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オケツの謎

 金子くんの存在感が、最近増している。

 漫画の編集として雇った事で、今までと違って他人と触れ合う機会が増えた。

 昔は虐められていたという過去があるからか、他人との接触を自らする事が無かったのだ。

 それなのに今では取材の為と言って、積極的に皆と話している。

 苦手そうだった体育会系である野球のコーチにも、田塚の為にと取材交渉をしたらしい。

 田塚にそれを聞いた時、長谷部は少し涙を潤ませていたのを覚えている。


 そんな彼を戦場に連れていくのは、あんまり乗り気じゃなかった。

 必要とされていると分かった彼は、僕達の意見に賛成して遠征参加する予定だった。

 それでも田塚や末高さん達が、彼は自分達に必要だと言ってくれたのは、結構嬉しかったね。

 彼じゃなくても、誰かが頑張れば良いさ。


 なんて他人任せに思ったのが、悪かったらしい。

 他の領地からは代表として、領主がやってくるという。

 だったら安土も、領主である僕が行くべきという話になってしまった。

 真っ当な意見ではあるのだが、納得いかないんだよなぁ。

 リュミエールも積極的になっているし、オケツの謎も知りたい。

 先に行って、頑張るか。







 速い。

 かなり速い。


 コルニクスの件があったので、全員にヘルメットが用意されていたのだが、間違いなくヘルメットが無かったら目は開けていられなかった。

 彼女からしたら、僕達を振り落とさないようにとこれでも遅く飛んでいる部類だ。

 そう考えると、コルニクスの全力はリュミエールの半分前後の速度なのかもしれない。

 この事を伝えたら、コルニクスもスピードアップをしようと頑張るかな?

 今度試しに言ってみよう。



「今日はこの辺りで休憩ね」


 降りた場所は川の近くで、周りには何も無い。

 誰か来たら、すぐに分かるような地形だ。



「リュミエール様、ここはどの辺りなんですか?」


「ここは帝国領内よ」


「帝国!?」


「そんなに緊張しなくても大丈夫。帝国の国土は大きいけど、開拓は出来てない土地が沢山あるの。ここもそんな場所の一角よ」


 帝国と聞いた又左と蘭丸が、周りをキョロキョロと見回した。

 しかし本当に何も無い。

 水嶋爺さんなら、怪しい人物を見つけて引き金を引けば、簡単に倒せそうな場所だな。



「リュミエールは帝国の事、どれくらい知ってるんだ?」


「そんなに知らないわよ。だって人が多い首都にしか、居なかったもの」


「首都に居て、何してたんですか?」


「チヤホヤされてた」


「・・・」


 そういえばそんな事を言ってたな。

 理由が理由だから、皆黙ってしまったけど。

 女王様気分で良かったと言ってたけど、今は全くそんな感じではない。

 それでも安土に居る理由は、何だろう?



「帝国に戻りたいとは思わんのか?その、チヤホヤされてたんでしょう?」


「爺さん、鋭い意見ね。帝国に戻っても良いんだけどね。でも安土と比べると、薄っぺらいのよ」


「どういう意味?」


「帝国はアタシを敬うわ。それこそ信仰対象のように。でも安土は、感謝されてるのが実感出来るのよ。安土もアタシを敬ってくれるけど、それはまた違う意味でだと思ってる。皆、フレンドリーに話してくれるしね」



 なるほどね。

 皆からチヤホヤされて良い気分なのは、最初だけ。

 結局は孤独を感じる結果になったわけだ。

 それに対して安土は、女医モドキをしているからね。

 そりゃ感謝されるし、医者となら多少は会話もあるかな。


 ん?

 これってもしかして、働かざる者食うべからずを言った、僕のおかげじゃないのか?

