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ウケフジ

 直江兼続か。

 大河ドラマからなのかな?

 急激に人気が上がった武将だよね。

 確かに景勝への仁義を通す姿は、テレビで見ていてもカッコ良かった。

 漫画やアニメにも現れる機会が増えたし、僕の中では出世した武将第一位だと思う。

 出世って、露出が増えたって意味だよ?


 そんな直江兼続モドキのオコエ・タメウツくん。

 オケツやタコガマ達のように、やはり特殊な能力を持っていた。

 だけどなぁ、凄く中途半端な能力だよね。

 刀を伸ばして鞭のように扱える能力?

 検証する前に死んじゃったから、多分こんな感じとしか言えない。

 あくまでも伸びるのは刃だから、当たったら斬られるんだと思うけど、弱点があった。


 効果範囲が短い。

 おそらくはもっと伸ばす事も、可能なんだと思う。

 ただし、実用的なレベルで動かすには、せいぜい十メートルくらいが限界なんじゃないかな?

 それ以上に伸ばすと、一気に遅くなった。

 多分倍くらい高く上がれば、刃先とか摘めそうな勢いだ。

 それ故に空高く上がっていれば、一方的に攻撃が出来る事に気付いてしまったわけだよ。

 今にして思えばオコエの奴、キレたまま死んでいってしまったな。

 直江モドキの割には、あまりに呆気ない死に方だと思った。






 ベティはどうやら、トキド本隊との交戦に入ってしまったらしい。

 背後から聞こえる金属音は、明らかに剣と剣が当たる音だ。



「コルニクス、俺達もベティの援護を。うおっ!?」


 炎が横を通過した。

 コルニクスが少し動いていなければ、直撃だったかもしれない。



「危なかった。流石は俺ちゃん」


「早く行けって!」


「駄目っすよ〜。ベティの姐さんに、何て言われたか覚えてないんすか?」


「あ・・・」


 ウスノロを頼むだっけか。

 目の前のワイバーンに苦戦しているのを、助けなくちゃいけないんだな。



「うーん、助けちゃダメなんじゃないっすか?」


「は?何でだよ。やられる前に倒さなきゃ、それこそ駄目だろ」


「だってこの人等、強くしなきゃいけないんだから。代わりに倒すのは簡単だけど、強くはならないっす」


 そういえば、そんな事も言っていたな。

 言ってるそばから、もうピンチじゃないか!



「せいやっ!」


「そうっすよ。そうやって危ない奴だけに、手を貸していきましょ」


「とは言ってもなぁ。鉄の塊、もう手元にちょっとしか無いぞ」


 鉄球を作るにも、その為の素が必要だ。

 無からは何も作れないのは当たり前の事。

 だからこそ、助ける相手は見極めが肝心なのだ。



「キャプテン!」


「よいしょー!何だと!?」


 俺の投球が、見破られた!?

 ワイバーンが凄いのか、はたまた乗っている騎士が凄いのか。

 俺の直球が避けられた。

 確かに不安定なコルニクスの上だから、全力投球ではない。

 だけどそれでも、魔族ではない奴にそのコースが見破られるとは思わなかったのだ。

 ただし、俺の攻撃に集中してしまったのか、目の前の鳥人族にやられてしまっていた。

 よそ見に集中して目の前の敵を疎かにするとか、本末転倒だろう。



「流石はキャプテンっす!彼等に自信を与える為に、あんな事をしたんすね!?」


「へっ!?あ、そうね。俺の攻撃が避けられるところを、彼はよく見てたよね。よくやった!」


 後ろからコルニクスとの会話を、わざと大きな声で話した。

 すると騎士を倒した鳥人族が、手を挙げて応えた。

 ちゃんと前を見て備えているとは。

 少し複雑な気持ちだけど、良いぞ!



「お前達!キャプテンはこうやって見てるんだ。お前達の実力を発揮しさえすれば、騎士だろうがワイバーンだろうが、怖くない!やれば出来る!」


「ウオォォォ!!」


 コルニクスのその声に、鳥人族のテンションは上がった。

 もしかしたら、ベティの檄より効いているかもしれない。



「ささ!キャプテンも一言」


「うえっ!?が、頑張れ。やれば出来る!」


 ヤバイ。

 何処ぞの芸人みたいになってしまった。

 ただの精神論しか言えないわ。


 ん?

