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動かない牛

 太田の強さは元々知っていたつもりだった。

 でも、最近はあんまり活躍する機会が無かったのも確かだ。

 正直なところ、権六とキャラが被ってるかなぁなんて思ってたしね。

 ただ、太田が他の人と圧倒的に違うのは、あのタフさだ。

 どんなに斬られても叩かれても、立っていられるあの頑丈さ。

 個人的には搦手で、窒息させたり溺れさせたりするのが一番手っ取り早いと思うくらいだ。


 そんな太田が、ベティをものともしないで倒したトキドとやり合っていた。

 こう言ってはいけないのだろうけど、あんまり期待してなかったのよね。

 だって絶対追いつけないと思ってたから。

 それなのに、自らの腕を犠牲にして捕まえるとは。

 というより、犠牲にもしていなかったと思うけど。

 意外と考えていて、やるじゃないかと感心してしまったよ。


 そんな太田が、空から落ちてきたのは見ていた。

 最初は大きなワイバーンと組み合っていたんだけど、何故かワイバーンを担ぎ始めた時は、何がしたいのかと疑問に思ってしまった。

 しかもあのポーズ、某筋肉超人の必殺技みたいに見えたんだよね。

 何とかバスターでもやりたかったのかと思ったら、正反対の救う為のものだとは。

 でも、何でワイバーンを助けたんだろう?







