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虎の争い

 イッシーは頑張ってると思う。

 自分の事だけでなく、指揮までこなしつつ戦ってるんだから。


 でも彼は最近、少しだけ卑屈になっている気がした。

 その理由は、個人能力の開きが出てきた事が原因だと思う。

 又左や太田達は、魔族であり元々の身体能力に差がある。

 佐藤さんや長谷部は、そんな又左達と戦っても遜色無い力を持っている。

 それに彼等は、僕の意見からクリスタル付きの武器も与えられている。

 別にイッシーが弱いから、渡さないとかではない。

 ただ、戦い方の問題だ。


 又左や慶次、佐藤さんは個人で動く事が多い。

 佐藤さんなんかは良い例で、ボクシングは基本的に集団戦で味方と一緒に動く事には適していないからだ。

 しかしイッシーは違う。

 元は同じ悩みを持つ同志というだけの関係から、今では部隊にまで成長している。

 何が言いたいかというと、イッシーの集団戦には、クリスタルを使った広範囲攻撃は不向きなのだ。

 それを説明しなかった僕も悪いけど、彼には彼の強みがある。

 それに今現在、コバによるクリスタルの力を更に解析してもらっている。

 おそらくはイッシーも、その時には使用者に選ばれるはずだ。

 だから死んでもらっちゃ困るんだけど、本当にギリギリのタイミングで登場するのね・・・。







 またか!

 また俺は引き立て役なのか!?