 その割には動きが良くなった気がする。

 というより、連携がスムーズになったのか?

 鳥人族の一人が騎士と向かい合ったら、近くの者は自らワイバーンを抑えるようになってきた。

 精神論が、結果オーライだったかな。







「何よ。アタシが言うより活躍してるじゃないの。流石は孫市様ってところね」


 ベティは向き合う敵から視線を外さずに、後ろから聞こえる鳥人族の声に反応した。

 やれば出来るという一言で、テンションが上がった時だ。



「先遣隊は負けてしまいそうか。仕方ないな」


「あらアナタ、自分の配下に厳しいのね」


「負けるのは弱いからだ。仕方ない」


「奇遇ね。アタシも同意見よ。ただし、そうやって使い捨てにするつもりは無いけど」


 弱いから、負けるのは仕方ないと諦める男。

 対して、弱いから負けるのは仕方ないので、強くしようとスパルタ教育を施すというのが、ベティの考えだ。



「アナタ、名前は?」


「俺の名はトキド。トキド・カズナリ。かつてはその名が、騎士王国に知らぬ者は居ないと言われていたのだが」


「そうなの。でも残念。ご覧の通り、アタシは騎士王国の者じゃないから」


「そうか。では改めて、お前にも聞こう。名は何という?」


 ベティはトキドから返された言葉に、待ってましたと言わんばかりにニンマリした。



「仕方ないわね。そこまで聞きたいなら教えてあげる」


 シュタッ!

 パンパン!

 ターン!



