馬鹿にされる
ワイバーンに乗る騎士って、そんなのアリ!?
確かに騎士って、騎乗して戦う人の事を言うんだろうけどさ。
馬以外でそんな人、見た事無いっつーの。
でも、冷静になって考えてみると、かなり効果的な作戦だ。
前線で騎馬隊が混乱を起こして、敵味方入り乱れて身動きを封じる。
敵味方が混ざった状態では、後方支援も出来ない。
何も出来ずに傍観するしかない後方支援部隊に対して、空から前線を飛び越えて攻撃をする。
トキドとウケフジのどちらが考えたか知らないけど、なかなかのやり方だ。
しかし、そんな攻撃もいつかは対処されてしまう。
そのタイミングで、本隊が同時に強襲を仕掛けるとは。
敵ながらあっぱれ!
いや、冗談じゃなくてそう思ったよ。
所詮中身は一般人の僕なんか、どうすれば良いか分からずにオロオロしただけだしね。
こういう時、官兵衛の存在は助かるよ。
官兵衛はすぐさま判断を下して、僕達はその指示に従った。
空へ上がるには、ツムジとコルニクスの力が必要だ。
そんな事も忘れていた兄は、コルニクスを呼んだ瞬間から愚痴を言われていた。
喧しい!
コルニクスの声が頭の中に鳴り響く。
しかし、その直後にコルニクスは急に静かになった。
「アンタ、失礼よ!」
ツムジの前脚で頭を叩かれたコルニクスは、クチバシが地面に刺さったからだった。
慌てて抜こうと頭を動かしているが、上手く嵌ってしまったらしい。
全く抜ける様子が無い。
コルニクスは軽く涙目になっていた。
「兄さん、抜いてあげなよ」
「あ、あぁ。そうだよな」
コルニクスの頭を両手で持ち、引き抜く兄。
クチバシが地面から抜けると、クアァァ!と大きく鳴いた。
「この馬鹿力が!俺死んじゃうところだったよ?もう少しで窒息しちゃうところだったよ?魔王様を導く前に、コロっと逝っちゃうところだった」
「別にアンタが逝ったって困らないわよ。早くお逝き」
「はあぁぁ!?この艶やかな黒羽に、美しさを兼ね備えたクチバシ。世の女性達が泣き止まなくて、世界は涙で沈んじゃうからね」
「鉄塊巻き付けて、アンタが沈みなさいよ」
僕達は何を見せられているんだ?
即興コント?
よし、今度ロックに二人を紹介しよう。
ぶっちゃけ、こんなの見ている暇は無い。
「馬鹿二人、早くしなさい」
「二人!?アタシも頭数に入ってるの!?」
驚いた声を上げるツムジだが、誰も反対意見は無い。
コルニクスとお笑いコンビだと言われれば、頷く人の方が多そうだ。
「俺がコルニクスに乗って、ワイバーン達をやっつける。お前は地上の騎馬隊をどうにかするんだ」
「OKだ。よし、ツムジ行こう!」
「任せて!」
「コルニクス、俺達も行くぞ!」
「アイアイサー!」
僕達はそれぞれの背中に乗った。
「御武運を。ハッキリ言って、今までの騎士達とは比べ物にならないようです。お気を付けて」
「すまないな。俺はハッシマーに集中する為に、何も手助け出来ない」
「大丈夫。俺は天下の傭兵、雑賀孫市だぞ」
「その通り!あの信長すら撃ち抜いたんだから。武田や上杉だって、勝ってみせるって」
「強くなったみたいだし、あんまり甘く見るなよ。ここから応援してるから。頑張れ」
軽く他人任せだとも取れるけど、まあ良い。
応援してくれるなら、官兵衛と二人で見ていてもらおう。
「ツムジ」
「コルニクス」
「行け!」
カッコ良く出たまでは良い。
ツムジの背に乗って、空から地上を眺めていて思った。
こんなに乱戦なの!?
僕、何処をどうやって戦えば良いんだ?
「魔王様!」
一益が僕に気付いた。
彼が居る辺りは、敵を倒したからか少し空白地帯になっている。
だけど、魔王様は駄目だっつーの。
「孫市ね。ところで、ウケフジ本人が来てるみたいなんだけど」
「そうでした。申し訳ございません。ちなみにウケフジとやらは、タコガマ殿が相手をしております」
一益が示した方向を見ると、土煙が凄い事になっていた。
これが騎馬隊同士の戦いらしい。
この位置からだと、どっちがどっちだか分からないよ。
これ、勝ってるのかな?
