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再び越前へ

 ボブハガー。

 好きか嫌いかで言われたら、嫌いな部類に入る人だったかな。

 嫌いというより、苦手って言った方が正しい。

 自分の思った事を突き通すのは、確かに意志が強い証拠になるのかもしれない。

 でも、悪く言えば我が強いんだよね。

 人の話を聞かないで、自分の思った通りにやろうとする。

 そういうのが苦手な人だって、居るでしょ。

 ただし、強かったのは認める。

 そんな強かったボブハガーを葬ったのが、どうやら僕達にも関係していたらしい。


 ボブハガーを倒したのは、僕達の安土を襲った海藤という人物で間違いないと思う。

 ハッシマーは帝国と手を組んで、本格的に騎士王国を支配しようとしているようだ。

 ハッシマーが帝国の手を借りているなら、僕達だってオケツに力を貸しても良いだろう。

 お市も越前国が狙われているのを知っているし、全面的にバックアップしてくれると言っている。


 僕はまずリュミエールに力を借りて、越前国に先遣隊を送ろうと考えていた。

 最初は渋っていたリュミエールだったが、アレは多分最初から受ける気があったな。

 僕を困らせたかっただけっぽい。

 フフ、モテる男は困るな。

 なんて言ったら、リュミエールから光線が飛んできそうなので、絶対に口が裂けても言いませんけど。

 しかし僕の頼みを受けてくれたリュミエールは、問題があると言った。

 あの泥棒野郎の力を考えると、それはあり得なくない意見だった。







 海藤に防寒具を奪われたら・・・。

 ただでさえ雪国の越前国に、それは致命的だ。

 武器はコバと昌幸のおかげで、盗難防止刻印がされている。

 でも、服に刻印をするなど聞いた事が無い。

 むしろ出来るのかすら分からないし、そんな実験をする時間も無い。



「帝国と騎士王国を、通らないで行く方法はある?」


「あるにはあるけど。時間は掛かるわよ。そうね、一週間は必要だと思ってほしいかも」


「一週間!?」


 早いじゃないか!

 元々は船で移動をしようと考えていたくらいだ。

 先遣隊が一週間で到着するなら、万々歳でしょ。



「遅いなら危険を冒して、どちらかの上空を通っても良いけど」


「一週間のコースでお願いします!」


「それならお安い御用ね。乗せていく人物は、せいぜい見積もって五人にしておいて。それ以上になると、落ちる可能性もあるし、何より遅くなるから」


「分かった。コレを」


 僕はお礼に、新たなるラーメンの無料券を渡した。

 期間限定の、スパイシートマトラーメンだ。

 これは最近、ヤッヒローでもらったトマトを栽培して作り上げた、お試しのラーメンである。

 皆は美味いと食べているので、もう少ししたら本格的に出す予定だ。

 ちなみに僕は、あんまり好きじゃなかった。



「魔王!コレは今、人気高騰のラーメンよ!そんな大事な券をくれるの!?」


「それだけ大事な用なんだ。頼んだよ」


 彼女は喜び、夜になったら行くんだと言って外へ出ていった。

 あのラーメンに、そこまで価値があるとは。

 あんまり好きじゃない味だったので、意外な気がした。






 僕はリュミエールに連れて行ってもらう、先遣隊のメンバーの選出を考え始めた。



 まずは又左が、確定で良いと思っている。

 慶次も向こうに居るし、何よりリーダーとして選びたい。

 それと、佐藤さんも一緒で良いかな。

 最近はなんとなく、二人でワンセットのイメージがある。

 慶次が不在で、今は二人で居る事が多いのが原因か?


 他にはそうだなぁ、水嶋爺さんとかどうだろう。

 又左と佐藤さんは、接近戦と中距離のスペシャリストみたいな感じだし。

 銃を使うあの人なら、遠距離もカバー出来るでしょ。


 あと二人か。

 ハクトは本隊の料理を任せる意味で、こちらに残しておきたいし、太田はセンカクの修行の最中だ。

 となると、蘭丸になるのか。

 微妙に本人が嫌がる気もするけど、空を飛ぶ事を克服したと期待して、彼にしよう。


 ラストは誰にしよう。

 長谷部は官兵衛から離したくないし、思い当たる人が居ない。

 四人で良いかも。

 もしかしたら、そっちの方が早いかもしれないし。



【なあ、金子は駄目なのか?】


 編集の金子くんの事?

