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ムシャシ、躍動

 無邪気というより残虐な気もする。

 木刀で頭をかち割ったり首の骨を折るムシャシ。


 子供の頃って死ねとかぶっ殺すとかよく言うけど、それを本気でやる人は居ないと思う。

 だけど彼は、それを素で行なっている。

 そりゃ殺らなきゃ殺られるという考えは分かる。

 でも僕には、それを嬉々としてやっているようにも見えるんだよね。

 子供が人を殺すのに、木刀とはいえ躊躇いもなく振り下ろすのは、どうなんだろうか?


 この世界では戦争もあれば、魔物による被害だってある。

 僕の言ってる事は、この世界の人からしたら甘っちょろい考えかもしれない。

 でもだからといって、子供に武器を持たせて調子に乗らせたら駄目だろ。

 大人がちゃんと危険を教えなければ、ムシャシのように自分勝手な言動をする子供の出来上がりだ。

 父親が亡くなっているようなのであまり強く言えないけど、周りの大人も注意するべきでしょ。

 武器を持った自分には怖いものは無い。

 そう思わせた結果が、これである。







 ツムジの言葉は、彼にとって初耳なのかもしれない。

 今までは誰もムシャシに勝てなかった。

 悪童とか悪鬼と呼ばれながらも、誰も注意しなかったのだから。



「離せよ!お前から殺すぞ!ぐえっ!」


「いい加減にしないと、アンタ本当に骨折るよ。まずは謝りなさい」


「ぐうぅ・・・」


「ツムジ、もう良いよ」


「良くない。このままだと、この子はすぐに死んじゃうわ」



 無鉄砲で誰でも噛み付く。

 俺様的な考えはマッツンも似ているが、彼は仲間のゴブリンと協調くらいは出来る。

 それに大きく違うのは、彼は他人であるゴブリンから慕われているという点だ。

 それに対してムシャシは、慕われるどころか嫌われている。

 このまま大人になれば、強い人にあったら即殺されるだけだろう。



「オレは、負けたくない。だから謝りたくない」


「謝ったら負けなの?間違った事をしたから謝るのは、当然でしょ」


「オレは間違っているのか?」


「誰でも構わずすぐに殺すとか言うのは、間違いだと思わない?」


 ツムジの言葉をようやく理解したムシャシ。

 逃れようと抵抗していたが、とうとう暴れるのをやめた。



「アンタはこの村では強いかもしれない。でもね、外に出てごらんなさい。アンタ、本当にすぐ死ぬわよ。だから死なない為に、まずは間違いを認めなさい」


「・・・分かった。悪かった。人形もゴメン」


 アレ?

 何故か僕にも謝ってくれたぞ。

 てっきりツムジにだけ謝るかと思ったのに。



「分かったなら良し。村の人を助けたいんでしょ?だったら手伝ってあげる」


「いや、村の人はどうでも良い。オレは家を焼いたアイツ等をぶっ殺したいだけだ」


「それは・・・間違ってないわね」


 あ、帝国兵を殺すのは許すんだ。

 なんか矛盾しているような、していないような。



「良いのか?」


「家を焼かれたら、誰だって許せないわよ。それに村人を連れ去ってるんだから、殺したって文句なんか言わないわ。アタシも手伝うから、やっちゃいなさい」


「なんだ、反対されるのかと思ってた」


「何でもかんでも反対なんかしないって。間違った事に関しては、ちゃんと言うけどね」


「そっか」


 なんかムシャシの奴、妙に嬉しそうだな。

 反対されなかった事が、そんなに嬉しかったのか?



「違うわよ。多分村の人は、頭ごなしに全部駄目とか言ってたんでしょ。それをされなかった事が嬉しいんじゃないかしら?」


 なるほど。

 ツムジ、お姉さんだなぁ。



「そうやって揶揄うの、やめてよね」


 揶揄ってるわけじゃないんだけど。



 とにかく今は、ムシャシも話を聞いてくれる。

 このまま空から強襲しよう。






「空飛ぶってこんな感覚なのか。良いな」


「感謝しなさい。普段は魔王様しか乗せないんだからね」


「おい!」


 コイツ、子供の前だからって魔王だって言っちゃ駄目だろ。

 でも、確かに全然気にしてないみたいだ。



「魔王っていつも乗せてもらえるのか。羨ましい・・・」


「そうかね?なっはっは!」


「何でお前が笑うんだよ。気持ち悪い人形だな」


 この野郎!

