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だいだらぼっちと天狗

 親しい仲にも礼儀ありという言葉は、本当に大事だと思う。

 領主達が親しいかと聞かれたら、ちょっと答えづらいけど。

 でも逆に言えば、親しくもない人にズカズカと相手の間合いに入るのは、どうかという話だ。

 ハッキリ言って今回の件、僕としてもお市と同じ意見になっちゃうかな。

 ただし、自分の旦那と同格である領主に対して、いきなり正座させるような行動は取れないけどね。


 そんな時、リュミエールがお市を訪ねてきた。

 リュミエールは傍若無人は言い過ぎかもしれないが、僕の中ではそれに近い存在である。

 お市とリュミエールは似てるかなとも思ったのだが、実はそうでもなかったらしい。

 あの対応力、見習うべき点だと僕も感心して見てしまった。


 今はまだ到着していないが、領主達から派遣する軍を鑑みて戦力の確認に入った。

 僕の中ではある程度、領主達の得意分野や出来る事は頭に入っている。

 分からないのは一つ。

 テンジも気にしていたが、越前国の戦力だ。

 妖怪というのは、どれだけ強いのか?

 前回目撃したのは、お市の圧倒的な力が主だった。

 そのお市が言うには、土蜘蛛以外にだいだらぼっちと天狗が出てくるらしい。







 だいだらぼっちか。

 大きな巨人みたいな妖怪としか分からないけど、想像通りなら飛行機も叩き落とせそうな気がする。

 そして天狗。

 僕の中では、キングオブメジャー妖怪に当たる。

 僕の知っている天狗なのか、とても気になるところではある。



 そんな事を考えながら物思いに耽っていると、テンジが危険な事になっていた。

 あまりの迫力に、少し過呼吸気味になっていたのだ。



「テンジ?テンジ!?おい!袋を寄越せ!」


 僕はテンジの口に袋を押し当てると、ゆっくりと呼吸をしろと背中をさすった。

 徐々に呼吸がゆっくりになっていくテンジ。



「今日はこの辺にしましょう。越前国は雪国です。慣れない環境もあると思いますし、テンジ殿には休息が一番だと思います」


「権六、ありがとう」


 権六の一言で会議は終わると、少しだけお市が不満そうな顔をしていた。

 だが権六がジッと見ていると、彼女もそれに折れたようで、さっさと部屋から出ていった。



「すいません。市があのような態度を取りまして」


「越前国を大事に思ってるからでしょう。むしろ私が不甲斐なくて、申し訳ないです」


 お互いに謝る権六とテンジ。

 どうやらこの二人は、似た者同士なんだろう。

 権六が背中をさすっているのを見ると、昔からの友人みたいな空気が流れていた。



「ところでお二方」


「何ですか?」


 権六が背中をさすりながら、長秀と一益の方へ視線をやった。

 何か聞こうとしているようだ。



「さっき入ってきた時、何か聞こうとしていませんでしたか?」


「あっ!」


「か、勘違いでしょう!越前国の状況を聞こうかと、少し気持ちが逸ってしまいました」


「なるほど。我が領地の為に、ありがとうございます」


「い、いえいえ。魔族同士、手を取り合わないといけませんから」


 コイツ等、誤魔化しやがった。

 さっさとクリスタルの話をしたかったと言えば良いのに、あまりの気まずさに話をすり替えたぞ。



「そ、そういえば、ベティ殿が居ませんが」


「市を追い掛けて、すぐに部屋を出ましたよ」


「そうですか。動きが早いな。我々も早く交渉しなくては」


 一益の一言から考えると、ベティもクリスタルの件を狙っていると勘違いしているみたいだな。



 僕の予想では、単純に話がしたかっただけな気がする。

 個人的には、そっちの方がありがたい。

 不満そうに出ていったお市が、何処かで不満をぶち撒けるより、ベティと話をして少しでも気分が紛れれば良いなと思ったからだ。



「権六、僕も少し出るね。慶次の様子が知りたいから」


「なるほど。先程、お兄さんと一緒に居るところを見掛けました。裏で槍を振っていると思いますよ」


 慶次は城で世話になっているのか。

