ハッシマーへの道
なんかややこしくなってきたぞ。
いや、戦国時代と似たようなものと考えると、あながち普通な出来事なのかな?
死闘を繰り広げた太田とトキドの戦いが終わった直後、見知らぬ男がトキドを狙ってきたのだが、どうやら力を使い切ったトキドを殺す為だったらしい。
明智光秀もそうだったけど、僕の中では大きな裏切りを敢行した人物は、ロクな死に方をしないという印象がある。
信玄だって親父殺しだっけ?
それでもうすぐ天下取れそうってタイミングで、病死だもんな。
ちなみに関ヶ原の戦いの時の小早川秀秋も、謎の病死って意味では似たようなものだった。
戦国時代に裏切りは常にあるのは分かるけど、やるならもう少し実行するタイミングってものがあると思う。
コイツ、どうして雑賀衆とトキドの話がついた時に来たんだろう?
太田とトキドが戦ってる時に、太田の手助けをするみたいな事を言って手を貸せば、それだけで貸しも作れるのにね。
ただ、僕は思ったんだよね。
目を覚ました瞬間に、自白するような男だもの。
コイツ、絶対馬鹿だなって。
寝惚けているのか?
自分で何を言ったのか、分かっていないっぽいな。
トキドの顔色を窺うと、やはりショックは大きかったようだ。
自白しているにも関わらず、彼に叱責を与えようとしない。
「ねぇ、良いの?」
「ハッ!き、貴様!オジャマダ!」
僕の呼び掛けで、ようやく動き出した。
ただし何を言おうか考えてなかったようだ。
あ・・・う・・・のような、呻き声みたいなものを絞り出すのが精一杯らしい。
まあ分からなくも無いんだけどね。
信頼していた奴に裏切られたら、そりゃ怒るか放心するかどっちかだと思う。
僕だって、どうなるか分からないもの。
そうだなあ、又左や太田は無さそうだけど。
例えば佐藤さんやイッシーが急に命を狙ってきたら、僕も同じような反応になるかもしれない。
いや、僕はならないかな。
兄は放心して、その直後に弓矢とか銃弾を食らいそう。
さて、僕の考えは置いといて。
「トキド、お前は部下の裏切りをどう考えるつもりだ?」
「裏切り?あっ!夢じゃない!」
ようやく我に返ったらしいな。
既に自分から全てを話した、オバカである。
今更言い訳をしても無駄だろう。
「ち、違うんです!私の意志ではないんです!」
「そ、そうか」
駄目だコイツ。
身内には甘々裁定を下しそうな勢いだ。
「おい、じゃあ何でトキドを狙ったんだ?自分がワイバーンに乗ってトキドを攻撃しておいて、自分じゃないっておかしいだろ。それとも魔法で操られてたとか、信じられない言い訳でも言うつもりか?」
「そそそそう!魔法で操られていたのです。せ、精神魔法?ほら、そういうので操られていたんですよ」
「へえ、精神魔法ねぇ」
別に精神魔法がマイナーとは言わないけど、使い手は少なかったはず。
何でこんな微妙な男が知っているんだ?
「じゃあ僕が調べてあげよう。僕は精神魔法が使えるからね」
「ハイィィ!?」
ワハハ!
めっちゃ焦ってる。
滝のような汗が顔から出てきたぞ。
「では、精神魔法で調べてみよう。もし今の発言が偽りなら、そうだなぁ・・・二度と口が聞けないようになるってのはどうかな?喋ったら死ぬ的な」
「ほわあぁぁぁ!?」
「さあ、準備は出来たかな?」
喋れなくなる準備だけどね。
今のうちに一生分の言葉を発した方が、良いんじゃない?
「良い!もう良いんだ。俺が全てを決める」
「そう」
チッ!
ちょっとだけ試してみたかったのに。
だけどこれは、トキド達の問題だ。
手出し無用と言われたら、僕達は何も出来ない。
「オジャマダ」
「はい!」
「この場で切腹しろ」
むむ!
