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軍団を増やそう

 ヒャッハー!

 新しく作り直したぜぇ!

 悪ノリした挙句、グリップ横の角が邪魔でアクセルを戻せないと言われた、どうも魔王です。


【軽く改良して、太田専用機は完成だな。他の連中のは、通常でいいんじゃない?】


 そうね。

 蘭丸とかハクトにはヒャッハー!は似合わない。

 アイツ等はザコっていうより、カッコいいライバルキャラにしか思えない。

 大半は死に方が悲惨だけど。


【似合ってもラコーンだけど、アイツには魔力が扱えないからなぁ】


 仕方ないね。

 王国から鹵獲したクリスタルも貴重だし、僕等の遊びに使う事は許されない。


【遊びって言い切っちゃうんだな】


 遊びだよ。

 最近は殺伐とし過ぎているからね。

 これくらいは許容範囲として考えてほしい。


「なぁ、これは太田の専用なんだよな?俺達もこれなのか?」


 太田用にカスタムしたトライクを見ている。

 何だろう?

 羨ましいのかな?


「これは太田用に作ったからね。蘭丸達も専用機が欲しいの?欲しいなら作るよ」


「いやいや!わざわざ手を煩わせる訳にはいかないな!俺達のは普通でいいから」


 少し顔が引きつっているようにも見えるけど。

 まあいい。

 なんとなく蘭丸に作るのは気が乗らないし。



「とりあえず、これだけあれば大丈夫でしょ」


 太田カスタム機以外に、通常トライクが2台。

 そして通常より小さい、小人族専用のトライクが6台。

 合計9台のトライクがある。

 小人族専用のは小さいと言っても、排気量は全く変わらない。

 むしろ重量的に考えれば、こちらの方が速いかもしれない。


 このトライクは後ろに2人乗れるようになっているので、3人乗りだ。

 その後ろにキャリアカーという名の、ほとんど見た目は馬車と同じ物を牽引している。

 こちらは基本的に5人乗りだが、小人族のサイズなら8人くらい乗っても大丈夫かな?

 生き残った小人族が、スイフトを筆頭に36人。

 運転出来ない、ヒト族のズンタッタ達が5人。

 水と食料、その他持ち出す物を載せても、余裕があるように作ったつもりだ。


「太田はもう完璧に乗れるな?」


「任せてください!ワタクシ、言われた通りの練習もしてますから」


「練習って、乗りこなす練習か?」


 蘭丸とハクトはまだ乗っていないからな。

 運転の練習をしてもらわないといけない。

 これは太田に教えておくように言ってある。

 しかし太田に伝えてある練習は、残念だが全く違う。


「太田には特別な事を教えてあるんだ。皆に教えてあげなさい」


「ヒャッハー!お前等、水と食料をよこせぇ!お?良い女じゃないか!お前は魔王様への貢ぎ物だぁ!」


「素晴らしい!」


 僕は完璧にこなした太田に、全力で拍手した。

 後ろの蘭丸達は勿論、小人族達にもこの良さが分かってもらえたかな?

 ん?

 小人族は少し顔が青くなっているようだが。

 今日ってそんなに寒い?


「お前、略奪しながらオーガの町を目指すのか?」


「いや、そんな事する訳がない」


「じゃあ何で、ヒャッハー!水と食料をよこせぇ!なんて言葉を教えたんだ?」


「えーと、浪漫の為?」


 呆れたような顔をされた。

 言葉も出ないようだ。

 別にいいじゃない。

 楽しかったんだもの。


「太田、皆に運転のやり方を教えてあげてくれ。僕はそろそろ、他の町や村を回っていくつもりだから」


「もう出発されるのですか!?何の準備も出来ていないような気がするんですが」


 準備とか、別に必要無いからなぁ。

 魔王人形を使えば、僕用の武装に変換する事も可能だし。

 残りは現地調達でどうとでもなる。


「魔王様、出発される前に完成して良かったです」


 とうとう僕の魔王人形の顔が完成した。

 これでシーファクにも勝てる!


【勝てるって何だよ。別に勝負してないだろ】


 アイツは僕をキモいと言った。

 これはもう、宣戦布告されたと言ってもいい!


「こちらです。御要望が無かったので、小人族の中に伝わる伝承の英雄、スクナ様を象りました」


「スクナ様?」


「スクナ様はこの世界で、初めてお酒を作ったと言われています。スクナ様が遺した製法のお酒は、初代魔王である信長様も飲まれております。信長様はあまりお酒が強くないと言われておりますが、この酒は美味いとお気に召したと伝えられておりますよ」


 初めてお酒を作った人か。

 なかなか興味深いね。

 信長も飲んだ酒とか、飲んでみたいし。


「そんなお酒があるとは、初めて聞いたね。それ、今も此処にあるの?」


「申し訳ありません。どうやら王国兵が飲んでしまったらしく、既に残っておりませんでした」


 深々と頭を下げてきたけど、そんなの小人族のせいじゃない。

 どれだけ残ってたか知らないけど、全て飲むとは。

 王国許すまじ!


