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似た者との戦い

 流石に朝まで戦うと、かなりしんどいものがある。

 子供が夜更かしすると背が伸びないとか聞くけど、もしかして僕達の背が伸びない理由って、こうやって夜まで頑張り過ぎだからかな?

 夜になったらちゃんとぐっすり寝れば、僕達も今頃は蘭丸やハクトのようなイケメンになっていたかもしれない。

 なんて事を夢想する辺り、僕は疲れているんだろう。

 疲れていると言っても、僕は精神的な疲労だけだけどね。


 しかし他の領主達は大丈夫かな?

 僕達以外の三方向の守備に就いた領主達は、どうやら強敵と相対しているみたいだけど。

 三人の強さは、模擬戦の時に見せてもらっている。

 それでも足止めされるっていうのは、相手も同等以上の強さだって事だ。

 佐藤さんや又左がやられるのは想像出来ないけど、爺さんがなぁ・・・。

 強いのは知ってるけど、見た目が老人だからか、心配しちゃうんだよね。

 それに元々は銃を扱う人で、接近戦がとても強いわけじゃない。

 オケツとの修行で疲れている慶次を向かわせたけど、大丈夫だよな?

 色んな意味で、今後が心配になってきた。






「シッチだって。ベティさん、知ってる?」


「騎士王国の人間なんて、知るわけないでしょ。それにコイツ、アタシ相手に余裕をかましてくる辺り、段々腹立たしくなってきたわ」


「それは私のセリフだ。気持ち悪い男と、冴えない面した男。私の相手がこんなのだとは」


「ベティさん、俺がぶっ飛ばしても良いかな?」


「駄目よ。コイツはアタシが、細切れにするわ」



 気持ち悪い男と冴えない顔の男。

 二人は自分達の事だと、すぐに理解した。

 ベティは笑っているが、目が異常に怖い。

 佐藤も笑っているが、頬が引き攣っている。

 二人とも余裕を見せようとしていたが、上手く笑えていなかった。



「佐藤、疲れなんか残してないわよね?」


「大丈夫。クリスタルも温存してきたし、ベティさんが倒すまでくらいは、一人でも余裕だから。むしろ手こずっているようなら、俺もソイツ殴るよ?」


「アハハ!それだけの事が言えるなら、任せても平気そうね。悪いけど、本気で戦うわ」


「俺も頑張りますかね」


 佐藤は軽く屈伸すると、肩や手首を回した。

 疲れはあるが、痛みは無い。

 彼は颯爽と、敵陣へと突っ込んでいった。



「アンタはアタシが殺してあげる」


「奇遇だな。俺もそう言おうと思っていた」


 二人は一気にゼロ距離まで近付くと、お互いが双剣で斬りつけあった。

 空へ上がるベティに、シッチも軽くジャンプしただけで追いつく。

 空を飛び移動するベティに、シッチは空中で直線的に軌道を変えた。



「アンタの能力、なんとなく分かったわ」


「別に隠していないからな」


「いつまで続けられるかしら?」


「さあね」


 ベティが更に上空へ上がれば、シッチも更にジャンプする。



 ベティが気付いた能力。

 それは、シッチの身軽さに関係するものだった。

 彼は自分の体重をほぼゼロにすると、投げた小石を踏みつけて方向を変えていた。

 風に影響されていない事から、完全にゼロに出来るわけではない。

 しかし、空中で戦える事には変わりはなかった。



「小石が無くなれば、アンタの負けでしょ?」


「無くなれば、ね」


 ベティの言葉を聞いても、余裕を崩さないシッチ。

 ベティとシッチの空中鬼ごっこは、まだ続いていく。






「ぬおぉぉう!!」


「おっさん!じゃなかった、領主殿!」


 前線で大鎚を振り回していたはずの一益が、水嶋の目の前まで吹き飛ばされてきた。

 さっきまで順調に敵を倒していたはずが、気付けばハッシマー兵が引いている。



「領主殿、何があった?」


「分からん。大きな何かが、敵ごと我を薙ぎ倒してきたのだ」


「敵ごと?味方も巻き込んで、領主殿を攻撃してきたというのか!?」


「その通りだ」


 一益が示す方を見ると、ハッシマー兵の潰れた死体が転がっていた。

 それを見た水嶋は、途端に不機嫌になった。



 彼は戦時下、仲間と逸れてこの世界に迷ってきた。

