帝
騎士王国の人って髪が薄い人が多いんだけどさ、帝ってどうなんだろう?
オケツは全くそうじゃないけど、あのトキドやウケフジも薄かった。
騎士が薄いのは分かるけど、帝は騎士じゃないはずなんだよね。
結構気になってるんだけど、オケツに帝ってハゲなの?って聞くと怒られそうだ。
トキド領からキョートまで、凄く早かった。
あのトキド使者は、相手の領主に何を伝えているんだろう?
他領で乱暴狼藉を働かないようになのか、遠巻きに向こうの騎士っぽい人が監視していていたのは気付いた。
近付いてきて喧嘩を売ってきたり、石を投げられたりっていうのは無かったし、僕達がどういう扱いだったのか。
凄く気になった。
僕達はこうやって、キョートまで簡単に着いた。
じゃあ一緒に出たウケフジは?
向こうは別ルートだったけど、やっぱりハッシマーへの伝令も兼ねているから、素通りなのかな?
それとも、トキドみたいにあんまりハッシマーを好いていない人に邪魔をされるのか?
この国、未だに謎が多いんだよね。
羽柴秀吉と柴田勝家。
日本ではかつて、織田信長の意志を継ぐ者を決める戦いでもあった賤ヶ岳の戦いで相対した間柄だ。
賤ヶ岳の戦い以前も、秀吉が勝手に離反したりして揉めたりもしている。
多分、性格的に合わなかったんだろう。
でもそれは、日本の戦国時代の話である。
この世界でも、それが当て嵌まるのだろうか?
「柴田殿、よろしくお願いします」
「こ、こちらこそ!」
オイオイ、何で権六の方が緊張してるんだよ。
普通は秀吉が緊張する立場じゃないのか?
それはさておき、秀吉は越前国を追い出されたりしている。
直接権六が指示をしたわけじゃないけど、それでも思うところはあるんじゃないかな?
「二人とも、特に何も無い?」
「何も無いとは?」
本人を前に言いづらいか。
それとも、特に何とも思っていないか。
ここでわざわざむし返すのも、野暮ってものだろう。
「何でもない。聞かなかった事にしてくれ。それじゃ、攻撃を開始しようか」
「私も一緒に行かせて下さい!」
「オケツ?」
「帝が中に居るかもしれないんです。私なら御所の中にも詳しい。案内が出来ます」
これはオケツの言い分が正しいな。
帝をこっちに引き入れるなら、すぐに帝へたどり着いた方が良い。
下手に時間を掛けていると、帝国に帝の身柄を連れ去られてしまうかもしれないしな。
「権六、オケツを守りながら突入してくれ」
「承知しました」
「帝国兵を抑えるのは、一益とイッシー達に任せる。秀吉と権六、オケツ、僕の四人で、早急に帝を探し出すぞ」
「オゥ!」
「ところでオケツくん。御所はもうボロボロだけど、これ以上壊しても問題無いかね?」
「え?それは・・・」
言い淀むオケツ。
やっぱり駄目なんだろうけど。
「やめろ!御所を破壊するとは。帝国軍めぇ!」
「へ?」
「うわぁ。壁が!御所の壁を壊しやがったあ!帝国軍がやりやがったあ」
僕は街の方へ向かって、大声で叫んだ。
チョイチョイと秀吉に手で合図すると、彼はすぐに意図を理解したらしい。
苦笑いを浮かべながら、秀吉は魔法を唱えた。
「行きます。風の鉄拳」
大きな風の塊か?
