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今後の事

 小人族がラコーン達に連れられて戻ってきた。

 多少の被害は出たと思うけど、大半の建物は無傷のままだ。

 特に生活に困るという事は無いはず。


「スイフトさん、ちょっといいですか?」


 村長の息子で今は代理を務めているスイフトに、襲った王国兵の元へと来てもらった。

 武器は無く縛られた状態だが、やはり恐ろしい思いをしたからか、少し震えている。


「貴方達には彼等を裁く権利があります。誰にも迷惑を掛けず、ただこの村で平穏な生活を送ってきた貴方達に、自分達の欲望、逆恨みの為に無惨に殺した彼等をどうするか。それは貴方達が話し合って決めてください」


「私達がですか!?」


「もし力が無いからと言うのであれば、力を貸しましょう」


 腰に下げている拳銃を、そっと握らせる。

 弾は人数分。

 引金を引くだけで十分だ。


「両手で持って銃口を相手に構えて。そう、後は引金を引けばあの王国兵は死にますよ」


 丁寧に扱い方を教え、銃口を幹部の1人に向けさせた。

 幹部達の口には猿轡がしてあるので、何も話す事は出来ない。

 鼻息荒く涙目で何かを訴えてくるが、それは僕じゃなく小人族のスイフトにするべきだ。


「引くも引かぬも、後は貴方次第。貴方が決める事です」


 相手を見据え、銃の引金に指を掛ける。

 バァン!という音が鳴り、幹部の1人が崩れ落ちた。

 股間を濡らして震えながら。


「私達には殺す権利はありません」


「何故ですか?」


「弱い魔族が淘汰されるのは仕方ない事です。弱肉強食の世界で自分達が殺されるのは、ある意味自然な事なのです。ただ・・・」


 言葉に詰まり、キッと王国兵を睨むスイフト。


「殺されるにしても、それには意味があるべきだと私は思います。森の中で魔物に襲われたり、ヒト族に捕まって奴隷にされたり。それは私達が弱く、見つかってしまった事に対して運が悪かったとしか言えないでしょう。それは自分達の警戒が怠っていたからなのだから。でも、意味も無く剣で刺され、わざと急所を外して苦しめ、命乞いを笑うような者達とは絶対に同じになりたくない」


「彼等を許すと?」


「許しませんよ。一生ね。だからこそ、生きて帰れるなら生きて帰ればいいと思ってます。魔物の餌になるのなら、私達にとっても意味がありますから」


 そう言うと、彼は拳銃を僕に返してきた。

 僕には彼等の考えが理解出来ない。

 アレだけ酷い事をされて、それは弱肉強食だと受け入れられるなんて。


「お前達への裁きは決まったらしい。武器防具の一切を持たずに、この村から出るが良い。生きて帰れるなら、王国へ戻って報告したまえ」


 ズンタッタが言った後、ラコーン達が彼等の鎧を全て剥いだ。

 ラコーンの中には未だに燻る物があるのかもしれない。

 それでもおくびにも出さずに鎖を解き、彼等の自由を認めた。


「・・・後悔しても知らんぞ?」


 最後に言い残して、村から出て行く王国兵。

 武器も持たずに魔物が出る森に入るなど、自殺もいいところだ。

 それを分かってて出たのだから、彼等の中にも覚悟があったのだろう。


「本当にあれで良かった?」


「後ろの皆も納得してますよ」


 よく見ると、小人族の人達が隠れて見ていた。

 慌てて隠れたけど、もうバレてるから。


「そうですか。最後に僕から、死んだ方々へ手向けを送ります」



 ズンタッタ達から聞いていた井戸の近くには、死体が山積みにされて捨てられていた。

 魔法で火葬するのも悪い気がしたので、一生懸命に火を起こそうとしたけど、雨が強くて全然点かなかった。

 すると、小人族の人達と蘭丸達が周りの家を壊して、焚き火の準備を始める。


「お前は火を起こすの下手だな。魔法にばっかり頼ってるからだぞ?」


 僕じゃ全然点かなかった火を、いとも簡単に着火させる。

 ちょっと悔しいけど、今はそれどころじゃない。

 初めて使うのだから、ちゃんとやりたいし。


「皆、穏やかに眠ってほしい」


 火葬で燃え上がる炎を見ながら、そんな呟きが聞こえた。

 周りの小人族も涙を流していたり、炎を無言で見つめていたり。

 そして初めて使う光魔法が完成した。


「その御魂、穏やかに眠れ。鎮魂の光」


 炎の中から光の柱が立つ。

 その光の中に、小さい虫のような粒のような、そんな感じの違う光が見えた。

 これが魂なのかな?