 いや〜、微妙じゃないかな。

 あまり戦いとか得意そうじゃないし。

 長谷部が連れてきたのも、そういうのから切り離してほしいって頼まれてたから。



【そうか。あのバリアがあれば、越前国で見たデカイ壁も強化出来そうだと思ったんだけど】


 聞くだけ聞いてみるよ。

 本人が少しでも嫌な素振りを見せたら、頼まないでおこう。

 それと本人確認の前に、長谷部にも一言伝えておかないと。

 無理矢理連れていったなんて言われたら、困るから。



「魔王様、少々よろしいですか?」


 長可さんが部屋をノックして、入ってきた。

 他の領主との連絡が取れたみたいだ。

 ただ、ちょっとだけ様子がおかしい。



「兵の派遣を渋った人が居たりしました?」


「い、いえ。そうではなく、各領主達が同じ事を口にしていたので」


「同じ事を?・・・当ててみて良い?それ、領主自らが越前国の支援に来るって話じゃない?」


「よく分かりましたね!」


 ビンゴ!

 僕の思惑通りに進んでいるっぽいな。



 越前国は、どの領地とも関係を絶っている。

 それが僕の命令という名で、越前国へ行けるのだ。

 おそらくは権六との交易に関する交渉をする為に、責任者が出向くと思っていた。

 しかし中途半端な代表者を送って、自分の領地だけ失敗するわけにはいかないと考えるだろう。

 頑なに繋がりを絶っていた彼等との交渉は、次があるのか分からない。

 そうすると自然に、代表者には名高い者が選ばれる。

 故に領主自らが動こうとするだろうなとは、思ったんだよね。



「フフフ、計算通り」


「しかし、越前国に他の領主が行って、越前国の代表者が機嫌が悪くなったりしませんか?」


「権六が?なんとなく歓迎しそうな気がするけど」


「そうですか。てっきり電話で怒鳴っていたので、怒るのではないかと思ったのですが」


 そういう事ね。

 長可さんは越前国の領主が、お市だと勘違いしているっぽい。

 この世界、長可さんみたいに女性でも男性っぽい名前の人も存在する。

 あの時、電話越しに権六の名前を足していないし。

 お市は通称で、柴田勝家と同一人物と考えていてもおかしくない。



「さっきの電話の人は、領主の奥さんだから」


「えっ!領主を差し置いて、あんなに出張っていたんですか!?」


「出張るって。最初の男性が領主で、奥さんの方が強いから。仕方ないんだよ」


「はあ・・・」


「それに、さっきの電話で聞いていたとは思うけど。受け入れるって言質も取ったからね。例えそれが安土以外の魔族でも、雑賀衆であれば問題無い」


 聞く人が聞けば、屁理屈だと言いそうだけど。

 そんな事は知ったこっちゃない。

 僕は海藤に勝つ為なら、屁理屈でも駄々でも何でもやってやる。



「それで、領主達はどれくらい派遣してくれるって?」


「最高戦力を投入するとの事です」


「へえ・・・。分かった」



 なかなか思い切ったな。

 おそらく最高戦力というなら、若狭なら阿吽の二人か領主自らが戦力として投入するつもりだろう。

 他は領主が出てくるかな?

 問題は長浜だろうね。

 テンジは他の領主と比べれば、強くない。

 多分違う観点から援護するとは思うけど、何をするのかまでは分からないな。



 しかし、領主自らとなるなら、出来れば早めに来た方が良い。

 難しいけど、リュミエールに各領主を乗せてきてもらえるか頼もうかな?

