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捕虜

 何も見えなくなってしまった。

 一益が押してるなあと思ったのだが、長秀は切り離されて大慌てだし。

 しかも、急に白い霧に覆われてしまう始末。

 周りのドワーフや妖精族も、中の様子を気にしているっぽい。

 まさか、助けに行ったりしないよな?

 もし両者が動けば、ウケフジ兵達も黙ってはいないはず。

 中は乱戦に突入してしまうだろう。

 白い霧に包まれた場所で乱戦になれば、敵味方問わずに攻撃が当たるだろうね。

 まず間違いなく、死傷者多数になる。

 こんな所で時間を食ってるだけでも問題なのに、ハッシマーにたどり着く前に怪我人続出するのは論外だ。


 こっちからは何も見えないのだが、どうやら空からは見えるみたいだ。

 空から落下中の慶次が、明らかにあの辺りを見ている。

 どういう仕組みか分からないけど、空から見えるのは不自然だよな。

 自然に発生した霧じゃないなら、ウケフジ達が何かしたって事だ。


 慶次が槍を取り出して、何かしようとしている。

 もしかして一益がピンチなのか?

 慶次が落下すると、白い霧が全て霧散した。

 おぉ!

 もしかして一益、慶次のおかげで間一髪、助かったんじゃないか?







 空から降ってきた男。

 流石のウケフジとマオエも、これには面を食らった。

 とりあえず分かっているのは、敵である彦右衛門を助けた事。

 味方ではないと理解した二人は、一間置いてからその場を離れた。



 決まった。

 対して慶次は、自分が上手く助けられた事を心の中で自画自賛していた。

 相手の二人が距離を取った。

 ここは振り返って、一益から感謝を述べられる場面だ。



「小父上」


 軽いドヤ顔で振り返る慶次。

 よくやった!

