ジャンル
こう言っては怒られるかもしれないけど、ロックも色々と行動してたみたいだ。
僕達も知らなかったローレライという種族と出会っていたり、帝国に潜り込んでいたり。
帝国の話は半分冗談ではあったのに、まさかロック本人が潜入していたとはね。
僕の中では、ラビが猫田さんと会うくらいの考えだったんだけど。
本当に帝国の中にまで入るとは、思っていなかった。
それにしても、召喚者を甘く見てた。
帝国では召喚者って言えば、ほとんどの人が役に立つと思っていた。
中にはロックやコバのように、反抗してエネルギー資源にされてた人も居たけど。
しかし予想に反して、役に立たない召喚者は雑用をさせられていたらしい。
しかも陰湿なイジメや、力に物を言わせた淫行に及ぼうとするとかね。
どの世界というか、どんな場所でもそういうのは本当にカッコ悪いと思う。
ただ、ちょっとだけ見直した事もあった。
僕達の中でSクラスは、悪い印象しかない。
だが、中にはそんな彼等を守る連中も居るんだなと感心してしまった。
名前を聞いてもピンと来ない。
でも、こんな世界に来てまで彼等と仲良くするのは、なかなか出来る事じゃないと思うんだよ。
Sクラスという特別な力を持った奴が、最底辺に位置する人達と同じ目線で話をするんだから。
彼女の話し方だと、間違いなく上から目線とかそういう印象ではない。
本当に友達感覚なんだと思った。
「そうなんだよね。タケシくんとお話し出来なくなった事だけは、寂しい」
彼女の言葉に合わせて、他の五人も頷く。
どうやら全員が同じ意見らしい。
もしかしたら、彼女に気があっただけとも思ったけど、平等に接してたみたいだな。
「そのタケシって奴は、どんな人なの?」
「タケシくんですか。彼はSクラスの中でも、戦闘力ならズバ抜けてますね。なにせ、プロの格闘家だったんで」
「プロの格闘家ねぇ」
佐藤さんも元プロボクサーだ。
そう考えると、同じくらいの強さかな?
「俺達はあんまり知らないけど、他の人達が言うには世界チャンピオンだったらしいですよ」
「世界チャンピオン!?」
前言撤回!
元の素質が違うっぽい。
この世界に来て、佐藤さんと同じような伸び方をしていたなら、かなりレベル差がありそうだ。
「タケシくんが通ると、他の人達は怖がって道を譲るからね」
「そんな奴なのに、どうしてキミ等は怖くないんだ?」
「だって友達だし」
「同志でもあるよね」
「確かにな。彼とはメイド服の話で、一日中盛り上がった事がある」
コイツ等の話を聞くと、そんなに怖く感じないな。
むしろ僕とも話が合いそうな気もする。
【それは俺も分かる。というか、友達になれるだろ】
だよね。
そう考えると、ちょっと気になった事があるんだけど。
「どうしてそのタケシって奴は、キミ等と来なかったんだろう?やっぱりSクラスにもなると、帝国での暮らしが捨てられないかな」
「それもあると思うけど」
「誰か誘った人、居る?」
「誘えないですよ!僕達は軍から必要とされてないから、辞めますって言ったらすぐに辞められた。でも彼は、軍の最高位に居るSクラスですよ」
どうやって連れてきたのかなと思ったら、彼等はすんなりと辞められたのか。
ロックに誘われて、漫画が描けるならとすぐに飛びついたという。
もう少し疑うという事をした方が良いと思ったのだが、ロックも同じ事を言ったら、今の生活よりはマシだと言っていたらしい。
タケシという人物は、そんな最底辺の連中とは比べ物にならない生活をしているだろう。
やっぱりそれを捨てるのは無理だよね。
「じ、実は私、話しちゃったんですよね。漫画を描きに帝国を出るって」
「タケシくんに!?何て言ってた?」
「出来たら読ませてほしいって。だから私、じゃあ一緒に来ないって誘ったの。彼は笑って、良いですねって言ってたんだけど。その後は寂しそうな顔で、でも無理だって・・・」
彼女の話で、かなりしんみりしてしまった。