「マズイ展開ですね。我も行かないと」
「え!?タコガマ負けてるの?」
「タコガマ殿本人ではなく、彼の部下が押されています。このままでは、タコガマ殿も飲み込まれます」
部下から切り崩されて、タコガマは孤立しそうだという。
一益が動こうとしたその時、ある男の行動を見て踏み止まった。
「丹羽殿が既に動いていました。流石ですな」
「丹羽?あ!」
押しているウケフジ騎馬隊の背後から、妖精族の一団が現れた。
どうやって回り込んだのか分からないけど、これは流石としか言いようがない。
「ウケフジ本隊は屈強です。妖精族だけでは無理かも?我もドワーフを率いて向います。まお・・・孫市様は、この辺りの敵を一掃して下さい」
「なるほど。ドワーフ達も居なくなれば、広範囲に魔法が使えるからね」
その通りだと頷く一益。
脳筋かと思われたけど、意外と考えているんだな。
「野郎共!丹羽殿とタコガマ殿の支援に行くぞ!」
「オゥ!」
「今日は激戦だ!この戦が終わったら、火酒を飲むぞ!」
「ウオォォォ!!」
マジかよ。
火酒って、あのクソ強いウォッカでしょ。
匂いだけでクラクラしたのに、ドワーフはラッパ飲みだからなぁ。
それでやる気が出るっていうのも、どうかと思うけど。
「ではお願いします!」
ドワーフ達が大鎚を担いで走り出した。
前から襲ってくる騎馬は、下からの大鎚のかち上げで吹き飛ばされていく。
普通は騎乗している人の方が、力が強いんだけどね。
どうやら一益達は、上手く騎馬隊の囲いを抜けたらしい。
後を追う騎馬も居たが、後ろを見せたら僕の魔法は見えないよね。
「魔法を使う人形!?奇怪なオートマトンか!」
「奇怪ではない。イケてるオートマトンだ」
「喋った!?コイツ、気持ち悪いぞ」
「気持ち悪い!?馬鹿にしてんのか!燃やすぞ!」
目の前でふざけた事を言ってきた騎士に、僕は問答無用で火球をぶつけた。
「無詠唱!コイツ、ただの気持ち悪い人形じゃない!」
「そうです。ただのイケメンな人形です」
「自分でイケメンとか言う奴に限って、三枚目なんだぞ。その少なそうなメモリーに記憶しておけ」
「ムカつく!」
また同じように火球を放ったが、やはり彼等は強い。
なんと太刀で、火球を真っ二つに斬られてしまった。
「無詠唱には驚かされた。しかし、急に魔法が飛んでくると分かっていれば、この程度なら造作もない」
得意顔で説明する騎士に、何度か同じ事をしてみたが、やはり通用しなかった。
すると、気付いた時には僕の周りを囲んでいるではないか。
「囲まれちゃったけど、空へ逃げた方が良いかしら?」
「無理だよ。コイツ等巧妙に隠しているけど、背後に銃を持った連中が待機している。僕達が空に上がったら、狙い撃ちされるね」
「アタシは銃なんかに負けないわよ!」
「それでもだ。コイツ等の太刀は、魔法すら真っ二つに出来る。鉄砲だって帝国とは違って、僕達の脅威になるかもしれないんだよ?」
そう言うとツムジは、少しふくれっ面になりながらも了承した。
これでもツムジは女の子だしね。
下手に怪我して、傷を残してほしくないんだよ。
「そ、そういう考えなら仕方ないわね」
「あ!お前、人の考え読んだだろ!」
照れ臭そうな声で言ってきたけど、読まれてるこっちの方が恥ずかしいわ。
「それじゃどうするのよ。前後左右からの攻撃で、結構辛いのよ」
ツムジは会話をしながらも、四方から襲いくる騎士達の剣を全て避けるか尻尾で叩いていた。
流石のツムジも、これをずっと続けるのは辛いらしい。
「火を吐け!」
目の前の敵が槍で突進して来たので、ツムジの炎をお見舞いしてやった。
だが、奴は炎に巻かれながらも、ツムジへの突進を止めなかった。
「マズイ!」
「空へ逃げるわ!」
「駄目だ!」
僕の声に反して、ツムジは翼を羽ばたかせた。
空へと五メートルくらい上がった瞬間、銃声が鳴り響く。
「クソッ!」