 太田の身体には、擦り傷や切り傷くらいしか見当たらない。

 それも大半は、空でのトキドにやられた傷がほとんどだ。

 ハッキリ言ってしまえば、空から落ちてきた事によるダメージは皆無という事だった。



「無傷と言いますがね。少しは足が痺れていますよ」


「あんな高さから落ちてきて、痺れる程度で済むのがおかしいわ!何をどうしたら、そんな程度で済むというのか!」


「それは気合です」


 ケロッとした顔で言われた、たった一言。

 トキドは開いた口が塞がらない。

 そして別次元のタフさを見た事で、トキドに焦りが生まれてきたのだった。



「ワイバーンは倒れました。生かしてはいますが、この戦いが終わるまでは起きる事は無いでしょう」


「だが、勝負が終わったわけではない」


「そうですか?ワイバーンが倒れた今、あのような速さで移動も不可能。貴方に勝ち目があると思えませんが」



 太田の言葉は、大半の者達が感じていた事だった。

 国江のスピードとその身体を活かした攻撃が、トキドの強さだと思っていたからだ。

 だが太田は気付いていなかった。

 彼にも他の者のように、何かを宿す力があるという事を。


 そして彼は、太田の言葉に対して何かを話し始めた。



「父と比べ俺は弱いなどと言われているようだが、ナメるなよ。騎士王国最強を誇ると言われるトキド家の力、その身で味わうが良い!宿れ、紅虎!」


 トキドが叫ぶと、太田は目に飛び込んできた光を間近で見てしまった。

 一瞬視界が真っ白になるかと思われたが、そうではなかった。

 視界が真っ赤に変わったのだ。


 トキドは真っ赤な光を放つと、今まで着ていた赤い鎧よりも更に深い赤に着色され、鎧の形は変わっていた。

 武器も太刀から変更され、三又の槍へと変わっている。



「トキド・カズナリ、参る」


 一瞬で太田の前まで詰めるトキド。

 そのスピードは国江と遜色は無い。



「ぬああぁぁ!」


 三又の槍を神速の速さで突く。

 それへ太田の肩や喉、心臓などという急所だけを的確に狙っていた。



「ど、どうだ!」


 微動だにしない太田。

 槍で突かれた場所は、確かに出血していた。

 トキドの攻撃が効いている証拠だった。

 彼はその血を見て、自分が押していると確信した。



「だらららら!どおりゃあぁぁ!!」


 国江のように掴まれれば、自分でも無傷では済まない。

 それが分かっているトキドは、太田の周りを縦横無尽に動いている。

 隙を見て、一方的に槍を突くトキド。


 全く自分の動きに、ついてこれていない。

 太田の腕を注視しながら動き回るも、彼は動かない。

 だったら大技で出ても、問題無いだろう。

 トキドは背後を取り、大振りで太田の腹を薙いだ。

 真っ二つにする勢いで振った槍は、彼の中で手応えを感じていた。



 だが、反撃してこない事で調子に乗った彼は、太田のある異変を見落としていた。



「どうしたぁ!?諦めたのか!?」


 少し息を整えよう。

 太田に捕まらないように離れた場所で止まったトキドは、何も反応しない太田を今度はハッキリと観察した。

 すると、彼の息が荒くなっているのが分かった。

 出血やダメージによるものだろうと考えていたトキドだが、肩で息をしている太田の異変にようやく気付いた。



「お前、身体が大きくなっていないか?」


「ヒィ、ヒィ、フゥ!ハァァァ・・・」


 呼吸を整える為なのか。

 トキドの問いを無視する太田。



「お、お前!身体が!」


 大きくなったかと思えば、小さくなる。

 しかし肌の色が、段々と赤くなってきている。

 俯いていたせいで、太田の顔は全く見えない。

 気になったトキドは、恐る恐るしゃがみ込み、攻撃を受けないよう警戒しながら彼の顔を見た。



「ヒッ!」


 今まで出した事の無いような声を挙げたトキド。

 それは彼の目が、真っ赤に光っているからだった。

 その赤い瞳を見たトキドは、自分が何か間違えたのではと一瞬頭をよぎった。

 自分が怖気付いたと分かり、押しているのは自分だと自分自身に憤った。



「俺が勝つ!」


 再び太田に攻撃をしようとしたその時。

 太田が俯いた顔を上げて、大きく吠えた。



「ブモオォォォ!!」







 太田の声は、空にも地上にも響いた。

 空で戦っている者は、敵味方問わずその声に動きを止め、下を見る。

 地上に居た者達も敵味方問わず、その声にある者は震え、ある者は泣き出した。



「お、太田がまた暴走するのか!?」


「身体が大きくなった様子はありません。おそらくは違うかと」


 官兵衛もおそらくという言葉を口にしたが、自信は無いらしい。

 額から流れる汗は、この後どうなるのか予測不能だという事を表していた。



「ぼ、暴走って何だ?」


「太田は血を流し過ぎると、身体が大きくなってめちゃくちゃ強くなる。その代わり、ダメージの限界が来ると魔力が暴走して自爆するらしい」


「らしい?」


「自爆してたら、太田は生きていないんだ!僕にだって、分かるわけないだろ!」


「そ、そうか」


 魔王と軍師が、自信無さげに話しているのを聞いたオケツは、その事の異常さにようやく気付いた。

 そして、魔族に頼ったのは正解だったのかという疑問も今更頭を過ぎる。

 だが今更だ。

 オケツはこう言った。



「暴走は確定ではないんだよね?だったら信じよう。彼は暴走していないって」


「そりゃそうだ」


 魔王にそう口にしたが、半分は自分に言い聞かせる為だった。



「ん?」


「どうした?」


「いや、ちょっと」


 暴走の危険もある異常事態になった現在、オケツは魔王のちょっとした動きにも敏感になっていた。

 その魔王が何かに反応した。

 そして彼は、予想外の事を言われてしまう。



「すまん。一旦自分の身体に戻るわ」


「は?」


「兄さんからの、エマージェンシーコールってヤツだね。長谷部も居るけど、何かあったら自分の身は自分で守ってくれ」


「え?ちょっと?」


 人形は脱力したように崩れ落ちた。



「どういう意味?」






【おぉ!すまんな。地上がひと段落したのは、ここから見てても分かったからさ】


「んで、何で呼んできたの?」


【俺が動こうとすると、すぐに動きを封じようと周りの騎士が動くんだよ。コルニクスが少し翼を動かしただけで、炎は吐かれる。俺が石とか投げても、剣で弾くんだよ。コイツ等、結構反応良いぞ】