 なかなか良い待遇だな。

 強くなったのか、見にいってみよう。






 城の裏手に回ると、確かに声が聞こえてきた。

 どうやら又左と戦っているらしい。



「兄上、覚悟!」


「チィッ!もう一度だ!」


 僕がそこで見たのは、今までに無い光景だった。

 又左が槍を飛ばされているのだ。



「もしかして、慶次が勝った?」


「違います!私が油断していただけなので、負けではないです」


 それはもっと駄目なのでは。

 又左は負けていないと言っているけど、慶次はもうニヤニヤが止まらない様子。

 修行の成果が発揮されて、嬉しくて仕方ないらしい。



「慶次殿、強くなったなぁ。俺も今のを見る限り、初見では避けられないと思う。水嶋さんもそう思わない?」


「俺は避ける云々の前に、近寄られたら負けだな。もしそうなったら、お互いに武器が使えない距離まで詰めるさ」


「なるほどね。俺も参考にしよう」


 槍が届く中距離まで近寄られたら負け。

 この爺さん、ロックより接近戦強いから、槍が振り回さない距離まで近付くっていうのはアリなのかも。



「ところで、どんな技で負けたの?」


「負けてないです!」


「あ、そうですね。で、どんな技食らったの?」


 負けてないアピールの又左は放っておいて、新しい慶次の強さが気になる。



「本当は太刀で使う技でござるが、槍に応用したでござる。その名も陽炎」


 又左が槍を引き再び伸ばすと、何故か槍が伸びていないように見えた。

 伸びない槍の手元を見ていたら、その先から槍が藁束を突いた音が聞こえる。



「は?どういう事?」


「陽炎は抜いていないように見せかけて、既に抜刀しているという技でござる。拙者の槍の場合、伸びていないように見せかけて、伸びているという技になったでござる」


「おぉ!凄いじゃん」


 確かにこの技、初見殺しかもしれない。

 この技を知らない人は、大半は一撃食らう事になるだろうね。



「負け惜しみに聞こえるから、あんまり負けてない連呼しない方が良いぞ」


「ぐぬっ!・・・ハァ、確かにその通りですね」


「拙者、初めて兄上から一本取ったでござる!」


 喜ぶ慶次に悔しそうな又左。

 これを機に、お互い切磋琢磨していけば良いと思う。






 領主達が到着して半月程経った。

 まだ援軍本隊は到着していない中、ハッシマー達の手勢が何度もやって来ていた。

 そこまで人数が多くなく、おそらくは様子見だったのだろう。

 それが今回、急に敵の数が大幅に増えた。



「慌てるな!これでも敵は、全体の半分にも満たない人数である」


 半分にも満たないと言っておきながら、それでも万は超える人数だ。

 この様子だと、あの大きな外壁を壊されるのは時間の問題だろう。



「お市殿、我々も出て手伝いますぞ」


「援軍と言っておきながら、未だ到着していない。せめて我々だけでも」


「このうつけ者!お前達が出て怪我をしてみろ。後から来る、援軍の士気に関わるじゃろうが!」


 迎え撃つならと、長秀と一益の二人がお市に言い寄ったが、これは間違いなくお市の方が正しい。

 もし誰かが怪我でもしたら、その領主の援軍だけがどうして自分の領主だけが怪我をしたのかと、不審がるだろう。

 お互いに不満が出て、共闘どころでは無くなりそうだ。



「それに丁度良い。我が越前国の戦力を、少し見せておこう」


「妖怪の戦力ですか。初めて拝見しますね」


「だいだらぼっちと天狗を出せ!」


 お市の怒声のような声に、すぐに外では反応があった。

 城の一角が急に暗くなったのだ。



「何?急に天気が悪くなったのかしら?」


「ベティ、上を見てみろ」


「うわーお!何よ!この巨人は」


 そこには灰色の身体で細身の、大男が立っていた。

 おそらくは、壁の高さと同じくらいだろうか?

 手を伸ばせば、軽く十メートルくらいはありそうだ。

 しかし、問題もある。



「全裸だね」


「パンツは履いてるわ。パンツの中に興味があるのに」


「バカチンが!」


「痛いわね!半分冗談よ」


 半分冗談なら、半分本気じゃねーか!



