進軍開始
一撃必殺の電撃作戦。
官兵衛の作戦は、今までの中でも特に奇抜な考えだった。
ほぼ全軍でハッシマーを狙うという、このとんでもない作戦。
ただね、やっぱり帰る場所は残っててもらわないと。
そもそも進軍した後に越前国が落とされでもしたら、僕達は越前国を落とした軍と騎士王国から出撃した軍に、挟撃されちゃうんだよね。
そう考えると、越前国には最低限の人数は残しておきたい。
特に指揮が出来る人をね。
やっぱりお市には、越前国に残ってもらう事にした。
彼女なら越前国を守るのに適任だろう。
いよいよ出発の日が来た。
オケツは僕と似ているところがある。
あまり人前に出たがらないというか、注目を浴びるのが苦手なタイプだと思う。
そんな彼が今回の大将になる。
僕達はあくまでも、雑賀衆として雇われる身。
彼がビシッと決めないといけないんだけど。
やっぱり無理かと諦めていたところ、兄が手伝いを買って出た。
お市もそれに乗ると、とうとうオケツも覚悟を決めたらしい。
本能寺ではないけど、あのセリフを言うとはね。
流石の僕も、少し気分が上がったよ。
オーサコ城か。
明らかに大坂城だよな。
大坂城が作られたのは、信長が死んでかなり先だと思ったけど。
こんなに早く作られていたという事は、ハッシマーは元々ボブハガーを倒す気だった?
「しかし本能寺じゃなかったにしろ、あのセリフにはテンション上がったぞ!マジでカッコ良かった」
「僕も同じだ」
「本当はね、もう二度と言わないセリフだと思ってたんだけどね。お館様に下剋上なんかするつもりは、二度と無かったし。ただ言う相手が奴なら、俺は言うよ」
オケツの真剣な目に、僕達はちょっと悪い事をしたなと思ってしまった。
真面目な奴を茶化すほど、僕達は腐ってないつもりだ。
「者共、進軍じゃ!」
「お市が言うのかよ!」
「いや、彼女が言うのに相応しいと思うよ。俺はあくまでも、飾りの大将だし。ハッシマーさえ倒せれば良い俺と違って、越前国を脅威に晒した連中を怒っているのは彼女だからね」
オケツは僕達と一緒に、ゆっくりと後方を歩いている。
何故こんなにもゆっくりな進軍なのかというと、それには理由があった。
この進軍が本当に見つからないかという確認の為だ。
スピードとの勝負とは言ったが、騎士王国との境まで行くのに進軍が見つかったら、元も子もない。
その為越前国から近いこの場所で、本当に隠蔽魔法が効いているのかという実験も兼ねていた。
そしてお市からは、その実験が成功した事を伝えられた。
「万を超えるこの人数がバレないとか。マジでヤバいな」
「科学と魔法の融合だよ。コバと長秀のおかげだな」
これにはコバが以前使った、周囲に溶け込ませる迷彩シートのような物と、長秀による森魔法の融合で出来ている。
先頭と両サイドにはシートを等間隔で持ってもらい、その間からは長秀に教わった森魔法を使用している。
なんかよく分からない魔法だったが、木を隠すなら森の中的な感じの話をしていた。
それに加えて、秀吉と僕が話をしていて作ってみた火と風の複合魔法で、蜃気楼というのも含まれている。
「天狗達が前方と空から確認して、見えなかったみたいだけど。後ろからは丸見えだってさ」
「後ろにも、あのシートを持たせれば良いんじゃないのか?」
「材料不足である!こんな人数を隠す為に使うなど、想定しているはずが無いのである!」
「ビックリした!」
怒り気味のコバが、僕達に文句を言ってきた。
このシート製作のおかげで、自分のやりたかった事が一時ストップしてしまったらしい。
本来なら自分のやりたい事を優先するであろうコバだが、今回は違う。
お市の怒りを買いたくなかったコバは、何も言わずにせっせと作り上げたらしい。
と、三馬鹿から聞いたのだ。
ちなみに彼等も今回は、珍しく従軍してきている。