なかなか予想外の展開になった。
甘々裁定を下すかと思われたトキドだったのに、そこからいきなり極刑に持っていくとは。
「ま、待って下さい!私は自分の意志ではなく」
「では誰に命令された!」
「そ、それは・・・」
その質問には答えられないのか、言い訳をしていたオジャマダは急に口を紡いだ。
でもこれ、僕の中ではほぼ答えになっている気がするのだが。
トキドにはそれが、まだ分かっていないらしい。
「もう一度聞く。命令したのは誰だ?」
「わ、分かりません。誰だか分からないのです!」
なるほど。
顔を隠した誰かと言えば、確かに誰にやられたのか分からない。
でも、結局は言い訳にしか聞こえない。
トキドは太刀を抜き、オジャマダの首に当てた。
「トキド武士としての死を選ぶか。それとも無様な裏切り者として殺されるか。どちらか選ぶが良い」
「う・・・うわあぁぁ!!アレ?太刀が無い?」
暴れたら困ると思って、先に取っておきました。
今はコルニクスの背中に置いてあるけど、黒い羽に埋もれて見えないと思う。
「そうか。では死ねぃ!」
一刀両断だった。
紅虎の力は使えなくとも、剣の腕が落ちるわけではない。
トキドはオジャマダを真っ二つにすると、無言で彼の遺体を見つめていた。
「センチメンタルになっているところを申し訳ないが、ヤヤだっけ?彼の事もある。このまま進行しながら話をしたい」
「・・・分かった」
トキド達の馬車に乗り、トキド領の端まで乗せてもらえる事になった僕達は、そこでトキドとウケフジとの会談を行なった。
「まず最初に、ヤヤはもう無事だから。気にしないで話に集中してくれ」
「感謝する。時間が無いと言ったな?単刀直入に聞こう。お前達は何故、中央を目指しているのだ?」
「ハッシマー殿を倒す為、らしいですよ」
ウケフジが横から口を挟んだ。
「どうして雑賀衆という傭兵集団が、ハッシマーを狙う?」
「それは私の為です」
「貴様は、たしかオケツと言ったか?」
「停戦協定の時以来ですね」
トキドとオケツはお互いの主君に同行して、アドと先代トキドとの停戦協定の際に顔を合わせていた。
当時はお互いにまだ若く、もの珍しかったので覚えていただけだった。
「ハッシマーはボブハガー様の仇になります。私自身の手で、奴を殺します」
「なるほど。それまでの露払いは、雑賀衆の面々に任せるという事か」
「それとは別に、文句も言いに行く感じかな?」
「文句?」
今度は権六が軽く手を挙げた。
この馬車は特注で大きいのだが、それでも権六のおかげで狭く感じる。
少し申し訳なさそうな権六は、自己紹介を始めた。
「越前国領主の柴田と言います。アド殿とは旧知の仲でした。ハッシマーがアド殿を弑逆した後、あの男は越前国へ侵攻を開始。なので今度は、こちらから殴り込もうかと思いまして」
やはり権六も、多少は思うところがあったらしい。
口調は優しめだけど、殴り込もうとか普段なら言わないと思う。
「アドの為か。ふむ」
トキドは何かを考え始めた。
無言で宙を見つめながら、小声で何かを呟き始めた。
頭の中の整理が終わったようで、急に前を向くと、僕達に質問をしてきた。
「お前達は、ハッシマーに手を貸す帝国軍に勝てるか?」
「帝国軍に?ハッシマー軍じゃなくて?」
「ハッキリ言えば、ハッシマー軍はそこまで脅威ではない。俺達でも勝てると思う。しかし帝国からハッシマーに流れている武器と一部の兵が、とてつもなく強い」
「一部の兵で強いとなると、それは召喚者っぽいね」
そもそもトキド兵を見て、彼等より強い帝国兵なんか見た事は無かった。
一部しか居ないとなると、どう考えても召喚者の存在としか思い浮かばない。
「俺達も間近で見たが、数人はヤバイ雰囲気を持っていた。あの連中を相手にするとなると、負けはしなくとも大きな被害は出ると思っている」
「私も分かる。ハッシマー殿との会合で見た事があるが、アレは私達とは異質な存在だと思う」
異質とは、言い得て妙かもしれない。
騎士王国の連中の能力も変わっているが、召喚者の能力は全く別物だ。
強さは同じくらいかもしれないけど、力の源は全く違うと思う。
「それで、さっきの質問の返答は?」
うーん、答えに困るなぁ。
トキド達のせいで、ベティに蘭丸、又左も負傷した。
帝国がどれだけの戦力を送り込んでいるか分からない今、ハッキリと答えるのは躊躇われる。
【馬鹿野郎!そこは勝つだろ!】
いやいや!
