攻撃と守備
変形は男のロマンだよ。
加藤清正に似た名前を持つ、カトッティ・シヨタカ。
彼は形が変わる太刀を持っているらしい。
しかも三種類にも変わる、とんでもない妖刀らしい。
ロボットで言えば、陸海空全てを網羅していると言っても過言ではない。
兄が大興奮していたが、気持ちは分かる。
刀は男の子なら、一度は興味を持つ武器だ。
それが変形するとか言われたら、そりゃあ僕だって見てみたい。
ただしハッシマーの部下の中では、かなり強くて有名らしい。
会いたいような、会いたくないような・・・。
そんな強い部下や有能な文官を配下に持つハッシマー。
彼に対抗するべく、騎士王国内部からの揺さぶりとして、ハッシマーと敵対する武将を探してみたのだが。
丁度タイミング良いのか悪いのか、ドムダワという人物が討ち死にしたという報告が入ってきた。
最早、騎士王国を掌握するのは時間の問題だと分かった瞬間だった。
騎士王国を統一したら、それこそ手に負えなくなる。
官兵衛が見出した作戦。
それは越前国防衛ではなく、こちらからハッシマーへ攻撃を開始するという考えだった。
「えぇ!?お前等、マジで言ってるのかよ!あ・・・オホン!そうだな、こっちから攻めてやろうぜ!」
「もう遅いよ」
「だよな・・・」
官兵衛の作戦が分かっていなかった兄は、僕の言葉に改めて驚いていた。
知ったかぶりを貫けば良かったのに、驚いてしまってから取り繕う兄。
しかしバレバレだった為、顔を赤くして座っている。
「ちょっとお馬鹿な魔王は置いとくとして」
「酷い・・・」
お市に冷たい目で見られた兄は、他の領主達から可哀想な子を見るような目で見られていた。
悲しいかな、そこに魔王の威厳は無い。
「知ったかぶりなどするからじゃ。それはそうとして、黒田殿」
「何でしょう?」
「騎士王国へ向かうと言ったが、誰を残すのじゃ?」
お市の言葉に、皆は反応を見せた。
正直な話、僕もそれは気になっていた。
ハッキリ言って、領主達に加えてお市も含めて、攻めと守りが得意な人が分かれると僕は思っている。
例えば攻める方が得意な人物は、ベティや兄が当てはまる。
身体能力を活かして、自らが切り込んでいく。
これは守備になると、どうしても後手に回る気がする。
対して守備が得意な人物は、お市や長秀がそうかなと思っている。
お市は広域に攻撃が出来るので、防衛戦の際に城壁から一気に殲滅出来るだろう。
長秀はお市と違い、指揮が執れるタイプだ。
自分も戦えるし、部下達を使って上手く立ち回れる。
押し引きの見極めが上手いのは、まず間違いなく長秀だと思った。
一益はどちらも可能だが、どちらかと言えば守備寄り。
権六は逆に、攻撃が得意な方だと思う。
僕も自己分析すれば、お市と同じ守備寄りだろうね。
そんな考えを自分ではしているが、僕はあくまでも自分の考えだ。
軍師という戦いのスペシャリストである官兵衛は、どう考えているのだろうか?
