大鎚、滝川高綱
似た者同士とはよく言うけど、彼等もそれに該当するのかな?
ベティとシッチは、おそらく佐々成政という繋がりがある。
生まれも育ちも違うし、種族だって違う。
もっと言えば、性別も違う?
いつものベティなら、殺すわよとか言って斬ってるはずなんだよ。
それなのに、無性に助けようとするのには、彼が何かに惹かれているからだと思う。
もしそれが、日本の武将だった佐々成政によるものだったら。
なんて事を考えると、ちょっとロマンを感じるよね。
それにしても、本当に空を飛ぶヒト族が居るとは。
オケツの能力と似たようなものなんだろうけど、明らかに様子がおかしい。
この能力、あまり身体によろしくないのかな?
でも、ボブハガーとオケツはそんな事無かったぞ。
ベティが言ってた洗脳と、何か関係がありそうな気もする。
しかし、奴を無効化してくれって頼んだのは僕だけど、コイツは光魔法以外に使う気は無いのか?
佐藤さんも咄嗟に腕で目を隠したみたいだし、やる事がバレてるって事だよな。
初見殺しではあるけど、そのうちベティのクリスタルには光魔法以外を入れないと、痛い目に遭うんじゃないかと心配になった。
タコガマは自信があるのか、無警戒に一益へと近付いていく。
新たな大鎚を手に、タコガマは一益に向かって防御無視の大振りをした。
「馬鹿が!そんな大振りをしている間に、我の方が早く当たるぞ」
「当たるのではない。当てているのだ」
「何!?ぬおぉぉ!!」
一益はタコガマの右肩を狙って横振りで叩いたが、弾かれてしまった。
姿勢を崩した一益に向かって、タコガマの一撃が一益の頭を狙う。
大鎚をその場に捨てて、慌てて横っ飛びで逃げる一益。
空振りしたタコガマの一撃は、その衝撃で地面に大きな跡が残っている。
「あ、危なかった」
「チイ!惜しいのう。しかし、いつまで逃げられるか?」
一益はさっき当てた右肩を見たが、今度は凹んでいる様子さえ見当たらなかった。
自分の攻撃が無傷で防がれた。
一益の心の中は、焦燥に駆られていく。
「おっさ領主殿!」
「水嶋殿、おっさんって言おうとしたでござるな?」
「そんな事はどうでも良い!あのおっさん領主、あのままだと負けるぞ」
「大丈夫でござる。あの人もなんだかんだで領主。まだ実力を隠しているでござるよ」
「そうなのか?あまりに必死に避けているから、そんな感じはしないのだが」
「演技でござる。拙者は上野国に居た時、ちょっと演技を教わったでござる」
「なんだ。演技なら問題無いな」
水嶋が慌てて慶次を援護にやろうとしたが、慶次の余裕ある態度を見て、考えを改めた。
右に左に避けながら、大鎚を振っている一益。
必死な顔は演技なのだ。
水嶋は名優じゃないかと思いながら、ハッシマー兵へと発砲した。
「慶次の奴め、余計な事を言いおって!ぬおう!」
右へヘッドスライディングで避ける一益。
明らかに余裕は無いように見える。
「これが演技とは。オヌシ、なかなかの俳優じゃのう」
「ふ、フフフ。我の行動に惑わされるが良いさ」
笑う一益の余裕が、タコガマの行動を慎重にさせた。
それを感じた一益も、大きく息を吐いた。
それも演技だぞと思わせながら。
マズイ。
非常にマズイ。
我一人では、どうにもならんぞ!
