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王国兵の言い分

 建物の内部に入ると、戦闘音が一切聞こえなかった。

 そのまま奥へ行く為に扉を開けると、代わりに話し声が聞こえる。

 どうやら捕らえるのに、投降を試みているみたいだ。


「貴様等に逃げ道は無い。大人しく投降した方が、身の為だ

 と私は思うが」


「何故、俺達が帝国に降らなくてはならない!俺達が帝国に攻撃されるいわれは無いはずだ」


 ズンタッタ達を帝国兵だと思っている?

 それとも剣筋で分かったのかな?


「我々は帝国兵としてやって来たのではない。魔王様の指示でやって来たのだ」


「魔王って、帝国の王子だろ?じゃあ帝国の人間じゃないってどういう意味だよ」


「それは、僕の命令でズンタッタ達に動いてもらった」


 話のキリが良い所で、姿を見せた。

 別に狙ったり、わざわざキリが良さそうな所まで待ってたわけではない。

 中に居た王国兵は8人。

 数で勝っているからか、やはり強気だった。


「ダークエルフのガキ?お前等が飼っているのか?」


 その言葉に、ズンタッタが眉をひそめる。

 ラコーンやチトリ達も怒っているのが分かる。


「言葉を慎んでもらおうか。この方が正当な魔王様であられる、マオ様である」


 何も言っていないのに、太田が答える。

 そういえば太田、よくこの建物に入れたな。

 小人族の身体に合わせてあるからか、かなり入り口が狭かったのに。


「ミノタウロスを引き連れたダークエルフ?意味が分からん。お前等、自分達の立場が分かっているのか?この村には500人の王国兵が滞在しているんだぞ?そのガキを差し出したら助けてやるよ」


