キョートへ
自業自得とはよく言うけれど、主君の命を狙って失敗した挙句、自白までしたら助かる余地は無いでしょ。
オジャマダという男は結局トキドに斬られたけど、有力な家臣の割にあまり頭の良い人物ではなかったみたいだ。
日本であれば、小山田という人物になるのだろう。
彼は勝頼を裏切った後に、信長に仕えようとしていた。
その結果、裏切り者として信長の反感を買って、一族郎党全員処刑された。
今でもある地域では、小山田の名前は悪者として扱われるみたいだ。
そんな小山田もといオジャマダ。
もしもの話だが、彼がトキドへの謀反に成功していたら、どうなっていただろうか?
処刑を命令した、信長もといボブハガーも亡くなっている。
オジャマダによる下剋上が成功した場合、ヤヤを筆頭とした家臣達は、オジャマダをどう扱うのだろう?
弱肉強食の世界なら、オジャマダに仕えた?
あまり想像出来ないな。
そんな仮定の話の中でも、今回の話はなかなか興味深い。
信長が死んだ事で生き残った武田勝頼が、秀吉に反攻しようというんだからね。
しかも上杉景勝も、秀吉ではなく武田側に味方をするみたいだし。
さてさて、どうなる事やら。
ハッシマーは結局、騎士王国の全てを掌握したいらしい。
当時の日本と同じようなシステムで構成された、この騎士王国。
天皇の代わりに帝が存在するみたいだが、彼はその帝に無言の圧力をかけ続けているみたいだ。
「まずはキョートに行こう」
「帝に会うんですか?会えないと思いますよ」
ウケフジ曰く、ハッシマーの手の者に軟禁生活を強いられているらしい。
僕達が行ったところで、面会は不可能だという。
だけど、それは逆に好都合だ。
「帝は今の状態をよく思ってないよね?」
「そりゃそうでしょうよ。私もアド家の使いで帝とはよく会いましたが、色々な所に遊びに行きました。半ば強引にキョートに連れて帰られたので、多分怒っているかと」
オケツは帝とは仲が良かったらしい。
歳が近いらしく一緒に遊んだり、彼の帝としての愚痴を聞いたりしていたとの事だ。
そう考えると、ボブハガーは狙ってオケツを帝と接触させたのかも?
仲が良い者の上司なら、無碍には扱えないだろうしね。
ボブハガー、なかなか頭良いなぁ。
「だったら僕達はまず、キョートへ行く。まずは帝を助けるんだ。そうすれば、ハッシマーを倒すという大義名分が手に入る」
「な、なるほど!帝からの勅命という大義名分があれば、私やトキド殿も公に援護出来ます」
「そうか!お前、ガキのくせに頭良いな!」
トキドに頭をガシガシ撫でられた。
ガキ扱いはやめてほしいものだ。
「これでも傭兵の頭領だからね。多少は考える頭も持ってるよ。まあそれよりも、僕にはもっと凄い軍師が居るけどね」
「軍師か。俺達を倒すだけの戦力に、頭脳をも持ち合わせている。お前、傭兵よりも一国の主の方が合うんじゃない?」
「えっ!?いや、まあ・・・。欲張ると身を滅ぼすから」
トキドの奴、鋭い指摘をしやがって。
まさかそんな一国の主たる人物が、ここには多数居るとは思うまい。
でも怖いから、さっさと話を逸らしておこう。
「とにかく!僕達は今から、キョートへ出発する」
「分かった。だったらこっちは、トキドの使者をお前達に付ける。おそらくは無抵抗で抜けられるはずだ」
おそらくか。
それでも抵抗する人物は、居るかもしれないって事ね。
「私は一度、ハッシマー殿に会ってきます。トキド殿が倒されたと、偽の情報を持って」
「二人とも、もう僕達の存在をハッシマーに差し向けてるんでしょ?」
苦笑いする二人。
当たり前の事をしたまでなので、ここで怒るのは筋違いだ。
むしろ僕という存在を二人してハッシマーに教えておけば、二人とも裏切っているなどとは思わないだろう。
「あの時なら誰だってそうするよ。じゃ、今からすぐに行動しよう」