「魔王様はお酒とか飲んでも平気なんですか?」


「魔王様がお酒飲むなんて、倫理的に駄目じゃないんですか?」


 チトリとシーファクが同じ事言ってきたけど、僕等は既に成人だからね。

 全然問題無いでしょ。


「お前は駄目なんじゃない?俺はもう飲んでも平気だけど、その身体じゃあ酒に呑まれるんじゃないか?」


「蘭丸が良くて、何で僕が駄目なんだよ!身体が小さいだけで、問題無いだろ?」


「身体小さいって事は、それだけ肝臓の働きも弱いんじゃないか?」


 むむ!

 そうなのかな?

 でも、回復魔法とかあるし。


「ちなみに回復魔法で酔いは覚めないからな」


 先手を打たれたか。

 うーん、ダークエルフに詳しい人に聞くしかないな。


「お酒はまた、頑張って作ります。この頭をどうぞ」


 風呂敷に包まれた頭を受け取る。

 何だろう?

 仰々しく受け取ったものの、そこまで大事に扱わなくてもって思ってしまった。


「これかぁ。僕が作った顔より、全然良いね」


 丸と棒と点だけの顔とは違う。

 ちゃんと顔に凹凸もあり、見た目もちゃんと顔って感じがする。

 でもどことなくデフォルメされたような、ちょっとアニメ顔っぽい気がする。


「どうだ、シーファク。これならカッコいいだろう?」


「カッコいいというより、可愛いと思いますよ」


 か、可愛いだって!?

 女子から初めて言われた!


「スイフトくん!キミには今度、是非お礼をさせてほしい!」


 ガッチリと両手で握手し、僕は感謝を述べた。

 この世界に来て、初めて女子から好印象を受けた。

 心の奥から湧き上がってくるこの喜び。

 目を閉じると、腹の底からカーッと熱いものが込み上げてくる。


「別に人形が可愛いだけであって、魔王様が可愛いわけじゃないですけど」


「おま、お前さぁ。そういうのは本人が居ない所で言ってくれよ!」


 込み上げてきた熱いものは、お風呂の栓を抜いたかのように引いていった。

 悲しい。



「ツムジ、そろそろ出発するよ」


「準備は出来てるわよ!あら?魔王人形の顔、可愛くなったわね」


 幻獣にも評判は良いらしい。

 じゃあ僕はしばらく、人形の姿ならモテるという事だな。


「お前、それはそれで悲しくないか?」


「分かってるから口にしないんじゃないか!人形の方が会話するのに便利だから、移っただけだよ。それとツムジ。この背中の鞍なんだけど、どんな感じ?」


「今のところはそこまで違和感無いけど、飛んでみないと分からないわね。次の町か村に着く頃には、何か分かると思うわ」


 前回、僕はツムジから落ちてしまった。

 だから落ちないように固定具を着ける為に、ツムジ専用の鞍も作ってみたのだ。

 まだ実際に飛んでいないので、また落ちないかは不明なんだけども。


「皆、太田の判断で運転に支障が無ければ、すぐに出発してくれ。オーガの町でまた会おう!」 


 上昇すると、下から手を振っている皆が見える。

 手を振り返した後、僕等は一気に空へと舞い上がった。




「長時間も空に居ると、寒いな」


「そう?人形だと全然分からないけど」


「アタシも寒くないわよ」


 兄さんが寒いと軽く震えている。

 僕の身体でもあるから、風邪でも引かれると困るんだけど。


「もう少しでリザードマンの町に着くから、我慢して」



 久しぶりにリザードマンの町に着いた。

 僕が空から降りてきて、人形が話している事に少し驚いてはいたが、好意的に迎えてくれた。


「アレから変わった事などはありましたか?」


「そうですね。魔王様が旅立って少し経った頃、石の仮面を着けた旅人が訪ねて参りました。困っていた所を魔王様に助けられたと仰り、町の手伝いをしてくれましたよ。つい先日、旅立って行かれましたが」


