作戦変更
ようやく官兵衛達が到着したよ。
もう半日早く到着してくれれば、もっと楽にシッチ達を倒せていたと思うんだけど。
それはワガママだと分かっているし、口にはしないけどね。
しかも話を聞く限り、ハッシマーも手を打ってたみたいだし。
西側から入るのは簡単にして、東側を重点的に封鎖していたみたいだ。
オケツが東に逃げたのを知っていたからかもしれないけど、なかなかの策士だと思った。
流石の官兵衛も手を焼いたみたいだけど、そこは騎士王国を彷徨った男が活躍したらしい。
越前国を追い出された秀吉は、なんと騎士王国で世話になっていた。
しかも魔法の知識が役に立ったようで、待遇も良かったらしい。
この男、本当に何処でもやっていけるなぁ。
途中で帝国側に連れて行かれそうになったのを機に、ハッシマーから離れたみたいだけど。
しかし、帝国の人間が居るにも関わらず、魔法の講義をするって。
一度帝国に捕まってるのに、危ない橋を渡る奴だな。
秀吉がこんな人物だから、ハッシマーも似てるのかな?
そう思ったけど、どうやら正反対っぽいな。
自分は大した事ないけど、人を見る目はあるか。
おそらく自分は後ろで、ドシッと構えているタイプなんだろう。
これ、結構面倒なタイプだ。
こういうタイプはまず、自分から前に出てこない。
出てくるのは、勝利確定時か何かしら事情がある時くらいだ。
そうなると僕達が勝つには、面倒な部下達を倒してからという事になるだろう。
なんてシリアスな考えをしているのに、横で兄は爆笑している。
「猿!ハッシマーは猿に似ているって!ブハハ!」
「そんなに面白いですか?」
「いやまあ、知ってるとな」
珍しく、兄も秀吉の話は知っているみたいだ。
秀吉は信長から、猿と呼ばれていたという。
ハッシマーもそれに倣って猿似というのは、確かに笑える話ではあった。
「ハッシマーが、武勇に優れていないのは分かりました。では、ハッシマーが発掘した有能な者達。それはお分かりですか?」
ナイスだ官兵衛!
今最も欲している情報だ。
どんな連中が居るのか分かれば、対策だって練りやすい。
「私がお会いしたのは三人だけですね。そのうち一人は、武将ではなく文官です」
「文官?」
「ハッシマー殿の代わりに、まとめ上げていました。名前はミスタ・イスナリ。小人族なので、戦いには出向いてこないと思います」
ハッシマーは小人族も、雇い入れているのか!
これには誰もが驚いた。
小人族は力も弱く、帝国から一番の搾取対象になっている。
魔法が使えないわけではないが、特に得意ではない。
手先が器用で、他種族との共生が主な種族だ。
そんな小人族をハッシマーが雇うとは。
余程、優秀な人材なのだろう。
「武将は?」
「他の二人は、バティストゥータ殿とカトッティ殿ですね」
「バティストゥータとトッティ?サッカー選手か?まさか騎士王国には、セリエAで活躍した選手達が召喚されたり・・・しないわな」
「サッカー選手?」
「いや、何でもない。話を進めてくれ」
兄がワケの分からん事を聞いたせいで、話が止まってしまった。
「まず一人目、バティストゥータ・ゴロク。彼はハッシマー殿の家臣団の中では、最古参になると思います。種族はオーガですが、変異種のようです。かなり強いと聞いています」
「オーガ!?また魔族か」
なるほど。
バティストゥータは蜂須賀か。
となると、カトッティは加藤だな。
「最後にカトッティ・シヨタカ。彼も古参ですが、一番敵として出会って怖いのは、彼になるでしょう」
「コイツも魔族?」
「いえ、ヒト族です。しかし、単独でも魔族より強いですね。バティストゥータ殿達よりも強いかと」
「ホントかよ!?」
魔族よりもか。
賤ヶ岳の七本槍だな。
誇張ではなく、本当に強そうだ。
「彼自身の強さもさる事ながら、問題は持っている剣が優れています。お話しした際に本人が言ってました。騎士王国内では、自分より太刀の方が有名だと」
「剣が有名?妖刀の類とかかな」
「その通りです。形状に合わせて名前が変わる、特殊な太刀だそうです」
「形が変わるだと!?」
兄が急に大きな声を出した。
するとたまたま聞こえたのか、一益がその声に反応する。
「武器が変形するのですか。我の大鎚と同じですな」
「お前も変わるのかよ!」
「カトッティ殿の太刀は、三種類に形が変わるそうです。それぞれ、国広、正国、助真と呼ばれています」
「三種とな!?我よりも凄い・・・」
「マジでカッコ良い・・・」
驚いてたんじゃなくて、カッコ良いだけか!