 僕等の魂の欠片とは、また違う気がするけど。

 よく分からないけど、成功したって事で良いのかな。


「魔王様、わざわざこのような魔法をありがとうございます。彼等が現世に未練や怨念を残していたら、荒御魂となり悪霊と化していたかもしれません」


 悪霊とか居るんだ。

 ゴーストとかそういう類?

 でも仲間のそんな姿、見たくはないよね。


「これで皆も、穏やかに旅立ってくれると良いですね」


「ありがとうございます。ところで魔王様、依頼されていた頭なのですが」


 僕の魔王人形の頭か!

 すっかり忘れていた。

 早くも完成したのかな?


「身体が無いので、頭の大きさが決められないのですが」


 なんてこった!

 でもそのまま作って完成して、頭だけ一回り以上大きいですってなったら、またシーファクの笑い物にされるだけだ。

 これはこれで仕方ない。


「太田!急いで魔王人形を探してきてくれ!」


「御意!」


 変な命令にも御意!で返してくれる太田、本当に助かるよ。

 小人族も一緒に探してくれる事になった。

 村奪還から小人族が最初にやる事が、僕の人形探しって・・・。

 申し訳ない。





「皆に集まってもらったのは他でもない。帝国だけでなく王国も動いているという事から、今後はもっと侵略が激しくなると思う」


 魔王人形を取り戻した僕は、今は人形の姿をしている。

 何度か痛めつけられたのだろう。

 数カ所に傷が残っていた。

 王国兵め!僕の分身になんて事を!


「えっと、こちらの人形は?」


「僕が魔王だ」


「じゃあこちらは?」


「俺はキャプテンだ」


 ん?どういう事?という不思議な顔をして、理解出来ていないようなので、軽く説明した。


「分かりました。今後はそのようにお呼びします」


 魔王の身体には兄さんが居るが、ここから先は役に立たないと思う。

 多分会議になったら寝るだろう。

 だから説明も適当に済ませた。


「その今後についてなのだが、何か考えはないだろうか?」


 分からない事は丸投げ。

 それが僕の魔王のやり方だ。


「今後の事を考えると、魔族も手を結ぶしかないだろうな。集まって行動するのが、一番安全だと思う。ただ、俺の故郷の海津町とか能登村は、かなり遠いんだよなぁ」


「ワタクシもその案に賛成ですね。ワタクシの居た集落では、500人なんて人数で襲われたら太刀打ち出来ないでしょう。今はオーガの町に身を寄せているので、このまま滞在してもらった方が良いかと思います」


 やっぱり集まるのがベストか。

 でも遠い連中はどうしようかな。


「うーん、これは俺の考えですが、それは戦力が偏り過ぎていませんか?」


 ん?ラコーンが物申すとな?


「戦力が偏るとは?」


「俺はその海津町?とか能登村というのは知りませんが、リザードマンとオーガの町には戦力が偏ってると思うんですわ。例えばこの村には、戦える者が1人も居ない。対してオーガの町には、オーガどころかミノタウロス。それに俺達の仲間も残っています」


「なるほど。集まるにしても、戦力の均等化を図るべきという事だな」


「でもさー、それって大きい問題が残ってないか?どうやってその集団を移動させるんだ?」


 我が兄ながら、この話についてきていた事に驚きだ。

 もう寝ていると思っていた。


「それに、自分達の故郷を離れたくないって人も出てくるんじゃない?」


 シーファクの意見は、この案で一番懸念しているところだ。

 それに関しては本当に難しいんだよなぁ。

 要は立ち退き要求だからね。

 国が補償金払うから出てってくれ、みたいな話じゃないし。

 生き残る為に移動してくれで、納得してくれるのだろうか?