「ベティよおぉぉん!!」


「ベティよおぉぉんと言うのか」


「あ、そうじゃなくて。オホン!・・・ベティよ」


 咳払いしてから改めて名乗るベティ。

 今までに無い反応にベティは、これまでで一番恥ずかしい名乗りだと顔を赤らめた。

 しかしそれは相手も同様で、自分の勘違いを改めて名乗られて気付いた。



「ま、間違えて申し訳ない!」


「い、言わないでちょうだい!もっと恥ずかしいから!」


「そ、そうか。すまない」


 フルプレートの鎧のせいで顔は見えないが、明らかにトキドも動揺していた。

 お互いに恥ずかしい思いをして、無言になる二人。

 おかげで攻撃を開始するタイミングが、二人揃って掴めなくなっていた。



「お館様!」


「むっ!良いところに来た!」


「待て!お館様は奇妙な魔族と対峙している。邪魔をしてはならん!」


 お互いに牽制しているかのように、見合っていると勘違いしたトキド本隊。

 せっかくのこの微妙な空気が壊れると思ったのに、また変な空気になってしまった。

 だが、それを見逃さなかったベティは、その空気をいっぺんさせる事に成功する。



「これがトキド本隊。精錬された隊列。見事だわ」


「そ、そうか!では、尋常に勝負!」


 始まったトキドとベティの戦い。

 しかし、その真下でも戦いが続いている事を、二人は知らない。






「ぬうぅぅん!!」


 一益の大鎚が地面を揺らす。

 ウケフジ騎馬隊が少しでも揺らげば良かったが、そこは騎士王国の騎馬。

 一瞬立ち止まっただけで、大して動じる事も無かった。



「滝川殿!」


「丹羽殿か。どうだ?」


「強い。さっきまでの連中とは比べ物にならん」


 タコガマ隊を助けた妖精族だったが、ウケフジ騎馬隊の修正力はとても早かった。

 部隊を二分して、タコガマ隊と妖精族達とを分断。

 後から現れた長秀達に、ウケフジ騎馬隊はすぐに対応してしまった。



「しかし、丹羽殿が半分引き受けたからこそ、タコガマ殿は盛り返したようだぞ」


「私の動きは無駄ではなかったか。滝川殿はどうする?」


「我は・・・どうやら客が来たらしい」


 なんと、妖精族達をすり抜けてやって来た騎馬隊が、長秀と一益の前に姿を現したのだ。

 騎馬隊は人数は少ないものの、先頭に立つ二人のオーラは、他とは全く違っていた。



「ヤメフグ、お前の言った通りであったな。その嗅覚、流石である」


「ハハッ!ありがたきお言葉」


 馬上で頭を下げる、変わった兜の男。

 隣の男は彼の肩を軽く叩いた。



「そう固くなるな。お前は家臣である前に、友でもあるのだ。そう畏まられると、私が困ってしまう」


「しかし、公の場では立場というものがございます。二人だけの時や屋敷とは、区別しませんと」


「固い固い。もっと力を抜かないと、この敵には勝てんぞ」


 そう言ったフルプレートの男は、顔を一益達に向けた。



「決まりだな。あの男がウケフジだ」


「だな。我も同意見だ。しかし、その横の男も侮れんぞ」


「うむ。強者が二人とは。滝川殿が来てくれて助かった」


 一益達が前に出ると、それに応じて騎馬隊の先頭の二人も前に出た。

 それを見た一益は、大きく息を吸い込むと、地鳴りのような声で名乗りを挙げる。



「我は彦右衛門!傭兵集団雑賀衆の彦右衛門!孫市様の配下にして、力自慢の彦右衛門だ!」


「むぅ!何という迫力。傭兵にしておくのが勿体無いくらいのドワーフだ」


 大鎚にすら怯まなかった騎馬も、この迫力には参った様子。

 一益の大声に驚き、暴れ出した馬も居た。

 対して長秀は、丁寧な所作で名乗りを挙げる。



「私は五郎左。傭兵集団雑賀衆の五郎左と申します」


「これは!気品溢れるその仕草。本当に傭兵なんでしょうか?」


 その言葉に、心の中でしまったと思う長秀だが、やってしまったものは仕方ないと諦めた。

 それに一益が長秀をフォローするように、話を進めてくれた。



「貴殿等がウケフジ殿とお見受けするが」


「いかにも。私がウケフジ・ナベアツ。トキド殿の盟友にして、トキド領の危機に馳せ参じた者なり!そして隣に居るのは、我が右腕」


「マオエ・ヤメフグと申す」


 一益こと彦右衛門と長秀こと五郎左。

 そしてウケフジとマオエ。

 彼等はお互いの強さを認め、他の騎士とドワーフ、妖精族を下がらせた。



「奇遇だな。部下を傷つけたくないようだ」


「それはお互い様であろう。どうだ?我等はトキド領を占領したいわけではない。このまま通過させてくれぬだろうか?」


 一益が無茶な提案をすると、ウケフジは一笑する。



「彦右衛門殿は、領主には向かんようだな」


「何だと!?」


「何故そこまで怒る?」


「あ・・・それもそうだが、どうしてそう思う?」


「彦右衛門殿が領主なら、武装した者達がズカズカと勝手に土足で踏み込んできて、通してくれと言われて納得するかな?」


「ぐぬっ!それは確かに・・・」


 一益はウケフジの言葉を聞いて、少し冷静になった。

 思考が本当に、粗野になっていたからだ。

 彼の言う事は正しい。

 自分が言った事を心の中で悔いた。



「すまん!今言った事は忘れてくれ」


「フフ、面白い方だな。敵に謝罪するとは」


「彼はそういう人なんですよ」


「そう言って一緒に頭を下げる貴方も、変わり者ですね」


 頭を下げた一益の横には、同じように長秀も頭を下げていた。

 それを見たウケフジとマオエは、不思議と笑みが溢れている。



「本当に、ここが戦場でなかったなら」


「そうですね。私達は分かり合えた気がします」


「ウケフジ殿、マオエ殿。敵ながらありがたい言葉だが、ここからは」


「うむ。我等も孫市様の為に、動かねばならん。すまんが、無理にでも通させてもらう」


 大鎚とレイピアを構える二人。

 ウケフジとマオエも、馬上で武器を構えた。



「何ですか?その武器は?」


「これはランスという。騎馬に適した武器だ」


「敵に教えてくれるとは。余程自信がおありと見える」


「ハイ。負けないと自負しております」


 一益のちょっとした挑発に、マオエも挑発で返す。

 お互いに睨み合うと、四人は同時に声を発した。






「いざ、尋常に勝負!」

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