空気砲みたいなものが御所の壁に命中して、大きな穴が空いた。
「やめろお。帝国軍めえ」
再び合図を出すと、すぐ隣に同じような穴が空く。
これで複数人で中に突入出来る。
「アンタ、酷いな・・・」
「何が?僕は何もしてないよ。やったのは帝国軍だ。全て帝国軍が悪い。あーゆーおーけー?」
「OK・・・って言っていいのかなぁ?」
オケツは微妙な顔をしているが、既に一益達が突入している。
「コイツ等、大した事ないぞ!」
一益がそう言うと、後ろから続いたタコガマ達も同様の事を言った。
やはり騎士王国の方が、個々人の能力は高いっぽいね。
「よし、乱戦になっているな。今のうちに僕達は、中に入ろう」
権六を先頭に、御所内部へと突入する僕等。
やはり御所の中にも、帝国兵は待ち構えていた。
「オケツ、どっちに行けば良い?」
「普通なら上なんだけど、幽閉するなら下だ」
どうやら地下にも、部屋があるらしい。
「仕方ない。二手に分かれよう。権六とオケツが上へ。僕と秀吉が下に行こう」
「私と魔王様でよろしいのですか?前衛が出来ませんが」
「兄に代わるから問題無い」
「承知しました」
「うおっしゃ!さっさと帝を助けるぞ!オケツ、何かあったらすぐに知らせろよ」
「知らせるってどうやって?」
「大声で叫べば良いんじゃね?」
「私が渡された、コレを使えば良いのでは?」
あ、携帯電話があったか。
地下でも繋がるよな?
俺と権六が持っているから、それで何とかなるか。
「発見したら、携帯電話で知らせるって事で」
「分かった。地下は三階まであるから。帝が幽閉されるなら、地下三階の可能性が高い。そっちは任せたよ」
オケツは権六に指示をしながら、階段を登っていった。
俺達も地下に向かいたいのだが、降りる階段が無い。
「面倒だからぶち破る。秀吉、気を付けろよ」
「へ?」
「必殺、俺のスーパーストンピング!」
地面をおもいきり踏みつけると、大きな音を立てて床が抜けた。
「オヒョオォォ!!」
「うわあぁぁ!!」
クルッと回転、俺十点満点。
あ・・・。
「イタタタ。せめて良いですよって返事をしてから、やってくれませんか?」
「ごめん」
腰をさすりながら、文句を言ってくる秀吉。
やらかしてしまった。
「この辺りだ!」
「うおっ!?集まってきた」
「この!」
秀吉の手から、激流が起こる。
曲がり角から丁度顔を出した帝国兵が、俺達に気付いた。
だが何かを言おうとした瞬間、俺が壊した瓦礫を巻き込んだ激流に飲まれていく。
「時間稼ぎにはなると思います」
「凄いぞ。でも、向こうに階段があったらどうするんだ?」
「・・・魔王様!もう一回ぶち破りましょう!」
水を流しながら言う秀吉。
まあ俺もそっちの方が簡単だから良いけど。
「壊すぞ。良いか?」
「いつでも!」
「抜けろ!」
俺の右足が床を踏み抜くと、その瞬間に秀吉は魔法を止めた。
俺達が落ちながら、水に巻き込まれないように考えているようだ。
地下二階で落ちた先は、どうやら何かの部屋らしい。
真っ暗で何も見えないが、外では走る音が聞こえている。
「この部屋から出るか?」
「そうですね。床を踏み抜いているのも、バレている様子です。ここは無難に、階段で降りた方がよろしいかと」
外の声を聞く限り、俺達が何処を踏み抜いてもいいように、地下三階に戦力を集めているらしい。
逆にこの地下二階は、おかげで手薄になっている。
「まずは、この部屋から出るタイミングを考えよう」
「明かりを照らします」
人差し指に炎を灯す秀吉。
部屋の中には、特に変わった物は何も無い。
机と書棚、ソファーとテーブルにベッドがあるくらいだ。
ここはゲストルームなのかもしれない。
「外が静かになりましたね」
秀吉の声に意識を部屋の外に戻すと、確かに声は部屋の前から遠ざかっていっていた。
出るなら今だろう。
俺は少しだけドアを開けて、外の様子を伺った。
「誰も居ない。行こう」
俺を先頭に辺りを警戒しながら進むと、前の方からガチャガチャと鎧の金属音が聞こえてきた。
通路の角からだ。
このままこっちに来たら、鉢合わせしてしまう。
どうするか一瞬迷ったのだが、その角の手前にドアがあるじゃないか!
「あの部屋に一旦入って、やり過ごそう」
「それがよろしいかと」
向こうが来るより先に、部屋に入らなくては。
俺達は音を立てない程度に走り、ドアノブに手を掛けた。
「アレ?鍵が掛かってる!」
マズイ!
