騎士王国の内乱
僕も反省だな。
娯楽として漫画を求めたのは、間違ってなかったと自負している。
でも、ジャンルに関しては何も考えていなかった。
BLという特殊なジャンルも、そのうちアリだとは思う。
だけどその前に求めているのは、漫画という物が面白いという事なのだ。
それには、この世界の人達が親しみやすい物から入るのが一番だろう。
そう考えたら、SFとか無いよね。
世界観すら理解出来ないかも。
でも、それが良かったみたいだ。
画力に関してはレベル差があると思うけど、ストーリーを考える事に関しては、連載した人も同人作家も変わらない。
六人全員が横並びなのだ。
少し軌道に乗った漫画作りには、金子という漫画好きの少年も加わった。
どうして自分より歳下の奴の意見なんか、聞かないといけないんだ。
こう言われないかと、最初は心配だったんだよね。
でも、彼の意見は的確だったらしい。
おっさんである田塚でも、彼の意見を聞いてくれている。
僕自身が漫画を読みたい。
早く完成すると嬉しいんだけどな。
そんな考えをしていると、長可さんから連絡があった。
越前国から連絡が来たらしい。
その内容を聞いた僕は、かなりショックだった。
ボブハガーが死んだ。
俄かに信じられない情報に、僕は耳を疑った。
本当に?って、聞くのもおかしいよね。
オケツを匿っているって言ってるんだから、間違いないだろう。
「おい!聞いておるのか!?」
「ゴメンゴメン。信じられなくて呆然としてた」
「その気持ち、分からんでもない。妾も奴の強さは知っているからな」
やはり少し声のトーンが低い。
お市も信じられなかったのだろう。
「オケツを保護してるみたいだけど、どうするの?」
「その話なのだが、おい!お前!」
うん?
電波が悪くなった?
向こうの会話が、妙に遠くなったような。
「阿久野殿!クッ、某も柴田殿同様に長くは持ちません。単刀直入に言うでござる。雑賀衆を再び雇いたい!」
「は?」
「貴様!これは魔王から連絡用にもらった、大事な通信機じゃ。乱暴に奪い取るとは、死にたいらしいの」
またお市の声に戻った。
どうやら無理矢理、電話を奪い取ったらしい。
オケツの命は風前の灯火か?
蘭丸と長可さんも、殺伐とした雰囲気を感じ取っている。
声を殺して、向こうの話を少しでも聞こうとしていた。
盗み聞きしているみたいで嫌だから、ここは空気を変えよう。
「長くなりそうなら、一度電話を切るけど。僕も長時間は、通話出来ないからね」
「嘘を言え。貴様と妾なら、一日中話していても問題は無かろう」
バレていたか。
これも全て、センカクの修行の賜物。
魔力の消費量を減らすというあの修行のおかげで、一日中どころか二日くらいは余裕だろう。
ただし、眠気に負けて寝落ちはするだろうけどね。
「でも揉めてるなら、さっき言ったようにまとまってからの方が良くない?」
「妾はどちらでも構わんが。それと、オケツがこの通信機を欲しているのだが」
「電話を?持ってても話す相手が居ないでしょ」
「魔王と連絡が取れれば良いという話じゃ」
僕とだけか。
考えるまでもない。
却下だ。
オケツに渡したところで、あまりメリットが無い。
ハッシマーに奪われて、技術も盗まれる可能性だってある。
そこから帝国に技術が渡ったりしたらとも思ったけど、飛行機を作るような連中だから今更かもね。
「NGですね。正直、電話を渡すまでの信頼は無い」
「そうなるわな。何?ぽけべるとか、めぇる機能だけでも可?何を言うとるんじゃ?」
「今、何て言った?」
お市の口から聞こえた言葉。
それはこの世界には、存在しない単語だ。
何故、それをオケツが知っているのか?