 でもそれを言うのも野暮だろう。

 今は良好な関係だし、じゃあ働かないなんて言われても困る。



「この調子で未開拓の地を飛んでいくわ。もしかしたら、新たに開拓を始めているかもしれない。その時は諦めてね」







 安土を出て一週間。

 雪景色に変わってきた。



 リュミエールの言った通り、ほとんどが人の居ない場所を飛んでいたのが分かる。

 一ヶ所だけ人々が道路整備と街づくりを始めていた場所があったのだが、最初はそのまま見なかった事にして素通りを、という考えだった。

 しかし、そうも言っていられない状況があった。



 全員、魔族だったのだ。

 しかも以前ツムジ達にしてあった、契約魔法の入った首輪がしてあり、彼等は強制的に働かされていた。

 又左がそれに気付くと、彼はすぐに見張りの帝国兵を蹴散らしていた。

 隠密行動だったのに、自らバラしてしまうとは・・・。

 ただ、このまま見過ごすわけにもいかず、契約魔法は全員分解除。

 そして荷台付きのトライクを用意した。



「魔王様、我々はこのままトライクで越前国を目指します。戦闘に長けた連中も居るので、無事に到着出来るでしょう」


 又左は残る事を決意して、僕達と別行動を取る事になったのだった。




 僕達が越前国に入ると、そこは緊張感に包まれていた。

 北ノ庄城には、見た事の無い妖怪達がひっきりなしに出入りしている。



「リュミエール、お疲れさま」


「もっと気持ちを込めてよね。ところで、かなり物々しい雰囲気ね」


 冗談っぽく言っていたリュミエールも、あまりバカをやっていられないと思ったのだろう。

 ふざけるとチラ見されるので、あまり気分は良くない。



「魔王、俺達も領主殿に挨拶しに行った方が、良いんじゃないのか?」


「多分向こうから来るよ。ほら」


 城から出てきた権六は、すぐに僕達に気付いた。

 しかし、以前のような物腰柔らかな雰囲気ではない。



「魔王様、ようこそ」


「ハッシマーにやられた?」


「はい。近くの村が焼き払われました」


 鬼の表情なのは、そういう理由か。

 牙は見えてたけど、いつもにこやかで怖さなど無かったのに。

 彼が言うには、村は焼かれたが死人は出なかったとの事。

 幸いな事に偵察隊が駆けつけて、向こうは村を焼いただけで逃げ去ったらしい。



「ハッシマーといえば、オケツは今どうしてるの?」


「オケツ殿なら修行中です。魔王様が着いたら、一報が欲しいと言っていましたな」


 修行か。

 ボブハガーが海藤にやられた事を考えると、その気持ち分からんでもない。

 役に立つかは疑問ではあるけどね。



「分かった。僕が直接、オケツに会いに行こう」







 オケツは街を出て、背の低い森の中に居た。

 僕に気付かず、集中しているらしい。

 彼の修行風景を覗いてみると、ランダムに木の上から落ちてくる雪を、太刀で斬るというのを繰り返していた。

 あの奇妙な能力を使っていて、かなり離れた場所の雪ですら斬っている。

 そのせいか、彼の抜刀範囲は広い。

 僕の気配を感じ取ったオケツは、急に目の前に現れて僕に中段で斬り掛かってきていた。



「誰だ!魔王様!?」


「誰だって言う前に斬るの、やめなさいよ。避けられない弱い人なら、斬ってたよ」


「弱い人なら、気配を消して近付いてきたりしないですよ」


 確かに。

 妙に説得力のある言葉は、以前の間の抜けたオケツとは違って聞こえる。

 彼のこの前の言葉、どういう意味か確認する時が来たようだ。



「オケツ・キチミテ。キミは一体何者なんだ?」


「・・・その前に聞こうと思ってたんだ。阿久野くん、それとも阿久野さんと呼んだ方が良いのかな?貴方は地球の転生者か?」


 地球のと来たか。

 彼は転生者の存在を知っていても、日本人かどうかの確証は無いらしい。

 ただ、何故転生者という言葉が僕に出てきたのかは疑問だ。



「質問に質問で返すのは嫌だけど、どうして僕が転生者だと?」


「携帯電話だ。あんな物、この世界には無い。そして三輪のバイクもね」


 トライクという言葉は知らなくても、やはりバイクの存在を知っている。

 彼が元々向こうの人間なのは、間違いないようだ。

 でも、まだ僕を疑うという確証には足りない。



