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竹林の攻防

 兄の言う通りだった。

 太田もトキドも、自分の新しい力を使いこなせていなかったみたいだ。

 強過ぎる力でも、自分でどのような能力なのかを把握していないと、結果的に自滅に終わる事になる。

 彼等の場合、力を発揮する時間の把握が出来ていなかった。

 二人とも同時期に疲れを見せたので、先にあの姿になっていた太田の方が、少しだけ長くあの姿で居られるんだと思う。


 それにしても、二人とも強かった。

 太田のあの姿のバルディッシュを、緑色の鎧は弾き返していたからね。

 ダメージの蓄積なのか、それとも時間による劣化なのか。

 途中から急に太田に壊されたけど、自分の力を制御出来ていたなら、もっと苦戦したんじゃないかな。

 例えば足を止めて打ち合っていた時は、風林火山の風なんか必要無いわけだし。

 だったらそれを鎧の強化に使っていたなら、太田の疲労が先に溜まって、トキドの方が優勢になってた気がする。

 まあ終わったから、言える事なんだけどね。


 そんな二人も、引き分けという形で決着はついた。

 だけど、誰が乗っているのか分からないワイバーンに、太田はトキドを庇ってやられてしまった。

 久しぶりの音魔法で、襲った男の動きは封じた。

 さて、何を目的にトキドを狙ったのやら。

 騎士王国の内部でも、色々起こっているのかもしれないな。






 太田とトキドの戦いが終結へ向かった頃、同じく炎を宿していた男も、終わりへと近付いていた。



「何だ?コイツ、急に力が衰えたぞ」


「蘭丸、油断するなよ。弱くなったと見せかけただけかもしれん」


「確かにな。二代に渡って主君に仕えるとか、百戦錬磨の武将だもんな」



 蘭丸と水嶋の二人は、トキドの副将ヤヤとの戦いの最中だった。

 二人は太田と違い、炎の耐性があるわけではない。

 太田のように接近戦をすれば、たちまち大火傷を負っていただろう。


 蘭丸は槍を使っていたので、少しは炎にやられていたが、致命傷にはなっていない。

 水嶋は特に影響は無かったが、それでもヤヤが放つ熱には精神を消耗させられていた。



 対してヤヤは、序盤から攻勢を続けていた。

 トキドと違い、多彩な技を持つヤヤ。

 剣の腕や能力の強さではトキドには敵わないものの、炎を使った攻撃はトキドよりも多く持っていた。


 その中でも炎の刃を飛ばす技や、自分の身体に炎を纏わせて、接近戦だけでなく遠距離攻撃も防ぐ炎の鎧など、色々な技で応戦。

 蘭丸の弓も水嶋の銃も、炎が纏っている場所に当たっても全て蒸発してしまっていた。



 だが、転機が訪れた。

 蘭丸達の背後で炎の柱が更に大きくなると、急にヤヤが力が増したのだ。

 赤彪の力は、トキドが強くなればなるほど発揮されるとヤヤは言った。


 トキドが本気になったのだろう。

 蘭丸達の考えは当たっていたのだが、それは予想以上の強さだった。

 あまりの熱に蘭丸の弓の弦は焼き切れ、水嶋の銃も熱で真っ直ぐには飛ばなくなったのだ。



 蘭丸の弓の弦は、若狭国の植物から作られた物だ。

 特殊というわけではないが、張りも良くそれなりの強さを持っていて、今までは劣化以外で切れた事は無かった。

 熱による急激な温度変化に、弦は耐えられなかったらしい。

 蘭丸は遠距離からの攻撃を諦めて、槍による攻防に徹した。


 そして水嶋の弾も同じく、熱による空気の変化で真っ直ぐ飛んでいかないようだった。

 ただし彼の場合、真っ直ぐ飛ばなくても目標を追い掛けて必ず当たる。

 その為熱による空気抵抗など気にする事も無いと思っていたのだが、当の本人から言わせるとそうでもないらしい。

 弾が曲がっても、狙った場所に当たらなければ意味が無い。

 結局水嶋の攻撃も、致命傷になり得るような事にはなり得なかった。



「アツッ!まさかこんな距離まで熱が来るとは」


「大丈夫か?左手が黒くなっているぞ」


 予想以上に強いヤヤの熱に、蘭丸の左手は何度も火傷を負っていた。