 お代は自分で払ってもらうけど。



 試しに聞いてみた結果、結局リュミエールに他の領主達も乗せてきてもらえる事になった。

 各領主という事で、各々の名産品でももらえば?と提案したところ、彼女は二つ返事で快諾。

 長浜はどうするつもりなのか分からないけど、それはテンジが考えれば良い。

 僕は提案しただけですから。







 そしてリュミエールの先遣隊出発当日、思わぬ事態が起きた。

 当日になって、金子が行けなくなってしまったのだ。

 長谷部に聞いたところ、本人が行く気があるなら止めないと言われたので、越前国へ行かないかと確認。

 最初は役に立つのならと言って、行く姿勢を見せたのだ。

 しかし、問題が発生する。

 それは田塚達漫画家が、金子を連れて行かないでくれと懇願してきた事だ。

 彼が必要だという事で、金子は残る事を選択した。



「すいません編集長。中途半端な態度を取ってしまって」


「いや、僕が求めたプロジェクトだしね。それに金子くんは、戦場に出るよりそっちの方が良いと思うよ」


 何故か彼は、僕を魔王と呼ぶより編集長と呼ぶ事の方が多い。

 間違ってはいないけど、肩書き的には魔王のついでに編集長なんだけどね。



「良かったじゃねーか。お前、必要とされてるんだぜ」


「長谷部」


「お前が居ないと、駄目だって言われてるんだろ。それってあの洞窟の時と同じだけど、違うよな」


「・・・そうだね。なんか恥ずかしいね」


 金子は帝国の連中に、金庫とか呼ばれてたらしい。

 人として必要とされているより、道具として見られてたという過去がある。

 しかし今は違う。

 田塚達からは、能力ではなく編集としての力を認められたのだ。

 彼からすると、努力が認められたと言っても良い。

 照れ臭そうに恥ずかしいと言うのも、分かる気がする。



「それじゃ今回は、四人で良いのかしら?」


 リュミエールは金子を抜かした四人で良いのか、確認をしてきた。

 僕としては、それで異論は無い。



「魔王様も一緒に来てはどうですか?」


「は?」


「他の領主達は、リュミエール様に乗せてきてもらうんですよね?なのに安土の領主である魔王様は、船で遅れて参加するのですか?」


 又左が言うそれは、僕も考えなかったわけではない。

 ただ僕が行く前に、各領主達と越前国の交渉する時間を設けてあげようかなって、そう考えたんだよね。

 決して面倒だったからとか、ゆっくり船旅でハクトの料理を食べながら行きたかったとか、そういうんじゃないです。



「魔王様、オイラも又左殿の意見に賛成です」


「か、官兵衛!?」


「やはり代表者という名の領主達が集まるというのに、それを束ねる魔王様が居ないのはどうかと」


 う、裏切りの官兵衛!?

 まあ裏切ったというよりは、真っ当な事を言っているだけなのだが。

 だって、先に行っても面倒なんだもん。

 そんなの又左とか爺さんに、押しつけたかったんだよー!



「アンタ、どうするの?」


「魔王様!行きましょう!」


「いやぁ、防寒具とか用意してないし。今回は・・・」


「そう言うと思って、ワタクシが用意しておきました」


 太田ぁ!

 そういう時は、ワタクシは魔王様一緒に船で行くんですとか、そんなセリフを言う場所でしょうよ!

 まさか、逆に勧められるとか。



「あ、ハイ。準備が出来てるなら・・・」


「人形の関節部分が滑らかに動かせるように、油も用意しておきました。どうです?」


 どうですとか得意げに言われても。

 今回行くつもりなかったから、全く嬉しくないですよ。



「魔王様、安土の事はお任せ下さい。各領地から派遣兵が集まり次第、向かいます」


 官兵衛はそう言って、軽く胸を叩いた。

 今回は各領地から越前国へ向かうのではなく、集まってから一緒に向かう事になっていた。



 官兵衛の考えた策は、オケツの話から騎士王国を横断するという作戦になった。

 混乱している騎士王国内で、大軍であれば手出しはしてこないだろうという魂胆があるらしい。

 下手に魔族に手を出している間に、他の将から攻撃を受けるかもしれないからという、心理的な隙を突いた作戦だった。



「陸路であれば、そんなに時間は掛かりません。先に行ってお待ちしていて下さい」


「分かったよ・・・」






「それじゃアンタ達、行くわよ。越前国へ向けて、レッツゴー!休憩中には、各領地の名産品を教えなさい。アタシに相応しい物があるかしら?楽しみだわぁ」

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