少ないからな。
気持ち悪くて、本当に避けられてたのかもしれない。
翌朝、ムサシは再び鵺を呼び出していた。
「だーかーら、用も無いのに呼び出すなっつーの!」
「オレの修行だ。お前を呼び出して、体力を付けるんだ」
「眠らせろ!」
元の姿に戻るムサシ。
そしてすぐに鵺を呼び出す。
それを繰り返していたからか、イノリは騒々しさで起きたみたいだ。
「二人とも起きたし、そろそろ出発しよう」
ツムジの背中で喧しいと困るので、鵺には妥協案を出してもらった。
「良いか?一部だけ出していても、体力は消耗する。しかしその消耗は全身より少ない。だから一部だけ顕現させ、長時間それを保持しろ」
ムサシはそれを受け入れたが、鵺の言った修行はかなり難しかったみたいだ。
一部だけ出すという事自体が、難易度が高いらしい。
後から鵺に聞くと、一足飛びで修行しているようなものだった。
「難しいな」
珍しく弱音を吐くムサシ。
イノリがムサシの肩に両手を乗せて、応援している。
ちょっと羨ましい。
「空から降りたら、普通に体力を付ける為に運動しろ。今はまだ微妙だけど、一緒に修行してくれる連中なんか沢山居るから」
「そうなのか?それは楽しみだ」
ツムジの背中に乗っているから身体が動かせないだけで、地上に降りれば筋トレでも何でも出来る。
それならこの戦いが終わった後に、又左や佐藤さん達と修行すれば良い。
この考え、なんかフラグな気もしないでもないけど。
「着いたわよ」
もうすぐ夜になる。
目の前の太陽は、地平線に沈んでいくのが見える。
両軍、それに伴い引いていった。
「見て!こっちにも騎士が居るわ!」
下を見ると、トキド達の赤い鎧以外の騎士が見えた。
ウケフジ隊の白い鎧も見える。
それ以外にも、タコガマ達ではない知らない騎士達も居た。
「ヴラッドさん、やってくれたんだな」
祭りって言ってたけど、これはこれでかなり助かった。
今度お礼をしなくては。
「すげぇ・・・。あんなに騎士が揃ってるの、初めて見た」
ムサシが静かだと思っていたら、どうやら騎士を見て驚いていただけみたいだ。
ミャーモー村みたいな田舎じゃ、騎士も少ないんだろう。
といっても、僕もここまで多いのは初めて見た。
おそらくは向こうにも、多少なりの騎士団が来てそうだけど。
「なあ、鵺以外のケモノも居るのか?」
「居るぞ。トキドとかウケフジみたいに、有名な連中も来てる」
「ソイツ等、オレでも名前知ってるぜ」
やはり王国内での知名度は、トキドウケフジは凄いんだな。
「オケツは?」
「誰だそれ。知らね」
うん、まあそういう反応だよね。
本人が聞いたら凹んじゃうかもしれないから、内緒にしておこう。
「トキドとウケフジって、どんなケモノなんだ?」
「トキドは紅虎で、ウケフジは白龍だったかな。姿は見てないけど、トキドは地面からこの辺りまで、火柱を立ててたぞ」
「すっげー!鵺よりすげーじゃん!」
「馬鹿者!紅虎?白龍?そんな奴は知らん!我とは格が違うんだろうよ」
ムサシが凄いというからか、鵺がムサシの肩に現れた。
嫉妬のような気もするけど、本気で言ってるのかな?
「あ、丁度良いわね。トキドとウケフジが、真下に居るわよ」
「それじゃ、そこに降りてくれ」
ツムジは地上に近付くと、最初は警戒していた二人もツムジの姿を見て警戒を解いた。
「おぉ!人形殿、この間は助かった」
「無事に合流出来て良かったよ」
ウケフジがすぐに僕に握手を求めてくると、後ろのムサシに気付いた。
二人とも、少し不思議そうな顔をしている。
「人形殿、この子は?」
「ウケフジさん達と別れた後に、ちょっとね」
「ケモノを宿しているような気がするのだが」
トキドがそう言うと、ウケフジも頷く。
やっぱり分かる人には分かるらしい。
「鵺、どうだ?」
ムサシが鵺に話し掛けると、肩に現れる鵺。
二人はそれを見て、目を丸くする。
「ち、ちーす!紅虎さんと白龍さんですか?いや〜、お会い出来て光栄ですぅ。お二方のようなケモノ、我は初めて会いましたよ〜。封印されてる間に、こんな凄い方々が世に出てたとは。我、ちょっと驚きを隠せません!」