 今でこそ安土という居場所を手に入れ、彼にとって仲間と呼べる者達も出来た。

 何十年もの間、一人で暮らしてきた彼にとって、仲間とはかけがえのない存在なのだ。


 味方の命をゴミのように扱った事に、彼は敵であっても良い気分はしなかった。



「オウオウ!防がれてるじゃねーか。お前等、使えねーなぁ」


 現れたのは、腹の出たずんぐりむっくりした体型の男。

 頭以外は全身を鎧で覆っていて、動くのも大変そうだ。

 日焼けした顔に顎髭は長く雑に生えており、頭は油でも塗っているかの如く光っていた。



「ハゲ、貴様がやったのか?」


「ハゲではない!一部は剃っている」


「だったら八割ハゲ。お前が味方ごと攻撃したのか?」


「味方?あぁ、駒の事か。敵を押さえつけろと言ったのに、仕事もこなせないとは。やはり役立たずだったな」


 水嶋はそれを聞いて、何も言わずに引き金を引いた。

 真横に発砲するとその銃弾は大きく曲がって、男の胸へと軌道を変える。



「何だぁ?弾が曲がってきた?」


「固いな。領主殿、アイツはアンタに任せる」


「お、おい!爺さん、我が居なくて兵達の対応出来るのか!?」


「二丁持ちに切り替える。一つだけ言っておく。アイツは生かしておくな。アンタがアイツを生かそうとするなら、俺はアンタごと脳天をぶち抜くぞ」


 水嶋の目が本気だと悟り、一益は薄らと汗を流した。

 この目は本当に、自分の頭を撃ち抜く。

 一益は大鎚を握り直すと、男と対峙する。



「貴様、何者だ?」


「ワシはタコガマじゃあ!」


 タコガマは名乗りを上げると同時に、一益へと武器を振り上げた。

 吹き飛ばされた時は、何にやられたのか分からなかった一益。

 しかし今度は、ハッキリと武器を確認した。



「大鎚だと!?」


「潰れ死にさらせ!」


 頭上から落ちてくる大鎚。

 一益は咄嗟に横へ飛んで避けたが、自分の大鎚を手放してしまった。

 それを見たタコガマは、ニヤリと厭らしい笑みを浮かべる。



「フハハハ!武器が無くなったのう。残念だが、今度こそ死にさら、ウッ!」


「馬鹿めが!」


 大鎚が大きな弧を描き、タコガマの背中へと当たった。

 その勢いで前のめりに倒れるタコガマに対し、一益は飛んできた大鎚を左手でキャッチした。



「ヒト族の鈍器使いとは、珍しい。我の大鎚よりは小振りだが、代わりに柄が長いな」


「き、貴様ぁ!ワシを小突くとは、何者じゃあ!?」


「我は上野国領主、滝川一益。名乗ったところでお前はここで死ぬから、覚えなくていいぞ」


「ふ、ふざけるなぁ!」


 柄の長い大鎚が、一益を襲う。

 自分の持つ大鎚よりも小振りだった為、一益はそこまで威力は無いと踏んでいた。

 しかし実際には、遠心力を使った振り下ろしに一益は受け止めた時、手に痺れを感じていた。



「口ではああ言っておきながら、そのザマか。しかも貴様がワシに時間を割いている間に、ジジイは追い掛け回されているぞぉ!?」


「水嶋翁!」


 振り下ろされた大鎚を防いでいる間、水嶋の居る方を確認する一益。

 すると水嶋は、銃を両手に持ちながら、バックステップをして逃げ回っているのが分かった。

 距離を取りつつ発砲しているのだが、どうにも連射が出来ないようだ。



「しまった!」


 バックステップしていた水嶋が、大きな石に踵をぶつけた。

 バランスを崩し尻もちを突くと、そこへ一斉にハッシマー兵が襲い掛かっていく。

 銃を上に振り上げ、太刀を防ごうとする水嶋だが、一向に太刀が降りてこない。

 そこに二人のハッシマー兵が、身体ごと自分へと倒れ込んできた。

 よく見ると、ハッシマー兵の胸には、大きな穴が空いている。



「あ、危なかったでござる」


「慶次!」


「水嶋殿。拙者が前を張るでござる。援護を頼みます」


「助かった。だったら俺は、一度姿を隠させてもらう」


「は?どういう意味でござるか?」


「説明している暇は無い。とにかく倒せ」


 そう言い残すと、水嶋は明後日の方向へと走り出していく。

 守るべき壁から離れ、彼は森の中へ消えていった。



「拙者、もしかして見捨てられたでござるか?」