 言うに事欠いて、気持ち悪いと言いやがった。

 いや、子供ですから。

 心の広い私は許してあげますとも。



「顔もブサイクだし」


「おいお前、言って良い事と悪い事があるからな。これ以上言ったら、ぶっ飛ばすぞ」


「魔物には勝てなくても、人形には勝てるぞ」


 くっ!

 僕の存在ツムジ以下!



「はいはい、見えたわよ」


 帝国兵は六人か。

 女の服をひん剥いて、これから強姦しようって考えだろう。

 上の事なんか気にしちゃいない。



「ツムジは外れに居る二人をやっちゃって。僕は魔法で女の子達を隔離する。ムシャシは残った帝国兵を倒せ」


「何でお前の命令なんか聞かなきゃいけないんだ?」


「良いから聞きなさい。この中で一番強いのは、この人なんだから」


「マジかよ!クソー、ねーちゃんが言うなら本当なんだろう」


 ツムジの言う事は聞いてくれるみたいだ。

 よしよし、だったらちゃんと動いてくれそうだな。



「ムシャシ、あのズボンを下ろしてる奴を最優先でやれ。その後の順番は気にするな。やばくなったら手を貸してやる。派手に暴れてこい!」


「おっしゃあ!」


「え?おい!」



 まだツムジは下降していない。

 かなり高い位置を飛んでいるのだが、ムシャシはツムジの背中から飛び降りてしまった。


 だが、流石は野生児というべきか?

 木の枝や葉をクッション代わりにして、上手く降りていく。

 音は派手になっているが、酒でも飲んでいるからなのか。

 それともこんな辺鄙な場所に、自分達の脅威になる奴は居ないと思ってるのか。

 奴等は上を気にもしなかった。



「アイツか。チンコ丸出しで死ね!」


 木の上から様子を見ていたムシャシは、泣きながら暴れる女の人と目が合った。

 何事かと女の子は目を丸くしていると、ムシャシは飛び降りて女の子を押さえつけている帝国兵の頭を真っ二つにした。



「おおぉ!?木刀とは全然違うな。殺すならこっちの方が簡単っぽい」


「な、何だこのガキ!」


 そこに落ちてくる、金属の大きな塊。

 もとい僕。



「何か落ちてきた!?女達を、え?」


 土壁で女の子達を囲むと、間抜けな声を上げる帝国兵達。

 何が起きたか分かっていない。



「ヘイガールズ、僕が来たからにはもう安心だ。この壁の中で外の連中を倒すまで、待っててくれ」


 うん、人形の姿だと羞恥心が薄れるっぽい。

 いつもなら絶対に言わないようなセリフも、スラスラと喋る事が出来た。

 だけど、現実は残酷だ。



「何あの気持ち悪い人形」


「軍人の次は魔族!ホントもう嫌!」


「ブサイクねえ」


 僕への好印象な言葉をありがとう。

 嬉しくて涙が出そうだよ。

 人形だから出ないけど。



「ムシャシ!」


「おおぉ!」


 気合の入った掛け声で、近くに居た帝国兵に斬り掛かっていく。



 やはりコイツは普通じゃない。

 真剣と真剣のぶつかり合いだ。

 ちょっと間違えばすぐに大怪我か、もしくは致命傷になってしまう。

 普通ならそういう考えが頭をよぎって、怯んでしまったりしてもおかしくないと思う。

 だけどコイツは、嬉々として剣を叩きつけている。

 向こうもそれが分かっているからか、逆に困惑しているような感じだ。



「な、何なんだお前は!」


「フハハハ!死ねぃ!」


 上手い!