 斎田さんは上手くやってくれたみたいだな。


「ところで町長、こういう話は聞いているかな?」


 小人族の村が王国に襲われ、今後は帝国と王国の両方からの侵略が考えられる事を伝えた。


「なるほど。私達だけでは対抗出来ませんね」


「小人族は、太田達と一緒にオーガの町を目指している。今後の事を考えると、こちらも戦力を集中させる事が重要になると思う」


「オーガの町ですか?此処からですと、結構遠いですが。小人族の足だと半年くらい掛かるのでは?」


「それに関しては問題無い。僕が移動手段を用意した。そしてアウラール町長、貴方達にもオーガの町を目指してもらいたい」


 オーガの町に、この辺一帯の魔族を集結させる事を伝えた。


「最近は商人の方々が訪れないのは、戦争が本格的になってきたからかもしれませんね。分かりました。私共も今後の生死に関わりますし」


「それじゃあ、僕が用意する乗り物をこれから作るから。乗りこなせるように練習してほしい」


「乗り物の練習?馬車ではないのですか?」


 やっぱり馬車だと思っていたのか。

 ところが違うんだなぁ。


「何ですか、これは!?」


「そうだなぁ。神の世界の乗り物?こんな感じで走るんだけど」


「何も牽いていないのに!?これは凄い・・・」


「本気を出せば、馬より速く走るから。乗り方を教えるので、皆にも伝えてほしい」


 既に何台か作っておいて、教習所にしてしまおう。

 別に転ける事も無いし、日本みたいに道が狭いわけじゃない。

 S字もスラロームも一本橋も、練習する必要なんか無いでしょ。


「40台ほど作っておいた。牽引するキャリアカーも作るから、後は練習よろしく」


 町長は恐る恐る跨ったが、魔力を流し少し進んだだけで感動していた。


「ウワハハハハ!凄い!これは良い物だ!」


 どこぞの壺のような言い方をしているけど、町長が気に入ったのなら専用機も考えなくもない。


「アウラール町長、気に入ったようで良かったです。ところで、相談なんですが」


「ハッハッハ!魔王様、何でもおっしゃって下さい!今なら胡椒も沢山お渡ししますぞ!?」


「胡椒はありがたく頂くとして。町長が気に入ったのであれば、町長専用の車体を準備してもいいですよ。どうします?」


「せ、せ、専用ですと!?しかしこのような物の見返りは、何をお渡しすればよろしいのですか?」


 見返り?

 特に考えてなかったな。

 別に欲しい物も無いから、胡椒だけでもいいかな。


【だったら上着をもらってくれ!防寒に優れた、暖かいのがいい!】


 あ〜、そういえばそれもあったね。

 そうしようか。


「防寒に強い服とかが欲しいかな。空を長時間飛んでいると、寒くて凍えそうなんだよね」


「それならお任せください。我々も寒いのが苦手なので、防寒には気を使っておりますので。魔王様の身体に合わせて作らせるので、それまでお待ちいただけますか?」


 思いがけずに、オーダーメイドの服が手に入るとは。

 今までの人生で、初めてのオーダーメイドかもしれない。


【俺もそうかな?強いて言えば、ユニフォームがオーダーメイド扱いになるのかな?でもサイズ言ったくらいで、大して特別って感じでもなかった気もする】


 採寸もして、ピッタリにしてくれるみたい。

 日本に戻ったら、いつかスーツのオーダーメイドとかしてみたいな。


【スーツなんか着たくねーよ。Tシャツとハーフパンツで十分だ】


 それは部屋着じゃないか。

 プロ野球選手になるなら、外に出る時のオシャレ用に少しはそういうのも持ってた方が良いよ?


【別にいいよ。そんなに着る事無くない?】


 遠征の時の新幹線移動とか、スーツじゃなかったっけ?

 子供の時にチラ見した程度だけど、そんな覚えがあるんだけど。


【あー!そういえばそうだな。じゃあスーツも着慣れないといけないのか。今のうちにオーダーメイドのやり方も覚えておかないと!】


 帰れたらの話だけどね・・・。



「魔王様、この者達がトライクの運転手になる予定です。それと、こちらが防寒用の上着でございます」


 ただの魔物の毛皮かと予想していたけど、だいぶ違った。

 裁縫のスキルは低いのか、あまり綺麗には縫えていない気もするが、何か暖かい物が入っている。


「それは眈々狸の睾丸です。何故か睾丸が熱を持つので、懐に縫い付けてあります」


 眈々狸って、凄いネーミングだな。

 それよりも睾丸がドン引きなんだけど。


【睾丸って、アレだよな?】


 アレだよ。

 こんな物抜かれると思うと、僕のアレは縮み上がってる。

 リザードマン恐るべし!


「町長にお願いがあるんだが。後はオーガの町へ向かう途中、他の種族の町村を回って、一緒に連れて行ってほしい」


「その為の台数だったのですね。我が町だけにしては、多過ぎると思っていたんですよ」


「そしてこれがアウラール町長の専用です。フロント部分にはトカゲの頭蓋を模した物を装飾し、カラーリングも特別です。って、聞いてねーな」


 町長は自分だけの車体を見て、目が輝いていた。

 既に説明は耳に入っていないみたいだ。

 気持ちは分かるんだけどね。

 高校生くらいの頃とか、カッコいいバイクとかスポーツカーを見ると、カッケー!って言いながら見てたもんなぁ。

 それと同じ感じがする。


「町長!町長!!」


「ハッ!?すいません!興奮して話を聞いておりませんでした。」


「この町長専用に乗って他の町村に行く際には、これだけは言って下さい」


「何か言うんですか?」


「汚物は消毒だ〜!って言いながら、止まると最高ですね」


「それには何か意味が?」


「全くありません」





「言わなくてもいいですよね?」

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