彼等にとってタケシという奴は、相当信頼出来る人物だったのだろう。
僕としてはSクラスが敵から減るのと同時に、こっちに味方になってくれるかもと期待しちゃったんだけどな。
やっぱりそう都合良くはいかないよね。
「魔王って言うくらいですから、タケシくんとも戦う可能性あるんですよね?」
「そりゃあ、安土に攻めてきたりしたらね。皆の話を聞いてると、戦いたくはないけど」
「彼は一対一では無敗です。絶対に一人で戦わないで下さいね。魔王様が負けたら、漫画が描けなくなる」
「そうね。漫画が大事よね」
この野郎、僕の心配というよりは漫画の心配じゃないか。
とはいうものの、一対一は無敗か。
それが知れたのは良かった。
「タケシは何の格闘技やってるの?」
「何の?総合格闘技になるのかなぁ」
「何でも出来るよね。パンチもキックも出来るし、投げ技と寝技も出来る。噂だと召喚された直後に、軍の隊長を気絶させたとか聞いたし」
召喚されていきなり倒したのか。
それは凄いかも。
普通はこの世界に来て、強くなったりするのに。
敵対したら侮れないな。
「マオっち、そのタケシの話は置いといて。彼等の話も聞いてよ」
「あ、ゴメン!そうだね、失礼しました」
他人の話ばかり聞くとか、かなり失礼だった。
僕が謝ると、彼等は逆に恐縮だと言って、更に縮こまってしまったのには困ったけど。
「それじゃ、皆に軽く自己紹介をお願いしても良いかな?」
男女三人ずつの六人なのだが、六人も居るのだ。
様々なジャンルが描けるはず。
僕としてはそっちの方がありがたい。
せっかくなのだから、色々と楽しみたいからね。
「では年長者の俺から。田塚です。若い時に雑誌に、スポーツ漫画を連載してました」
「おぉ!連載経験者!」
天パのおっさんだが、ロックよりは年下らしい。
でも見た目は、ロックの方が若く見える。
「次は僕かな。藤川です。SF漫画で賞を取った事があります。連載目指してたけど、鳴かず飛ばずでその後は・・・」
苦笑いの藤川だが、賞を取っただけでも凄い。
既に三十路らしいが、少し若く見える。
「男だと俺が最年少ですね。鳥元です。格闘漫画が好きで描いてます。二人みたいに連載とか賞とか、そういうのは・・・。アシスタント歴は三年なので、背景とかはそこそこ描けます」
鳥元くんは格闘漫画が好きらしい。
そのせいか、タケシという人物と一番仲が良かったとの事。
その割には本人、めちゃくちゃガリガリですけどね。
「じゃあ女性は私から。仲です。同人誌描いてます」
「同人誌?どんなの?」
「魔王様には少し早いかも?BLなんですけど」
「BLですか。いやまあ、分かりますよ」
BLかあ。
女性陣はいきなり濃いなぁ。
仲さん、見た目はキッチリしたタイプだから、そういうのを嫌いそうな感じだと思ったけど。
「あ、次は私かな。末高と言います。私もBL描いてるんですよね。一応、雑誌に載ったりしてました」
またBLか。
女性ってBL好きな人多いのかな?
まあ僕は学生時代、女性の友達なんかほとんど居なかったんでね。
知らないんですけど。
「わわわ私で最後ですね!椿です!わわわ私もBL描いてます。好きなだけで、下手なんですけど!」
この人は人見知りっぽい感じがする。
さっきまで一言も喋らなかったから、おとなしいだけかと思ってたけど、そうじゃなった。
しかしまたBLか。
「BLばっかりじゃねーか!」
「ご、ごめんなさいぃぃ!!」
「怒ったわけじゃないんで。ツッコミ入れとかないと、駄目かなって。ただ、本当にジャンルが被ったね」
まさか女性陣、全員BL作家とは。
ただ、それには異論があるらしい。
彼女達は急に語り始めた。
「魔王様、勘違いされたら困りますね。私は肉体派の連中が描きたいんですよ。ムキムキの男が絡み合う姿が」
「わわ私はそういうの苦手なんです!どちらかと言うと、ショタが・・・。魔王様にお友達紹介してもらえると嬉しいですね」
僕でBL描こうとしてる!?
