ハッシマーの宿す力
召喚者と違って、転生者は不思議な能力があるわけじゃない。
だけど日本の知識を一つだけ、ハッキリと覚えてるんだよね。
造船にDJのコンソール。
うーむ、その知識は必要?
僕の中でというか、一般的に使わないと思うんだよ。
造船に関しては役に立ったけど、DJは未だによく分からない。
しかし気になるのは、そのよく分からない知識。
どうやって決まってるんだろう。
キルシェは前世の仕事で少し関わりがあったみたいだけど、帝も前世ではDJだったって事?
それともただ単に、クラブミュージックが好きだっただけとか。
オケツは知識よりも、力を得た感じがするかな。
マッツンも特にそういう知識は持ってなかったけど、まあアイツの場合、ゴブリンを従えられる能力があるんだから、それが代わりなんだろう。
召喚者と違って転生者は、本当に一見しただけでは分からない。
今後も転生者と会う機会はあると思うけど、正直なところ自己申告してもらわないと、僕は判断が出来ない気がするよ。
帝はオケツに勝てないと言った。
帝とは初対面の俺だが、コイツはのらりくらりしていてちょっとイラッとする事もある。
だけど、本当に重要な事はふざけたりしないと思うんだよね。
そんな男が勝てないと言った。
「お館様の力を使った?みっちゃん、それはどういう意味かな?」
「そのまんまだよ。獅子の力はアドだけのケモノ。なのにアイツは、マロの前で使ってみせたでおじゃる」
「嘘だ!信じられるはずがない!あんな奴が、お館様の能力を引き継ぐなんて。ありえない!」
うーん、話がよく分からないな。
「オケツくん、どういう事かな?」
「ちょっと待って下さい。頭の整理が出来ていないので」
「マロが代わりに説明するでおじゃる」
息が荒いオケツに代わって、マロが・・・間違えた。
帝が話してくれる事になった。
「マロは使えないから、皆が知っているだけの話をするでおじゃる」
「それで良いよ」
「それじゃ、傾聴せよ。騎士王国の一部の騎士は、自分の身体にケモノを宿す事が出来る」
「それは知ってる」
俺もボブハガーと戦ってるし、権六も似たような奴・・・ああジヴァだったかな?
そんな奴も使ってた。
たしか、ボブハガーは獅子でジヴァは熊だったような。
「ては、そのケモノはどのように決まるか?それはケモノが棲んでいると言われる場所で修行するのでおじゃる。しかし、ケモノは自ら選ぶ事は出来ない」
「ん〜、それって欲しいと思うケモノの棲んでいる場所に行っても、それになるとは限らないって事?」
「そういう事でおじゃる。例えば獅子を宿したいと考えていたとする。でもケモノが主人に相応しくないと思えば、何十年修行しても宿らないのでおじゃるよ」
難しいな。
恋愛じゃないけど、一方的に好きになっても振り向かないって感じか。
努力して振り向いてくれる事もあるけど、獅子みたいな高嶺の花はそう簡単には落ちない的な考えで良いのかな?
「じゃあ、いつまで経っても落ちない、間違えた。主人に相応しくないと思われてたら、時間の無駄って事?」
「そうとは限らないでおじゃる。修行した分、土台の強さは上がっている。さっきの例で話せば、獅子は無理だとしても、猫や虎等、他のケモノに選ばれる可能性が出来るでおじゃるよ」
クラスで一番の美人は無理だけど、クラスでそこそこの女の子には告白成功するみたいな?
「お前、さっきから何を考えているでおじゃるか?」
「えっ!?俺、声に出てた?」
「声には出ていないが、時折間抜けな顔をするでおじゃる」
間抜けな顔って何だよ・・・。
(女の事考えてる時の顔でしょ。アホな事考えてるのが、見透かされてるんだよ)
ムキー!
人の事を単純みたいに言うんじゃないよ!
でも、顔に出てるのは気を付けよう。
俺、ポーカーフェイスになる!