この人数である。
同時に何か起きたら、コバ一人では対応しきれない。
サポートとして、彼等が出来る事は任せようという事らしい。
「ふむ。アポイタカラの方も、バッチリのようだ。この調子なら、国境までは見つからないで済むであろう」
「あ?コレ、アポイタカラ使ってるの?」
「魔王は馬鹿か?」
「馬鹿で悪かったな」
兄がコバから呆れられると、不貞腐れたような態度を取った。
ただ、ちょっと考えれば分かると思うんだけど。
「妖精族が使ってるんだろ?」
「ほう?流石はこっちの魔王は、優秀であるな」
「天才にお褒め預かり、光栄です」
「良いもーん!俺は肉体担当だから、そういうのは知らなくたって関係無いし」
ガキっぽいなぁ。
そっぽを向いて、コバを見ようともしない。
仕方ない、説明してやるか。
「これはさ、森魔法って言ったでしょ?流石にそんな魔法は、僕達の中には使い手は居ない。でも同じ若狭国から来た妖精族の連中なら、使える人は多いよね?」
「そっか!だから両サイドには、妖精族ばかり居るんだな」
「そう。でも妖精族が何日間も、ずっと魔力を消費出来ないでしょ?だから」
「アポイタカラの魔力を使って、森魔法を使ってるのか!」
「正解。なんだ、ちゃんと分かってるじゃない」
「ウフフ、俺もそこまで馬鹿じゃなかったな」
機嫌を良くした兄は、ニコニコで前へと向かっていった。
妖精族に声を掛けようとしている。
「弟の方が、兄の扱いが上手いんだな」
「まあね。うちの肉体担当は、単純だから。間違えてもらっては困るのは、単純なのは僕の肉体担当であって、魔族の肉体担当じゃない事は保証する」
「ハハッ!それは柴田殿を見れば分かるって」
それもそうか。
あの人こそ、知能派肉体系を証明している。
唯一の弱点は、鬼なのにちょっと気弱なところかな。
「それでも強いから、期待はしておいてよ」
「それも分かってるよ。お館様がやり込められたんだから」
そう言って笑うオケツだが、ちょっとだけ寂しそうな顔をしていた。
まだボブハガーの死を、引きずってるんだろうな。
これはハッシマーを倒さない限り、ずっと続くのかもしれない。
いよいよケルメンとの国境までやって来た。
西側にやって来た事で、少しは気温は暖かくなっている。
だが、まだ雪景色が無くなったわけではない。
「監視が必ず居るはずです。監視役の乱破達は、もしかしたら見破るかも?遠回りして、居ない場所を通過した方が無難かもしれないですね」
「そうか。だったらここらで、力技と行こうか」
「アタシもタッキーに賛成よ」
オケツの慎重な意見に対し、一益やベティは強引な突破を提案してきた。
時間との戦いなら、そろそろ一点突破を試みる頃合いか?
「官兵衛」
「えぇ、領主様達の意見を取り入れます。妖精族の方々は、一度後方へ。そして前方には、ドワーフ隊と入れ替わります」
「よし来た!野郎ども!我等の力を、強者揃いと言われた騎士王国に見せつけるぞ!」
一益の号令により、ドワーフ隊が一気に前へと出てくる。
大盾を持つ者と大鎚を持つ者。
彼等は足が遅いが、その圧はかなりのものだ。
「監視を押し潰し次第、ドワーフを後方へ。そしてトライク部隊で前進します」
「トライク部隊?」
「コバ殿曰く、世紀末軍団という名前らしいです」
僕は首をグリっと回して、コバの方へ振り返った。
口笛を吹くコバに、悪びれた様子は無い。
「良いじゃん!俺はその名前好きだぞ」
「流石は魔王。吾輩も見た目重視なら、その名前しかないと思っていたのである」
「俺ならヒャッハー軍団とも呼ぶけど」
「それもアリである」
そんな馬鹿な話をしていると、関所がドワーフによって破壊された。
「狼煙は上げさせるな!伝令役も捕まえるんだ」
「佐々様!」
「アタシ達の出番ね。アナタ達、鳥人族の美しさを見せるのよ!」