トキドはこの戦場の有り様を、使者に盛りに盛って他の領主に伝えろと言った。
別に盛らなくても大丈夫な気もするけど、彼的には負けたのが悔しいというのもあるんだろう。
せめて激戦だったと、伝えたいんだと思う。
「それじゃ悪いんだけど、皆の事も頼むよ」
「こっちとしては大助かりだ。任せておけ」
僕は官兵衛と話し合い、ここでリタイア組を作った。
要は負傷者は、このトキド領で静養してもらおうという考えだ。
騎士王国の中でオケツに味方する安全な地は、今や存在しない。
トキドには彼等の安全を確保してもらう代わりに、こちらからは治療班を用意した。
それが長秀とハクトだ。
彼等二人を筆頭に治療出来る者を置いていき、トキド兵も一緒に治療をするという約束を交わしたのだ。
そしてここでリタイアする者は、ベティに蘭丸、又左と太田だ。
又左と太田はまだ戦えると言っていたが、無理させて死んでも困る。
蘭丸は火傷が酷く、ベティに至っては精神的にも様子見が必要な状況らしい。
「ベティ殿は、此度の敗戦に酷く落ち込んでおります。もしかしたら、越中国は勢力図が変わるかもしれません」
長秀からの情報では、ベティは相当にまいっていた。
越中国の領主は、最強である事。
負けたベティに周りが納得するか、それが問題みたいだな。
「僕達に口出しする権利は無い。でも、誰が一番強いかは一目瞭然で分かると思う。今回は相手が悪かったんだよ」
長秀もそれには賛同していて、自分でも勝てるとは思えなかったという話だった。
長秀との話はトキドにも聞こえるように言ったからか、彼はとても機嫌が良い。
「うむ。俺が責任を持って、彼等の安全を確保する。それでは行ってこい」
トキドに見送られながら、僕とウケフジは別方向でキョートとオーサコへ向かった。
「本当に早いですね」
官兵衛も驚くスピードで進む僕達。
何が早いのかというと、トキドの使者の交渉だ。
ちなみに僕達は、彼と顔を合わせていない。
ただひたすら進んで、次の領地の手前までやって来ると、向こうの領主とは話が付いているのだ。
おかげで待つ事も無く、安全な道をトライクで進んでいる。
「次の領地が、騎士王国の王都であるキョートみたいです」
「京都か」
中学の修学旅行以来か?
いや、この世界のキョートは別の街なんだよな。
どんな街並みなんだろう?
「え?これが王都?」
「オイラもビックリしてます」
僕が知っている京都は、綺麗に区切られた街並みで住所は覚えやすい。
文化保護の為に古い街並みが残り、新しい建物は景観を壊すといって、特定の場所にしか作られないって街だ。
まあ、そんな情報はどうでも良い。
何より驚いたのは、本当に首都なのかという点だ。
「凄く暗いな。人通りも少ないし、何より荒廃している」
「戦が終わった後みたいな印象ですね。しかし、帝は何処にいらっしゃるんでしょう?」
僕と官兵衛の感想を一通り言い終えると、今まで黙っていたオケツが口を開いた。
何故静かだったのかと疑問に思っていたのだが、答えは単純だ。
「な、何だこれは!僕の知ってるキョートじゃない!」
「そうなのか?」
「キョートはもっと煌びやかで、賑わいのある街です。帝のお膝元というのもあり、警備もしっかりしています。こんな荒れ果てた街じゃなかった」
でもなぁ、所々で建物は壊れているし。
煌びやかとは程遠い。
敢えて例えるなら、世紀末にヒャッハーされた後の街だと思う。
僕達がヒャッハーするような見た目だからか、街と妙にマッチングしているのは困るな。
「帝は何処に居るんだ?もしヒャッハー、間違えた。略奪とか起きた後なら、帝だって無事じゃないだろ」
「馬で先に向かいます!」
オケツは単騎で、明後日の方向へ行ってしまった。
大きな建物は真正面に見えるんだけど。
別の場所に居るのか?