「け、慶次殿!我はこの短足の相手で手一杯。他の兵は任せたぞ!」


「短足は貴様だろうが!」


 タコガマは一益の腹を蹴り上げようと、足を上げた。

 しかし大鎚が邪魔をして、一益まで届いていない。

 それを見た一益も、タコガマの脇腹を蹴ろうとしたが、同様に届いていなかった。



「二人とも、足が短いでござるよ」


「くっ!」


 二人して顔が赤くなると、今度は大鎚の打ち合いへと移行していった。



「このチビが!」


「腕が短いんじゃあ!」


「腹出過ぎ!」


「ほざくな胴長ぁ!」


 二人はお互いの悪口を言いながら、打ち合っている。

 それを聞いていた慶次は、全て自分に返っていると気付かないのかと、半ば呆れながら槍を振るっていた。






「ま、前田殿。少し疲れました・・・」


「そうですか。では、しばらくは私が頑張りましょう。丹羽殿は休憩を」


 息が上がっている長秀に対し、又左はまだ元気に動いていた。

 長秀は年齢の差だと言い聞かせていたが、少し出てきた自分のお腹を見て、怠けていたと内心反省をしていた。

 そこに、何か棒手裏剣のような物が長秀を襲った。



「丹羽殿!」


「私は大丈夫です。誰だ!」


 飛んできた方向へと叫ぶ長秀。

 しかし誰も姿を現さない。

 そこへ又左は、その辺りの兵を巻き込みながら、長槍を横薙ぎに払った。

 すると途中で槍が止まってしまい、力を入れても動かなくなってしまう。



「丹羽殿、あの辺りです!」


「お前か!」


 長秀がすぐに動くと、槍の先に居た者はすぐにその場を離れた。

 長秀は居場所を見失うと、ハッシマー兵に囲まれてしまう。



「丹羽殿!一度距離を取りましょう。私が援護出来る位置まで、お願いします」


「分かった。ヌゥ!お前だな!?」


 下がろうとする長秀の横から、短剣が長秀の脇腹を狙う。

 それに気付いた長秀もレイピアで弾くと、逆に短剣の持ち主に襲い掛かった。



「よく見破りました」


「姑息な手段を!」


「姑息?効率的で素晴らしいやり方だと、ワタクシは思いますけど」


 現れたのは、痩せ細った色白の男。

 化粧でもしているかと思わせるくらい、肌の色は白い。

 痩せてはいるものの、よく見ると無駄な肉が無いだけで、筋肉が無いわけではなかった。

 レイピアを防いだ際に、被っていた頭巾を落としていたが、やはり彼も頭は丸まっていた。



「姿を見られてしまったのでね。この辺りで名乗っておきましょう。ワタクシ、ニラ・ハマイエ。ボブハガー様からの信頼は随一だったと、自負しております」


「ボブハガー?あぁ、オケツ殿の主君だった者でしたな」


「オケツは裏切り者である!奴を突き出せば、貴君等の命までは取らないと約束しましょう」


「おいおい。ボブハガーを殺したのは、帝国と手を組んだハッシマーという男でしょうが。ここに居るという事は、貴方は主君を殺した男の部下になったのだろう?」


「何だと!?ハッシマー殿が嘘をついていると?」


 長秀は少し戸惑った。

 この男、騙されているだけなら、味方に引き込めるのではと。

 しかしその考えも、彼の様子を見て変わる事になる。



「うっ!頭が!・・・貴君等が何かを仕掛けたのですね?やはりオケツは、卑劣な罠を仕掛けるのが得意なようですね。危うくワタクシも騙されるところでした」


「丹羽殿、彼は駄目だ。洗脳か何かをされているようです」


「同意見です。どうにかして、彼を無効化出来れば大きいのですが」


 頭を押さえながら、ニラは涙を流している。

 その目は真っ赤に充血していて、何かに堪えているようにも見えた。



「貴君等は、オケツを出すつもりが無いらしい。よってお館様の命により、貴君等は始末させてもらう」


「お館様って、アドの事でしょう?死んだ者が、どうやって指示を出すというのです!?」


「う、うぅ・・・」






「駄目だ。彼は何か混乱している。私達の声が届かないみたいです。しかし彼に躊躇してしまうと、我々の方が危ない。私達は越前国を守る為に来た。洗脳されていようがいまいが、倒すしかないんですよ」

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