「寒くないのですかな」


「確かに。あの身体で何も着ていないとは、見ているこっちが寒くなりそうです」


 テンジの疑問に長秀が乗る。

 確かに雪国でパンイチは寒い。

 しかし彼に、そんな様子は見られない。



「ところで、どうやって出るんだ?」


「壁を飛び越えるんじゃないですか?」


「違う。だいだらぼっち、外の連中を蹴散らせ!」


 一益の疑問には僕も不思議に思った。

 この身体のサイズに合う門は無い。

 ジャンプするにも、相当キツイと思うのだが。

 すると、予想だにしなかった光景が見られた。



「壁をよじ登るのか」


「器用ですね。しかし、武器も無く裸で大丈夫なんでしょうか?」


 長秀の質問に、お市は答えない。



 長秀自身も大きくなって戦う事は出来るが、その際服や鎧は合わせて大きくなる。

 執金剛神の術は、そういうものなのだろう。

 ただし彼は、元から大きい。

 だから、彼の身体に合わせた服が必要なんだと思われる。



「上に登ろう。壁の上から戦いが見れるはずだ」


「それじゃ、アタシはお先に」


「ベティ!ズルいぞ!ちゃんと足並みは揃えないと、駄目だろ」


 一人だけ空を飛んでいこうとするベティ。

 僕は皆に協調性を持ってもらおうと、呼び止めた。



「仕方ないわね。魔王様なら軽いから、一緒に連れて行ってあげるわ」


「よし、ゴーゴー!」


「魔王様!?」


「協調性なんかクソ喰らえだ!楽が出来るなら、やっぱり楽して生きたいのが僕なのだ」


「欲望に忠実過ぎますよ!」


 あーあー、何も聞こえない。

 どうせなら、ドワーフ達にエスカレーターとか作ってもらいたいね。

 もしくはエレベーター。



「着いたわ。何よこれ!本当に一万で済むのかしら」


「聞いていたより多く見える。彼一人で対抗出来るのか?」


 だいだらぼっちが足を伸ばすと、何十人もの兵士が飛んでいく。

 しゃがんで手を横に振れば、それだけで百人くらいは吹き飛んでいるだろう。

 しかし、致命傷にはなっていないのだ。



 彼の攻撃はただ単に、蹴ると叩くだけ。

 吹き飛んではいるが、よく見てみると後ろの方に居た連中は立ち上がっているのが分かる。



「槍を投げられているのか?結構嫌がっているけど」


「これだと倒されるのは、時間の問題よ」


「倒される前に、倒せば良いのじゃ。天狗隊、出でよ!」


 階段で来たお市が、急に声を上げた。



「何処に居るのよ。あら、隠れてた?」


 壁の上には僕達しか居なかったはず。

 なのに気付くと、壁の上にはびっしりと天狗が立っていたのだ。

 ベティも気付かなかったのを見ると、何かしらの術なのかもしれない。



「天狗隊に命じる。敵の隊長、指揮者、部隊の強者だけを狙い討て。雑魚には構うな」


「総大将を討ってもよろしいので?」


「許す。行け!」


「応!」


 天狗が一斉に屈むと、ジャンプするような仕草から空へ飛んでいく。

 やはり空を飛べるらしい。



 僕は天狗が気になって観察していた。

 天狗の鼻は、高い者と普通の者が居る。

 赤い顔以外にも鳥のような頭の者も居た。

 多分烏天狗かな?

 そして手には、剣や槍を持った者や団扇みたいな葉を持って居る者と分かれた。

 ヤツデの葉だったかな。

 あの葉を振るうと、大きな風が舞い上がっていた。



「天狗の登場で、向こうは混乱していますね」


「まだじゃ。混乱させるのは更に先がある」


 お市の言葉通り、全く違う場所から敵の悲鳴が聞こえてきた。



「何が起きてるんです?」


「天狗の姿はこれだけに在らず。よく見てみよ」


 うーん、見ても遠くて分からない。

 ベティに説明を求めると、彼は不思議そうな顔で言った。



「何かしら?犬?」






「ほう。流石はベティ。よく見ておる。天狗は天の狗とも言える。天を駆ける狗は、相手を追い掛ける事を諦めはしない。奴等は見つけた獲物は逃さぬ。妾が命じた者達が死なぬ限り、必ず食らいつくであろう」

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