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みっちゃんとキーくん

 帝って、どんな人物なんだ?

 オケツとメイドさんの話を聞く限り、まず頭は悪くないのは分かる。

 普通は若くして殿様になったりすると、馬鹿か傀儡のどちらかが多い気がするんだけど。

 この帝、むしろ悪知恵が働くタイプだろう。

 普段は言いなりみたいな態度を示しておいて、実は裏でコソコソ、金儲けとかしてそうな感じかな。

 正直なところ、僕は嫌いではない。


 それに度胸もある。

 敵を倒して自分と入れ替わり、首を刎ねて身元を分からなくする。

 そのまま敵のど真ん中に一人で居るって、普通考えられないでしょ。

 僕なら間違いなく、失禁してる。

 いや、この姿ならね。

 元の大人の姿なら、流石に漏らしませんけど。


 それに剣の腕も、多少はあるみたいだ。

 メイドさんを逃して、自分がオトリになるとか。

 それって勝てる相手だと分かっていないと、行動に移せないと思うんだよね。

 自分の力量と相手の強さを見極めて、それを実行する。

 総合的に考えた結果、この帝という人物。

 騎士王国のトップに相応しい人物なんだと、この状況だけで知る事が出来た。







 来た!

 男をマジマジと見てみると、確かに背は低い。

 そしてメイドさん情報通り、髪はフサフサだ。

 筋肉質という程ではないが、構えからして剣は素人じゃない気がする。

 顔は可もなく不可もなく?

 蘭丸とかハクトと比べたら、酷な話だな・・・。



 そしてこの男、キーくんって言ったよな!?

 俺は秀吉とメイドさんをチラッと確認すると、二人とも頷いている。

 予想通り、帝が帝国兵に紛れていたっぽい。



「言ったな!そこの帝国兵、俺と勝負だ!」


 持っていたミスリルの塊をバットにすると、男は少し驚いた顔をした。

 創造魔法なんか見た事無いから、そうなるのも分かるけど。

 敵の目の前で固まっちゃ駄目だろ。



「来ないのか?」


「行くぞ!キエェェイ!」


 よしよし。

 こっちに来た時に、そのまま帝を引き入れてしまえば、俺達の勝ちは確定するわけだ。

 上段の構えからの振り下ろしかな。

 威力はあるけど、まあ俺なら余裕で避けられるし。

 さあ、早く来たまえ!



「死ねえぇぇい!」


「へ?」


 上段から振り下ろした直後、返す刀で俺の手首を狙ってきやがった!

 コイツ、マジか!?



「チィ!殺り損ねたか。流石はキーくんが仲間にした、魔族でおじゃる」


「おじゃる?アンタ、帝で良いんだよな?」


「いかにも。マロが殿でおじゃる」


 マロって自分で言う奴、初めて見たわ。

 いやいや!

 それよりもだ。



「どうして本気で斬り掛かってきた?」


「なんとなく?あうっ!殴ったね!?父上にもぶたれた事無いのに!フゥ、このセリフが言える時が来るとは」


 なんとなくという言葉に頭にきて、思わずビンタしてしまった。

 ただコイツ、今あのセリフを言ったよな?



「お前もしかして、日本人か?」


「なぬ!?そうか、キーくんから聞いたでおじゃるな。アイツ、マロの事を勝手に話してるとは。許さんでおじゃる」


 おじゃるおじゃる軽くイラッとしてくるけど、とりあえずようやく帝の身柄は確保出来たわけだ。



「秀吉、全員ぶっ倒して良いぞ」


「分かりました。全員、死んでもらいましょう。どうせなので私のちょっとした実験に、付き合ってもらいます」


「実験?」


「皆さんは極力離れないで下さい。行きます、裁きの雷!」


 広間に集まった帝国兵に、空が見えない地下で雷が落ちていく。

 なかなかの阿鼻叫喚だ。


 雷で筋肉が動いているだけなのか、ビクビクしている連中が多少居るが、ほとんどは黒焦げになっている。

 おそらく皆、死んでいると思われる。



「成功しました」


「何の実験だったんだ?」


「空が見えなくとも、雷が落とせるか。そういう魔法の実験です」


「想像していた通りの実験だったんだ。いや、どういう仕組みでやったかまでは分からないけど」


 それよりも、二人の口が開いたままになっている。

 今の魔法が相当衝撃だったみたいだな。



「帝?おい、帝様よ。みっちゃ〜ん」


「みっちゃん呼ぶな!それを言って良いのは、キーくんだけでおじゃる」


「ハイハイ、仲がよろしい事で。ちなみに確認だが、メイドさん以外にお前の味方は居るのか?」


「何人かはマロが逃したでおじゃる。ちゃんと指示した場所に隠れていれば、捕まらないでおじゃるよ」


 ほう?