いやいや。
僕の友達はイケメンばかりなので、キミの嗜好には合わないですよ。
「私はやっぱりイケメンなんですよね〜。Sっ気のあるイケメン先輩と、気弱なイケメン後輩が・・・。花鳥風月さんは、本当にご馳走様でした」
コイツは危険だ!
蘭丸とハクトが、とんでもない目に遭ってしまう。
漫画の中で、ハクトの貞操の危機が。
「マオくん。新しい魚料理が出来たんだけど、試食してくれない?」
うげっ!
そういえばここは食堂だった。
調理室にハクトが居ても、おかしくない。
「だ、誰ですか!あのイケメンは!」
鼻息が荒い末高さんは、僕に言い寄ってきた。
絶対に紹介したくない。
「というわけで、僕は試食しに行きます。末高さんの質問には答えられません」
「ロックさん!」
今度はロックに言い寄ると、ロックは根負けしてハクトの名前を教えてしまった。
「ハクトきゅん!イケメンは見てるだけで、ご飯三杯は食べられるわね」
「お前、絶対にハクトには紹介しないから」
「当たり前じゃないですか!イケメンには触れるな。見て妄想するものです」
うーん、どっちにしろ駄目な気がする。
でも、何故か頷く女性二人。
「魔王様、ワタクシ少しお聞きしたい事が。あ、何かお話し中でしたか。それでは後程、また伺います」
太田が食堂に顔を見せたが、僕達を見てすぐに引っ込んだ。
そして太田を見た仲さんが、立ち上がる。
「誰!?」
「教えない」
「ロックさん!」
またもロックに言い寄ると、ロックは太田だと教えてしまった。
「ぐふふ。さっきはオーガの筋肉も見たけど、ここは天国だわ」
「私だけ居ません・・・」
ガッカリする椿。
椿さんはショタだからね。
城に子供は働いてないので、そんなに周りを見回しても居ませんよ。
しかし、末高と仲はとんでもない事を言い出した。
「目の前に居るじゃない」
「魔王様ですか?でも、相手が・・・」
「合作にしましょう」
「が、合作!?」
「私達はさっき、気弱なイケメンと丁寧な紳士っぽいマッチョを見た。そして目の前には、ショタ魔王よ」
「・・・良い。良いですね!やりましょう!」
何が良いんだ!?
勝手に話が進んでいく。
「お、おい!男性陣、彼女達を止めなさい!」
「制作意欲が湧いたのに、それを止めるなんて。俺達には出来ませんよ」
クッ!
マトモそうな事を言っているが、ただ揉めたくないだけと見た。
ここはやはり、連れてきた責任者にどうにかしてもらおう。
「ロック、分かってるよね?」
「いや〜、俺っちには止められないよ。田塚くんも言ってたけどさ、制作意欲が湧いたらね。俺っちだって、作曲を始めて途中で止められたら怒るもの」
マトモな事を言いやがって!
あぁ、話が進んでいく。
しかも何故か分からんが、食堂に居る女性の一部が、少し興味を持っているような気がする。
さっきからチラチラと、視線を感じるんだが。
「やっぱり魔王様が迫られる方が良いですよね」
「気弱なウサギちゃんだと思ったら、狼でしたみたいな!」
「そうね。ムキムキなのにイケメンに迫られて、断れないとか。メシウマだわ」
これはマズイ。
娯楽として紹介しようとしている漫画のトップバッターが、BL漫画になってしまう。
何よりも、僕達を登場させようとしているのが、非常にマズイ。
「ちょっと聞いてくれるかな?キミ達、僕の話を聞いて・・・。話を聞きなさいって!ハイ、安土ではBL漫画、禁止でーす。理由?実在の人物を使って、描こうとするからだよ!」




