勇者
「森?森って長可と関係があるのか?」
「だから息子だと言っている!」
僕の欠片の力で、蘭丸に変化し再び訪れた。
しかし動揺はするが、中には入れてくれそうもない。
お楽しみって何なんだ!
早く中に入れろ!
「む、息子だという証拠は!?」
「証拠!?そんなもん、会えば一発で分かるだろ」
本当は息子じゃないけれども。
見た目だけは蘭丸なので、長可さんでもすぐには見分けられないと思う。
「お前等、いい加減にしろよ。何故自分の村に帰ってきて、お前等みたいな帝国の野郎に命令されないといけないんだ?そろそろ入れないと、実力行使で排除するぞ?」
持ってきた槍を前に突き出し、威嚇する。
そもそも僕は槍など使えないから、これで入れてくれないようなら、違う手を考えないといけないんだけれど。
「・・・中に入れ」
扉の前から横にずれ、ようやくと中に入れてくれる気になったらしい。
お楽しみへ、いざ行かん!
【めっちゃエロい事をしていたら、どうする?】
それはそれで良し!
違っても、まあ良いか・・・。
【違った時のテンション低いなー。そっちにしか期待してないじゃんか】
馬鹿野郎!
そんな事はない!
長可さんだって心配だよ?
でも、長可さんのあの大人のフェロモンがバリバリに出てたら、どうするのかね?
気にならないのかね?
【・・・身体小さくなかったら、本当に危なかったよな。性的な興奮が、それこそ危険が危ないってなってたと思う】
そろそろ話は終わりだ。
レッツ!秘密の花園!
魔王、行きまーす!
中を開けると、少し薄暗くなっている。
中に入り、少し進んだ所にある部屋を覗いてみた。
「えっ!?」
僕達が予想していたのと、全然違った。
女エルフが帝国兵に手籠にされているんだと、ずっと思っていた。
あまり言いたくはないが、そういうDVDとかはそこまで興味は無い。
無理矢理は趣味じゃないのだ。
【そうなの?でもお前、部屋で女教師が生徒に無理矢理・・・】
わー!わー!
何を言ってるのか、サッパリ分かりませんね。
僕は男が女性に対して、無理矢理は駄目だと思うんだよ。
【じゃあ逆は?】
アリだと思います。
そして、今まさにそんな感じです。
男エルフが女帝国兵に、無理矢理服を脱がされてます。
【さっきの裸の男って、こういう意味だったんだな。でも、男もまんざらじゃなさそうだよな】
うーん、どうなんだろね。
僕的にはあそこまで筋肉質な女性は、ちょっとご遠慮願いたいけど。
明らかに、本物の僕より力ありそうだし。
【お互いが嫌がってないのであれば、別にいいのか?】
あまり覗くのも悪いし、先に進もう。
股間を少し押さえつつ、僕達は先に進んだ。
興奮を抑えきれてないじゃないか?
そんなもんは無理だ!
未経験者をナメるな!
どの部屋も似たような感じだな。
しかも、何故か女性兵士が男エルフをっていう感じだ。
どういう事なんだろう?
【まず最初からおかしいだろ。だって村が襲われた形跡も無い。でも、以前襲撃に来ている帝国兵を、無条件で受け入れる理由なんか無いよな?】
それを長可さんが許可するとも思えないし。
全く分からん。
やっぱり長可さんに直接聞くのが早いかもね。
ん?
あの部屋が確か一番大きかったんだっけか。
中から声がする。
長可さんの声だ。
もしかして・・・
僕は気付かれないように、少しだけ開けた。
「貴方は頑張ってるわ。皆の期待に応えて、此処まで来たんだもの」
誰に話し掛けているんだ?
知り合いのような感じだけど。
「そうね、だから私が貴方が求めている事をしてあげる」
おぉ!
まさに、今まさに!
いや、マズイ。
こんな事が蘭丸に知れたら、アイツも怒るだろう。
でも、もう少し!
もう少しだけ!
「ほら、いい子いい子してあげる。よしよ〜し、頑張ったわね〜」
「え・・・。そっちなの?」
「誰だ!?」
しまった!
予想外の展開に、無意識に声を出してしまったようだ。
僕達の求めていたのと違うじゃないか!
もうバレては仕方ない。
「長可さん!じゃなかった。母さん?母上?あれ、どっちだろ?」
「蘭丸?」
振り返った長可さんは、少し薄いワンピースのような服でベッドで、誰かの頭を撫でていた。
これは真面目に、蘭丸には言えない案件だ。
僕達の中で封印しておこう。
ただしその妖艶なエロい姿を、魔王アイに焼き付けてからだ。
その前に、聞く事はちゃんと聞かないと。
「何をしてるんです?」
「何って、勇者様の要望に応えてるのよ」
勇者!?
