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騎乗した騎士

 一万を超える行軍なのに、バレないとか。

 やはり魔法って凄いよね。

 コバのアイテムのおかげもあるけど、こんな人数で歩いているのに分からないんだもの。

 ゆっくり進んでたとはいえ、国境まで来て誰にも気付かれなかったのは、流石に驚きしかなかったよ。


 国境線まで来たら、もう隠れる意味は無い。

 後方からは丸見えなので、国境を抜けて後ろから確認されれば、僕達はバレバレだからね。

 というわけで、ここからはいよいよスピードとの勝負。

 ドワーフ達が関所の壁をぶち壊し、一気に制圧に入った。

 この関所破りがハッシマーに伝わらないように、狼煙や伝令役、伝書鳩のような鳥を飛ばさせないように気を付けたのだが。

 意外に誤算だったのは、鳥人族が騎士達に苦戦していた事だ。

 何人もの騎士達が馬で逃げる中、複数の鳥人族を相手に一人で粘りを見せていたらしい。

 討ち漏らしは無いと思うが、ハッキリ言ってこれは今後が思いやられる展開だった。


 スピード勝負のここからは、こちらも行軍速度を上げなくてはならない。

 徒歩からトライクに切り替え、そして後方支援用には大型トラックも作り出した。

 普通なら驚くところだけど、オケツの反応はそこまでじゃなかったな。






 やっぱりオケツは、現代人だという事だろう。

 驚きはしていても、未知の物を見た驚愕といった感じではない。

 驚き半分、呆れ半分みたいな反応だった。



「魔法って、こんな物まで作れるの?」


「これは特別。魔王だからっていうのもあるけど、知識も無いと無理だね」


「知識が必要って事は、トラックの作り方なんて知ってたんだ?」


「流石に知らないよ!ただ、こっちには天才が居るからね。分かるまでお勉強ですよ・・・」


 僕がコバを見た事で、オケツはなるほどと納得していた。

 コバはトラックの確認をしてから、弓兵と魔法兵を順次乗せていく。



「うむ、大丈夫。走れるのである」


「マオくん、僕達、先に行くから」


「弓だけっていうのは少し物足りないが、その分名のある奴を倒してやるよ」


 ハクトと蘭丸が乗り込むと、運転手が合図のクラクションを鳴らして出発する。

 クラクションを鳴らす事で、トラックの前は全員が道を空けていた。



「これで一気に進めるはず。合間にも関所があるし、トキド領とウケフジ領もある。気を付けないと駄目だけど」


「トキド?ウケフジ?」


「あぁ、分かりやすく言えば、トキドは武田ね」


「じゃあウケフジは上杉?」


「そう」


 武田ってまだ残ってるんだ。

 信長に滅ぼされてるかと思ったんだけど。

 ボブハガーが死んだから、結構グチャグチャになってるのかもしれない。



「武田と上杉って言うくらいだ。強いんでしょ?だったら味方に引き込めば、助かるんじゃないの?」


「それが両方とも、前大将は強かったんだけど・・・」


「今は違うと?」


 頷くオケツ。

 どうやら信玄モドキと謙信モドキが死んだ後、一気に国力が落ちたらしい。

 その隙を狙って、ボブハガーが支配下に置こうとしたらしいんだけど、自分達の力を弁えていたらしく、お互いに協力してボブハガーに対抗したとの事。



 信玄達の後だから、勝頼と景勝かな。

 そういえば景勝の正室は、勝頼の娘だった気がする。

 信玄と謙信亡き後は、意外と仲良かったイメージなんだよね。


 ただ、景勝は豊臣秀吉の重臣になってるからなぁ。

 今は強くないって言っても、直江兼続とかそれなりに有名武将も配下に居たし、甘くないかもしれない。



「そのトキドとウケフジは、ハッシマー配下になってるの?」


「なってないなら嬉しいけど、ウケフジがハッシマーと懇意にしていたからなぁ」


 そりゃそうだよな。

 こんな状態で反抗してそうなのは、時代通りなら北条家くらいか。

 うーん、北条家仲間に出来ないかなぁ。



「ちなみに北条家を仲間に出来ないかなとか、考えてるでしょ?」


「お、おぅ」


「残念ながら北条家に当たるノウトウ家は、先に滅んだよ。トキドが滅ぼしている」


「マジか!」


 僕はこれには大きく驚いた。



 武田と北条が戦った記録は、実は残っている。

 三増峠の戦いというのだが、実際に武田軍の勝利で終わっていたのだ。

 地元では違うと思うけど、日本全体で見ればこの戦いは、そこまで有名じゃないと思う。

 ただし、別の視点から見ると有名だったらしい。

 戦国時代でも有数の、山の中での戦いだったという。


 それを戦国時代マニアの友人から聞いた僕は、何故か妙に頭に残っていた。

 そんな武田北条だが、まさか北条家が滅亡させられるレベルで敗北していたとはね。

 信玄モドキ、強過ぎだろ!



「ボブハガー、信玄モドキによく勝てたね」


「勝てなかったよ。だから和睦を結んでいた。ドムダワなんかいつも負けてたから、和睦結んだ時に不満だらけだったみたいだけど」


 信玄が、死ぬまで待とう、ホトトギス?

