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謝罪する領主

 何度も同じ相手に負けると、ひねくれるのかな?

 彼の転生の話を聞く限り、僕も同情した。

 同じ事を何度繰り返しても失敗して、何度も同じ相手に殺されるというんだから。

 彼からすると、無限地獄と同じなのかもしれない。

 それでもやり返したい気持ちがあるっていうのは、やっぱり諦めてない証拠だと思うんだよね。

 本当に諦めているなら、自ら投降して楽にしてもらった方が早いもの。

 それこそ、次の転生に向かってやり直しを考えるでしょ。

 だから僕は、彼がまだこの世界に執着しているのかなと思った。

 良い意味で肩の力を抜けて良かったよ。

 彼と僕は、勝つ為に共闘するのだから。


 リュミエールのおかげで、領主が越前国に到着した。

 ただ、彼等は呼び出された事の深刻さが分かっていないっぽい。

 目先の欲にばかり視線が向いていて、呼ばれた理由を忘れていたんじゃないかと思う。

 権六は鬼なのに、凄く謙虚だ。

 それを知っている領主二人が、強気に出れば話を押し通せると思ったのだろう。

 見事にお市に怒鳴られた彼等は、驚きのあまりに入り口で固まっていた。







 あーあーやらかしたな。

 テンジとベティは、やはり常識的だった為、部屋には入らずに外で待っていたから、特に何も無い。

 そして、マッツンばりのセンサーが反応した僕も、勿論部屋には入っていない。



「し、柴田殿!?」


「これはどういう事ですかな!?」


 自分達が固まっている事に気付いた二人は、怒鳴りつけられた事への抗議をしようとしている。

 権六は二人とお市を見比べながら、どうすれば良いのか迷っていた。



「黙れ。それ以上醜い言い訳をするなら、顔ごと凍らせるぞ」


 お市から放たれる冷気が、二人の口を塞いだ。

 僕達三人は、部屋の外から覗いているだけだ。



「魔王様、あの方は一体?」


「あの人はお市。信長の娘にして、柴田の嫁さんだ。そして、越前国を実質支配しているのは彼女だ」


「えっ!」


 思わず大きな声が出たテンジは、慌てて自分の口を塞ぐ。

 一瞬だけこっちを見たお市だが、それよりも怒りの矛先は中に入った二人に向いている。

 特にお咎めは無かった。



「お前等、そこに直れ」


「え?」


「聞こえんのか!そこで正座しろと言うとるのじゃ!」


「は、はい!」


 お市の気迫に負けた二人は、その場で正座をし始めた。

 しかしそれだけでは終わらない。



「お前さんも座れ」


「私も!?」


「このような態度を取られたのも、越前国領主として侮られたお前さんのせいじゃ。分かったか!」


「ハイ!座ります!」


 二人の横に行き、正座する権六。

 滝川一益と柴田勝家というなかなかの巨大に挟まれた丹羽長秀。

 妖精にしては大きな方なのだが、やはり二人と並ぶと小さく感じた。



「あの、ちょっとよろしいでしょうか?」


「発言を許す。何じゃ?」


「何故、我々は正座をさせられているのでしょうか?」


「そんな事も分からんのか」


 ため息を吐くお市。

 色っぽいからか、テンジの顔は少し赤くなっていた。

 それを見たベティは、お市の真似をして横でため息を何度も吐いている。



「大丈夫。何度真似しても、似てないから」


「魔王様のイケズ!」


 小声で話す僕達の声は、向こうには届いていない。

 そしてお市は、説教を始めた。






「お前さん達は領主だが、考えてみてほしい。自分の領地で緊迫した仕事をしている時、いきなり扉を開けて大きな声で入ってきたらどう思う?」


「そ、それは・・・」


「お前さんはドワーフじゃな?では問う。鍛治の最中に渾身の一振りが完成しそうだという時、横から大きな声で話し掛けられて鎚がズレた。どう思う?」


「それは激怒しますな」


「お前さんは若狭国から来たようじゃの。では危険な薬を調合していて、少しでも配合を間違えたら自分も危ないとしよう。その時に大きく扉を開けられたら、どうする?」


「怒るでしょう」


「妾達は同じ事をされたのだが、お前さん等はどう思う?」