「・・・間抜けヅラで固定されたか。まあ良い。話を続けよう。上位のケモノになると、やはり数は少ないでおじゃる。そういうケモノは、一子相伝になっていたりもするでおじゃる。トキド家やウケフジはその系統でごじゃるな」
「紅虎と白龍だっけ?そっか。めちゃ強いなと思ってたけど、アレはやっぱり上位のケモノなんだな」
「トキドとウケフジは、最上位と言っても過言ではないでおじゃる」
「アレは?朱雀とか白虎とか」
「勿論、上位でごじゃる。ちなみに上位のケモノは、主人が不甲斐無いと姿を消すでごじゃる」
「マジか!?」
厳しい修行をしてやっとこさ認められても、その後も努力は必要って事ね。
日々研鑽しろよって事なんだろうけど、騎士は厳しいなぁ。
その話を聞くと、ニラ達ってよく見捨てられなかったな。
「とまあ、上位のケモノは数が少ない。だからこそ強いケモノの主人亡き後は、争奪戦が始まるでおじゃる」
「そうか!ボブハガーが死んで空いた獅子のケモノに、ハッシマーが選ばれたって事か!?」
「マロはそう考えているでおじゃる」
「ありえない!」
なるほど。
ボブハガーの獅子がハッシマーを選んでいるなんて考えたら、そりゃあオケツとしては微妙な気分になるわな。
(いや、むしろ獅子に選ばれていたら、次の覇者はハッシマーだと言ってるのと同じかもしれない。そう考えると、ハッシマーに反抗してるオケツの立つ瀬は無いかもね)
でも、覇者なんかより帝の勅命の方が偉いんじゃないの?
ん?
それって、武将個人の考え方で変わるのか。
(そうだよ。獅子に認められし者をトップに考えるか。それとも帝の言葉こそが最上だと考えるのか。下手したら、騎士王国は真っ二つに割れる)
何だと!?
関ヶ原の戦いになるのか!?
(どうだろうね。もしくは関ヶ原を通り越して、大坂夏の陣に飛ぶかもしれないし)
夏の陣?
ああ、真田丸だっけか。
(その通り。徳川が豊臣を包囲して・・・あっ!)
どうした!?
(騎士王国の徳川、滅んでるんだけど・・・)
・・・まあ歴史通りとはならないから、大丈夫だろ。
「何か分からない事があるでおじゃるか?」
おっと!
急に黙ってしまったから、何か考え込んでいるのと勘違いされてしまった。
「いや、特には無い。それよりも、ハッシマーが獅子に選ばれているとしたら、他の武将はどう考えるんだ?」
「分からないでおじゃるな。しかしマロの言葉は絶対だと、マロは思っている。奴は約定を破ったのだから」
「約定?」
「そもそも帝が何故偉いのか、知っているでおじゃるか?」
知るわけがない。
弟だって知らなそうなのに、俺が知るわけがない。
だから俺は、首を横に振った。
「帝とはな、分かりやすく言えば審判なのじゃ」
「審判?」
「騎士王国内で誰が一番優れているのか?力が強いだけでは、国は大きくならない。しかし弱ければ、他国に淘汰される」
「なんとなく分かる」
ストレートが速いだけでノーコンは論外だし、コントロールが良くても球が遅ければ打たれる。
変化球と投球術でなんとかなったりもするけど。
全てにおいてある一定の力を持っていないと、ピッチャーなんか出来ないって事と同じだろう。
「では、誰が一番だと認める?他国の武将を全員倒したら?そんな事をしたら、国力は落ちてしまう。だからこそ、マロのような審判が必要なのでおじゃる」
「なるほどね。審判に文句言うまではまだ大丈夫だけど、手を出したらそりゃあ一発退場だわな」
「何の話でおじゃる?」
「気にしないで良い」
「うむ。まあお前の言う通りでおじゃる。ハッシマーはマロに手を出した。それは許されるべきではない。だから奴は排除しなくてはならないのでおじゃる」
帝は帝で、個人的に怒ってたわけじゃないんだな。
ちゃんとそういう理由もあったとは。
「オケツ、例え奴が獅子を宿していても、関係無い。奴は死罪でおじゃる」
「あ、当たり前です!あんな奴が獅子に」
「ちょっと待った!俺、気になる事があるんだけど」
「何でおじゃる?」
「ハッシマーって、ケモノを宿してなかったの?」
「・・・」
何故無言になるんだ?
