急襲
全てが全て、日本を準えているわけではないみたい。
信長は本能寺で死んでないし、武田は信長に滅ぼされていない。
ましてや明智光秀なんか、信長の意志を継ごうとしているからね。
そう考えると、日本で起こった歴史を覚えていても無駄かもなぁ。
だって目の前の相手、武田軍を助けに来た上杉軍だよ。
誰がそんな事、想像出来る?
そんな上杉ことウケフジの騎馬隊だが、僕達の想像以上の強さを持っていた。
まさか世紀末軍団ことトライク隊が、こうも簡単に手玉に取られるとは。
挙句にトライク慣れしていなかったドワーフと妖精達は、下車していた事で更に混乱を招いている。
僕はオケツを軽く睨んだけど、彼は聞かれなかったから知っているのかと思ったと答えやがった。
兄がボブハガーと戦った時、もしアイツが馬にでも乗っていたら?
負けはしないだろうけど、簡単には勝てなかっただろうなぁ。
タコガマ隊の援護により窮地を脱した皆だったけど、予想外の展開も待っていた。
ハクトが見つけた空を飛ぶ魔物、ワイバーン。
それには人が乗っているという。
僕もオケツと一緒に大将として最後列に居たから、それが見えた。
昔、騎士王国はワイバーンに乗るとか言ってた気がした事を、今更になって思い出した。
上空で旋回するワイバーン達は、後方部隊の居る方へと戻ってきた。
すると彼等は、空から何かを落としていく。
「爆弾だ!魔法で防げ!」
蘭丸が咄嗟に叫んだ事で、トラックに乗った魔法兵達が一斉に風魔法を唱えた。
爆弾は風に煽られて、明後日の方向へ飛んでいく。
地面に落下した爆弾は、大きな音を立てて爆発した。
地面が抉れているのを見たトラック運転手は、穴に嵌らないようにハンドルを切っていく。
「かなり強力だな」
「マズイよ。あんなに空高いと、弓も魔法も当たらないよ」
ハクトの弱音を聞いた連中は、その通りだと意気消沈していく。
だが蘭丸は、大きな弓を引いて矢を空へと放った。
「届いた!」
「駄目だ。あのワイバーン、速いよ・・・」
「普通のワイバーンなら当たってたのに。騎士王国の乗るワイバーンは、強く育てられてるのか」
蘭丸の矢は、ワイバーンの飛んでいる高さまでは達していた。
だがその矢を見た騎士が、ワイバーンを操っていとも簡単に避けてみせた。
「僕達じゃ無理だ・・・」
「あの空を飛ぶトライクなら!」
「前線で戦っているから、こっちの異変に気付いてもすぐに来れないよ」
「じゃあどうするんだよ!」
弱気な発言を繰り返すハクトに、蘭丸は焦りから苛立ち、声を荒げた。
そこに、火に油を注ぐような声が蘭丸の耳に入る。
「あら〜、短気は損気よ。怒っても仕方ないもの」
「見てるだけも仕方ないだろ!って、佐々殿!?」
「ベティって呼びなさい。イケメンボーイ」
「はあ・・・」
トラックの荷台は、大型なのでそれなりの高さがある。
しかし空を飛んでいるベティは、蘭丸達と視線の高さを合わせていた。
「まお・・・孫市様からの命令よん。アタシ達がアレの相手をするから、前方を支援しなさいな」
「なるほど!鳥人族なら空で戦えますもんね!」
「俺達も皆を助けるぞ!後方支援なのに支援出来ないんじゃ、意味が無い」
ベティの登場により、何も出来ずに浮いていたトラックは、ようやく前進を始めた。
トラックの上から鳥人族に対して手を振って返すと、彼等は一気に空へと上がっていった。
「これでひとまず、地上戦は何とかなりそうね。さて、これからよ」
「ベティ様」
鳥人族が、ベティの周りに集まっていく。
緊張した面持ちで、ベティの合図を待っていた。
「アンタ等、先日の失態は何?上空を取って有利なはずのアンタ等が、みっともない姿を見せやがって」
いつもと口調が違うベティ。
鳥人族の間に、更に緊張感が増した。