 メイドさんがあの部屋に隠れていたのは、偶然ではなかったというわけか。

 でも捕まらないって、結構簡単に見つけられたけどな。



「私は帝様が心配で、部屋の中に戻ってしまったので」



 メイドさんは部屋の中にあるクローゼットに隠れていたのだが、実はクローゼットの奥には隠し扉があったらしい。

 たまたま部屋に戻ってきたタイミングで、俺達がドアノブを壊して部屋に入ってきたとの事。

 あのまま隠し扉を開けたら、物音が鳴るかもしれない。

 だからそのまま隠れていたという話だった。



「マロが即位した時、御所は改装したのでおじゃる」


「こういう時の為か。流石だな」


「かくれんぼする時に、面白いかと思ったのでおじゃる」


「なんというか、金持ちの発想?」


「そう返されたのは、初めてでおじゃる」


 理由が理由なので、微妙な反応をされる事の方が多いらしい。

 当たり前だけどな。



 ただし、このようなアホな事ばかりやっていると、本当に自分に仕えてくれているのか、見極める判断材料になるという。

 要はこういうバカをしても、一緒に楽しんだりそれを今回のような、秘密の通路として活用出来るとアドバイスをしてくる連中は、本当に自分を支えてくれる人物だと認めているというわけだ。



「ただのバカ殿じゃないんだな」


「マロをナメるなよ。マロが本気を出せば、一発だからな。貴様など一子相伝の殺人拳をお見舞いして、たわぱっ!って言って死んでしまうのでおじゃる」


 どこの神拳だ、それは。



「やっと着きました」


「権六!」


「あっ!みっちゃ〜ん!」


「キーくん!死ねえぇい!」







 帝の振る剣を軽々と受け流すオケツ。

 最初は目が本気だったが、その直後に何故か二人とも笑顔になった。



「僕を友とも思わない攻撃。本物のみっちゃんだ!」


「そんな剣を受け止めて、本気の目でやめろよって訴えてくる。キーくん、来てくれたでおじゃるな」


 えーと、仲が良いのか?

 権六も秀吉も、さっきの帝とメイドさん状態だぞ。



「ゆ、友人なんですよね?」


「本気で殺しに行ってませんでしたか?」


「友達ですよ〜。少なくとも僕はそう思ってます」


「正真正銘マロの友人、オケツでおじゃる」


「か、変わった関係ですね・・・」


 二人ともドン引きじゃないか。

 だけど、俺は違うぜ!

 だって、さっき俺も帝に殺されかけたからな!

 そんなの知ってても、全然嬉しくない。



「さて、みっちゃん」


「分かってるでおじゃる」


「流石はみっちゃん」


 頭の良い帝は、オケツの言おうとしている事を先に理解しているみたいだ。

 流石だな。



「この野郎!」


「イテッ!何で!?」


 いきなりオケツを殴る帝。

 どういう事?



