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牛と虎

 イッシーは行ってしまったけど、僕はどうするかな。

 トキドの副官だと思しき男。

 トキドと同様に炎を操るみたいだけど、蘭丸達三人ならどうにかならないかな?

 イッシーはかなりの警戒をしていたけど、それってどう取って良いか迷うんだよね。

 単純に相手が強いから言っているのか。

 それとも蘭丸達の力を、過小評価しているのか。


 イッシーって自分の部隊をまとめ上げて、しかもその部隊の人達から凄い信頼されてるのは分かるんだ。

 元安土増毛協会の連中だけじゃなく、安土襲撃後に加わった人達ですらイッシーを信頼している。

 それは凄い事だと思う。

 でもね、自分の部隊の人達以外とは、あんまり率先して関わったりしてない気がするんだよね。

 鳥人族との共闘も、鳥人族のサポートに徹するような動きだった。

 でもそれって悪く考えると、ダメージを負う役を鳥人族に任せて、後ろから斬ってるとも取れる。

 今のは悪く考えた場合だけど、それを抜きにしてももう少し、自分の部隊以外の連中とも上手く信頼が築けないかなと思ってしまった。


 蘭丸達を助けに行ったのは、イッシーのみ。

 自分の部隊以外の人間との共闘はどうだったのか、後で聞いてみようと思う。






 ハクトに言われたものの、自分の目を自分で確認は出来ない。

 又左がどうにか確認出来ないかとアタフタしていると、ハクトは土魔法で軽く円形に土手を盛り上げて、中に水魔法で水を張った。

 覗き込むと、水面が鏡のように映っている。

 又左は自分の目を確認した。



「な、何じゃこりゃ!?まるで獣じゃないか!」


「言われてみると、そんな感じですね。虎も前田様の目を見て、恐ろしくなって逃げたんじゃないですか?」


「そんな馬鹿な。あーでも、実際逃げ出しなぁ。そうなのかもしれん」


 ハクトは冗談っぽく言ったつもりが、又左も同意してきた。

 なのでハクトは、感じたままを伝えてみた。



「それに今の状態をご自分で分かっておられないみたいですが、殺気がダダ漏れです。僕が怖かったのは、その殺気が自分に向けられている気がしたからです」


「何と!?怖がらせてしまって、すまないな!」


 又左は引っ込めー引っ込めーと自分で呟きながら、目を閉じて集中した。

 段々と元の状態に戻っていくと、又左の目もいつもと同じように戻っていた。



「静かだな」


「全方向に発せられた殺気で、鳥も逃げてましたから。もしかしたらこの辺り一帯、何も居ないかもしれないですね」


「そ、そうか。気を付けよう」



 自分の身に何が起きたのか分からない。

 しかし、生き残った事は確かだった。



「それと、林の外では蘭丸くんと水嶋さんが、ヤヤという副官の人と戦ってます」


「何ぃ!俺も、いや私もソイツと戦いたかった。まだ間に合うかもしれん。林を抜けるぞ!」


「駄目ですよ!肩の治療はまだ終わってないんですから。それに武器も無いじゃないですか!」


「あ・・・」


 曲がった槍を見て、今のままでは戦力外だと気付いた。

 それに肩も出血は止まったが、抉れた爪の跡は残っている。

 軽く腕を上げると、小さな痛みが走った。



「むう、今回は戦力になりそうも無い。ならば、蘭丸の戦う勇姿だけでも見に行こう」


「絶対に見物だけですからね」


「あぁ。私は慶次とは違うぞ」


 戦闘狂の弟とは違う。

 そう言い切った又左だったが、ハクトの中では五十歩百歩だと思っていた。







 太田が吠えた。

 トキドはその迫力に一歩二歩下がると、自分自身に気合を入れ直した。



「俺は騎士王国最強の騎士、トキドだぁ!」


 身体から大きな炎が巻き上がると、それは空まで届く炎の柱となった。



「ぬおっ!?こんな所まで届くのか!凄いな」


「魔王様、あの牛ヤバくないっすか?死んじゃうんじゃないっすか?」


 不吉な事を言うコルニクスの頭を、ゲンコツで殴りつける。

 ちょっと痛い。



「何するんすか!?」


「味方を信じないお前が悪い。それに太田は、安土で一番タフだからな。炎くらいじゃ死にはしないよ」


 多分だけど。

 空まで届く炎に、太田が堪えられるかは少し疑問が残る。

