勅命
この男、本当に掴みどころが無いな。
まさか助けに来たのに、手首を本気で斬り落とそうとしてくるなんて。
兄じゃなかったら斬られてたからね。
もし僕だったら、手首斬られた後にガチギレで丸焦げにしてたと思う。
ただね、これは予想外だったわ。
オケツと仲が良いのは、てっきり歳が近いという理由だけだと思ってたのに。
これまた転生者だったとはね。
向こうも僕の事をオケツから聞いたはずなんだけど、あまり興味は無いのかな?
僕達は転生者ではないとも教えたのに、深くは突っ込んでこなかった。
それとも現状を理解しているからか?
ハッシマーとの戦いが終わったら、もしかしたら詳しく聞かれるかもね。
それにしても、転生者というのは意外に多いのか?
人口の割合からして、どれくらいが転生者なんだろう?
僕が知る限りでも、オケツと帝、キルシェとマッツンもそうか。
他にも会った事の無い人物も居るんだろうけど、意外に多く感じるのは僕の気のせいなんだろうか?
官兵衛が転生者?
そんな事、考えた事も無かった。
ネズミ族で捨てられていたところを、テンジに救われたんだったっけ。
そういえば官兵衛の、いや半兵衛の親は?
何処で生まれた?
いつからあんな能力を?
官兵衛は脳に・・・何だったっけ?
(脳に血が巡ってないと、能力が発揮出来ない。だから当時は、食事をちゃんと摂取出来なかったから、無能なネズミ族と間違えられてたんだ)
そうそう!
甘い物が良いんだよな。
その反動からか、大食いになっているのはどうかと思うが。
「記憶の無い転生者って、もう普通の人と変わらないんじゃない?えーと、輪廻転生だっけ?」
「正確には、記憶が封印された転生者。でおじゃるな。その特別不思議な異能、魔族でも特別ではないか?」
「そうだな。全く同じ能力を持ってる人は、居ないと思うけど」
同じネズミ族にも存在しないだろうし。
秀吉も半兵衛の時に、本当の能力を知って再雇用しようとしてたっけか。
「マロはアレだけ頭が回ると、いつ寝首を掻かれるか怖いでおじゃる。やっぱりキーくんくらい、間の抜けた男が丁度良いでおじゃるよ」
「お前、色々と酷い男だな」
「何が?」
無自覚かよ。
それも酷いぞ。
「この方々でよろしいですか?」
「早いな!」
官兵衛達は早々に戻ってきた。
コバの作った官兵衛用の補助具だが、それのおかげだという。
今では自立式神輿になるのだが、今では多機能搭載していて、その中の一つに赤外線センサーがあった。
召喚者である佐藤さんと長谷部は、使い方は分からなくとも赤外線センサーくらいは知っている。
二人が官兵衛に軽く説明しただけで、使い方を理解したらしく、隠れている人達をすぐに発見したとの事だった。
「一人足らないのでおじゃる・・・」
どうやら帝に協力してくれていた配下の一人は、仲間を逃す為にわざと見つかり、斬られていたらしい。
倒れていたところを発見したが、既に事切れていた。
「御所はこんなになってしまったが、これでもマロの家でおじゃる。彼はマロの家族も同然。死体は御所の庭に埋葬したいのだが、先にしても良いでおじゃるか?」
「それは当たり前だ。いくら俺達が急いでいると言っても、仲間の死を弔うより大切な事は無い。ちょっとくらい遅れたって、俺達ならどうとでもなるってもんよ」
「感謝する」
使用人という割には強かったのかな。
背中を斬られた様子は無い。
全て正面に斬られた痕跡があった。
他の人達が逃げられるように、奮闘したのだろう。
「安らかに眠るでおじゃる」
彼を埋葬した帝は、少しだけ雰囲気が違って見えた。
不真面目というか、掴みどころが無い人物という仮面の下には、仲間の死の怒りを抑えているようにも感じる。
この連中の事を本当に信頼していると、俺でも分かった。
「さて、マロもやるべき事をやるでおじゃる。朝敵となったハッシマー。そのハッシマーに手を貸す他国の軍。マロは奴等を許すわけにはいかない」
「勅命を出すのか?」
「その通り!キーくん、御所のあの部屋はどうなってるか分かる?」
「あの部屋は何も荒らされてなかった。多分、帝国からしたら、あの部屋の意味が分からなかったんだと思う」
あの部屋?