 自分のピンチに現れるヒーロー。

 今回は赤い鎧を着た男だったので、余計に戦隊モノを彷彿とさせて、更にそう感じさせていた。



「アンタ、凄いな」


「え?」


「相手は二千騎近い。そしてかなりの強者。それをたった五百程度の手勢で、相手をするとは。俺には無理だ」


 目から鱗だった。

 バカでかい火柱を立てる力があり、騎士王国でも有名なトキドからそんな言葉を掛けられるとは。

 夢にも思わなかった。



「俺のワイバーン隊が、手玉に取られた理由が分かったよ。だから、アンタに頼みたい」


「お、俺に?」


「俺があの男の相手をする。代わりにアンタは、騎士団を倒してくれ」


「分かった!」


 イッシーは立ち上がると、すぐに他の者からトライクに乗せられた。

 自分の役割が何なのか、ようやく腑に落ちた。

 仮面の下の顔が、少しにやけているのが自分でも分かる。



「ゴホン!タツザマの相手はトキド殿に任せる!俺達は騎士団を倒すぞ!」


 イッシーの檄に、トライク隊は全員応えた。






 トライク隊が再び走り出し、その場には騎乗したタツザマとトキドだけが残っている。



「その深い紅。なるほど、トキドの赤備え。貴殿が有名なトキド殿でござるか」


「ほう?俺も有名に・・・いや、有名なのは父だったな。勘違いされては困る」


「そうそう。トキド領は規模が縮小されたんだったか?代替わりをした際に、色々と他武将から侵略されたと聞いていたが」


 少し顔が強張るトキド。

 だが挑発には乗らないと、再び顔を緩めた。



「残念ながら情報が古い。既に全て取り返しているよ」


「そうでござるか。やはり噂通りの御仁のようだ。では改めて。拙者、タツザマ・ムノスゲと申す」


「た、タツザマだと!?」


 名乗られたトキドは、思わず声がうわずった。

 トキドも騎士王国の人間である。

 西方との親交は薄いが、それでも西方一と呼ばれる男の名くらいは聞いていた。



「フゥ・・・貴様は俺を有名と言ったが、お互い様じゃないか」


「何の事でござるか?」


 とぼけるタツザマに、トキドは突っ込まない。



「まあ良い。ハッシマーに与するような男は、この場で斬り捨てるだけだ」


「時代は変わるのでござる。この国も世界に出る時が来た。帝の行なう政治では、それは無理でござる」


「だからといって帝国兵を呼び込み、他国の人間に主君を殺させるのか?そんな男についていって、本当にこの国は安泰になると、本気で思っているのか?」


「うるさい!宿れ、蒼虎!」


「蒼だと!?」


 トキドは後ろへ飛び、距離を取った。

 そしてタツザマの姿を見て、驚かされた。

 蒼い鎧は軽装だが、紛れもなく虎の気配を感じたからだ。



「フ、フフフ、ハハハハ!宿れ!紅虎ぁ!」


「紅!?」


 同じ反応を示すタツザマ。

 彼等はお互いの姿を見て、震えている。



「アッハッハッハ!そうか。蒼虎が居るのだから、紅虎が居てもおかしくない」


「それはこちらのセリフだ」


 タツザマは笑みを浮かべながら、震える右手を左手で抑えている。

 トキドはその感情を知っていた。



「拙者、初めて本気で戦えそうでござる」


「そうか。それは良かったな!」


 トキドが馬上のタツザマに向かって、炎の刃を飛ばす。

 しかしタツザマは何もせず、騎馬が勝手に動いた。



「よくやった、来国俊」


「賢いな。だが!」


 トキドが左手を上げると、タツザマの背後から炎が飛んでくる。

 馬はそれを左に避けるが、その瞬間にトキドはタツザマに斬り掛かった。



「甘い!」


 それを易々と弾くタツザマ。

 だが背後からの気配に気付くのが、一歩遅かった。



「来い!国江!」


 大きなワイバーンの影が自分を包み、初めて後ろからワイバーンが来ていた事に気付く。

 国江の爪がタツザマの肩を抉ろうとしたその時。



「くっ!」


 馬上から横っ飛びで飛び降りたタツザマ。

 国江の爪は空振りに終わり、再び空へ戻っていく。



「国江、馬を抑えろ!」


 国江は吠えると、標的をタツザマから馬へと切り替えた。

 タツザマに近付こうとしていた馬は、ワイバーンの牽制でどんどん距離が離れていく。



「来国俊!お前は離れていろ。巻き添えにしたくない」


「国江、お前もだ。俺を信じて待っていろ」


 二人の声に、馬とワイバーンは同じ方向へと向かっていく。

 お互いがお互いに、主人の邪魔をさせないように見張っているかのようだ。



「さあ、ここにはもう誰も居ないでござる。いざ尋常に、勝負!」






「た、助かった!」


「オイラも肝を冷やしました・・・」


 腰が抜けたのか、俺はその場で座り込んでしまった。

 官兵衛も汗を拭うと、またその後に汗が出てきていた。



「ようやくトキドが到着か。流石はワイバーンってところか?」


「騎馬よりも速いのは助かります。しかしそう考えると、あのタツザマの騎馬団はもっと速いという事ですね」


「どうだろう?タツザマ領がトキド領より、オーサコに近かったって可能性もあるぞ」


「二つの領地からオーサコまでは、同じくらいの距離でした。むしろオーサコにもっと近い領地を持つ武将も、居るんですけどね」


 官兵衛の言葉には少し棘があった。

 何でもっと早く来ないんだって意味だろう。

 というか、それに関しては俺も同意見だけどね。



 明らかに武将達の動きが遅い。

 すぐ近くのキョートに集まっているなら、まだ分かる。

 だけどそれなら、帝がさっさとオーサコに行けと指示してくれるはずだ。

 俺の予想だと、あわよくば漁夫の利を狙って、様子見を決め込んでいるように思える。



「誰も貧乏くじを引きたくないか」


「勝敗が見えるまで、手出しするつもりは無いというつもりのようですね」


「ケッ!帝も信用無いなあ」


「それだけハッシマーが、帝国が脅威だという事でしょう」


 ボブハガーを倒した帝国の強さは、既に騎士王国内に広まっているか。

 下手に手を出すよりは、帝に逆らってでも様子見を決め込む方が、自分達に損は無いと考えているっぽいな。


 ただ、そうなると気になる事がある。



「ウケフジも様子見を決め込んでいるのかな?」


「彼の性格上、トキド殿と同調しそうな気もするんですが」


「だよなぁ。俺もそう思う」


 ウケフジが裏切るとも思えないし。



(いや、分からんよ)


 は?

 あのウケフジだぞ。



(だからだよ。上杉景勝は豊臣の重臣になった男だ。ハッシマーに寝返ってもおかしくない)


 いやいや!