「詳しく知りたければ、直接会って話がしたいとの事だ。魔王、越前国へ来るか?」
「そんな簡単に言わないでよ!」
あの船旅をすると思うと、また半年近く安土から離れる事になるし。
「騎士王国を突っ切ってこいと言っておるぞ」
「馬鹿か!僕は島津義弘じゃないんだ。わざわざ敵のど真ん中を、突っ切っていくつもりは無い!」
徳川家康の本陣を通るように帰った島津義弘。
別に負けたわけじゃないけど、そんな危険を冒す理由が何処にあるというんだ!
と思ったら、そうでもないらしい。
「問題無い?今はアド家が滅亡に瀕しているのをキッカケに、国内が混乱しているという。関所も機能していないから、簡単に通過出来ると言っておるぞ」
ホントかよ。
と思ったのだが、オケツが簡単に越前国へ逃亡出来たのが、その証拠になるらしい。
鎖国同然の国から出るのは、確かに難しいはずだ。
「分かった。その前に確認したい」
「何じゃ?」
「ボブハガーは誰に殺されたんだ?」
「それがな、帝国の人間に斬り殺されたという話じゃ」
帝国!?
どうして帝国が介入してきているんだ?
「帝国が直接、攻撃を仕掛けてきたっていうの?」
「ここからは、本人が説明したいらしい。壊すなよ」
どうやら今度は、ちゃんと断りを入れてから借りたみたいだ。
ただ、やっぱりお市と違ってノイズが入る。
「阿久野くん。悪いが素で話させてもらう。ハッシマーはお館様に勝てないと分かると、直接的な手に出た。それが帝国の戦力投入だ」
「え?素で話すって。帝国が直接来て・・・」
ヤバイ。
急に変な事言うから、頭が混乱してきた。
「ハッシマーは騎士王国を手に入れる為、帝国の召喚者を迎え入れた。それはSクラスという、帝国の最高戦力の一人だ」
「Sクラスだって!?誰だ!」
「名前は分からない。でも、お館様は武器を奪われて、為す術も無く斬られた。奇妙な能力を持っていたのは確かだ」
武器を奪う!?
【アイツかあぁぁぁ!!】
うおっ!
ビックリした。
【俺達も騎士王国に行くぞ!あの男を許してはいけない。俺達の街を壊した奴だ。いや、街だけじゃない。仲間も大勢殺されてる】
そうだね。
そうだよ。
相手を聞いたら、これはオケツだけの問題じゃなくなった。
「ソイツの名前は海藤。僕達も借りがある相手だ」
「海藤。お館様を斬った奴の名前・・・」
「僕達は、どれだけ戦力を集めれば良い?」
「え?あ、ありがとう!そうだな、五千は欲しい。今でも帝国から、兵が集まっていると聞く。ハッキリ言って、それでも足りるかは分からない」
「分かった。一万は用意しよう」
「い、一万!?」
僕は負けたくない。
五千でも勝てるかもしれないけど、万が一という事がある。
足りないかもと言うなら、確実に勝てるだけの戦力を注ぎ込むのが常套だ。
「集まり次第、順次戦力を越前国へ送る。期待していて良いよ」
「ありがとう!」
「ほほう。そこまでやる気を出すのは、何か理由がありそうじゃな。越前国も狙われている。妾達も、魔王軍の兵全て受け入れる体制に移行する!」
お市も今や、他人事ではないからな。
全てを受け入れると言ってくれたので、これで僕は動きやすくなった。
「僕も援軍を作る為に動く。また細かい情報が決まり次第、追って連絡する。では、また」
僕は電話を切ると、大きく息を吐いた。
天井を見上げると、少し狭く感じる。
視界が狭くなっているのかな?