 自分達の優位を未だに信じているからこそ、出てくる言葉だな。

 その顔も人をイラつかせる為にあるように感じる。

 滑稽にも程がある。


「不愉快だ」


 拳銃から発砲された銃弾が、1人の王国兵の眉間を貫いた。

 反応する事無く倒れた兵を見て、喚き散らす。


「お、おまお前!何しやがった!こんな大きな音立てて、周りの奴等が黙ってねーぞ!」


「馬鹿だなお前」


「何!?」


「外の様子を分かっていないのか?物音一つしていないだろうが。全てそこのマオが射殺してたわ」


 蘭丸が残念な奴を見るような目で語っている。

 その言葉に反応した他の兵が、窓から外の様子を伺った。


「さっきの音だ。騒いでいるだけだと思っていたのは、この音だったんだ。ヒィィィ!血の海が!全員死んでやがる!」


 腰を抜かしたのか、尻もちを突きながら後退りしている。


「もう一度言う。抵抗する事無く投降しろ。そうすれば、お前等の声を聞いてやらんでもない」


 子供に凄まれても、本当なら微笑ましいだけだろう。

 しかし、右手に持った拳銃から放たれた銃弾が、彼等を恐怖に貶めている。

 素直に従うと良いんだけどね。


「じょ、冗談じゃない!俺は逃げる!こんな事あってたまるか!」

「お前等、絶対にただじゃ済まさねぇ!後で覚えてろ!」


 残った7人のうち、4人は逃亡を試みた。

 窓から飛び出し、裏手へと走り出す。


「ラコーン!逃すな!お前達も行け!」


 ズンタッタの指示で、ラコーン達四騎士が後を追う。

 蘭丸とハクトも追ったが、太田は窓から出れないので僕の横に居た。


「さて、残った方々は投降する意思があると取ってよろしいか?」


 腰を抜かした人は諦めた目をしていたが、他の2人は違った。

 人数が減った今なら、逆に逃げられると思ったのだろう。

 違う窓から血の海を通り、入り口に向かって走り出した。


「そうか、残念だな」


 先程の戦闘で入り口は封鎖している。

 外へ出る事は出来ない。


「ツムジ、今建物から出た2人の後を追ってくれ」


「ハイハイ!了解!」


「どうせ入り口は封鎖しているんだから、ゆっくり後を追う事にしよう」


 ズンタッタと大田の3人で、歩きながら追う事にした。




「お前等、逃げ道なんかねーぞ!大人しく捕まれや」


「ふ、ふざけるな!何なんだよあのガキはよぉ!」


 慌てふためいたように答え、剣を構えて対峙している。

 しかし他の3人は違った。

 ダークエルフが持つ拳銃が無ければ、どうにかなるとでも思っている。


「魔王の陰に隠れた護衛騎士様なんか、大した腕じゃないだろう。俺達みたいにずっと殺す為に鍛えた奴等とはよぉ!」


 ラコーンに向かって下段から斬りかかる。

 身体の大きいラコーンには、下段は確かに有効かもしれない。

 しかしそれは並みの兵士であればの話。


「俺達が鍛えてないみたいじゃないか。まああの強さを見れば、言いたい事も分からんでもないけどな」


 地面に剣を突くようにして、下段を防ぐ。

 その弾かれた剣を中段から横薙ぎへと変化し、身体を斬り裂こうとしていた。


「もらった!」


 勝利を確信してそう叫んだが、ラコーンが慌てる事は無い。

 その剣を手放し、後方へ飛ぶ。

 そして離れたと同時にボーラを投げた。


「ぐぁっ!」


 腕に鉄球が命中し、身体を鎖が巻き付ける。

 両腕が不自由になった兵は、後退りを始めた。


「ま、待ってくれよ!同じヒト族だろ!今回の事は多目に見てくれないか?」


「見苦しいな。本当にこの国の奴等は腐っている。昔と何も変わっちゃいない」


 警戒を怠らず、ゆっくりと近付く。


「昔と何も?お前、もしかしてライプスブルクの出身か!?だったら尚更だろ!何で同郷の人間に剣を向けてるんだ!?」


 同郷のという言葉に、ピクリと反応する。

 余程嫌だったのだろう。

 顔をしかめながら答えた。


「お前等と同郷だというだけで反吐が出る。俺にとってあの国は、滅んでいいとも思っているくらいだからな」


 目の前まで来たラコーンは、その言葉を口にしつつ汚物を見るように見下ろした。


「そうかよ!だったらお前が滅ぼしてみろ!」


 目の前のラコーンに向かい、蹴りを繰り出す。

 ブーツの爪先部分から、鋭いナイフが飛び出した。


「やはりな」


 暗器の予想をしていたかのように、左腕でナイフを弾いた。

 ミスリルの鎧には、ちょっとした傷がついている程度だった。


「なっ!?」


「お前の返答は分かった。魔王様には抵抗されて、どうしても捕らえられなかったとでも伝えておこう」


「待って!待ってください!降ります!今すぐ投降します!だから命だけは助けてくだ・・・」


 言葉を言い終える事無く、彼の命は潰える事となった。

 ラコーンの上段からの一撃で、真っ二つにされたのだった。


「捕らえろって命令だったのに、怒られるよなぁ・・・」


 そんな事を口にしながら、他の3人の様子を伺っていた。


「アンタ、何やってんの!?」


 シーファクからの怒りのお言葉が飛んでくる。

 3人はマオからもらったボーラを使い、上手く捕縛していた。

 失敗したのはラコーンだけ。


「おいおい、捕らえろって言われてたよな?何でそれが真っ二つなんだ?」


 チトリが肩を叩きながら話し掛けてくる。

 珍しいラコーンのミスに、ちょっと嬉しそうな感じだ。


「僕は知らない。何も知らな〜い」


 スロウスは見てなかった事にするつもりらしい。


「ラコーン!アンタは罰として、この3人をズンタッタ様の所まで引っ張って行きなさい」


 縛られている3人を指差して、鎖を差し出す。

 喧しい声だと思いつつ、少し暗くなった気持ちが晴れたのを感じた。


「俺はやっぱ、コイツ等と一緒で良かった」


 誰にも聞こえない声で小さく呟きながら、鎖を引っ張っていった。




「何処まで行ったかな?入り口に向かってはいないと思うけど」


 雨の中、呑気に歩きながら逃げた2人を探す。


「魔王様、建物の中に入っちゃって分からなくなっちゃった」


 空から監視していたツムジから連絡が入る。

 逃げられないと悟ってか、建物の中から奇襲でもするつもりかな?