 それは豊臣秀吉の場合だろ。

 ウケフジがトキドを裏切って、ハッシマー側につく理由なんか無いはずだ。



(だから、それが分からないって言ってるんだって!もしかしたら、とんでもない条件を提示されたかもしれないじゃない。トキド領も全て渡すとか、東の領地を全て任せるとか)


 いや、アイツは裏切らない!

 俺の勘がそう言ってる。



(兄さんの勘で言われてもね・・・。あ、慶次だ)


 陣幕の中に、慶次が入ってきた。

 コイツの事だから、トキドが来たし自分も参加したいとか、そんな考えなのかと思ったのだが。

 どうやらそんな話じゃないっぽい。



「どうした?」


「官兵衛殿に判断を仰ごうと思って、来たでござる」


「官兵衛に?」


 自分に用があると言われて、少し驚いた官兵衛。

 そういえば個人的には、二人で話している所を見た事が無いな。



「オイラに何の用でしょう?」


「ちょっと確認したいのだが、戦闘はオーサコ城付近だけでござるか?」


「なんだ。他の戦場があるなら、そっちに参加させてくれってか?」


「違うでござる」


 アッサリと否定されてしまった。

 しかし今の問いに、不思議そうな顔をする官兵衛。

 慶次は何が言いたいんだ?



「慶次殿。それはこの付近で、他でも戦闘が行われているという意味ですか?」


「そうでござる。だけどこのオーサコ城の戦闘に、関係があるのかは分からないでござる」


「どうしてそう思うんだ?」


「お互いに少人数の戦いでござる。もし帝の勅命に従って来たのなら、軍で来るはず。しかし互いに少人数となれば、それはただの小競り合いかもしれないでござるよ」


 なるほど。

 慶次は見つけた戦闘が、元々この戦いに関係しているのか、それを確認したかったのか。

 関係無いなら放っておくべきだし、そうでないなら援軍に向かうべきだ。

 俺も話を理解して、官兵衛の顔を伺った。



「・・・分かりません」


「どうするべきでござるか?」


「ここは頭領に判断を仰ぐべきかと」


「そっか。頭領にな。・・・俺じゃないか!」


 別にボケたかったわけじゃない。

 頭領って呼ばれ慣れないから、忘れていたのだ。



 しかし、どうすりゃ良いんだ?

 そういう難しい話は、官兵衛に丸投げしたいのに。

 助けて〜、弟えも〜ん!



(大丈夫だよ兄太くん。って、何やらせんのじゃ!)


 良いねぇ。

 なかなか良いノリツッコミでしたよ。



(オホン!そうね、分からないなら行くべきだと思う。だってそれ、下手したら僕達の背後に回って、隙を突くつもりかもしれないし)


 じゃあ誰が戦ってるんだよ?



(そんなの分からないよ!この辺の村人かもしれないし、その辺の浪人かもしれないし。浪人だったら、帝に恩を売って武将に取り上げてもらう腹づもりとかあるかもね)


 なるほど。

 その逆もありそうだが、とにかくどっちかは敵じゃなさそうだな。

 味方に引き込めるかもしれないなら、助けに行こう!



「慶次、少人数なんだな?一人で行けるか?」


「任せるでござる!」


「だったらその連中の戦闘を、遠回しに偵察してみてくれ。どっちかが味方だと分かったら、すぐに敵をぶっ飛ばして良い」


「承知したでござる」


「ここから近いの?」


「あの山の麓でござるよ」


 近いな!

 あ、でも確かに砂煙が少し見える。

 オーサコ城とは反対側だから、全然気にしてなかった。



「では、行くでござる」



 慶次はトライクに乗り込み、フルスロットルで向かっていった。

 あ、早々と戦闘に参加したぞ。

 という事は、味方が誰か分かったのか。



「慶次殿が参戦したら、逃げましたね」


「誰だったんだろうな」


 すると慶次から、携帯電話が掛かってきた。



「どうした?」





「もしもし、拙者でござる。拙者拙者詐欺ではござらんので、ご容赦を。戦っていたのはウケフジ殿の家臣、マオエ殿でござった。どうやらウケフジ殿が帝国兵に急襲されたようで、救援を頼みたいとの事でござる」

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