 黙り込む二人。

 視線を上げない権六。

 三人は一斉に頭を下げた。



「申し訳ありませんでした!」


「今回は許す。二度目は無いと思え」


「肝に銘じておきます!」


 三人は許されると、再び頭を下げた。

 するとその様子を見たベティが、部屋の外で大笑いを始めてしまったではないか。



「アッハッハ!」


「何が面白い?」


 鋭い視線でお市はベティを睨む。

 しかしベティも負けていない。



「面白いに決まっているでしょう。だって領主が自ら非を認めて、正座して頭を下げてるのよ。普通じゃあり得ない光景だもの」


「確かに。一益がこんな小さくなってるのは、初めて見たかも」


「ま、魔王様!」


「事実だから仕方ないでしょ」


 ベティが笑いながら説明すると、お市も強張った顔から一転、フッと顔を緩ませた。



「新しい越中国の領主は、面白いのう。種族も変わっておるし、あの土地も変革されておるのかもしれん」


「あら、アタシが越中国の領主って、よくお分かりになりましたね。あ、翼があるからすぐに分かるか」


「それもあるが、もう一人はネズミだろう?そういえば、秀吉は無事に帰ったか?」


 テンジが長浜国だから、残りのベティは越中国だろうという考えで判断したようだ。

 しかし、秀吉の消息が掴めていない。

 今は何処に居るんだろう。



「長浜には戻っておりません。あの方の事ですから、心配は無用だと思います」


「そうか。では、残りの領主も揃ったので自己紹介をしよう。妾は越前国領主の妻、お市である。よろしくのう」


「わ、私がアタタタ。足が痺れて・・・」


「アンタ!しっかりおし!」


「ハイ!越前国領主、柴田勝家でございます!今後ともよろしくお願いします」


 テンジとベティは、口を開けたまま固まっている。

 領主がここまで弱い立場だと、思わなかったのだろう。

 滝川一益と丹羽長秀は、既に柴田勝家とは面識がある。

 自己紹介をしなければならないのは自分達だと気付き、慌てて頭を下げた。



「も、申し遅れました!私は長浜国の領主代理、テンジと言います。あくまでも代理でございます。秀吉様が戻り次第、この任は解かれると思いますが、よろしくお願いします」


「アタシは越中国を治めている佐々成政。ベティと呼んでくれると嬉しいわ。お市殿とは仲良くしたいから、よろしくね」


 正反対な挨拶をする二人。

 丁寧なテンジと、フレンドリーに言うベティ。

 お市の反応は、どちらも悪くない。

 そして、最初に入った二人の顔色は、やはりあまり良くなかった。

 だが、そこに救世主が現れる。



「お市、今夜の食事は豪華にしてほしいんだけど。コレをあげるから、どうかしら?」


 やって来たのはリュミエールだ。

 右手に持った大きな箱には、ミスリル製の武具と薬草類が。

 左手には、そのままミスリルの大きなインゴットがあった。


 それを見たお市は、三人の領主の方へと視線を向ける。

 品定めされているかのように感じている三人は、多分心穏やかではないんだろうな。

 僕は関係無いから、気が楽だけど。



「リュミエール様、今夜でないと駄目ですか?」


「どういう意味かしら?」


「しばらくすると、他の領地から補給物資が来ます。その時には、各領地で取れる品々が運ばれてくるでしょう。それを使った食事の方が、よくありませんか?」


 お市は知っていたようだ。

 各領主達が、自分の所の食品を持ち込む事を。

 リュミエールは少し考えた後、僕の方を向いた。



「ハクトは来るのかしら?」


「アイツは官兵衛達と一緒に、他の領地の援軍と向かってるはずだよ。そろそろ安土を出る頃じゃないかな」


「そう!だったらその提案に乗るわ。越前国の料理も美味しいけど、いろんな食材を組み合わせた料理も、食べてみたいもの」


「では、その時までのお楽しみに取っておきましょう」


 笑顔のお市は、リュミエールへの対応を終えた。

 今夜の料理は普通。

 そして色々な領地の食材を使った料理は、ハクトに丸投げである。

 お市の対応は、満点の回答と言っても過言ではない。

 苦労するのは、ハクトと各領主達なのだから。