秘密の部屋というよりは、カモフラージュ的な事をしている部屋なのかな?
「凄く気になるんだけど。俺も行っていいかな?」
「問題無いでおじゃる」
帝はオケツと俺を引き連れて、再び御所に入った。
その怪しげな部屋は、どうやら上の階にあるらしい。
俺はさっき地下に向かったから、上の階は初めてだ。
「な、なかなか凄いな」
「柴田殿が大暴れしてくれたので。私は手を貸す事も無く、楽に進めました」
その辺に転がっている死体は、大半が何かひしゃげていたり抉り取られたように穴が開いている。
金棒でぶっ叩くと、本気ならこうなるという見本だ。
「最上階だけど、何処に行くんだ?」
「まだで最上階じゃないでおじゃる」
「外から見ると、ここが最上階じゃなかったっけ?」
窓を下から見たけど、俺の勘違いだったのかな。
でもオケツも苦笑いしているから、多分間違ってないと思う。
「実は屋根裏部屋があるんです」
「屋根裏は上の階と呼ぶの?なんか違う気がするけど」
「しかもその屋根裏部屋、ちょっと特殊なんです」
オケツはその部屋の秘密を知っているみたいだけど、特殊って何なんだろう。
場所も知っているからか、普通に帝と並んで歩いて向かっている。
「着いたでおじゃる。この部屋のここを引くと、この通り階段が出てくる」
今の日本の家にもあるような造りだな。
部屋自体は、特に変わった部屋ではない。
そのスイッチというか、階段を下ろす為の紐も見つかった。
屋根裏自体、隠してないようなものだ。
二人に続いて俺も上がると、特に埃っぽいとかそういった感想は無い。
暗くて少し見づらいけど、意外と綺麗にされている事から、普段から部屋を掃除しているのが分かる。
物置とかそんな感じでもない。
奥にあるからか見づらいのだが、大きな机?それともテーブル?
その前に帝は移動した。
「レッツ、ミュージックスタートゥ!」
「へ?」
帝がそう言うと、急に屋根裏部屋の照明が点灯した。
いや、明るくなったのは俺の真上にあるこの球のおかげだ。
「ミラーボール?」
「イエース!アゲアゲで行こうぜ!」
え・・・。
急な事過ぎて、何が起きたのかサッパリ分からない。
オケツは踊り始めたけど、俺も踊らないと駄目なのか?
でも真面目な話、踊りたくない。
「レッツパーリィ!」
「は?何じゃこりゃ!?」
帝がDJを初めて少し経つと、屋根が開き始めたではないか!
どうやら御所は、開閉式の屋根を持っているらしい。
福岡のドームと同じだけど、あそこは開閉するだけでうん百万円するらしいから、普段は開かないんだよね。
「アゲアゲだあ!」
「アゲアゲだあ!」
二人してアゲアゲ言ってるけど、俺は・・・二人ともガン見してる!?