どうも緊張していたっぽいな。
「ま、魔王様。今の話は」
不安そうな顔をしている長可さん。
蘭丸も緊張していたみたいで、顔が強張っている。
「長可さん、戦争をします」
「!?承知致しました。蘭丸、ゴリアテ殿に連絡を」
「ハイ!」
二人は僕の言葉を聞き、表情を改めた。
すぐに行動に移った二人。
蘭丸はすぐに部屋を出て行くと、ゴリアテの下へ走っていった。
長可さんには、更に重要な仕事が待っている。
「各領主へ連絡を。越前国へ、戦力を送ってもらいます」
「かしこまりました」
長可さんは僕から電話を受け取ると、深呼吸をしてから電話を掛け始めた。
越前国と比べれば距離が近いからか、そこまで辛そうではない。
さて、僕も動かないといけないな。
僕は下へ降りていった。
一階まで降りると、そこには入り口の前で数人が並んでいる部屋がある。
僕は並んでいる人達に声を掛けてから、先に部屋へと入った。
「あら、ここに来るなんて珍しいわね。体調でも悪いの?もしかして、食べ過ぎ?」
「そんなわけあるか!」
ここはリュミエールに貸し出した部屋。
通称保健室である。
本人はそれを否定していて、愛と癒しのパワースポットと呼んでいるが、長いので皆は保健室と言っていた。
「用が無いなら早くしてよ。まだ待ってる人、居るんだから」
「そうだね。怪我人と病人が先だね。待ってるから、先に終わらせてあげて」
「そう?じゃ、遠慮無く」
リュミエールは並んでいる人を部屋に入れて、診療のような事を始めた。
佐藤さんとイッシーに何かを吹き込まれた彼女は、この部屋に居る時は白衣を羽織っている。
悪ふざけしているなぁと思ったのだが、美人女医として似合っているので、そのまま放置する事にしたのだった。
「今日の診療は終わったわよ。今日はピッツァを食べに行くんだから、早くして。ピザじゃなくてピッツァよ」
何が違うかサッパリ分からん。
楽しみにしてるのだけは、分かったけど。
「それじゃ、用件だけ。悪いんだけど、越前国まで飛べない?」
「越前国?帝国の上を飛んでいけっていうの?」
「帝国の上じゃなくても良い。とにかく急ぎで、越前国に入りたいんだ。もし飛んでいってくれたら、どれくらい時間掛かるかな?」
「それは最速で?それとも、誰かを乗せた状態を考慮して?」
最速と言われて、以前の兄の言葉を思い出した。
目も開けていられない状態で、凄く寒いんだったかな。
流石に越前国までその状態は、堪えられないかも。
「人を乗せた状態でお願いします」
「だったら二日ね。いや、皆は休憩しないと駄目か。だったら三日は見ないと」
「三日!?」
休憩を入れても三日。
僕達の船旅を考えると、相当早い。
「お願い出来ない?」
「え〜、アタシこれでも忙しいんですけどぉ」
髪を指でクルクル巻きながら言うリュミエール。
悔しいが彼女は今、本当に忙しい。
ちょっとした怪我や病気を治せるので、彼女の治癒力を求めてやって来る人が多いのだ。
イワーズ事務所で座っているだけの僕とは、はるかに違う・・・。
「ハクトに頼んで、色々と試食させてあげたじゃない」
「それ、ハクトが良いよって言ったからだし。アンタはむしろ、渋い顔してたでしょ」
だってコイツ、怪我人病人から少しずつ金もらって、気付いたらめっちゃ金持ってるんだもん。
金持ちはちゃんと、金払えば良いんだ。
「むぅ、だったら城に住んでるじゃん。お金取ってないじゃん」
「代わりに城で働いてる人は、無償で疲れとか取ってあげてるんだけど」
「何だよ!行きたくないなら、そう言えば良いじゃん」
事あるごとに反論してきやがって。
ぐうの音も出ないし。
「ウフフ、魔王の悔しがる顔。やっぱり良いわあ。それが見れたから、受けてあげる」
なんか遊ばれてる感が否めない。
ムカつくけど、ここで文句を言ったら機嫌を損ねてしまいかねない。
僕はキチンと頭を下げた。
「ありがとうございます。よろしくお願いします・・・」
「それで良いのよ。それで、何故急ぎで行きたいの?」
僕は理由を伝えると、彼女は何か考え始めた。
少し難しそうな顔をしている。
「何か問題ありそう?」
「Sクラスの男、海藤だっけ?それ、ちょっと危険ね。帝国でも見た事あるけど、色々と奪える泥棒野郎でしょ?もしアタシの背に乗ってる人の防寒具とか盗られちゃったら、先に進めないわよ」