それとも抜け道を通るのかもしれない。
「しかし、本当に人が居る気配が無いですね」
「壊れた建物に残ってるとも思えないしな。そう考えると、皆は何処に消えたんだ?」
「今はとにかく、帝を探しましょう。もしかしたら皆と、避難したのかもしれません」
帝一人が残るとも思えない。
だけど帝一人が逆に逃げ出すのは、可能性としてある話か。
「どちらにしろこの様子だと、ここには居ない気がするけど」
暗い雰囲気を漂わせる街中を歩いていくと、何処からか馬の足音が聞こえてくる。
こっちに向かってきている事から、オケツが戻ってきたのだろう。
案の定、彼が姿を現したのだが、その顔は先程よりも驚愕したものだった。
「御所が!御所が!」
言葉が続かないオケツに水を差し出し、落ち着いたところで話を伺った。
「何があったんだ?」
「ご、御所が荒らされている!」
「そこには誰か居たの?」
「て、帝国兵の姿はあった。だけど、他の者は見当たらない」
ふむ、これは帝は連れ去られたか?
最悪の考えも想定しておかないと駄目かもしれん。
「何だ、貴様等?」
帝国兵の斥候だろう。
大人数でキョートに入ったのだ。
向こうも僕達の存在に、気付かないわけが無い。
「慶次、ぶった斬れ」
「承知したでござる!」
こういう時の慶次は早い。
何も考えずに、数人の男を倒してくれた。
「彼等が戻らなければ、向こうも怪しんでくるはず。その前にこちらから、御所へ攻め込みましょう」
官兵衛の指示に従い、僕達はオケツの案内で御所へ向かった。
「召喚者の姿は?」
「分からない。しかしあの異質な雰囲気を纏った者達は、見当たらなかったな」
外から見た感じでは、召喚者は居ないという。
ならば帝の近くに見張りとして居るか、もしくはキョートには居ないかの二択かな。
「御所を包囲しましょう。こちらの戦力が上回っていると分かれば、彼等も無用な戦いをせずに、明け渡してくるやもしれません」
「なるほど。それで、誰を出すんだ?」
トキド・ウケフジ戦により、かなりの人数が負傷してしまった。
それは力のある者だけでなく、指揮を執れる者も同様だ。
中でも長秀のように、個人戦力も指揮能力もある男が抜けたのは大きい。
ちなみにベティは、あまり指揮能力は高くない。
僕が思うに、鳥人族の短所は個人戦に特化し過ぎている事だと思う。
鳥人族達は種族最強を目指す傾向があるから、仕方ないのかもしれないけど。
今後を考えると、集団戦闘にも慣れてもらわないと困る。
「地上は、滝川様とタコガマ殿達を四方に。空はイッシー殿に鳥人族を率いてもらいます」
「イッシーに?」
なるほど。
考えたなぁ。
集団戦闘が得意なイッシー隊の面々の戦いを、間近で見学させるという意味合いもありそうだ。
僕がそんな事を考えていると、官兵衛はそれを見透かしたらしい。
ニコッと笑って、小声で内緒ですと言ってきた。
「それとお二方にも、今後は働いてもらう事になります」
「承知しております」
「任せておいて下さい」
戦力が大幅にダウンした今、出し惜しみをするのは無理だ。
僕としては、案内役に徹してもらうのとハッシマー戦に残しておきたかった。
キョートの隣は、もうハッシマーが居るオーサコ。
そろそろ彼等にも頑張ってもらおう。
「秀吉、権六。秀吉はハッシマーと縁が深いから、案内に専念してもらう予定だったんだけど。権六もそんなハッシマー戦に戦力を残してもらうつもりだった。だけど、そんな余裕も今は無い。二人とも、悪いが力を貸してくれ」