俺、変な事言ったかな。
「オケツ」
「言われてみると、ハッシマーのケモノの力は見た事が無いです。しかしお館様が重用していたのだから、奴だって元々はケモノを持っていたはず」
「じゃあ、前のケモノを追い出して、新しいケモノを宿すとか出来るの?」
「そんな話、聞いた事無いでおじゃる」
「私も」
ハッシマー、謎が多いなぁ。
獅子の力を手に入れたなら、元々ケモノを宿してなかった?
そう考えると、ボブハガーが力の無いハッシマーを武将に仕立てるのはおかしいよな。
そう考えると、答えは一つ!
「一人で二匹のケモノを宿している!」
「それは無いです」
「それは無理でおじゃる」
ハイ、即答で否定されたー!
俺の考えなんて、所詮はそんなもんー!
「歴史上、二匹のケモノを身体に宿した者は、存在しないでおじゃる」
「みっちゃんの言う通りです。ハッシマーが歴史上その一人目じゃない限り、ありえないんです」
「ふーん、じゃあ一応頭の片隅に入れておこうぜ。本当に二匹居るかもしれないし」
「そうでおじゃるな。何事も備えが大事」
「分かりました」
話が大きく脱線してしまった気がする。
元々は、ハッシマーにオケツが勝てないって話だったか。
「話を戻すとして、俺はオケツがハッシマーに負けるとは決まってないと思うぞ」
「何故そう思うでごじゃるか?」
「オケツは新しい力を手に入れた。俺達が戦っている間、長い修行に明け暮れていたからな」
「そうなんでごじゃるか!?」
初耳だと言わんばかりに、帝はオケツに顔を近付けた。
しかし、オケツは視線を逸らした。
「え?新しい力、手に入れたんだよね?」
「・・・多分」
多分ってなんじゃーい!
それは、手に入れてないのと同じなんじゃないのか。
「だ、大丈夫!ハッシマーを目の前にしたら、覚醒しますから。多分・・・」
アレ?
もしかして俺達、大穴に持ち金全部ぶち込んだ?
こんなの他の連中に知らせられないぞ。
「お前、最悪の場合は俺がハッシマーぶっ倒すからな。弱かったら許さないよ」
「だ、大丈夫!任せて下しゃい!」
噛んどるやんけ・・・。
「みっちゃん、私達は先にオーサコに向かうから」
「分かった。マロは他の連中を引き連れて、後から行くでおじゃる」
負けるかもしれないと言ったが、帝はすんなり返事をしている。
帝も案外、オケツが負けるとは考えてないんじゃないのか?
「孫市よ」
オケツが目を離した隙に、帝に小さく手招きされた。
内緒話かな?
「キーくんを頼む」
「頼むとは?ハッシマーを代わりにぶっ倒せって事?」
「違う。死なせないでほしい。万が一勝てそうだとしても、キーくんが死んだら意味が無い。だから、本当の無理だけはさせないでやってくれ」
死んでもハッシマーを倒したいと願うオケツ。
それを俺が止めたら、一生恨まれそうな気もする。
でも帝の気持ちは本気だったし、応えたいとも思う。
凄く難しい注文だ。
(だったら僕が答える)
「オケツは死なせない。だけどハッシマーは、オケツが倒す。そして僕達は帝国の大将を倒して、万事問題無し!傭兵集団雑賀衆は、頼まれた仕事はキッチリとこなす。二人の要望を叶えてみせるさ」