「お前、ちょっと来い」


「何よ」


 二人は皆から離れていき、内緒話を始めた。

 オケツが手を横に振っている。

 しばらくすると、頷くオケツ。

 驚いた顔をした帝は、俺を呼びつけてきた。



「お前、元日本人なのか?」


「は?内緒話ってそれ?」


「答えろ」


 命令口調の帝にイラッとして、俺も言ってしまった。



「お前、帝だからって偉そうにしてんじゃないよ。お前は騎士王国で偉いかもしれないけど、俺も一応魔王なんだからな」


「・・・は?」


「ああもう!わざわざ孫市って紹介したのに!二人とも、面倒だから俺が話すわ」


 オケツの口調が、僕から俺になっている。

 日本人の頃に戻っているっぽい。



 オケツは俺が魔王で転生者ではない事を伝えると、逆に帝の情報も話してくれた。



「彼も元日本人の転生者だ。だから俺とも仲良くなった」


「そういう理由!?てっきり歳が近いからとか、ボブハガーがそういう風に仕向けたと思ってたんだけど」


「まあ最初は表向き、普通に仲は良かったぞ。オケツと歳が近くて、話も合ったしな。ただ、たまたま日本のちょっとした事を話したら、オケツが反応したもんだから」


「そう。それで帝が転生者だって気付いた。だから僕も同じく転生者だと明かした」



 二人はそれから表面上だけでなく、本当に友達になったという。

 だからこそ、帝の首の無い死体を見た時に発狂したんだと。

 俺がその話を帝にすると、帝は笑うかと思ってたけど、予想に反して耳を赤くして照れていた。



「二人の出会いに関しては分かった。本題に戻すけど」


「分かってる。俺もハッシマーのやり方には、頭に来ているからな。帝の力を甘く見た事、思い知らせてやる」


「どうするんだ?」


「勅命を出す」


「勅命を!?みっちゃん、初めてじゃないか!」


「ほう!?勅命を!」


 オケツが驚いたから乗っかったけど、勅命って何だ?

 初めてって言ってるから、珍しいんだろうけど。



(歴史を勉強しなさいよ。勅命は分かりやすく言えば、天皇の命令だ。この場合だと、帝の命令になるんだと思う)


 ありがとう弟ぺディア。



(誰が弟ぺディアだ!)


 ツッコミもありがとう。

 さあ、意味は分かった。

 けど、勅命を出すってどうやるんだ?



「勅命は何処から出すんだ?手紙書いて、一人ずつ渡していくのか?」


「そんなんじゃ手紙が着く頃に、ハッシマーにやられちゃうよ。勅命は結構派手だからね」


 派手とな?

 どういう事だろうか?



「とりあえず地上に戻ろう。勅命の準備をする」






 地上に戻ると、戦闘は終了していた。

 というより、かなり前に終わっていたらしい。

 既に休養を取っていて、食事の準備が始まっていた。



「全員が魔族、というわけではないのでおじゃるな」


「ああ。帝国に召喚された後、こっちに協力してくれている人も居る。つーか、何でおじゃる?」


 すると帝は、俺の耳元で話し始めた。



「帝って、マロとかおじゃるって言ってない?余とマロで迷ったんだけどさ。父が余だったから、俺はマロにしようと思って。威厳ある感じを出したいから、人前ではずっとこれで通してるんだ」


「く、くだらねー!そんな事言ったら、俺どうすんの?魔王こそ余とか言いそうじゃんか。でも、余か。余の命令を聞け!・・・うん、カッコイイな」


「だろ!」



 帝の奴、ちゃんと考えてるんだな。

 俺も今から、余とか言ってみようかな?

 うーん、太田とか又左なら目を輝かせてくれそうだけど。

 蘭丸とハクトは白い目で見てきそう。

 そしてコバは、馬鹿にしてきそう。

 今更言うのは遅いな。

 やめとこ・・・。



「それで、勅命はどうやって出すんだ?」


「勅命の前に、マロの配下を見つけ出すでおじゃる。孫市の信用出来る者を、借りても良いでおじゃるか?」


 信用出来る者ねえ。

 全員信用してるけど、誰にしようかな?



「孫市様、オイラと長谷部くん、佐藤殿で行きます」


「あ、そう?それじゃ帝の指示に従って、よろしくね」


 帝は隠し扉の場所を教えると、官兵衛達はすぐに御所の中へ入っていった。

 すると帝は、再び耳元で話し掛けてくる。



「今の三人は転生者と召喚者か?」


「官兵衛は別だ。他の二人は召喚者だけど。どうして?」






「いや、ちょっと異質な力を持っているなと感じてな。記憶が無いだけの、転生者の可能性もあるかもしれないぞ。記憶といえば、アイツ一度言っただけで全ての隠し扉の位置を覚えていきやがった。あんなのが居たら、お前達は敵に回せないと実感したぞ」

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