まあ変形は男のロマンでもある。
分からんでもない。
「ちなみにどのような形になるかは、ご存知ですか?」
「そこまでは流石に。私は彼が戦う姿を、見ていませんから」
そりゃそうだ。
ただの魔族の商人が、戦場まで一緒に行くなんて、おかしな話だ。
「ちなみに一益の大鎚は?」
「我の滝川高綱は、大鎚から大砲になります」
「大砲!?すげーカッコ良いじゃないか!」
「ただし、問題もありまして。大砲をぶっ放した後は、放熱が収まるまで持てません」
「最後の必殺技というワケだな。ぬはー!俺もそういう武器欲しい!」
兄の興奮は止まらない。
確かにそんな武器あったら、僕も欲しいな。
僕の場合は、その場で作り変える事も出来るけど。
やっぱりそういうんじゃないんだよなぁ。
「もうしばらくは、越前国は安全だと思います」
「どうしてそう言えるの?」
「ハッシマー殿は、まだ騎士王国内を全て制圧していません。下手にこちらへ武力を割いて、内部から攻撃されたら間抜けですからね」
なるほど。
そう考えるなら、騎士王国内で歯向かっている連中も居るのか。
「ハッシマーに抵抗してる人とは、連絡取れないの?」
「私では何とも。そもそも騎士王国内の人物に、詳しいわけではないので」
そりゃそうだ。
鎖国してた国の話なんか、内部の人間にしか・・・。
そうだよ!
「タコガマ達なら、知ってるんじゃないか?」
僕達は移動して、北ノ庄城の中に入った。
シッチとニラはまだ安静にしているので、タコガマだけを呼び出した。
「騎士王国内で、ハッシマーに抵抗している人物?あまり居りませんなぁ」
タコガマの話では、武田や上杉のようなめちゃ強い連中も居たらしいのだが、病気だったりして死んでから弱体化。
そしてボブハガーに負けて、更に弱小化してしまったらしい。
今では生き残りが、ハッシマーに仕えているという。
ただ、中立を保っている人物や、表向き協力関係というような人物なら存在するらしい。
「じゃあその中立とか裏では嫌っているのは?」
「ドムダワじゃあ」
「誰?」
「お館様とは、兄弟の契りを交わしていた人物じゃあ。ハッシマーとは元々、仲が良くない」
徳川家康の事っぽい。
表向きは協力関係とは、よく言ったものだ。
「彼とコンタクトを取って、味方に引き込まないかな?」
「連絡が取れれば、分からんでもない」
「難しいでしょうな。我々が騎士王国を脱出するのも、一苦労でしたから。もう一度入って、また戻ってこれる保証がありません」
秀吉の言い分の方が正しいか。
やはり内部から崩すのは難しいな。
しかもそんな考えをしていると、とんでもない情報が入ってきた。
「ドムダワ・ヒエマス、討ち死に!帝国の軍勢により、ドムダワ軍は壊滅したとの事です!」
「・・・入らなくて良かったな」
「確かに」
危うく会いに行ってたら、ソイツも死んでたと思う。
「そうなると、ハッシマー軍は騎士王国内を掌握するのは、時間の問題でしょう。それが完了した時は」
「越前国への総攻撃が始まるってか。ただ、こっちも揃ったからな。負ける事は無いだろうよ」
「楽観視は出来ないでしょ。というより、秀吉はハッシマー兵と僕達。どっちに勝算があると思う?」
どっちも知ってる彼から、忖度無しの言葉が聞きたい。
ただ、予想外の返答が来るとは思わなかった。
「勝てるとは思いますよ。ただし、先程聞いた薬物魔法とやらが、鍵になるかと。強化されていれば、それもひっくり返りますよね」