下手な事を言って、またトキドと揉めても面倒だし。
「俺達が勝つ!帝国軍がナンボのもんじゃい!」
へ?
このバカ兄、勝手に喋ってるぅぅ!!
「それは信じて良いんだな?」
「えっと、それは・・・俺達の力は実感しただろ!だったらお前等、自分で判断しろ・・・何言ってくれちゃってんのぉぉ!?」
「ん?一人漫才か?」
兄の鼻息が酷く荒い。
安土を襲った連中が、ハッシマーと一緒に居ると知っているからだろう。
でもね、勝手に話さないでよ!
こっちは慎重に動いているというのに、後々になって何か起きるかもしれないような発言はやめてほしい。
しかし、兄の言葉はトキドを再び考えさせた。
ウケフジも顎に手を当てて、何やら思案している。
そしてトキドは、とんでもない事を言い始めた。
「分かった。俺はお前達に付く事にする」
「トキド殿!それは、私の敵討ちに協力すると?」
「いや、手出しはしない。しかし、誰にも邪魔はさせない」
「それはトキドが他の武将達の牽制役を、買って出てくれるって意味かな?」
「その通りだ」
なるほど。
これはとてもありがたい申し出だ。
【どうしてだ?手を貸してくれないんだろ?】
直接的に手は貸してくれない。
でも誰にも邪魔はさせないというのは、他の武将達の領土を通過するのも、トキドが許可してくれるって意味だと思うんだけど。
【それは助かるな!トキド程強い奴が居なくても、こんな連中が何人も出てきたら、大変だもんな。ハッシマーにたどり着く前に疲弊して、勝てるものも勝てなくなっちまう】
その通り。
だからこそ、この申し出はありがたい!
「だったら僕達は、ハッシマーに最短距離で向かって良いんだね?」
「あぁ。他の領主達は任せろ」
「ウケフジ殿はどうなんですか?」
「私は・・・もう少しハッシマー殿の方に付いておきます」
やはり上杉景勝は、秀吉に恩があるか。
うーむ、再び敵になると面倒なのだが。
「ウケフジ殿!」
良いぞトキド、言ってやってくれ!
と思ったら、どうも勘違いだったらしい。
トキドが何かを言おうとしたら、ウケフジは手でそれを制した。
「私はもう少しと言いました。今はまだ、ハッシマー殿に不信感を与えるべきではない。だからトキド殿のやろうとしている事を、陰から手伝います」
どうやら取り越し苦労だったみたいだ。
ウケフジも今のハッシマーには、少し思うところがあるんだろう。
「ありがとうございます!」
「オケツ殿、礼は要らん。俺は自分の心に従うまでだ」
「ふーん、自分の心っていうのは?」
正直な話、トキドの考えが読めない。
僕達に与して、メリットは何なのだろうか?
「単純な事だ。俺はハッシマーが嫌いなのだ。彼がアドを倒したという事には、オケツ殿には悪いが興味は無い。だがな、それを帝国の将軍という他人にやってもらった事が、気に入らんのだ」
トキドは帝国の介入が、問題だと思っているみたいだね。
まあ元々鎖国していたような国で、そこに他国の将軍を迎え入れてボブハガーを殺させたんだ。
至極真っ当な意見だと思う。
「私はハッシマー殿には悪い感情は持っていないが、やはり帝国を騎士王国に入れたのは間違いだと思っている。だから帝国軍には、早々に騎士王国から撤退していただきたい」
「二人とも、根本は帝国が嫌いって事だね。それでも良いよ。手を貸してくれるなら恩にきる」
「ヤヤの命を救ってもらっただけでなく、オジャマダの件もある。お前達が帝国軍に勝てるなら、お安い御用だ」
しかし、ハッシマーが居る場所って何処なんだろ?
ここからノンストップだと、どれくらいで着くかな?
「トキド殿、ハッシマーは今何処に?首都キョートですか?」
「違う。ハッシマーは帝の権力をも、奪おうとしているようだ。帝の座すキョートの隣であるオーサコに、城があるのは知っているな?あの城に帝国軍を招き入れて、キョートに圧力を掛けているようだ」