 まさかね。






 この騎士王国では、トキド領とウケフジ領が隣り合っているらしい。

 そして、そのトキド領へと世紀末軍団が侵入したのだが。



「ヒャッハー!」


「水だぁ!水をぶっ掛けろぉ!」


 もらうんじゃなくて、上げるんだ。

 とは言っても、その水圧はなかなかのものだった。

 関所の壁は倒され、騎士達も水で転がっていく。



 トライク部隊の先頭を走る、肩にトゲトゲの付いた鎧を着た男、太田。

 そしてその横には上半身裸の男、又左も槍を振り回していた。



「この関所の騎士、弱くないですか?」


「ヒャッハー!死にたくなければ、道を開けろぉ!」


「又左殿」


「ん?あぁ、すまん。この格好になると、何故か言いたくなるのだ」


 又左が正気を取り戻すと、二人はトライクを止めて周りを見回した。

 騎士達が応戦するも、他の関所と比べると数段弱い。



「弱いな。何故こんなに弱いんだ?」


「分かりませんな。もしかして、馬に乗ってないから?」


 太田が冗談を言うと、又左もそれに乗っかる。



「せめて何かに乗れば、強いのかもしれない。それが豚や牛でもな」


「それは言い過ぎだと思いますけど。ただ言われてみると、今までは馬に騎乗した騎士達と戦っておりませんな」


「そんな事を言っていたら、本当に来たぞ!」


 関所の中からではなく、外からやってくる騎馬隊。

 予想外の方からの攻撃に、トライク部隊は隊列を大きく乱した。



「どういう事だ!?」


「佐藤殿!」


 トライクに乗っているとどうしても戦えない佐藤は、一人下車して戦っていた。

 しかし騎馬隊の乱入で、一人孤立してしまっていた。



「な、何だ!?うっ!」


 槍で突かれる佐藤は、今までここで倒した騎士達と動きが違う事に驚く。



「コイツ等、強いぞ!又左殿、太田殿!気を付けろ!」


「分かっている!クソッ!トライクより小回りが利くとは」


「速いですね。このままだと部隊は、ズタズタに分断されますぞ」


 太田が言っているそばから、どんどんと他のトライクとの間に騎馬隊が入ってくる。

 妖精族とドワーフ達は慣れないトライクから下車していた為、更に分断されていた。



「コイツ等、ハッシマー兵なのか!?明らかに練度が違うぞ」


「ワタクシ達では、分かりませんな。こうも動き回られると、味方にもバルディッシュが当たりかねませんし」


 戸惑う二人に対して、騎馬隊による攻撃が繰り返し行われる。

 隙が無い為、反撃のタイミングが図れなかった。



「後方支援を待つしかないのか?」


 又左達が騎馬隊の攻撃を受け止めていると、遠くから煙が上がっているのが見えた。

 その煙は徐々に近付いてくる。



「敵か?味方か?」


「ワタクシにも確認出来ません。敵だと厄介ですぞ」


 とにかく今は耐える時。

 そう考えた二人の前に現れた人物。

 それは予想外の男だった。






「待たせたのじゃあ!」


「タ、タコガマ殿か!?」


「倒さなくて良い!道を作るのじゃあ!」


 タコガマは自らの部隊を率いて、又左達の世紀末軍団を助けにやって来たのだ。

 倒せはしないものの、包囲網を緩くしていく動きに、トライク部隊はその間を抜けて騎馬隊を突破していった。



「タコガマ殿の騎馬隊か!?」


「いかにも。騎士王国は皆、騎馬隊を持っているのじゃあ」


 予想以上に強いタコガマ隊に、又左は驚いた。

 何故なら、自分達が戦った時よりもはるかに強く感じたからだ。



「馬に乗ると、こんなに変わるのか!?」