「後でどんな物を持って向かってるか、教えてね。ハクトに料理を提案するから」


「承知しました。我々の命運、魔王様に託します」


 命運って。

 そんな物託されたくないんだが。



「これからはつまらぬ会議の時間になりますが、リュミエール様はどうされますか?」


「会議はつまらないわね。アタシは外に出てるわ」


「今夜は蟹鍋です。夕食の時間には戻ってこられる事を、推奨します」


「分かったわ。お市、ありがとう」


 頭を下げて見送るお市。

 完璧な対応である。

 その美しい所作を見た他の領主四人は、唖然としていた。

 それを見た権六は、少し嬉しそうでもある。



「何じゃ?デカイ男がボーッとしとらんで、早く会議の準備をせんか!」


「ハイィ!!」


 魅入ってしまって怒られてしまった。







 今回の会議は、各々がどういう働きをするかという話に止まった。

 その理由の一つとして、先陣の一端を担うオケツが不在がある。

 そして実力が分からない状態では、誰に何処を任せて良いか分からないというのもあった。



「まず我々ネズミ族の大半は、裏方に徹すると思われます。戦闘の役に立つのは、一部の者達のみですので」


「ネズミ族は魔法が得意ではなかったか?」


「よくご存知で。その一部の者達が、魔法使いとなります」


 お市は、ネズミ族の得意分野を知っていた。

 意外に思っていたテンジだが、信長が生きていた頃には近くにネズミ族が居たのかもしれない。



「戦闘の一角は、ドワーフと鳥人族に担当してもらいたいな」


「それならドワーフには、主に守備を担当してもらうわ。アタシ達鳥人族が、ドワーフの守備に手こずっている所を攻撃するから、そのつもりでよろしくね」


「いやいや。我のドワーフ隊は、大槌での攻撃が得意なのだ。守備に回されても困る」



 本来なら戦闘に向かうのは、あまり得策じゃない。

 それなのに自ら志願するのは、一益としてはさっきの失態を、挽回したい考えがあるようだ。



「妖精族は?」


「我々も戦闘に、と言いたいところですが。他の種族と比べると、接近戦は得意ではありませんので。我々が守備を担ってもよろしいですか?」


「なるほど。自らを弁えるのは良い事じゃ」


「ハハッ。ありがとうございます」


「何故そこで、頭を下げる。一応言っておくけど、お市はあくまでも領主の妻だからね。領主と同じと考えたって、同等の立場だぞ」


「ハッ!?何故かこれが自然に感じてしまいました」


 長秀は無意識に動いてしまったらしい。

 女帝、恐るべし。



「では確認じゃ。妖精族は主に守備を。後衛と補佐役をネズミ族。ドワーフと鳥人族が主攻を担ってもらうのでよろしいか?」


「ちょい待ち。僕達はどうするのさ?」


「あぁ、安土か。忘れておった」


 さっきから皆が口を出しているから、僕はずっと見ていただけだった。

 だからといって、忘れるかね。



「忘れるなよ。こういう時に官兵衛が居ると、楽なんだけど。そうだなぁ、ベティ達は主攻から外れた方が良いんじゃない?」


「アタシ達が!?どうして!?」


「いや、単純に遊撃の方が向いてるでしょ。空から一気に本陣まで行けるし。いや、飛行機とか持ち出してきたら、分からんな」


「飛行機?」


「デカイ鉄の塊が飛ぶんだ。機銃とかもあるから、近付くのも難しい。制空権は鳥人族だけの物じゃなくなったからね」


「何よそれ!アタシ達が蹴散らしてやるわよ」


 ベティの中で、空を制するのは自分達だという自負があるらしい。

 飛行機に対するライバル心が凄い。



「と、ところでよろしいですか?」


「何じゃ?」


「越前国からは、どのような軍を出されるのでしょう」


 テンジはバックアップに回るにしても、その相手を知りたいという。

 それを聞いたお市は、軽く笑い、そして言った。






「どのようなじゃと?奴等を地獄に叩き落とす連中に決まっておる。土蜘蛛にだいだらぼっち、そして天狗も出す。妾を筆頭に、奴等を一人残らず殲滅する。それが越前国の妖怪軍じゃ!」

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