 鍔迫り合いに持ち込もうとした帝国兵を横に躱し、バランスを崩した相手の首筋を斬った。

 そのまま倒れ込む帝国兵を見て、動かない事を確認すると、すぐさま次の兵を探し出す。



「見ぃつけたぁぁ!!」


 腕をブンブン回しながら突っ込むムシャシ。

 途中で見つけた太い枝を左手に持つと、二刀流で攻撃を開始する。



「付け焼き刃の二刀流なんかにやられるかよ!ナメるな!」


「やられるんだよ!」


 大人の攻撃を子供が、片手で抑えられるわけがない。

 力負けして押し込まれるムシャシは、そのまま片膝をついた。

 だけど、それは狙いだったらしい。

 太い枝でスネを打ち込み、逆に向こうが飛び退いた。

 痛がる男に向かって枝を投げると、腕でガードした隙に腹を薙いだ。



「二人ぃ!」


 するとムシャシの背後から、男が槍で攻撃をしてきた。

 ムシャシはそれを横っ飛びに避けると、汗を掻いていた。



「クソー、槍を相手にした事なんか無いから、どうすれば良いか分かんねー」


「それは残念だったな!」


 ムシャシに向かって何度も突く男。

 さっきとは打って変わり、反撃が飛んでこない。

 ムシャシはどうすれば良いか分からず、戸惑っていた。


 しょうがない。

 壁の上から見ていた僕は、ムシャシにアドバイスを送った。



「遠くに居たら、そのままやられ放題だ。近付けば槍は長過ぎて、不利になるぞ」


「そうなのか?」


「近付くまでが大変だけど、お前なら出来るだろ」


「当たり前!雑魚はさっさと殺す!」


 やっぱり強気なムシャシ。

 その大きな声に、男の神経を無自覚に逆撫でしている。



「死ぬのはお前だ!」


「とりゃ!」


 木を背後にするムシャシ。

 槍を突かせて抜かさないようにするのが、作戦なのだろう。

 バレバレなのだが、どうすれば良いものか。



「馬鹿が!」


「馬鹿はお前だ」


「は?」


 アイツ、剣を投げやがった。

 脇差と同じような長さだから、投げやすいのは分かるが。

 武器を捨ててどうするつもりだ?



「死んでしまえ!」


 ムシャシはさっき殺した兵の剣を拾い、更に投げつけた。

 今度はそこそこ大きな剣だ。

 男も警戒して避けている。

 ムシャシの狙いはそこだった。



「ダッハッハ!引っかかったな」


 急に転ぶ男。

 いつの間にやったのか分からないが、草が結ばれている。

 踵を引っ掛けた男は、そのまま尻もちをついた。

 そこにムシャシは、再び拾った脇差で胸を貫いた。



「真剣は楽だな。突きも使えるのは大きい」


 言っている事が、子供とは思えない。

 既にその辺の大人よりも、命のやり取りに関しては経験値が高い気がする。

 だけど、やはり詰めは甘い。



「そいや」


 僕が土壁を作ると、飛んできた銃弾は壁に当たりめり込んだ。。

 土壁が出来る音に気付き後方を見たムシャシは、離れた場所から帝国兵が銃で狙っている事に気付く。



「飛び道具かよ!」


 土壁に隠れながら石を投げつけるムシャシ。

 この辺は子供だなと思ってしまった。

 兄じゃないんだから、石を投げても殺せるわけが無いと思うのだが。



「クソー、どうすりゃ良いんだ」


 石を投げる以外に手が無いムシャシは、悔しさから歯を噛み締めている。

 やっぱり飛び道具相手には、手詰まりだったな。


 丁度良い。

 秀吉が試していた魔法、僕も使ってみよう。

 魔法名とかあるのかな?

 勝手にオリジナルで付けて良いものなのだろうか。

 まあ秀吉とは別物だと説明しておけば、問題無いだろう。



「えーと、ビッグサンダー!」


 山を付けるとジェットコースターになってしまうが、適当に付けるならこの辺りで。

 空から雷が落ちてくると、銃が避雷針代わりになったのか、見事に命中した。

 物凄い音に、ムシャシも目を丸くしている。



「即死かな」


「い、今のはお前がやったのか?」


「そうだよ」


 ここまで威力があるとは思わなかったけど。

 秀吉は空が見えない場所で使ってたけど、僕は外だったからな。

 そういう違いが、威力にも影響したのかもしれない。



「お、お前ホントに凄いな!」


「まあね」


 何だろう、この気持ち。

 忖度無しで言われている気がして、めちゃくちゃ気持ち良い。



 そんな事を言っていると、ツムジも一人を始末したようだ。

 最後の一人は爪で手足を砕いたようだが、わざと生かしている。






「アンタ、残りの仲間の事を吐きなさい。それとここに居る以外の村人の事もね。さもなくば、今掴んでいるこの場所を握り潰すわよ。そしたらどうなるか、分かってるわよね?」

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