我の大鎚、滝川高綱がこうも弾かれるとは。
しかも慶次の馬鹿のせいで、我一人でどうにか出来ると思われている。
本音を言えば、援護を寄越してほしいのに。
ああも期待されてしまうと、領主として応えたくなってしまうではないか。
「どおりゃあぁぁ!!」
「だから、効かぬと言っている!」
避ける仕草も見せずに、一益の大振りを腹に食らうタコガマ。
余裕ある態度で、彼はこう言い放った。
「打撃も斬撃も、この玄武の前には効かん。故にワシは、アド家の鉄壁と言われているのじゃあ!」
「ほう?では魔法はどうなんだ?」
「魔法は食らった事は無いからな。知らん!」
一益は一縷の望みを見出した。
しかしそれは、最後の手段である。
それよりも一益は、少し疑問を感じた。
「貴様、アド家とさっきから言っておるが、まだアドを慕っておるのではないか?」
「当たり前の事を聞くな!ワシの主君は、後にも先にもアド・ボブハガー様よ」
「それはおかしくないか?そのアドを倒したのは、ハッシマーだと聞いている。奴に従う理由は無いであろう」
「・・・知っているとも。だがワシの力だけでは、奴には勝てん。皆も何故か、ハッシマーに協力するようになってしまった。だからワシだけは、せめてお館様の為に行動する」
「その行動が、ハッシマーに味方する事だというのか。矛盾をしているだろうが!」
「違う!全てはハッシマーに認められる為なのだ。ワシの武勲で、お館様の立派な墓を作ってもらうつもりだ。奴の機嫌を損ねれば、それすらも許してもらえんだろう」
一益は、なんとなく理解した。
タコガマの行動が、全てアドの為という事を。
自分では勝てないと不貞腐れるのではなく、自分が出来る事をしようと考えている。
それが憎き相手の助力になろうと、せめてもの恩を返そうという考えだった。
「タコガマと言ったな。その心意気、嫌いではない。だが!どうしてハッシマーを討とうとしない!?それこそオケツ殿のように、誰かに助力を願い出れば良かったではないか!」
「黙れい!オヌシは今の騎士王国が、どういう状況か分かっておらん。お館様が成そうとしていた天下布武も、全て狂ってしまった。今は誰もが敵なのだ!」
「では、何故オケツ殿と手を組まなかった?彼が越前国に頼った事は、知らなかったのか?」
「それじゃあ!何故、奴だけが生きているのだ!?お館様とジヴァ殿は討ち死にしたと聞いている。なのに、奴だけが生き残っているのは、おかしいではないか!」
言われてみると、確かに不自然ではある。
自分も今の魔王の為なら、死ぬ気で動く気だった。
洗脳されていた自分を助け出し、上野国を救ってくれた事は、生涯忘れない。
それを考えると、オケツがアドの為に死なないのは疑問に思うところもあった。
しかし一益は、彼の言い分を聞いていた。
アドは若いオケツに生き残れと、逆に自らの身を挺して助けてくれたのだという。
だからこそ生き恥を晒すように、魔族である越前国まで逃げ込んだという話だった。
「オケツ殿はハッシマーを倒す事を、諦めていないようだぞ」
「分かっておるわ!オヌシと戦ってみて、奴が本気でハッシマーを討とうという気概があったという事がな」
「ならば!」
「もう遅い!ワシはもう、ハッシマー軍のタコガマ。越前国へ攻撃を仕掛けているワシが、今更どの面下げてオケツに協力を申し出るというんじゃあ!」
タコガマが再び大鎚を振り上げると、一益はそれを受け止めた。
「オヌシ、迷いが生じておるようだな。先程と比べると、雲泥の差だぞ」
「うるさい!」
上から何度も叩きつけるタコガマ。
一益の足が地面に埋まっていく。
足が地面にめり込んで動けなくなった一益に、タコガマはいよいよトドメとばかりに大きく振りかぶった。
「死ねぃ!」
「死なん!」
一益はその瞬間を待っていた。
足がめり込んで、踏ん張りが今までよりも効いている。
そして奴の腹を叩くと、自分ではなくタコガマが吹き飛んだのだ。
「悪足掻きをしおって。楽には死ねんぞ!」
