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オーサコ城外戦、開始

 真田かぁ。

 居るかなとは思っていたんだ。

 でもね、居るなら武田側だと思っていた。


 勝頼が死なずに武田家が滅亡していないこの騎士王国では、武田家の家臣団がバラバラになる理由は無い。

 父親である真田昌幸は、武田家の家臣に誇りを持っていた気もするし。

 何処がどうなって、秀吉側になったのやら。

 ちなみに徳川側についたはずの兄、信之の行方は分からない。

 騎士王国には居ないのかな?

 それとも、既に死んでしまったか。


 それと真田家は、一時期織田側に居た事もある。

 ボブハガーが死んだ今、その威光は使えないかもしれないけど、交渉の余地くらいはある気がするんだよね。

 そもそも真田家は、自分達の領地を守る為に奔走して、主君を色々と変えている。

 悪い見方をすれば、好条件さえ出せば簡単に靡くという事だ。

 この世界に信州上田や沼田といった、真田家がこだわった土地があるかは知らない。

 その土地を巡って、様々な武将が戦っていたのは事実。

 だったら僕達は、彼等の土地を永久保証みたいな事をすれば、戦わずに済むんじゃないかなと思っている。






 男は敬語を使いつつも、ハッシマーに軽口を言った。

 ハッシマーはそれを容認している。

 それだけで、男がハッシマーから特別扱いされているのは分かった。



「彼等には元々、それだけの実力があっただけの事。ハッシマー殿の先見の明は、間違っていなかったという事ですよ」


「そうか?ナハハ!そう言われると、悪い気はしないな」


「さて、ウチの連中も城に入りきれなくなった。この人数差なら負ける事は無いでしょう」


「帝国からの援軍は、どれほど来たのだ?」


「ざっと八万程だと思いますよ。ただし、精鋭とは言えませんがね」


 外を見る限り、そこまで強そうな力を持った者は居ない。

 ハッシマーも確認はしたが、同様に強い力を感じる事はほとんど無かった。



「数人は居るな。三人くらいか?」


「へえ!凄いですね。確かにこの中に、三人だけ召喚者が居ます。まさかそれを見分けられるとはね」


「少しだけ毛色が違うからな」


「毛色がねぇ。やはり貴方のその目は、とても素晴らしい」



 どのように感知しているのか分からないが、ハッシマーには強者を見分ける目があった。

 ただ強者を見つけるだけでなく、異能を見つける才能とでもいうのだろう。

 だから彼は、ヒト族魔族等の種族を問わずに、片っ端から有能な人材を雇用した。



「ワシの事は良い。それよりも、オケツが引き連れている軍。奴等は何だ?」


「雑賀衆と名乗っているみたいですね」


「雑賀衆?聞いた事が無い名だ。帝国では有名なのか?」


「いえ、全く。ただし、おそらくは傭兵だと思いますね。何故傭兵が、騎士王国でも有名なトキド殿を倒せる力があるかは分かりませんが」


 しかし男は気付いていた。

 それを率いている人物が、日本と縁がある人物であると。


 そしてハッシマーは、傭兵という言葉を聞いて笑みをこぼす。



「なるほど。傭兵なら金で解決出来るはずだな。ウケフジの奴、トキドを倒したなどと言うから焦ったが、簡単に方が付きそうだ」


「そうなると楽なんですが」



 男には心配な事があった。

 日本に縁がある人物であれば、山崎の戦いを知っているはず。

 むしろ雑賀衆と名乗るくらいだから、戦国時代には多少の知識はありそうだと考えていた。

 そんな人物が、山崎の戦いの勝敗を知らないわけが無い。

 それなのに明智側であるオケツに肩入れする理由は、何なのか?