「身動き出来ない中、僕は何をしろっていうんだ?」


【魔法でこの包囲網の何処かに、穴を空けてくれ。魔法だったら、予備動作も何も無いだろ?】


 なるほど。

 無詠唱の魔法なら、敵に気付かれる事無く攻撃出来る。

 今までこの身体で魔法なんか使ってなかったし、向こうからしても虚を突かれて慌てるかもしれない。



 どうせやるなら全方向。

 特に僕の身体を注意深く見ているなら、尚更好都合。



「コルニクス、目を閉じろ」


「ハイっす〜」


「フラッシュ!」







「馬鹿な!?国江が落ちていく!」


 ヤヤは巨大なワイバーンが落下していくのを見て、驚愕していた。

 その隙を見逃さない蘭丸と水嶋だが、ヤヤもそれは予想済みである。

 ワイバーンを操り、銃弾も弓矢も全て弾いていた。



「太田殿、凄いな。アレで平気で居られるのか?」


 水嶋は太田が、巨大なワイバーンと一緒に落下していくのをチラッと見ていた。

 しかし蘭丸とハクトには、慌てる様子は無い。



「太田さんなら大丈夫。僕達は旅の最初から一緒に居るけど、あの人は凄く頑丈だから」


「だな。俺達なら大怪我かもしれないけど、あの人ならケロッと立ち上がるぜ」


「ケロッと立ち上がるって。そういうものなのか?」


 味方でも半信半疑の行動だが、敵は尚更心穏やかでは居られない。

 ヤヤは一緒に落ちていくトキドを助けようと、国江の後を追い掛け始めたのだ。



「アイツ!」


「好機だ!蘭丸、狙え!」


 水嶋と蘭丸が、背を向けるヤヤに向かって攻撃を続けている。

 しかしヤヤは、やはり副官というのもありほとんどの攻撃を食らわなかった。

 ヤヤは食らわないのだが、ワイバーンはそうではない。

 翼に銃弾を浴びたワイバーンは、バランスを崩して予定外の方向へ飛んでいった。



「クッ!お館様!」


 しばらくするとパラシュートが開いたのを見たヤヤは、そのままワイバーンと共に離れていく。



「逃げたぞ。ハクト」


「うん、このまま追い掛けるね」


 ワイバーンはそのまま少しずつ下降すると、ある林の前で緊急着陸をした。

 ヤヤはワイバーンから降りて、三人が飛んでいる空を見上げた。



「三対一か。あまり好ましくないな」


「馬鹿言うな。勝てる時に勝つ。例え向こうが一人でも、全力で倒せ。それが戦場の常だ。戦いとは非常なのだよ」


「爺さん。まあその通りだな」


 二人はそう言うと、相手は強敵だと気を引き締めた。

 するとハクトが、別行動を取ると言い出す。



「ワイバーンも居ないし、二人でも大丈夫だよね?」


「ハクトは何処に行くんだ?」


「僕は前田様を探すよ。この辺りに落ちていった気がするけど、大怪我じゃないにしろ無事なのか分からないし。太田さんと違って、無傷ではないと思うんだよね」


「あぁ、あの阿呆か」


 ワイバーンを奪おうとして落下した又左。

 確かにアホな行動だが、二人は特に何も言わなかった。

 しかし水嶋は、その言葉を口にした。



「アホって言うなや!あの人、アレでも村長だったんだぞ」


「お前だって分かっているだろう?兄弟揃って、少し抜けているのは否めんぞ」


「う・・・」


 兄弟揃って空から落下。

 それは口にしなくても、分かっている事だった。

 ただし二人とも、その又左が落ちたからこそ、ヤヤと戦えている事を知らない。



「ワイバーンはもう飛べないだろう。俺達も地上に降りよう。それなら遠近両方の攻撃が可能だろ?」


「二人とも頑張って」


 ハクトは地上近くまで降りると、二人はトライクから飛び降りた。

 飛んていたハクトはそのまま上昇し、又左の探索へと向かっていった。



「ワイバーンが居なければ、俺達の方が勝機がありそうだ」


「騎士は何かに乗ってないと、弱いんだろう?」


 蘭丸と水嶋の言葉を聞いたヤヤは、太刀を構えて激怒した。






「トキド・カズナリに仕えるこのヤヤ・トコナツが、若造とジジイの二人如きに遅れを取るだと!?馬鹿にするのも大概にしろ!紅き虎が鮮やかになればなるほど、俺は力を発揮する。宿れ、赤彪!その眩い紅に、俺の彪はクッキリと浮かび上がるのだ!」

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