「我は死なん。そして貴様も死なせん!」
「何を言っているんじゃあ!?」
一益の言葉に動揺するタコガマ。
するとタコガマは、自分の目を疑う光景を目にする事になる。
一益は最後の手段として取っていたモノを、とうとう起動したのだ。
「吼えろ!高綱、大砲変換!」
「な、何じゃあ!?」
一益が大鎚を地面に叩くと、大鎚から大砲へと形が変わっていく。
「見よ!コバ殿の話を聞いて作り出した、我の新しき相棒。滝川高綱第二形態だ!」
「た、大砲じゃとおぉ!?し、しかしワシの玄武には、打撃も斬撃も効かん。無論それには、大砲の砲弾や鉄砲の弾も入っておる!」
「誰が砲弾を発射すると言った?」
「何だと?」
一益は大砲の一部に触れると、大きな声で叫んだ。
「我の鍛治の魂よ!唸れ!一益シュウゥゥティングウゥゥ!!」
大砲から発射された光魔法が、タコガマの腹へと命中する。
レーザービームとなったその光に、タコガマは木を薙ぎ倒しながら吹き飛んでいった。
タコガマが止まったのは、たまたま慶次達が戦っている辺りだった。
「なっ!?何でござるか!?」
「おっさんの技か!?慶次、おっさんは本当に実力を隠してやがったな!」
木に背中を預けて、座り込むように倒れているタコガマ。
慶次達はそれを見て、一益が離れたあの位置からやったのだと一目で気付いた。
「ゴフッ!」
「まだ息はあるでござるな」
「だが瀕死だ。トドメを刺すぞ」
砕け散った胸当てに、銃を突きつける水嶋。
そこに、何も持たずに走ってくる一益が、慌てて大きな声で止めていた。
「殺すんじゃないぞ!我が倒したのだ。我に奴の命を、一任するが良い」
「動けそうもないから、どっちでも構わん。むしろ時間の問題だろう?」
内臓をやられているのだろう。
大きく吐血するタコガマは、既に猶予は無いと思われていた。
「まだ死なせんよ!」
一益はとっておきとして残しておいた、結構大きなクリスタルを懐から取り出した。
このクリスタルには回復魔法が封じられていて、タコガマへと使用した。
「呼吸が楽になってきたか?」
「ワ、ワシの負けじゃあ」
「そうだ。その前にやってほしい事がある。この兵達はお前の兵か?」
「そ、そうじゃあ。ハッシマーはワシを試している。ワ、ワシには自分の兵を貸さなかった」
「よし、皆の者!敵将タコガマは倒した!奴を助ける代わりに、武器を捨てよ!」
「な、何を!?」
それを聞いたタコガマは、起きあがろうとするが、痛みで立ち上がる事は出来ない。
敵の兵から動揺が見えるが、武器を捨てようとはしなかった。
「まだやる気でござるかな?」
「どうだろうな。死にたければ襲ってくるだろうが、そうは見えない」
「武器を捨てよ!我が約束する。タコガマは助ける。そして、タコガマの本当にやりたかった事。ハッシマーの打倒を、我等魔族が手を貸してやろうぞ!」
一益の大きな声が響き渡ると、タコガマの兵達は武器を放り投げ始めた。
泣きながら鬨を上げる者や、タコガマに我先にと走り寄る者。
彼が生きている事に感謝を述べてくる者等、様々な人達が居た。
「水嶋翁、魔王様が言っていたアレは何だったかな?」
「アレとは?」
「自分達は何とか衆だと、言っていたと思うのだが」
「あぁ、雑賀衆の事か。戦国の傭兵集団の名前だ」
「それだ!」
一益は自分の太ももを叩くと、再び大きな声で彼等に告げた。
「我等雑賀衆は、アド家に謀反を起こしたハッシマーと、それに与する帝国軍を許さないであろう。そして我等の頭領が、奴等を成敗すると誓おう!」
タコガマは軽く笑うと、そのまま意識を失った。
タコガマの兵達は慌てたが、息があると分かって安心している。
「なあ、勝手に約束して良いのか?」
水嶋が一益に聞くと、一益はそれに対して無責任な発言をする。
「さあ、どうでしょうな?でも、魔王様は帝国の奴等は許さないと仰られた。どうせ魔王様の事だから、オケツ殿の手助けと称して、どちらも倒すと思いますぞ。我は雑賀衆の一人に過ぎないので、分かりませんがね」