このいい子いい子って性癖の野郎が!?
「帝国兵が勇者?何故、受け入れたのですか?」
「だって勇者様が来たんですもの。受け入れるのは当たり前でしょう?」
当たり前ってどういう意味だ?
洗脳でもされているのか?
「長可さん、目を覚ましてください!帝国に襲われた貴女が、受け入れる理由は無いでしょう!?」
「無駄だよ、蘭丸くん?」
「お前は誰だ!」
「私はアント。帝国の勇者だ」
「勇者だと?お前、女の人の胸で頭撫でられてる奴が、勇者に見えると思うか!?」
「あ・・・」
長可さんの手を払い、アントはベッドから立ち上がった。
軽く咳払いをしているが、誤魔化したいだけだろう。
かなりダサい。
よく見なくても分かる。
身体は細く、ガリガリだ。
多分、僕の身体強化でも余裕で勝てるだろう。
これで勇者って、意味が分からない。
「で、その勇者が何故この町に居る?」
「何故?そんな当たり前の事を聞くのかい?」
「・・・襲撃なのか?」
「僕はそんな野蛮な事はしない。襲わなくても、落とす事は出来るんだからね」
やはり洗脳のような力があるという事か。
まさか、この町全体に掛かっているのか?
「お前の目的は何だ?」
「簡単だよ。この町の皆、全員帝国に連れて帰るのさ。ある者は奴隷、ある者は性奴隷、ある者は実験要因。まあ使い道は色々あるからね」
ペラペラとよく喋ってくれる男だな。
逃げられるとでも思っているのか?
「色々な情報をありがとう。わざわざこうやって話すくらいだ。僕に勝てる自信があるのかな?」
「勝つ必要なんか無いんだよ。僕はこうして話していれば良いだけ」
「増援か!?」
外の音に耳を傾けたが、特に大きな音はしていない。
兄さんなら身体強化で、もっと聞こえるんだろうけど。
僕じゃそこまで聞こえなかった。
「違う違う!そんな物も必要無いから。戦わずして勝つ。これが僕のやり方」
「戦わない?じゃあ僕が攻撃を仕掛けたら、どうなるのかな?」
手に持っていた槍を突いた。
正直、下手くそな突きだったと思う。
マトモな兵なら普通に避けるか、叩き落としていただろう。
しかし、コイツの場合は違った。
「蘭丸!何をするのです!勇者様に槍を向けるなど、気は確かなのでしょうね!?」
突いた槍を、長可さんが扇子で叩き落とした。
勇者はニヤニヤしながら、長可さんの後ろで見ているだけ。
実に不愉快な笑顔だな。
「ほらね?僕は何もする必要が無い。傷つくのは他の人だからね」
自分では何もせずに、周りが勝手に動くか。
会社の社長とかならアリなんじゃない?
でも僕は、自分が率先して前に出て、リーダーシップを発揮する社長の方が良いけどね。
しかもコイツの場合、仕事してるわけじゃないし。
イラっとするだけだ。
【ぶっちゃけ、めちゃくちゃ嫌いなタイプだ。代わって、ぶん殴りたいくらいだぞ】
ぶん殴りたいっていうのは分かる。
ただ、長可さんに危害は加えられない。
「困ってきたんじゃない?この女性が母親なんだってね。キミの母親、めちゃくちゃいい女だよね。僕は年上はあまり興味無いんだけど、彼女は別だよ」
「嘘つけ!頭撫でられてよしよ〜しとか、明らかにそっちの趣味だろうが!」
「うるさいな!僕にもストレスがあるんだよ!」
本音が出てきたな。
カッコつけてるつもりかもしれないが、地はやっぱり見た目通りの男なんだろう。
この程度の煽りで素を出すとか。
僕の敵では無いな。
「無理するなって。年上大好きアントくん?本当は甘えに甘えて、僕は本当は勇者なんてやりたくないんでちゅ〜!とか言ってるんじゃないの?」
【嫌みを言わせたら魔王クラスだな。流石としか言えん】
魔王クラスっていうか、魔王だからね。
勇者に対して、魔王が負けてなるものか!ってね。
「お前とはもう喋らない!早く堕ちろ!」
何処から取り出したのか、何かをこちらに翳した。
すると光を放って、目の前が眩しくなる。
「ハ、ハハハ!見ろ!お前も従順になるんだ!」
「やっぱりサングラス欲しいな。あ〜、目が痛い!」
しかし眩しいだけで、攻撃とか何もされなかったな。
何がしたかったんだ?