もう金属音はかなり近いぞ。
部屋に入れなくてバレるとか、アホっぽいだろ。
「フン!あ・・・」
ドアノブが取れた。
これ、入れるのか?
少し力を入れてみると、どうやら駄目らしい。
仕方ないので、ドアノブがあった場所もパンチしてみた。
「開いたぞ」
「開いたというより、壊したと言った方が正解ですね」
「い、良いんだよ!」
「いやぁ、壊れてたらバレるでしょう」
う・・・。
確かにその通りだ。
「と、とにかく、入っておこう。駄目なら戦って、ぶっ飛ばせば良いだけだ」
俺達は扉を開けて入ると、部屋の中から指を使ってドアノブを押さえてみた。
見た目はドアノブが、普通に付いているように見える。
「これで良し」
「良くはないでしょう。でもやらないよりはマシですね」
うーむ、秀吉の小言がうるさい。
これなら権六と一緒に行けば良かった。
だが、案外上手くいったらしい。
俺達が部屋に居る事には気付かず、部屋を素通りしていった。
俺、イケてるじゃん!
「ん?」
「どうした?」
「部屋の中から、物音が聞こえたような」
「ちょっと調べてみろ。敵だったら、後ろからやられるからな」
「そうですね」
思い出してみると、部屋の中は普通に照明が点いていた。
誰かが居てもおかしくない。
「ベッドの下とか怪しいんじゃないか?」
「調べてみます」
「俺も調べるよ」
もう素通りされたし、ドアノブを持ってる必要も無いしな。
秀吉がベッドの下や机の下を見ていたので、俺も棚の陰や他の場所を探してみた。
「ここかなぁ?違うなぁ」
「魔王様、何言ってるんですか?」
「うん?昔弟に借りた本に、こんな感じの怖い話があったから」
「怖がらせたら駄目でしょ。敵なら良いですけど、御所の人だったら勘違いされますよ」
「あ、そうか」
それは駄目だなと思い、無言で目の前のクローゼットを開けると、俺はおもいきり鳩尾を蹴り飛ばされた。
「おっふ!」
「何者です!?」
「あら?帝国軍じゃない。アンタ達は誰!?」
「いったぁ・・・メイド?」
俺は腹を押さえつつ見上げると、そこにはメイド服を着た女が立っていた。
この様子だと、帝国の者じゃないだろう。
「俺は傭兵集団雑賀衆の雑賀孫市。オケツの頼みで、帝を助けに来た。お前こそ誰だ?」
「オケツ様の!?」
流石は帝のマブダチ。
このメイドはオケツを知っているらしい。
「それで、お前は誰だ?」
「も、申し訳ありません!私は帝様のお世話をしております、メイドと言います」
「いや、メイドなのは分かるけど。もしかして、名前がメイドなの?」
「ハイ、メイドです」
メイドのメイドさんかよおぉぉ!!
これ、絶対狙ってこの格好させたな。
「メイドさん、帝は何処に居る?」
「分かりません。地下三階に私と一緒に居たのですが、先程急に連れ出されてしまいました。帝は隙を見て逃げ出したのですが、私とははぐれてしまい・・・」
「急に連れ出された?」
「私達のせいかもしれません」
なるほど。
御所を包囲してる間に、帝を連れ出そうとしたのか。
「地下三階には居ない?」
「おそらくは。逃げ出すなら上に向かうはずです」
「ではもう一つ。貴女はこの御所にある、秘密の抜け道のようなものの存在は知っていますか?」
「いえ、知らないです」
帝国兵が大勢待ち受ける、地下三階に行かなくてよくなったのは大きい。
だけど、帝の行方がサッパリ分からなくなってしまった。
そんな時だった。
「音が鳴ってますよ」
携帯が鳴っている。
という事は、上の階で見つかったのか?
「もしもし」
「あ、ちょっと!」
向こうから掛けてきたのに、電話の先で揉めてるな。
何をしているんだ?
「う、うわあぁぁ!!帝が!帝が斬られて死んでしまった!ううぅ・・・。帝国め、許さん!俺の友を殺した奴は、絶対にぶっ殺してやる!」