 そして今、山崎の戦いどころか大坂の陣に移行している。

 大坂の陣では逆に、豊臣軍は敗北している。

 徳川家康であろう人物は既に滅ぼされたが、彼はそこに少し不安を持っていた。



「最悪の場合は、自分が戦えば良いか」


「何だ?」


「いえ、何でもないです。それじゃ私は、外の帝国兵をまとめ上げてきます」


「頼んだぞ。帝国軍大将、海藤殿」






 やっぱりというか何というか。

 いや、これはもう愚痴を言うレベルじゃないな。



「申し訳ありません。オイラもここまでとは思いませんでした」


「こんなの予想出来ないって」


 俺達はオーサコを見下ろせる丘に到着したのだが、既に作戦は破綻していた。

 オーサコの街を囲む、虫のような黒い点がわんさか動いている。

 アレは多分、街に入れない帝国兵だろう。



「ここの攻略は、予想以上に難しそうですね」


「官兵衛でもすぐには思いつかない?」


 少し間が空いたが、官兵衛は頷いた。

 ちょっとの間に考えたのだろうが、やはり思いつかなかったみたいだ。



「これは多過ぎだよなあ。十万近く居るのかな?」


「外の帝国兵は、そこまで苦ではないと思うんです」


「この人数は問題じゃないの!?」


「有象無象が集まっても、大した事無いです」


 おおう!

 官兵衛がいつになく辛辣だな。

 いや、官兵衛も分かってるのかもしれない。

 安土が燃えたあの時に居た男が、ここに来ている事を。



「思うところがある?」


「そうですね。あの時に半兵衛は死にましたから・・・」


 俺はその言葉に、官兵衛に何も言えなかった。

 間に合わなかった俺に、掛けられる言葉なんか無い。

 あの時の事を思い出すと、未だに怒りが込み上げてくる。

 俺が力強く拳を握っているのを見た官兵衛は、その空気を一蹴してくれた。



「大丈夫。半兵衛はオイラの中で生きてますから。それに半兵衛の本当の仇は、ここには居ないですし。パパッと帝国の大将を倒して、皆で安土に帰りましょう!」


「そっか。そうだよな。クヨクヨしてる姿を見せたら、皆に余計な心配をさせてしまう。よーし、やるぞ!」


 官兵衛の言葉で、俺の心も少しは軽くなった。

 オケツの依頼もあるんだ。

 しっかりしないとな。





「ところで官兵衛。あんな人数をどうやって倒すんだ?」


「オイラ達が全員を相手にする必要は、無いんです」


「俺達が相手をしない?でも様子を見ているだけじゃ、もっと増えるんじゃないのか?」


「だから攻撃を加えつつ、守備に徹します」


「攻撃しながら守備?」


 駄目だ。

 俺には何が目的か分からない。

 つーか、どういう意味よ。



(多分、帝の勅命じゃないかな。相手は弱いけど、その数は多い。だったらこっちも、帝の勅命を聞いてやって来た騎士と、共同戦線を張れって意味だと思う)


 なるほど!

 それなら俺にも理解出来る。



(騎士は少なくても、帝国兵よりは強い。そう簡単にやられないはずだしね)


 じゃあ俺達は、奴等を少しずつ減らす事に徹して、帝の勅命でやって来た騎士を待ってれば良いんだな?


(そういう事)