「ワシ等は騎士王国民じゃあ。何かに乗って、本来の力を発揮する。しかしハッシマーは、そんなワシ等に馬を用意せんかったのじゃあ」


「反乱を恐れての事ですかね」


「多分そうじゃあ」



 前回タコガマと戦っていない太田は、平然とそれを眺めている。

 しかし又左は、タコガマ隊がこれくらい強いなら、自分が戦ったニラ隊も同等の強さを持っているだろうと感じていた。

 そして彼は、騎乗していたら今頃は越前国は落ちていたと、改めてゾッとする思いが込み上げてきたのだった。



「今は味方でありがたい!」


「オウ?」


 又左に心からの言葉を言われて、タコガマは少し戸惑った。



「タコガマ殿、この部隊もハッシマー隊なのか?」


「これはウケフジの騎馬隊だろうな。関所外からやって来たという事を考えても、隣領から来たと考えるべきじゃあ」


「なるほど」


「では、この領の騎士は何処に?」


 太田の疑問は当然だった。

 気付くと、トキド領の騎士達が見当たらないのだ。



「マズイぞ!トキドの騎士はアレを出す!」


「アレ?」


「来たんじゃあ!」






「後方支援って、何も出来ないじゃないか!」


 騎馬隊が乱戦に持ち込み、器用にドワーフや妖精族の間に入っている。

 あの機動力では下手に撃てば、味方にも当たりかねなかった。



「僕達、支援魔法しか出来ないね」


「音魔法で動き止めちゃえよ!」


「この人数だと、僕の魔力は一秒も保たないよ」


 騎馬隊の動きを止めようにも、やはり手段は無い。

 後方でヤキモキした気持ちを持っていた蘭丸とハクトは、他の弓兵や魔法兵達同様、トラックの荷台から見ているだけだった。



「降りて接近戦で戦うか?」


「あの人達の二の舞になるだけだと思う」


 ハクトが示す方向は、同じ考えをして下車したエルフだ。

 すぐにウケフジの騎馬隊に囲まれて、今では傷だらけで防戦一方だった。



「剣が多少は使えるみたいだからアレで済んでるけど、僕程度の腕前だとすぐにやられちゃうよ」


「そうか。どうしようもない・・・いや、誰かが助けに来た!同じような騎馬隊だけど、誰だ?」


 タコガマの騎馬隊に助けられていく、ドワーフと妖精族。

 彼等と騎馬隊の距離が出来た事で、待っていた弓兵と魔法兵は一斉に攻撃を開始した。



「行け!蹴散らせ!」


 ウケフジ隊が回避一方になっていき、少しずつ後退を始めていた。

 それを見た蘭丸は、追い打ちとばかりに弓で射抜いていく。



「流石は昌幸殿とコバ殿の合作。この弓なら、騎士達の鎧も貫けるぜ!」


「油断しちゃ駄目だよ。そもそもこんな関所で時間掛けてる場合じゃ・・・」


「ハクト、どうした?」


 突然言葉を失うハクト。

 ハクトの耳が、動いている。



「どうした!?何があった?」


「聞き間違いかな?いや、こっち来てる!」


「何が来てるんだ?」


「真っ直ぐ向かってきてるよ。もうすぐ分かる」


 ハクトが視線を空にやると、それは影を作り、そして通過していった。

 他の魔法兵や弓兵もそれに気付くと、一斉に空を見上げていた。



「マジか!こんな時に魔物だと!?」


「違うよ」


「魔物だろ!」






「あのワイバーン、人が乗ってる。敵か味方か分からないけど、ワイバーンに乗って、僕達を見に来たんだ。ほら、転回して戻ってくる。攻撃を仕掛けてくるよ!皆、気を付けて!」

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