「そっか。帝国の方にも、魔法と薬に詳しい奴が居るんだもんね。ソイツがもっと改良していたら、分からなくもないって感じか」
頷く秀吉。
官兵衛も、それが懸念だと言った。
しかし官兵衛の顔は悲観していない。
「今なら確実に勝つ方法があります」
「そんなのあるの!?」
「我に策ありです」
官兵衛は最重要機密と称して、集めた人物を厳選した。
集まったのはお市と権六を除くと、僕と兄。
そして領主達とオケツのみである。
「秀吉は呼ばなくて良かったのか?」
「あの方には今回、前線で戦ってもらうつもりなので」
官兵衛がサラッと言うので、僕は小声で話し掛けた。
「お前、自分の所の元領主を、そんな雑に扱って良いのか?」
「良いんです。今のオイラの主君は、魔王様ですから」
即答で返ってきたのだが、嬉しいような恥ずかしいような。
気まずいような気持ちもある。
「魔王の所の軍師じゃったな。確実に勝つ方法があると、豪語したそうな?」
お市が目を細めて言うと、少し冷たい空気が流れてくる。
この微妙な冷気は、あまり出来ない事を言うなよという、脅しにも感じた。
「騎士王国に勝つ事は確実。唯一の懸念材料は、帝国軍です」
「帝国軍かぁ」
「奴等さえ居なければ、お館様が負ける事は無かったのに・・・」
オケツの言葉に、皆は黙り込んだ。
ハッシマーに手を貸している帝国軍は、騎士王国の内乱にどんどん参入している。
ドムダワが敗北したのが良い例だ。
「今でも続々と増えているみたいだし、時間が経てば経つほど面倒になりそうよね」
「そうだよな」
「私達はハッシマー軍と帝国軍、どちらと戦うんでしょう?」
領主達も、帝国軍の事は頭の中にはあったみたいだ。
ただ帝国軍は、ハッシマーさえ倒せば退去する可能性はある。
帝国はハッシマーへの協力が、騎士王国へやって来た名目だろう。
だったらそのハッシマーが居なくなれば、彼等には理由が無くなってしまうからだ。
「その通りです。今、佐々様が答えを言ってくれましたね」
「アタシ?」
皆から注目されるベティ。
急に立ち上がり、無駄にポーズを取っている。
「凍りたいのか?」
「綺麗な氷像になるのなら。ウソよ!嘘です。ごめんなさい」
ベティに向かって冷たい風が流れると、ベティはすぐに謝ってやめてくれと懇願した。
こんな真面目な話をしている時に、ふざけるからだ。
「それにしても、アタシが何を言ったのかしら?」
「時間が経てば経つほど面倒、だったかな?」
「その通りです!」
「オケツ、当たったじゃん!やったな」
「あ、あざーす」
兄とオケツがハイタッチしている。
またお市から冷気が漏れるかと思ったけど、そんな事はなかった。
「なるほどな。妾は貴様の考え、嫌いではないぞ」
「え!?分かったの!?」
「今の応答で、分からん方がおかしい」
「そ、そうだよな!なるほど、俺もそうだと思ったんだよ」
兄の目は泳いでいる。
全く分かっていない証拠だ。
しかし、他の領主やオケツも理解したようだ。
「かなり豪胆な作戦ね。でもアタシ、そういう目立つの好きよ」
「やられる前にやれ。我も単純で分かりやすいわ」
「私はもう少し、分析した方が良いかと思うんですが」
領主達の意見は様々だが、これはもうお市と権六。
そして僕の言葉一つで決まるだろう。
「お市と権六は、それでも良いんだね?」
「妾は構わぬ」
「私も市がよろしければ」
「ならば決まりだ。僕達は越前国防衛から、騎士王国への総攻撃へと移行する!狙うはハッシマーの首一つ。帝国軍は牽制だけして、ハッシマー軍を叩く。敵は騎士王国にアリ!」