 炭化してきている左手を庇いつつ、水嶋を守る為に前衛で防御に徹する蘭丸。

 水嶋はそれが分かっているからこそ、相手を確実に仕留められる機会を待った。



「その左手では、もう時間の問題だな。トキドに仇なす愚か者共よ、正義の炎が全ての罪を飲み込んでやる。死ね!」


 ヤヤの炎の色が、赤から黄色へと変化していく。

 その熱は蘭丸はおろか水嶋さえ怯むほど、圧倒的な熱量だった。



「彪を通した我が主の力、思い知るが良い!」


「蘭丸!逃げるぞ!」


「無理だ。今の炎で足に火傷を負って、走る事は出来ない。ジジイ、お前だけでも逃げろ」


 蘭丸の右足の太ももが露わになり、焼け爛れている。

 さっきより距離はあったのだが、炎の温度が上がった影響が出たようだ。

 水嶋は一瞬だけ考えると、銃を放り投げて蘭丸を背負った。



「クソがぁぁ!!」


「ジジイ!お前まで巻き込まれるぞ!」


「馬鹿か!?若い奴を残してジジイが生き残っても、意味が無いだろ。だからお前は何が何でも生かす」


「ジジイの自分を、犠牲にしてもって言いたいのか?」


「馬鹿言うな。俺はまだ若い。気持ちだけなら二十代だ」


「アハハハ!」


 齢八十を軽く過ぎている水嶋のその言葉は、蘭丸のツボに入った。

 笑う事で痛みが和らぐのなら、それで良い。

 水嶋は普段なら、自分の事を笑われれば普通に怒っていた。

 今回ばかりはそれを笑って許し、水嶋は竹林へと走り出した。



「林に入って何になる!?お前等、林ごと燃え尽きろ!」


 竹林に逃げ込んだ二人に対し、ヤヤは放射状に炎を刀から吐き出した。

 竹林が一瞬で燃え尽きていく。

 放射状の端の部分だけ、微かに炭になって残っていたくらいだった。



「死んだか」






 水嶋は竹林へ逃げ込んだものの、特に理由は無かった。

 自分が森で生活していたから、竹林の中に入れば何か良い案が浮かぶかと思ったくらいの浅い考えだった。

 しかし、それが功を奏した。



「爺さん!左へ行け!」


「左?」


 走りながら左を見ると、そこには見知った顔が二人居たのだ。



「水嶋さん?蘭丸くん!?」


「今すぐトライクを飛ばせ!」


 重傷を負った蘭丸を背負って、水嶋が走ってきた。

 その焦り具合は、尋常ではないというくらいしか分からなかった。



「ハクト、乗れ。お前達もだ」


「は、はい!」


 又左が運転席に跨ると、ハクトは水嶋へと手を伸ばして、三人は後部座席に飛び乗った。

 又左は上昇しようとしたが、やはり重くて簡単には上がらない。



「このトライク、とにかく重いんですよ!」


「誰のトライクか知らないけど、速度は出ませんよ」


 ハクトと蘭丸が後ろから言うと、又左はある事に気付いた。



「このトライク、私のだな」


「え?」


「コバ殿が私専用に改造した物だ。えーと、ここをこうすると・・・パージとか言ったかな?」


 トライクの前方と両サイドに装着されていたアーマーが、トライクから落ちた。

 途端に急上昇するトライク。



「ぬおっ!」


 いつものように上昇しようとしていた又左は、軽量化されたトライクの勢いに驚いていた。

 上昇した途端に、竹林が炎に飲み込まれていく。



「か、間一髪だった・・・」


「何だこれは!?」


 炎を見て再び驚く又左。

 蘭丸と水嶋は、悔しそうな声で説明を始めた。



「ヤヤ・トコナツという、トキドの副官です。二人で挑んだんですけど、考えが甘かった・・・」


「俺達のような、召喚者とか転生者みたいな者とは違う。ヒト族と呼ばれる者で、ここまで強い奴が居るなんて想像もしていなかった」


「ふむ。相手にとって不足無し。蘭丸、槍を寄越せ」


「ま、前田様!?」


 アクセルを握っている又左は、地上を見てやる気満々になっていた。

 自分の槍は無いが、蘭丸の槍で代用出来る。

 又左は軽く肩を回すと、この程度の傷なら戦えると言った。



「無茶だ!俺達二人で敵わなかったのだぞ!?」