 ふむふむ。

 意味を理解したからこそ、ちょっと気になる点がある。



「官兵衛、こっちは全員で戦うわけじゃないんだろ?」


「そうなりますね」


「この戦いには、誰が参加するんだ?」



 そう。

 この帝国兵を減らす戦いは、おそらく潰れ役のような役割だ。

 人数が少ない分、どうしても体力を使う事になる。

 ハッシマーやその配下達との戦いに参加するのは、難しいと思うんだよな。



「その役目は、ワシ等に任せてもらおう」


「タコガマ!」


 後ろから声がしたから振り向くと、タコガマやニラ、シッチといったボブハガーの配下達が立っていた。



「官兵衛殿から話は聞いている。元々ワシ等は、一度裏切った身。それでもまた、お館様の仇の為に参戦出来るのならば、願ってもない好機というものよ」


「それにお館様を倒したのは、帝国の大将です。雑兵とはいえ、間接的にその鬱憤を晴らさせてもらいましょう」


 彼等は自分達が、損な役回りだと分かっていた。


 俺ならチャンスが回ってきたら、どうしてもバットを振りたいという気持ちになってしまう。

 それを敢えて、犠牲バントに徹するという事だろう。

 そういう人が居ると居ないでは、チーム戦略は大きく変わるのは俺でも分かる。


 しかも野球と違って、この戦いには命が懸かっている。

 それでもそんな役を引き受けてくれるコイツ等を、俺は尊敬出来ると思った。



「タコガマ、ニラ、シッチ。敢えて言わせてもらうが、絶対に死ぬなよ。ピンチだと思ったら、引くのもアリなんだからな」


「分かってるよ、頭領さん。俺達だってハッシマーが死ぬのを見るまでは、死んでも死にきれないって」


「シッチの言う通りだ」


 死なないって約束なら、俺から言う事は無い。



「た、タコガマ殿!ニラ殿!シッチ殿!」


「オケツか」


 慌ててこっちに来たのは、オケツだった。

 どうやら三人が、外の帝国兵と戦うと耳にしたらしい。



「ご、ご武運をお祈りしております」


「おうよ!お前はハッシマーを倒す事だけに、集中しろよ。新しい御大将殿」


 三人は手をヒラヒラと振って、丘を降りていった。

 その姿が見えなくなるまで、頭を下げるオケツ。

 コイツも律儀な男だ。



「タコガマ隊、行くぞぉ!」






 それから一時間後、タコガマ、ニラ、シッチの三人が指揮をする騎士達が、帝国兵と衝突した。

 こちらから出したのは五千人。

 対して向こうは十万人前後。

 戦力差は十倍以上だろう。



「やはり騎士ですね」


 俺も官兵衛と同意見だった。



 騎士というのはやはり何かに騎乗して戦うのが、本来のスタイルだと思う。

 だが彼等は、ハッシマーによって騎馬が剥奪された状態だった。

 その強さは、半減していたといっても良いだろう。

 しかし今は、トキドやキョートで補給された騎馬がある。

 それ等は俺達や妖怪が使うよりも、やはり騎士に与えるべきだと官兵衛は進言してきた。

 権六やイッシーは慎重だったので、また反乱を起こさないかと心配していたが、オケツが最終的に判断して騎馬を与えていた。



「やっぱり馬に乗ると乗らないで、全く違うんだな」


「タコガマ殿達も、戦い方を理解しています」



 彼等が取っている戦術は、単純な一撃離脱の戦法だ。

 オーサコを囲むように守っている帝国兵達。

 その一番外側の一部に突撃して、すぐに離脱していくタコガマ達。

 上から見ていると、大根の桂剥きをしていて、わざと途中で切って離れていくような戦い方だった。



 騎馬に乗ったタコガマ達は、ハッキリ言ってかなり速い。

 俺が見る限り、トライクに乗ったイッシー達と同等の速さで戦っている気がする。

 しかも何処が凄いって、それを一人でやっている事だろう。

 トライクは運転と攻撃で分かれている。

 だけど騎士は、一人でそれを行なっているのだ。



「ちゃんと馬に乗れると、あんなにカッコ良いのね」


「ですね。オイラもあんまり騎乗は上手くないので、憧れます」


「しかも向こうは焦れてきたみたいだな」


 一撃離脱を繰り返していたタコガマ達だったが、帝国兵も馬鹿ではない。

 馬には馬をと、騎馬隊を投入してきた。



「馬が違うので、話にならないですよ」


 官兵衛の言う通り、ただ追いかけているだけだった。

 追いつく事はまず不可能で、むしろ旋回した先頭のタコガマ達にその背後を取られている。

 すると追われていた後方の騎士達は急反転し、先頭のタコガマ達と挟撃で応じた。



「タコガマ、すげーじゃんか!今の動きも、官兵衛が教えていたのか?」


「いえ、何も助言はしていません。オイラも驚いています」


 官兵衛は、騎馬に乗った騎士達の戦い方を知らないと言って、特に何もアドバイスしなかったようだ。

 これを見る限り、俺達の知っている騎馬戦とは大きく違っているし、それは間違いじゃなかったんだろう。






「こうやって見ると、タコガマ達って強いのね。俺達と戦った時に騎馬があったら、トキド、ウケフジ戦では負けてた可能性もあるんじゃないか?そう考えると、この国の戦力ってとんでもないな」

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