 でも、今の暴走してるのかしてないのか分からない太田なら、負ける姿が想像出来ないんだよね。



「だったら援護しに行くんすか?」


「とりあえず様子見だな。太田が殻を破るかもしれない。負けそうになったら出ていこう」


「了解っす」



 イッシーとの約束は、破る事になるかもしれない。

 でも暴走してるかもしれない太田の近くに行って、挟み撃ちなんて話になったら、流石に僕でも無傷での対処は難しい。

 トキドは良いとしても、太田にも大怪我を負わせかねないしね。

 だったら様子見に徹して、太田の状況を見極めてから動こうじゃないの。



【それ、お前が怖いだけじゃないの?】


 ギクッ!

 さ、さて何の事かなぁ?



【だってお前、以前太田の暴走を止められなかったじゃん】


 そうね。

 確かにあの頃は、どうすれば良いか分からなかったね。

 今なら大丈夫だけどね!



【ふーん、じゃあ暴走してても交代はしないという方向で】


 え?

 そこは交代しときましょうよ。

 太田の為にも、兄さんがやるべきでしょうよ。



【本音が出たな。とは言っても、俺も太田が無駄に傷付くのは嫌だし。暴走してたら、交代しよう】


 そうだよ!

 やはり配下は大事にしなくては。



 助かった・・・。

 正直なところ、昔より強くなってる太田を止めるなんて難しいんだよ。

 怪我をさせる事を前提にすれば出来るとは思うけど、無傷でとなると兄さんみたいにはいかない。

 やっぱりこういうのは、僕の仕事じゃないと思う。



 しかし、太田はこの炎にどうやって対応するつもりなんだ?



「この牛がぁ!」


 トキドは刀に炎を纏って振ると、炎の刃が太田へと飛んでいった。

 太田はそれを避けようともしない。

 流石に初見で食らうには、ちょっと危ない気がするのだが。



「ワタクシは牛ではありませんよ」


「何だと!?」


 太田はバルディッシュを横に振ると、炎の刃を弾き飛ばした。

 バルディッシュには少し、火が纏わり付いている。



「フゥ、お待たせしました」


「お前、最初より小さくなっていないか?」


 トキドは目の錯覚かと、マジマジと太田を見た。

 何故そう思ったかというと、バルディッシュの方が太田よりも大きいからだ。

 武器が大きくなったのか、太田が小さくなったのか。

 トキドには分からなかった。



「密度という言葉を知っていますか?今のワタクシは、自分の力をいつもより凝縮して内包しています。だから」


 太田が急に走り出した。

 いつもとは全く違う動きだ。



「は、速い!さっきとはまるで別人だ!」


「速さだけではないですよ」


 身体より大きなバルディッシュを、軽々と振り下ろす。

 トキドは慌てて太刀で受け止めた。



「ぐっ!重い!」


「このまま圧し潰してしまいましょうか」


「ナメるな!」


 トキドの身体が緑色に光った。

 本人ではなく、鎧が光っているようだ。



「動かざること山の如し。俺の身体は、山と同様だと思え」


 どうやら守備重視の鎧になったらしい。

 空から見てると、赤になったり緑になったりで、信号みたいに思える。



「そうですか。丁度良いですね。ワタクシ、自分の本気を試したかったんです」


「何を言っている?まさか、今まで本気で戦っていなかったと?」


「走った時は本気ですよ。どちらにしろ、ベティ殿や佐藤殿と比べると遅いですけど。でも、力はまだ半分くらいですね」


「馬鹿を言うな!さっきだって・・・」


 落ちた国江を見るトキド。

 彼はあの力が半分だとは、信じられない様子だ。



「ワイバーンくらいなら余裕でしょう。そうですねぇ、力比べをして負けるかもしれないのは、柴田殿くらいかと」


「し、柴田!?誰だ!いや、東に住んでいる魔族に、そんな名前の者が居たような」


「知ってるんじゃないですか。あの方が本気になったら、ワタクシもかなり危ない気がします」


 太田はいつもなら、少しとかちょっととか言う事が多い。

 でも今回は、珍しくかなりと言った。

 権六の本気は僕も見た事が無い。

 それでも太田は、相当強いと感じ取っているようだ。


 でもトキドを前にした太田は、そこまでの焦燥感は見当たらないな。

 という事は、トキドには勝てると確信してるのか?