それが自分とどう異なるのか、とても気になるところだった。
「守備は置きません」
「は?」
「正確には、越前国の妖怪だけを残します。自分達の街は、自分達で守っていただきたく思います」
「ちょ、ちょっと待て!もし伏兵に攻められたら、ひとたまりもないぞ」
一益が官兵衛の考えに異論を唱えると、他の領主も頷いた。
確かに僕も同じ考えだ。
だが官兵衛の考えは、僕達と根本的に違っていた。
「まず越前国防衛は、本当に必要最低限の人数だけにします。理由は時間との勝負だからです」
「時間との勝負?」
「そうです。我々が騎士王国へ侵攻を開始したとしても、時間を掛ければ優秀な部下達がその危機を聞きつけて、集まってきてしまうでしょう。彼等が騎士王国制圧の為に、今は各地に散っています。その隙を突いてハッシマーへ一気に近寄るのです」
「隙を見せている今だからこそ、一撃でハッシマーに近寄るというのか」
「その通りです」
時間との勝負とはそういう意味か。
確かにハッシマーの守備兵に時間を掛けていれば、その間にバティストゥータやカトッティと言った人物も、戻ってくるやもしれない。
これだけの人物だし、おそらくは自分の守備にはそれ相応の数を割いている気もする。
「質でも数でも圧倒する。短時間で一気に攻め上がり、ハッシマーの首を一直線に狙う、電撃作戦というわけだな」
「向こうもそれなりに、頭の良い人物が居るみたいです。これくらいの作戦を練らなくては、ハッシマーを出し抜けないでしょう」
なかなか厳しい事を言うな。
官兵衛的には、それだけ向こうを警戒しているという事なのかもしれない。
「分かった。その作戦にしよう。ただし!」
「何じゃ魔王、何かあるのか?」
「お市だけ残そう」
「何じゃと?」
お市が僕を睨んでくるけど、冷気は漂ってこない。
怒ってはいないという事だ。
だからこそ、僕は冷静に伝えた。
「僕達は今回、あくまでも傭兵の立場でオケツのサポートに回るという考えだった。しかし、ハッシマーが越前国を狙ってきている事から、少し考えも変わっている。いくらハッシマーを倒す為とはいえ、越前国を蔑ろにしていいという理由にはならない」
「俺も弟の意見に賛成だな。越前国はお市にとって、一番大事な場所だろ?だったら官兵衛の言った通り、自分達で守れば良いじゃないの。ハッシマーを倒すのは俺達に任せれば良いって事よ」
「魔王」
兄は得意げな顔を見せている。
僕は人形なので、表情は分からないと思うけど。
そんな僕達にお市は近付いてきた。
感謝の抱擁でもされるのかと、内心ドキドキだ。
「生意気な事を言いよるな!」
「アダ!アダダダダ!!マジで痛いって!」
兄はこめかみにゲンコツを挟まれて、グリグリと押し付けられている。
僕は人形で助かった・・・。
「だが、その心遣い感謝する」
「だったらやらないでくれよ」
「何か言ったか?」
「何でもないです!」
最初はその光景に、権六を筆頭に他の領主達も固まっていたが、今のやり取りで場は和んだと思った。
だが次の一言が、再び場を冷たくさせた。
「アンタ!将軍首の一つでも持って帰ってこないと、城には入れないよ!領主たる者、それくらいはやって来て当然なのじゃ!」
「それ、遠回しにアタシ達も倒してこいって意味よね?」
「う、うむ」
「圧が凄いですな」
ベティ達がコソコソ話すと、お市がそこを一瞥する。
すぐさま座り直す三人は、何事も無かったかのように振る舞った。
「魔王様の言う通り、お市様は越前国防衛を。後の方々は全員、騎士王国への攻撃に参加してもらいます」
「それ、本当か!?」
「うん。そういう事になった」
「マジかぁ。そうか、騎士王国か」
「僕もその話にはビックリした。騎士王国って、どんな場所だろう?」
久しぶりに会った蘭丸とハクトは、騎士王国へ行く事になって驚いていた。
王国や連合といった他国に行った経験はあるが、多少は事前に情報はあった。
しかし騎士王国は鎖国同然の国だった為、僕達には一切どのような国なのか情報が入ってきていないのだ。
オケツやタコガマに聞くと、僕の中では想像は出来たのだが、二人はオケツ達とは特別面識は無い。
「ハクトは能登村の家は覚えてる?」
「あぁ、多少はね」
「アレに近い造りみたいだよ。純和風に近い感じらしい」
能登村や海津町は、南に位置していた。
南側に位置する騎士王国とは近かったからなのか、生活様式が似ているっぽい話だ。
「だから城も、安土に似ていると思うぞ」
「へぇ、そうなんだ」