「あ、アゲアゲだあ・・・」
「よし!スイッチオン!」
帝が何かボタンを押した。
「騎士王国の皆の者よ、聞こえるか?」
急に真面目な口調になった帝。
そのテンションの差に、俺はついていけない。
オケツは分かっていたのか、急に黙った後に静かにしてくれと言ってきた。
凄くムカつくんだけど。
アゲアゲ言ってたの、お前等だからな。
「オケツ、何が起きてるの?」
「あの卓、実は各領に繋がる連絡機なんですよ」
「連絡機?」
「私達に分かるように言うと、テレビ電話かな」
なるほど。
身振り手振りで演説しているのは、映像も流れているからか。
いや、そんな事よりももっとおかしな事が。
「あのさ、何で騎士王国にDJの機械があるんだ?」
「ミキシングコンソールね。アレ、彼が前世の知識で知ってた物らしいですよ」
「まさかの自作!?」
「何故か設計も出来たみたいで、特注で作らせたという話です」
そういえば、キルシェも何故か造船に関しての記憶だけはあったと言ってたな。
前世の彼自身が船を作る業者でもなかったのに、設計図だけは頭の中に残ってたって言ってたし。
転生者って、そういう不思議なところがある。
「マロは帝でおじゃる。騎士の者、そうでない者も聞け!今この国は、帝国から侵犯されている。マロの座すキョートにも帝国兵は入り込み、あろう事か命まで狙ってきた」
ふーむ、やっぱり他の武将達に話し掛ける時は、あの捉えどころの無い感じじゃないんだな。
今の帝は、若いが帝としてのオーラがある。
話しを聞いていても、偉そうに話しているけど嫌みのある感じには聞こえない。
マロとかおじゃるとか時々入るから、イラっとするかとも思ったのに。
むしろそれが帝としての自然体に聞こえてしまうくらい、しっくりくる口調になっている。
「ハッシマーの事を話してないけど」
「シッ!ここから話し始めるはずです。みっちゃんは、ハッシマーに本気で怒ってるんでね」
そりゃ怒るのは当然だろう。
勝手に帝国を招き入れて、更には自分の命と地位を狙ってきたんだから。
「その帝国を招き入れた国賊が居る。それがハッシマーだ!奴は主君であるアドを殺し、その領地を占領。そして今、オーサコの地を不当に占拠し、帝国軍を今もこの誇り高きケルメンへと迎え入れている。諸君、そのような暴挙を許して良いのか!?否!それは断じて否だ!」
「おうおう、言い回しがカッコ良いな」
「めっちゃ昔のアニメ、パクってますよね」
「言ってやるなよ。アイツ、ちょっと気持ち良さそうだし」
でも、俺的にちょっと気になる点もある。
帝って、他の武将に命令出来る権限なんかあるのか?
「マロは国賊であるハッシマーを許しはしない。皆の者、勅命である。帝国軍を諸君等の祖国、ケルメン騎士王国から追放せよ!そしてマロの命を狙った愚者、ハッシマーをマロの前に突き出すが良い!ハッシマーの命の有無は問わぬ。なお、ハッシマーに与する者は、ハッシマー同様に国賊と見なす。行け、誇り高き騎士達よ!我が祖国を、帝国の魔の手より取り戻すのだ!」
ヤベェ、普通に見入ってしまった。
それくらい迫力のある演説だった。
帝がスイッチを切ると、再びミラーボールが回り始める。
え、また音楽流すの?
「ストップ!その音止めて。そのドゥムドゥム言ってるの、止めて」
「何よ、マロ頑張ったでしょ?もう良いじゃない」
「良いわけあるか!俺はハッシマーと帝国を、ぶっ飛ばしに行くんだよ!」
「みっちゃん、私もハッシマーは自分の手で倒したいんだよね」
「アドの仇か。気持ちは分かるけど」
帝は何か言いたそうな顔している。
あの空気を読まない帝が躊躇するって、何か理由があるのか?
「キーくんさ、他の武将が来てからじゃ駄目なの?」
「ハッシマーだけは!」
「そっか・・・」
「帝、何か言いたい事あるなら、ちゃんと言った方が良いぞ。こんな戦争している時なんだから、下手したら二度と会えなくなるかもしれないし」
俺の言葉を聞いた二人は、少し無言になった。
俺も他人事ではない。
とは言ってもね、俺この戦争が終わっても、別に結婚するわけでもないしね。
何かを言う相手は、俺には居ないです・・・。
「キーくん、じゃあハッキリ言うけどさ。キーくんの力じゃあ、ハッシマーに勝てないよ。俺さ、ハッシマーの力を見たんだけど。アレ、アドの能力と全く同じだったぞ。間違いなく、獅子の能力だった」