僕達の目の前には、鳥人族が配置されている。
彼等は飛び立つと、一気に前線へと抜けていった。
関所を上空から抜けて、そのまま騎士王国内へと入った鳥人族達。
彼等は上空から、関所から駆けていく馬の前へと降り立った。
一撃の下に首を飛ばすつもりだった鳥人族だが、予想以上に強い騎士達に、手痛いしっぺ返しを食らっている。
関所から飛ぶ鳥を狙う弓兵。
既に逃げられそうな鳥には、水嶋爺さんの銃が火を噴いていた。
弾は鳥の逃げる先へ曲がり、結局は撃ち抜かれていた。
「強いじゃないの。アタシのところの連中、足止めは成功しているけど、怪我人も出てるわ」
「騎士王国は、帝国とは比べ物にならないくらい強いらしいからね。数と領土は帝国に負けるけど、質なら断然こっちの方が上だ」
それにヒト族の中では帝国より少ないだけで、僕達魔族よりかははるかに人数は多い。
もしハッシマーが騎士王国内を全て制圧して、全軍で越前国へ侵攻に来ていたら。
まず間違いなく、僕達が居なければ負けるだろう。
「ヒャッハー!雑魚は死ねぇ!」
「魔王様のお通りだぁ!」
「ぶびら!」
なんという酷い有り様。
鳥人族が足止めをしていたら、後ろからヒャッハー軍団が跳ね飛ばしていった。
空に舞う騎士達に、鳥人族がトドメを刺していく。
「ひ、酷い・・・」
ドン引きのオケツだが、兄はそれに対して言った。
「勝ちゃあ良いんだよ。勝ちゃあ」
「見事に悪役のセリフだね」
「魔王ですから」
「確かに間違ってないけど・・・」
僕と兄の言葉に、釈然としないオケツ。
だけど、僕も兄と同じ意見なんだよね。
ゲームならチートとか使いたくないけど、生死の掛かった戦いに、卑怯もへったくれも無いのだ。
「魔王様ぁ!行きますぜ」
トライクの後部座席に、又左が上半身裸で槍を担いでいる。
どうやら進軍の許可を取りに来たらしい。
「ワタクシそろそろ、汚物を消毒したいと思うのですが」
「消毒・・・」
太田のセリフに、何かを言いたそうなオケツ。
何かを言おうとして、言葉を飲み込んでいた。
「よし!又左、太田、行け!」
「ヒャッハー!汚物は消毒だあ!」
どうして性格が変わるんだろう?
トライクって、洗脳作用とかあるの?
そんな気持ちに僕もなったけど、頼もしい事に変わりないので放置しよう。
「アンタ等、結構やりたい放題やってるのな」
「失礼な!これでも自重してる方だよ。アレは勝手にやり始めたんだから」
嘘だけど。
オケツも納得してないみたいだし、この話は逸らそう。
「ところでだけど、この国境からオーサコ城まではどれくらい?」
「オーサコ城は早馬で約五日。この人数で向かうなら、早くとも一週間は見た方がいいと思う」
「そうか。だったら五日で行こう」
「はぁ!?」
ここからは急ぎなのだから、トロトロと歩いていられない。
だからこそ後方のネズミ族には、補給部隊として鉄や様々な材料を運んできてもらったのだ。
「さてと、悪いけど一旦戻るから」
「分かってる」
僕は元の身体に戻ると、創造魔法で大きな馬車を作り始めた。
「魔法ってこんな事も出来るの!?」
馬車が続々と完成していくと、目を丸くして驚くオケツ。
恐る恐る馬車を触ろうとしていたが、ネズミ族から怒られてしまっていた。
「これをトライクに連結します。危ないから離れて!」
「す、すいません!」
「ネズミ族の指示に従い、馬車を連結。乗り込み完了次第、順次出発を開始して下さい」
官兵衛の言葉に従い、ドワーフと妖精族、そしてネズミ族が乗り込んでいく。
「凄い。これなら五日よりも早く着くかも!?」
「そんなに驚かないでよ。これは前線に向かう為の馬車なんだから。こっちは後方支援用の、大型トラックだ。荷台から弓と魔法で攻撃出来る。ボタン一つで、防御用のアオリも出てくるぞ。凄いでしょ?」
 