 そう言われると思っていた慶次は、そんな事ないと言う準備をしていた。

 だが、現実は全く違うのだ。



「痛っ!何故殴るでござる!?」


「お前、熱いわ!」


「熱い?」


「炎など真横で放つでない!」


 落下してきた慶次は、火魔法が封じられたクリスタルを地面に向かって使用した。

 突いた先から全方位に、炎が一瞬だけ広がっていた。

 そのおかげでウケフジの出した霧は晴れたのだが、一益にとってそれは重要ではない。

 彼が文句を言っているのは、真横で味方を巻き込むような火魔法を使うなという事だった。


 しかし、慶次も黙ってはいない。

 助けた事で褒められると思ったのが、逆に文句を言われて殴られたのだから。



「仕方ないでござろう!クリスタルに入っていた魔法が、たまたま火魔法だったのだから」


「だったらもっと違う方法で助けんか!」


「ハァ!?助けられておいて、逆ギレは困るでござる!」


「誰が助けてほしいなどと言った!我はそんな事、一言も言っておらんぞ」


 戦場のど真ん中で、ギャアギャアと喧嘩を始める一益と慶次。

 ウケフジ達にはそれが、異様な光景に見えていた。



「アレをどう思う?」


「どうですかね。戦場で敵を差し置いて喧嘩など、普通はしませんが」


「ブラフだと思うか?」


「見た感じでは、本気で言い合っているようにも見えます。判断が難しいですね」


 彼等には一益達のやり取りが、自分達を誘き出す罠のように感じていた。

 実際は本気で言い合っているので、彼等にはそれが迫真の演技に見えていた。

 それ故に、手出しがしづらい状況だった。



「このまま見ていても埒があかない。お前の仁龍で、攻撃をしてみよ」


「様子見ですね。分かりました」


 右腕を引き勢いよく伸ばすと、ランスが一直線に二人目掛けて伸びていく。

 一益はそれを見て、大鎚でぶっ叩いた。



「この野郎!人が文句を言っている最中に、手を出すんじゃない!」


 叩かれたマオエは、右腕が折れたかのような衝撃を受けた。

 思わず片膝をつくと、更に追い打ちが迫ってくる。



「お返しでござる!」


「まさか!?」


 慶次がマオエと同様の動きを取ると、槍が一直線にマオエへと伸びてきた。

 自分と同じ能力だと勘違いしたマオエは、一益の攻撃でまだ動ける状態ではない。

 それに気付いたウケフジは、持っていたランスをマオエの前へと差し出した。



「片手で防ぐとは。あの御仁、なかなかやるでござる」


「今の一撃を防いだ男が、ウケフジという大将だ。我と良い勝負をする」


「小父上と同じくらいなら、大した事ござらんな」


「お前、喧嘩売っとるのか!?」


「冗談でござる」


 軽口を叩く慶次。

 長秀やベティなら、決してこんな事は口にしない。

 相手が一益だからこそ言える、慶次のセリフだった。



「しかし、あの霧は厄介だ。どうにも感覚が鈍ったような気になる」


「真上からは丸見えだったから、大した事無いのでござる」


「そうなのか!?」


「そうでなければ、小父上の近くに降りてくるなど不可能でござるよ」


「それもそうだ」


 二人の会話を聞いていたウケフジは、自分の弱点が露呈した事を知った。



「ワイバーンを操るトキド隊くらいしか、気付かなかった話なのだが。いや、どちらにしろあの炎で吹き飛ばされるか」


「殿、まだ負けておりません。弱気になるのはおやめ下さい」


「分かっている。勝負はまだまだこれからだ」


「いや、この戦いは終わりだ」


 背後から聞こえる声に、二人は思わず振り返った。



「しまった!」


 マオエがそう言ったと同時に、二人は騎馬ごと拘束されてしまう。



「ふ、ふふふ。ここまで全力で走ったのは久しぶりでしたよ」


「おのれ五郎左!」


 地面に手を着く長秀を発見したマオエ。

 その時二人は、地面から伸びてきた木の根が絡みついていた事にようやく気付いた。

 持っていた刀や短刀で切断しようと試みるが、ただの木の根ではない。

 刃を弾く根に、二人は焦りを強く感じた。



「慶次殿が来てくれなければ、本当に危ないところであった。私の失態で、彦右衛門殿を失う事になっていたら、この心臓をドワーフ達に差し出すしかなかったぞ」


「五郎左殿!」


 拘束された二人を見た一益は、長秀へと歩み寄った。

 無用心に歩く一益に、長秀は慌てている。

 そう、一益は彼の能力を知らないのだ。



「仁龍!」


 拘束されながらも、左手に持つ刀は健在だ。

 マオエは自分の前を歩いてくる一益に向かって、刀を鞭のように伸ばした。

 蛇が這ってくるかのように、刀の刃先が一益の脛を狙う。



「甘い!」


 一益が驚き、後ろへ倒れそうになったところに、慶次の槍が一益の前を通過した。

 槍の先はしなり、仁龍で伸びてきた刀と当たる。

 大きな金属音が、一益の前で鳴り響いた。



「マズイ!」


 一益は何かに気付くと、すぐに空に飛ばしていた鎚をマオエへと差し向けた。

 左腕に鎚が当たると、その衝撃でとうとう刀を手放すマオエ。

 右手に持つランスは、既に長秀により木の根でガチガチに固められている。



「万事休すか・・・」


 全ての手立てを失ったマオエは、ガックリと肩を落とした。



「慶次、すまんな」


「何がでござる?」