「今日も同じような姿を見せたら、テメェ等ぶっ殺すぞ!分かったらあのワイバーン共、全部叩き落としてこいや!」
「怖っ!」
「ベティさんの本性って、あっちなのかな?」
「どうだろう。でも、優しいだけじゃ領主は出来ないのかもな」
空の上から聞こえた怒号。
いつもはのらりくらりとした受け答えや、女性らしい仕草をするベティ。
初めて見せた男の部分が強烈過ぎて、蘭丸とハクトだけでなく、ほとんどの者達がわざと上を向かなかった。
「見えたけど、どうなってるんだ?」
「やっぱり騎馬隊、強いみたいだね」
ドワーフと妖精族の連携により、ウケフジ騎馬隊は一進一退の攻防へと変わっていた。
対して世紀末軍団は、速さなら騎馬隊より勝るものの、小回りの利く馬に翻弄されている。
「俺達はトライク隊の援護をした方が良さそうだ」
「でも、あんなに動き回られると当てられないよ」
「良いか皆。当てなくて良い。動きを制限するんだ。そうすれば、前田様や佐藤殿達なら倒してくれるはずだ。追い込むように、放てぇ!」
蘭丸の号令により、弓矢がある方向へと矢の雨が降り注いでいく。
それに当たるまいと避けていく騎馬隊は、トライクと並走する事になった。
「良くやった!行くぞ野郎共。ヒャッハー!」
又左の合図で攻撃を開始する、世紀末ヒャッハー軍団。
彼等は主に剣や槍を持っていたが、変わった物を使っている者達も居た。
長い鎖を振り回しているスキンヘッドや、火炎放射器を持っているモヒカンが良い例だ。
「よし!戦局はこっちに傾いている。後方支援は成功しているぞ!」
蘭丸の指揮に、高揚する後方支援部隊。
自分達の仕事が戦いの決め手になったと言われ、彼等の集中力は大きく増していった。
「地上戦は、ほぼ勝ちが確定したみたいだ」
「お前、ウケフジの何処が弱いんだよ!」
「また強さが盛り返したかな?」
キリッとした顔で言うオケツだが、おかしいだろ!
又左と太田、佐藤さん達も居るのに苦戦するって。
こんなの普通じゃないぞ。
「一益、長秀。残りのドワーフと妖精族を率いて、又左達と交代だ」
「ようやく我等の出番ですかな」
「滝川殿、参るぞ」
大鎚を大きく振り回して担いだ一益は、既にやる気十分の長秀の後へと続いていく。
ドワーフと妖精族もそれに続き、後方には僕とオケツ以外は補給部隊だけになった。
「もう一回言うけど、これの何処が弱いんだ?」
「アハ、アハハ。何でかなぁ?以前と同じくらい強くなってる気がする」
「・・・理由は?」
「分からない。多分だけど、トキドとウケフジの新しい大将が、力を得たのかもね」
勝頼と景勝か。
確かに弱い武将ではなかったはず。
でもおかしくない?
「大将の二人が強くなっただけで、こんなに変わるものなの?」
「変わる。俺も理屈は分からないけど、率いる大将が強いと、家臣達の能力も上がるんだ。現にお館様が生きていた時は、俺達はほとんど負けていないしね」
騎士王国の人間特有の、何かがあるのか。
実に興味深いけど、これは困ったな。
「それって、トキドとウケフジの大将も強いって事だよね?」
「そうなるかな」
「その二人を下に置くハッシマーは、相当強くなってるって事じゃない?」
「・・・」
無言かよ!
秀吉はハッシマー本人は強くないって言ってたのに、この状況だと大きく変わっちゃったか?
「と、とにかく!今はこの関所を抜けよう」
「お前、他人のところの兵だからって簡単に言うなよ。このまま通過しようとすれば、背後から襲われるのは確実だからな。大将二人が出てきたら、無傷では済まない。今のうちに全滅させないと、後が面倒だぞ」
「ねえ、それってフラグって言うんじゃない?」
「え?・・・しまった!」
自分で言ってて気付かなかった。
いやいや!