「それは誰も反対しないだろ。だって残ってたら死んじゃうんだから。誰も死ぬと分かってて、好き好んで残ったりしないと思うぞ?」


「じゃあ蘭丸は、長可さんや前田さんがこの村にも来てくれると思うか?」


「この村はちょっと小さいけど、お前に集まれと言われれば来るだろうな」


 ほう、それなら簡単かもしれない。

 移動手段さえ、どうにかすればいいのだから。


「スイフトさん、もしこの村から移動するとなっても、問題は無いかな?」


「そうですね。既に王国に見つかってしまいましたし、いつ同じように来るかと思うと、移動するのは良案だと思います」


 基本的に反対意見は無さそうか。


「しかし集まるにしても、何処に集まるのですか?今まで回った町村全ての人数を集めると、ドワーフの都市に匹敵しますぞ!?」


「集まるなら、オーガの町がいいだろう。南からも東からも集まれる。丁度中心に近いしな」


「それでもかなりの距離はあります。集まるように伝えるだけでも、相当な日数が必要になりますが。どうする気で?」


「僕が行く」


「え?」


「僕が今までの町や村に、全て回って行く。僕というより兄さんもだけど」


「えぇぇぇ!?」


 そんなに驚く事かな?


「魔王様が自ら伝令役になると仰られるので!?私達が残って、魔王様に伝令役をやらせるなど恐れ多いです!」


 でも、それが一番早いんだけど。

 キミ等の足に合わせてると、それこそ時間掛かる。


「何故僕が行くかというとだな、ツムジに乗れるのは1人だからだぞ。空から行けば、森を一直線に抜ける事も可能だし」


 なるほど、というような感じで一同納得してもらった。

 たった1人を除いて。


「ワタクシも!ワタクシも行きたいのですが!」


 それは無理。

 お前が乗ったらツムジが死んじゃう。


「大人しく待っていなさい。というより、小人族を守りなさい」


「でも護衛も付けないというのは危険では」


「くどい!ツムジも居るから大丈夫だ」


 怒鳴ってようやく引いてくれた。

 人形に怒鳴られるとか、シュール過ぎるぞ。


「移動手段も考えておられるのですか?」


「それなら多分問題無い。後で試作品を作るけど、燃料をどうにか出来れば大丈夫だろう」


「お前、何作るの?」


「完成するまで内緒だよ」


 そこは出来てからのお楽しみとして、待っていてもらいたい。


「では、オーガの町にこの周辺の魔族を全員集める!お前達は小人族と共に、オーガの町を目指してくれ。試作品の出来具合で、僕の出発日を変えるから。スイフトさんは頭の方を完成させてください」


「スイフトとお呼びください、魔王様」


「じゃあスイフト、よろしく頼む」


「皆、今日は休んで明日から備えよう。うん?雨も上がったようですな」


 夜になり雨も上がったからか、星が見える。

 今日は色々あったから、眠れるといいんだけどな。




 翌朝、魔王人形のまま寝たのを忘れていて、テーブルから落ちた。

 痛くはないが、痛い!と言ってしまう。

 条件反射って怖いなぁ。


「お前、うるさい。起きるなら1人で起きてくれよ」


 今までずっと一緒だったからか、1人で寝るのが気持ち良いらしい。

 なんかムカつくからイタズラをしておこう。

 この僕の人形を顔の目の前に持ってきて・・・。


「う、うぅ〜ん、何か暗い?・・・おわぁぁぁ!!!」


「うおあぁぁぁ!!!」


 目を覚ましたら、僕の人形が顔を覗き込むというイタズラを仕掛けてみた。

 余程驚いたのか、身体強化した腕で思い切り振り払われ、壁に激突。

 そのまま突き破って、宙ぶらりんになってしまった。


「おま、お前!イタズラにしても度が過ぎるぞ!すっげー怖かった・・・」


「こっちも壁に激突して突き破るとか、めっちゃ怖かったっつーの。自分で降りられないから、助けてよ」


 突き破った壁から外してもらい、朝食をもらいに行く。


「その身体だと、腹減らないんじゃないか?」


「そうなんだよ。空腹って感覚が一切無くなる。でも食欲はあるから、変な感じなんだよね」


 魔王人形にもまだ慣れていないから、知らない事が結構あったりする。

 今のところ困るような事は無いから、そのうち検証すればいいかってレベルだけど。


「これ食べたら、試作品作るから。元に戻るね」




 村の入り口まで移動し、試作品を作る事にした。


【何でこんな入り口まで来たんだ?】


 完成しても、村の中では走らせられないからね。

 だったら最初からこっちで作って、森に向かって走った方がいいかなって。

 僕は頭の中で考えている移動手段を思い浮かべて、目の前で完成させていく。




【これ、走るのかよ!?】

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