「僕の仲間が発明したのかもしれないよ?それこそ、帝国の召喚者がね」


「それは違うね。貴方はお市殿が言った、ポケベルとメールという言葉に反応していた。それは部下ではなく、貴方もその意味を知っている事になる」


 なるほど。

 あの時の聞き返した言葉で、そこまで読み取ったか。

 やっぱり、ただの間抜けな男じゃなかった。



「分かった。ハッキリ言えば、転生者ではないよ。ただし、似たようなモノだと考えてくれて結構」


「転生者ではないんだ。でもその姿なら、転移者でもないよね?」


「説明すると、難しいんだけど」


 僕は自分達がこの世界に来た理由を、話してみた。

 すると彼は、予想外な顔をしていた。



「帝国がそんな事を!?じゃあ、貴方の仲間は皆日本人?」


「そうだね。佐藤さんとか長谷部、ロックやセリカ。チカもそうだし、水嶋爺さんは・・・ちょい違うかな。とにかく、保護した人や協力してくれる召喚者は、沢山居るよ」


「という事は、貴方は日本人と敵対しているんだね。それはどういう気持ち?」


「どういう気持ち?」


 考えてみると、そうだよね。

 今までかなりの日本人と戦ってきた。

 最初は自分達の身を守る為であって、殺したくて戦っているわけじゃなかった。

 でも今は、僕の中で帝国に協力している日本人は、全員敵と認識するようになってきている。



「どうもこうもない。敵対するなら敵だよね。そこに日本人とかこの世界の人とか、関係無いかな」


「そうか。俺も同じ気持ちだ。やっぱりそういう考えの貴方だから、俺は信用出来ると思ったのかもしれない」


「逆に聞きたいんだけど、オケツは何者?召喚者なの?」


 まだ若いヒト族の姿なので、日本人なら学生と言われても通じる。

 その割には、ボブハガーはそういう仕草を見せなかった。

 それに、ボブハガーと似たような能力を持っていた事から、召喚者特有の能力というわけではなさそうだ。

 すると彼の口から、ちょっと予想してなかった言葉が飛び出す事になる。



「俺は転生者だよ。明智光秀の子孫になるのかな。というより、彼の意志を薄らと継いだ存在とも言える」


「明智光秀の子孫!?それで、また明智光秀みたいな奴になってるの?」


「やっぱり、オケツが明智だと理解してたんだ。その辺もちょっと気になってたんだよね。子供の割に、なかなか鋭いなって」


 僕が彼やボブハガーを観察していたように、向こうも僕達の事を観察していたらしい。

 これも今更だけど、オケツからそんな目で見られていたなんて気付かなかった。



「僕が向こうの人間かもって気付いたのは?」


「最後に別れる時かな。なんとなくそれっぽい言葉を残していたしね。ただ、まさか敵対する羽目になるとは思わなかったけど。あの時、関係が悪化したまま別れていたらと思うと、お館様には恨み節が残ったかもしれない」


 笑いながらそういうオケツだけど、気になる点はいくつかある。

 見た目に反して、頭が良いのは分かった。

 そうなると、やっぱりボブハガーとの関係も気になるところではある。



「オケツは、というか、オケツって呼んでて良いのかな。明智の方が良い?」


「オケツで構わないよ。今の俺は、この世界の人間だからね。以前も明智ではなかったし」


「以前も?」


 どういう意味だろう。

 それに今の言葉を口にしてから、また少し寂しそうな顔をしている。



「俺さ、何故か分からないけど、ずっと明智光秀みたいな奴に転生するんだよね」


「は?じゃあ、いつも信長を裏切って殺すの?」


 そう言うと彼は、ちょっと怒り口調で反論してきた。



「いつもじゃない!むしろ逆を目指しているんだ。本能寺の変では、信長を弑逆した。でも、それは間違いだったんじゃないかとも思ったわけだよ。あの後、すぐに俺も殺されたしね」


「じゃあ、何をしようとしてたのさ」





「今度は逆を目指してるんだよ。信長が治める天下を見てみたい。それなのにいつも、信長は亡くなってしまう。それは病死だったり事故だったり、誰かに暗殺されたり。今回もまた失敗に終わった。また俺も殺されて、違う世界の明智光秀に転生するんだと思う」

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