そんな都合良く、敵さんの大将なんか
「報告します!関所外から猛スピードで迫る、騎馬隊を発見!」
「だあぁぁぁ!!」
やっちまったあぁぁ!!
絶対にウケフジ本人だよ。
トキドの援軍に駆けつけた感じの、登場の仕方だよ。
「本当に来ちゃったね」
「・・・すまん。だから、自分のケツは自分で拭く!」
こうなったら、ウケフジは自分の手で
「報告します!前方上空より、大きなワイバーンを確認。上空で戦っている鳥人族を、挟撃しようとしている模様!」
「ぬああぁぁぁ!!!トキドォォォォ!!!」
「また来ちゃったね」
「うるさい!分かってるわ!」
地上はまだ一益や長秀に加えて、佐藤さん達も戦ってるから大丈夫だけど。
空は完全にヤバイ。
流石に鳥人族と言えども、挟まれたら身動きが取れなくなってしまう。
「どうしたものかどうしたものか。官兵衛!」
「空の救援に向かいましょう」
即答する官兵衛に、僕もすぐに答えた。
「兄さん!助けてくれ!」
「呼ばれて飛び出て、じゃじゃじゃじゃーん!」
「古いなぁ・・・イテッ!」
俺はふざけた態度を取るオケツを殴った。
コイツはハッシマーを倒させないといけないから、こんな所で戦わせて怪我を負わせられないらしい。
だけどタンコブくらいなら、関係無いだろ。
「ゴメンー!こんな事になるなんて」
「お前の一言はたまたまだ。言ったからって、音速で飛んでこれるわけでもないし」
「その通りではあるんだけど」
フラグが立ったと思っている弟は、気まずそうな声をしていた。
「魔王様方は今すぐ二手に分かれて、地上と空の指揮をお願いします」
「空の援護は俺だけ?」
「いえ、戻ってきた又左殿達を空に上げます」
そういう事か。
トライクを変形させて、飛行モードにするってわけね。
それなら後から来たトキド本隊の足止めも、出来そうだ。
「じゃあ、俺が空へ上がる。お前は地上を頼んだぞ」
「分かった!ベティ達を頼んだよ」
「誰に言っている。天下の傭兵、雑賀孫市様だぞ?」
「それな。僕も孫市だから、絶対に勝たせないと!」
俺の言葉で、少しは気が楽になったみたいだな。
さっきのような暗い声じゃなくなった。
「キャプテン、お待たせしまイタイ!」
「今は孫市だ」
「そうでした。ワタクシとした事が」
「野郎共!ベティ達を狙っている、あのデカイワイバーンを止めるぞ!」
「ヒャッハー!空は自由だぜぇ!!」
又左達を筆頭に、空に上がっていくトライク。
「あ、慶次も居たのか」
「拙者、今回は兄上の援護に回っているでござるよ」
「へえ、どうして?」
「奴等は強い。兄上のトライクでの戦いではでは、少し危ういでござる」
ほう。
一度又左に勝ったからか、余裕が生まれたらしい。
慶次が自分から前に出ず、誰かのサポートをするなんて思わなかった。
・・・アレ?
俺も毎回、弟にサポートしてもらってた気がしてきたぞ。
「あ、兄貴を助けてやるんだぞ」
「任せるでござる!」
慶次は腕を上げると、そのまま空へと向かっていった。
・・・ん?
ちょっと待てよ。
「俺のサイズの空飛ぶトライクはあるのか?」
「ありませんよ」
「何ィィィィ!!」
官兵衛から当たり前だろって顔で、無いと言われてしまった。
俺、どうやって追いつけば良いの?
「魔王様達には、空飛ぶトライクは用意しておりません。むしろ、用意すると怒られてしまうので」
「そうだよ。以前も怒られたじゃない」
「前?あぁ!そうだったわ」
今更思い出した。
あの二人、今は何してるんだろ?
「出てこい!ツムジ、コルニクス!」
俺の目の前の空間が歪むと、二人は大きく羽ばたいて登場した。
「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん!俺、参上!俺達の事を忘れるとか、何してくれるワケ?空は俺達の領域でしょうが!あんな鉄で出来た重い乗り物なんかより、俺達の方が速いに決まってるっつーの!」