「その槍だ」


 一益は目の前にある慶次の槍を、軽く叩いた。

 すると槍は、ある部分から粉々に砕け散ってしまった。



「何ぃぃぃ!!」


 あまりの光景に、慶次は大きな声で叫ぶ。

 呆然としながら、持っている柄と砕け散った先端部分を見比べている。



「ど、どうして?」


「我を助ける為に、伸ばした槍と刀と競り合った時だ」


 一益がマズイと言ったのは、慶次の槍からいつもと違う金属音がした事が原因だと説明する。

 しかし慶次は、他の原因にも心当たりがあった。



「やはり空から落ちた衝撃が、問題だったのでござるな。普通ならあり得ない衝撃が、槍にも加わったはず。拙者の扱い方が、良くなかったのでござる」


「どちらにしろ、この槍はもう駄目だ」


 慶次は右手に持った柄を見て、軽く目を閉じた。

 今まで世話になった槍に対して、労いの言葉を心の中で語りかけ、そしてその柄を腰に差した。



「またコバ殿に頼むでござるよ」


「いや、我がコバ殿に頼んで作らせてもらおう」


「小父上が!?」


「コバ殿に仕組みの教えを請うてみるさ」


 壊れた原因の一端が、自分にもある。

 そう感じた一益は、慶次の為に槍を作る事を約束した。



「すまぬがそこのお二人さん。そろそろこっちに集中してくれませんかね?」


 長秀が呆れた声で言うと、一益達は慌ててウケフジ達へと向いた。



「投降してはくれんか?」






 ウケフジはマオエと顔を見合わせた。

 まさかそんな言葉が、投げ掛けられるとは思わなかったからだ。



「貴方達は侵略者ではないのか?」


「侵略者?」


「トキド領を狙った、外国の連中だとばかり思っていたのだが。違うのか?」


 そういえばウケフジ達には、自分達が傭兵集団であるとしか言っていない。

 彼等はトキド領へ攻めてきた敵としか、認識していなかったのだ。


 最初に通過させてくれと言ってきた時とは、今は状況が違う。

 今は自分達が捕まり、圧倒的に不利な状況だ。

 それなのに首も刎ねられず、投降勧告を受けている。

 彼等は自分達が想像していた相手と、毛色が違う事に気が付いた。



「どうやら自分達は、大きな勘違いをしていたのかもしれない。貴方達は他の領地を狙う侵略者で、トキド領を通過して違う領地を狙っているのだと思っていた」


「違いますよ!」


「ふむ。オヌシ等は信用出来そうだ。真の目的を話しても問題無かろう」


 一益がそう言うと、長秀の様子を伺った。

 彼も頷き同意した事で、一益はオケツの事を切り出した。



「何だって!?オケツが生きていた?」


「アドが生かしたと言った方が、正解のようですね。しかしあのアドが、オケツのような青二才の為に死ぬとは」


「オケツ殿は我等が頭領である孫市様に、助力を頼んできた。それを了承した孫市様は、今こうやってハッシマーに向かって進軍してるってわけだ」


「・・・なるほど」


 事情が分かった彼等は、無言になった。

 オケツの狙いを知って、彼等は悩んでいるのだ。



 主君を討ち取られたオケツの気持ちは分かる。

 だが、ウケフジはハッシマーに認められていた。

 だから領地をそのまま任されていた。

 今の彼に裏切る力は無い。

 もし裏切ってオケツの敵討ちが失敗したら、彼等は行き場を失うからだ。



「すまぬが投降は出来ん。私はハッシマー殿に恩がある。このまま裏切る事は出来ない」


「ウケフジがよく言うのじゃあ」


「タコガマ殿!?」


 タコガマはウケフジ達が敗北したのを見て、外の輪から中に入ってきたらしい。

 ウケフジ兵は主が捕まった事で、下手に動けなかった。



「ならばウケフジ。お前達は捕虜になるのじゃあ」


「捕虜?」


「わざわざ捕虜にするのですか?」


 ハッキリ言って、ハッシマーがウケフジを助ける為に動くとは思えない。

 捕虜としての価値は無いだろう。

 それは一益も長秀も、口には出さないが重々承知していた。



「ハッシマーに意味は無くとも、他の武将には意味があるのじゃあ」


「なるほど!無用な殺生はしないという、宣伝にはなりますね」


「ほう。タコガマ殿も頭が回るようだ」


 タコガマの案に乗った二人。

 ウケフジ自身はそれに対して何も言わないが、ある意味一番ベストな選択だと理解していた。

 しかし、たった一人だけ空気の読めない男が居る。



「もう戦わないでござるか?」


「地上戦はウケフジ殿がこうなったので、ほぼ終了でしょうね」


「乱戦になっている場所も主が捕まったと分かれば、戦いは止まるでしょう」


「えぇ・・・せっかく降りてきたのに」


「貴方!これ以上の血を求めるとは、非常識ですよ!」


 マオエから怒られる慶次。

 兄から突き飛ばされて、しかも戦いはこれで終わり。

 不満が残る慶次は、マオエにちょっかいを出し始めた。



「うるさいでござる。変な兜を被って、お前も非常識でござる」


 マオエの兜を取り上げる慶次。



「やめろ!この馬鹿」






「何と!女子だったでござるか!?拙者の槍と攻撃方法が似ているから、ちょっと気になっていたでござるが。はぁ〜、それであんな強い。へぇ〜はぁ〜ほーん。ちょっと気に入ったでござる」

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