「アウ!」
下から円錐型に、銃弾の集中砲火を浴びたツムジ。
風魔法を咄嗟に使って弾を逸らそうとしたが、やはり帝国とは違ったらしい。
風を切り裂いて、数発の銃弾がツムジの身体を掠ったのだ。
「ツムジ!」
「大丈夫。翼には当たってないわ。微かに当たっただけ」
それでも何ヵ所か、血が流れている。
空から地面に落ちる血を見て、僕は後悔した。
最初から空に上がるように指示を出して、囲まれないようにしなければならなかったんだ。
でも、僕達が下手に逃げると、タコガマ達を援護しに行った一益が狙われる。
僕達の目的は、コイツ等を足止めしつつ始末する事。
一人だから気が楽だなんて考えていたけど、ツムジの事を深く考えていなかったかもしれない。
「この野郎。絶対に許さんぞ!」
「人形のくせに、化け物がやられて怒るのか。変わってるな」
「おい、この人形と化け物を生捕りにしないか?」
「そうだ!こんな変わった人形と生き物だ。ハッシマー様から、何か頂けるんじゃないか?」
僕達二人に対して押している騎士達が、何やら不穏な事を言い始めた。
更に僕的に聞き逃せない、許せない発言を耳にした。
「化け物は生捕りにしよう」
「人形は?」
「気持ち悪いから、バラしても平気だろ。解体して、その秘密を探る方が良いんじゃないか?もっとマトモな人形に作り変えるべきだ」
「それが良いな」
どうやら僕は、馬鹿にされているらしい。
自分で作った身体だけど、確かにあまりカッコ良くはない。
初めに作った頃から、動きやすいように少しは改良は加えている。
だけど、大まかな改良はしていない。
何故なら、自分が操っている身体だからか、愛着があるのだ。
関節部分とか丸見えだし、確かに見た目は不恰好かもしれない。
この身体に慣れてしまったし、不便も無い。
僕としては気に入っている。
兄や蘭丸達に、もっと綺麗にすれば?と言われるのは良いんだ。
でもね、何で知らない奴に気持ち悪いだなんだと言われなきゃならんのだ。
僕は今、ツムジが怪我をさせられた事も含めて、この連中が本当に憎いと感じている。
「本気で怒ってる?」
「そりゃもう。だからコイツ等は、どうなろうが知ったこっちゃない」
ツムジが心配そうに声を掛けてきたが、大丈夫。
よく言うでしょ?
頭はクールに身体はホットにって。
「化け物に心配される人形とか。笑えるな」
「だったら笑ったまま死ね」
僕は火球を作り出した。
「おいおい、その魔法は効かないって分からないのか?所詮は人形か」
「誰が一発だと言った」
更に火球を作り出していく僕は、それをツムジの前に円を作って配置していく。
合計で二十四個。
「さあ、この数を皆で斬ってくれたまえ」
「そ、それだけなら何とかなるさ!皆!」
騎士の掛け声に合わせて、空からの火球に備える騎士達。
僕は心の中で笑いながら、火球を発射した。
「行け!」
時計回りに発射していく火球。
狙いは定めていない。
下を見れば、敵しか居ないからだ。
「堪えろ!もうすぐ無くなるぞ!」
十発、二十発と火球の数を数えていたらしい。
徐々に下から、もうすぐだという声が聞こえてきた。
しかし、彼等の手が休まる事は無い。
「な、何故だ!」
「何故?それは発射したと同時に、充填してるからに決まってるでしょ。何故とか言う余裕があるみたいだし、速度を上げてあげよう」
「ま、待て!」
火球を放つ速度を、倍にしてみた。
最初は防いでいた火球も、気付けば肩や腹に命中している。
フルプレートの鎧に身を包んでいるからか、苦悶の顔は見えない。
だが、確実に痛みを感じているのは分かった。
「クックック。ハーハッハッハ!ねえ、どういう気持ち?馬鹿にしていた汚い人形に蹂躙されるって、どういう気持ちですかぁ!?気持ち悪いだとか言う前に、もっと強くなる努力でもしたら良いんじゃないの?そんな機会は、二度と来ないけどね!」