「それでも私は勝つ。何故なら、私は魔王様の右腕だからな」


「理由になってませんよ。でも、どうせ言っても聞かないでしょう。だから僕達が、空から援護します」


「駄目だ。お前達は負傷した蘭丸を送っていきなさい。分かるだろ?」


 蘭丸の火傷は、普通であれば生死に関わるレベルだった。

 本人が槍を使いながら水魔法で軽減していたのが、幸いだった。

 今は意識はある状態だが、緊張した空気がそうさせているだけで、いつ意識を失ってもおかしくない。



「今のうちに応急処置の回復魔法を。蘭丸がある程度回復したら、ハクト、お前が運転を代われ」


「わ、分かりました」



 蘭丸の左手と太ももをある程度回復させたハクト。

 又左はそのまま、蘭丸の槍を持って地上へ飛び降りた。

 慌ててアクセルを握るハクトは、落ちていく又左に言った。



「死んじゃ駄目ですよ!」


「私は死なん!」







 あの炎で生き残るはずがない。

 ヤヤは刀を納めると、竹林の方へと近付いていった。



「おかしい。武器すら残らないのか?」


 まだ竹林の燃え残りで、暑さが残る一帯。

 竹林の手前まで来たヤヤは、再び抜刀した。



「何奴!?」


「フハハハ!前田又左衛門利家、参る!」


 落下しながら槍を叩きつける又左。

 ヤヤはそれを受け流すと、返す刀で又左の腹を狙う。

 しかし又左も、石突きでヤヤの腹を狙っていた。

 ヤヤはそれに気付き、すぐに後ろへ距離を取った。



「綺麗に受け流すか!?流石は副官殿、やるな」


「それはこっちのセリフだ」


 槍の腕前なら、間違いなく蘭丸より上。

 一瞬の攻防ですぐに気付いたヤヤは、再び炎を纏い始めた。

 それを見た又左も、ヤヤから大きく距離を取った。



「それが蘭丸達を苦しめた炎か」


「赤彪という。死ぬ前にその頭に刻んでおけ」


「私は死なんよ!」


 槍を構えたと思ったら、猛烈な勢いで突進を始めた又左。

 ヤヤは一直線に向かってくる又左に対し、炎の刃を飛ばして牽制を始める。

 それを軽く避けた又左は、炎の刃が当たった地面を一瞬確認した。



「なるほど。飛んでくる刃か。しかも炎を纏っていて、火傷も一緒に負う感じか?」


「初見ですぐに分かるとは。だが!」


 ヤヤは刃を連撃で繰り出した。

 一瞬で五本もの刃を出すと、ヤヤは又左にダメージを与えたと確信する。

 だが、又左はそれを軽々と避けた。



「馬鹿な!?どうして避けられた!」


「馬鹿?お前は自分で、今のが避けられないと思うのか?」


「・・・」


 お前なら出来るのかと叫びたくなったヤヤだが、実際に避けられている。

 その自信から、まぐれではないというのは分かっていた。



「そうか。だったら説明してやる。その刃は真っ直ぐにしか飛んでこなかった。ならばお前の太刀筋を見れば、何処にどういう角度で飛んでくるか、予想は出来るだろう?」


「・・・バケモノめ」


 一瞬で五回も振った太刀筋を、全て一度で見切れるか?

 ヤヤは初めて冷や汗をかいた。



 仕切り直しで構えるヤヤだったが、ここに来て異変が起きた。



「うぅ!ま、まさか!?」


「何だ?」


 ヤヤの身体に浮かび上がっていた縞模様が、一気に消えていった。

 目を凝らすと薄らと残る縞模様だが、ほとんど気付く者は居ないだろう。



「お、お館様の身に何か起きたのか!?」


「お館様?あぁ、トキド殿の事だな。あっちには太田殿と、我が主ま・・・ごいち様がいらっしゃる。何が起きていても不思議ではない」


 魔王と言いそうになるのを堪えた又左だが、ヤヤは又左の言葉など聞いていない。

 それが分かった又左は、ムッとした表情でヤヤに問い掛けた。



「さっきの力はどうした?」






「もう使えん。赤彪はお館様の力が源なのだ。だが、トキドの炎が無くとも貴様などには負けん!このヤヤ・トコナツの力、炎だけと思うなよ!」

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