「おい、お前。さっきまでの非礼を詫びろ」
「は?」
「だから詫びろと言っている!」
何コイツ、頭おかしいのか?
そんなに謝ってほしいなら、言ってやるよ。
「ジャンボ!ジャンボ!ポレサーナ!」
「は?何を言っている?」
【どういう意味?】
スワヒリ語で、こんにちは!こんにちは!ごめんなさい!って言った。
【何でスワヒリ語なんだよ!】
謝れって言うから、謝ったんじゃないか。
別に日本語でとは言われていないし。
「ほら、ちゃんと謝っただろ」
「謝ったって・・・。お前、何で効いてないんだ!?」
「効かないって、さっきの目潰し?ちゃんと眩しかったよ」
結構光が強かったしね。
何かの攻撃だったのか?
さっきの光が洗脳?
でも効かない理由が分からない。
「クソッ!こんな事初めてだ!耐性があるのか?」
マジマジと手の中の物を見ている。
何か書いてあるけど、此処からだと字が見えないな。
「ん?石?い、石!?」
【石って事はアレか!魂の欠片か!?】
多分そうだ!
でも、どっちのだか分からない。
せめて見えなかった、あの字が読めれば分かるんだけど。
「もう一度だ!食らえ!」
そんな掛け声出したら、目を閉じてくれと言っているようなものだと思うが。
洗脳が1回目で成功するのが確定なら、初見殺しの光なのかもしれないけど。
魂の欠片の力だとしたら、僕等に効かない理由も分かる気がする。
とりあえず話に乗っておこうか。
「今度はどうだ?」
「何なりとご命令を」
「今度はちゃんと効いたか?よし、僕を褒め称えろ!」
褒め称えろ?
コイツの事なんか何も知らんのに、何を褒めればいいんだよ。
線が細いですね。
顔が蒼白ですね。
病人みたいですね。
うーん、無いな。
「どうした?答えろ!」
「線が細くて顔色悪い。病人みたいですね。」
オイィィィ!!
勝手に喋ってるんじゃないよ!!
【いや、見たまんまを言っただけなんだけど。知らん奴を褒めろとか、馬鹿にしか見えないし】
それは分かってるけど、大人の対応をしないと駄目だって。
ほら、顔真っ赤にしちゃって。
恥ずかしいのか怒ってるのか、どっちか分からないじゃん。
「お前、馬鹿にしてんだろ!」
「そんな事ないですよぉ〜。そんな事思った事、一度もないですよぉ〜」
「貴方、蘭丸じゃないわね!?」
「なんだと!?」
途中から蘭丸とはかけ離れた気もするけど。
今まで気付かなかったって事は、本来アイツもこんな感じなのかな?
普段はスカしてるけど、もっとアホなのかもしれない。
今更ながら、親近感が湧いてきたぞ。
「フッフッフ、バレては仕方ない」
本当は中に入るのが目的だったから、バレても問題無いけど。
長可さんが危険な目に遭ってないなら、尚更だ。
洗脳されているみたいだけど、精神魔法じゃない気がする。
【何でそう思う?】
さっきから契約書が見えないんだよ。
それにこの町全体の人に対して魔法掛けるなんて、相当な手間だし。
「お前は誰だ!」
「お前誰だと聞かれたら、答えてあげるが世の情け。とは思わないので、教えないよーだ!」
【お前、底意地悪いなぁ。また顔真っ赤になってるぞ】
良いんだよ。
コイツなんかムカつくし。
「何でお前にはコレが効かないんだよ!」
欠片を見ながら、愚痴を呟いている。
あ、字が見えた!
え・・・
「その石、使える人がお前しか居なかったのか?」
「教えないよーだ!バーカ!バーカ!」
くっ!
ムカつく!
魂の欠片の持ち主並みの馬鹿のくせに!
【お前、俺の事ディスっただろ!】
当たり前だよ!
英雄って書きたかったんだろうけどさ。
英勇って書いてあって、その後に勇の字にバツ印されてるんだよ?
書き直してるなら未だしも、英ゆうって・・・。
コレ、持ち主が書けないからだよね?
【えっ!?いや、どうだったかな?覚えてないなぁ】
もう自白してるようなものだよ。
コイツも多分、馬鹿なんじゃないかな?
「お前、そこに書いてある字、読めないだろ?」
「字?これは字なのか?」
「英雄って書いてある。お前、英雄って書けるのか?」
「馬鹿にするな!英雄くらい書けるわ!こうやってこう書いて・・・。アレ?ゆうって優しいだっけ?夕暮れの夕?あ、勇者の勇だ!」
これぞ正しく、五十歩百歩。