「お前は危険だ。雑賀衆と言ったな。悪いがここからは本気で行かせてもらう」


「どうぞ。ワタクシとしても、自分の力を試す良い機会です。よろしくお願いします」


 馬鹿にしているわけではないと思う。

 だけど、その言い方は明らかに相手を煽っていた。

 現にトキドの炎は、更に大きく燃え上がっているしね。



「ほざけ!紅虎は牙だけにあらず。解放、風林火山!」


「ま、眩しい!」


「これは一体?」


 トキドの身体から、四色の光が輝き出した。

 赤青黄緑の光が混ざり合い、それがトキドへ収縮していく。

 さっきまで僕等の目の前まで上がっていた炎の柱も、今は無くなっている。

 何が起きたんだ?



「お、おぉ!」


 太田が驚いてるけど、僕にはよく分からない。



【トキドの奴、太田と同じ状態になったんじゃないか?】


 同じ状態?

 それって、トキドも力を身体に凝縮したって事?



【勘だけどな】


 兄の勘は馬鹿には出来ない。

 太田と同じ状態になっているなら、もしかして力の差も無くなった?



「どうだ?俺の最終形態、風林火山だ。俺がこの姿になったのは、お前が初めてになる」


「初めてですと?ワタクシの為にそのような姿になっていただき、ありがとうございます。厚く御礼申し上げます」



 トキドの最終形態だという風林火山。

 どういう力があるのかは分からないが、見た目はハッキリと変わった。

 鎧は緑色になり、太刀は燃えるような赤い刀身になっている。

 足は青くなっているが、もう一つの黄色は見当たらない。

 四色だったはずなんだけどなぁ。



「ま、まあ良い。その余裕もすぐに無くなる。お前の命はあと僅かだからな」


「そうですか。ではそろそろ言葉ではなく、身体で教えていただけますかな」


「クッ!後悔するなよ!」


 無自覚って怖いわ。

 怒らせる天才なのかね?



 なんて思っていたのだが、頭は冷静だったらしい。

 まさか何も言わずに、いきなり動くとは思わなかった。

 僕は上空から見ていたのでたまたま見えたのだが、相当速くなっている。

 おそらくは、本気の佐藤さんと同等の速さだろう。

 ステップを踏んで惑わすような動きじゃない分、まだ見えるかなというのが、僕の感想だ。

 ただし目の前で対峙する者からしたら、ビックリする速さだとは思うけどね。



「なんですと!?」


「遅い!」


 トキドは低い姿勢から、太刀を下から斬りあげる。

 一瞬見失った太田は、のけぞるように後方へ下がった。

 避けられる事を知っていたのか、トキドはそのまま追撃の態勢に入っている。



「な!ん!と!速いですな!」


 驚く太田だけど、それをギリギリで避けていた。

 今までなら食らうのが当たり前だったのに、太田は躱している。

 僕からしたら、それだけでも目を見張るものがあった。



「フゥ、やはり強いな」


「ワタクシも同じ気持ちですよ。ワイバーン程ではないにしろ、ワタクシが知る限りでは三本の指に入る速さです」


 ベティ、佐藤さん、トキドかな?

 どちらにしろ人外の速さだと思う。



「疾きこと風の如し。お前のような強者に三本の指に入ると言われたのは、誇るべきなのだろうな。だが!」


「むっ!アチチチ!熱いです!」


 トキドの刀を受け止めた太田は、一瞬で汗がビッショリになっている。






「侵略すること火の如し。我が剣を受け止められるのは分かっていた。だがな、受け止められてもその熱で体力を奪う事は出来る。俺の風と火に、お前は何処まで耐えられるかな?」

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