なんとなく想像しているのか、二人とも目を閉じている。
「二人には今回、弓兵扱いで戦ってもらうらしい。多分同じ部隊だから、前には出ないと思うよ」
「そうなのか?強いと噂の騎士王国兵。斬り合ってみたかったな」
「僕は後ろで良かったよ」
「強いのは本当だ。それに、いろんな種族の混合軍だからな。連携ミスには気を付けてくれ」
「分かった」
二人とは戦う場所が違う事になる。
後方だから大丈夫だと思うけど、安全とは言い切れないし、気を付けてほしいものだ。
二人はその後、弓兵の集まりがあるので集合場所へ向かっていった。
雑賀衆と称した連合軍が到着して、三日。
いよいよ騎士王国へ向かう日がやって来た。
今回は限られた人間しか、この作戦の話を知らされていない。
それはハッシマーに対する奇襲作戦という意味で、情報漏洩を防ぐ為だった。
そして出発直前になり、いよいよその作戦の内容を明らかにする時が来た。
万を超える魔族が、規律正しく並んでいた。
そこへ一人の男が登壇していく。
足を震えさせながらゆっくりと上がると、全員の視線がその男へと集中する。
「は、はじめましてぇ。ぼ、いや俺、私?アレ?」
混乱する男に、誰もが懐疑的な視線を送る。
「あー、ダメだなコイツ。完全に舞い上がってる」
「どうするの?」
「ちょっと手伝ってくるわ」
兄はそう言うと、緊張して何も言えなくなったオケツの横へ向かった。
「あー、ちょっと良いか?俺の名前は・・・孫市。そうだ、今は雑賀孫市だ」
その言葉に騒めく一同。
魔王を知らない者は居ないので、名前を偽っている事に疑問を持っているのだ。
そんな連中を、兄は大きな声で一喝した。
「聞け!俺達は今、雑賀衆として越前国へやって来ている。それは、横に居るこのオケツ・キチミテという男の依頼で来た」
「ちょっ!そういうの言わないで!」
慌てて言葉を遮ろうとするが、オケツを無視して話し続ける。
「彼の目的はただ一つ。アド・ボブハガーという主君の仇討ちだ。ボブハガーを殺したのは、その家臣だったハッシマーという男。そして正確には、ハッシマーから協力依頼を受けた帝国の大将だ」
帝国の名前を聞いた一同は、また大きく騒つき始めた。
彼等も自分達の領地で、帝国兵からの襲撃を受けている。
騎士王国に恨みは無くとも、帝国にはあった。
「俺がコイツの依頼を受けたのは、その帝国の大将とやらが俺達の仇でもあるからだ。その男は安土を襲った奴と、同一人物である可能性が高い」
「えっ!?そうなんですか?」
「そうなんだよ」
それを知らない権六は、僕に驚いた声で聞いてきた。
何故ここまで大事にしたのか、ようやく理解したらしい。
「越前国の皆は、襲ってくる馬鹿共を倒す為。俺達は仲間達を殺した、帝国をぶっ倒す為。コイツは自分の主君を倒した、憎い裏切り者を倒す為。皆の狙いは違うけど、目的は変わらない!ほれ、お前が続きは話せ」
「ここでバトンタッチ!?マジでハードル上げ過ぎだよ!」
オケツは文句を言いながらも、後ろに下がった兄の代わりに前に出た。
歓声を挙げていた連中も、オケツの声を聞こうと静かになった。
「あー、皆さん。俺はハッシマーに負けて逃げ出した臆病者です。守るべき主君に守られて、越前国へ逃げろと送り出されました。でも、負けっぱなしは男が廃る!皆さんの力が無いと仇も取れない俺ですが、どうか力を貸して下さい!」
「よく言った!」
後ろからお市が登場すると、静かだった場が更に静まり返った。
ここに居る連中は、お市の怖さを知っているわけでもないのに。
空気でも読んだのか?
「この男は敵わぬといって、逃げ出したわけではない。主君の仇を討つ力を身に付ける為に、一時騎士王国を離れただけじゃ。自らの力量も分からず、攻め込んでは逆に利用される馬鹿とは違う」
「馬鹿って・・・」
明らかにタコガマ達をディスってる。
シッチとニラはここには来てないけど、タコガマは・・・顔真っ赤!
怒ってるよな?
いや、恥ずかしいのか?
「あの、一応私の同僚なので」
「違うであろう?今はオヌシの配下じゃ」
「あ、そうでした。はい・・・」
「今回の大将は、魔王ではない。オケツ、お前じゃ。お前の掛け声で進む。さあ、皆が待っておるぞ」
お市が壇上から降りると、オケツは前を向いて叫んだ。
「では皆さん、これから騎士王国ケルメンへの侵攻を開始します。俺達が狙うべきハッシマーは、おそらく帝国の大将とも一緒に居るはず。そしてハッシマーが今、居城としているのはオーサコ城。我々の目的地はオーサコ。敵はオーサコ城にあり!」