「どの建物か分かる?」


「今歩いてる所から真っ直ぐ行った建物の右隣だよ」


 アリガトとお礼を言って、そっちの建物へ向けて歩き出した。


「投降を勧めて逃げたのだから、それなりの覚悟はあるだろう」


「そんな物ありませんて。私が言うのもなんですが、部下が残っているのに自分が逃げ出す等、指揮者としては無能です」


 ズンタッタはオーガの町で、敵として対峙した。

 しかし彼は、自分はいいから部下の命を保証してくれと言って、投降している。

 同じような立場でありながら、その対応の差に慷慨を感じているのかもしれない。


「あった。あの建物だね。もう一度投降を勧めてみよう」


「お前達の居場所は既に分かっている。大人しく投降した方が身の為である!」


 太田の大きな声が響き渡る。

 しかし中から出てくる様子は無い。


「太田殿、中へ参りましょう」


 2人は建物の扉の前に立った。


「おおぅ!」


 扉が急に開き、ズンタッタへと剣が突き出された。

 驚きの声を上げながらも、横へと避けるズンタッタ。


「卑劣な!投降を呼び掛ける者に対して、その仕打ち。貴様等は王国兵としての誇りは無いのか!」


 凄く怒ってるけど、多分彼等には届いていない。

 だってそんな事より、どうにか逃げようとしているんだから。


「貴様があんな化け物を連れて来なければ、俺達は今頃こんな目に遭わなくて済んだんだ!」


 化け物?

 それは僕の事かな?

 拳銃で奴の腕を狙った。

 派手な金属音を立てたが、倒れてはいない。


「馬鹿め!この鎧はミスリル製よ!そんな銃では俺は倒せぬわ!」


「あ?馬鹿?それは僕の事か?」


「貴様以外に誰が居る。そんな事も分からぬとは、だから貴様はアホなのだぁ!」


 イラッ!

 何故こんな奴に、そのセリフを言われなくてはならんのだ。

 コイツには王者の風なんか吹いていない。

 鉄の銃弾を防いだからといって、ミスリルの銃弾が防げるわけじゃない。


「もう一発食らいなよ。今度はこっちで」


 ダァン!という音がした後、痛みに叫びながら右肩を押さえている男が居る。


「い、いだい!いだい!いだいよぉぉぉ!何でミスリルの鎧が」


「だったらこっちも、ミスリルの弾に変えればいいだけじゃない?そんな事も分からないの?」


 ボーラを準備して捕縛した。

 そしてもう1人はと言うと、


「すいません、分銅が頭に当たってしまいまして・・・」


 太田の一撃でお亡くなりになってしまったようだ。


「生き残ったのは6人か。本陣のあった建物に集めろ」


 ようやく終わったな。

 まだ雨は降っているけど、多少の気分は晴れた気がする。



「町の入り口の封鎖を解くから、お前達は小人族を迎えに行ってくれ」


 四騎士と蘭丸達には小人族の迎えに行ってもらった。

 ズンタッタと太田は、僕の護衛という名目で残っている。

 小人族が来るまでの間、僕は彼等の話を聞く事にした。


「捕虜・・・ではないな。お前達はそれだけの事をしたのだから」


「何故だ!ちゃんと捕虜として、丁重に扱うと約束しろ!ちゃんと降っただろうが!」


 コイツ凄いぞ?

 最後まで剣を向けておいて、ちゃんと投降したと抜かしてる。

 どの口がそんな事を言えるのだろうか。


「投降を勧めたのに逃亡し、最後には不意打ちで剣を向けてきたのは誰だったかな?それを投降したと言うのであれば、それは僕が間違っているのかもしれないけど。そこん所、アンタどう思う?」


 不意に指を刺された別の幹部が、しどろもどろになっていく。


「そ、それは、何と言いますか。か、勘違いです!投降を勧められたのではなく、攻撃されると勘違いして剣を向けたのです!」


「勘違いで剣を向けて、相手を殺そうとしたと?そう捉えて良いのかな?じゃあ僕も、勘違いで貴方の頭を撃ち抜くけど、間違っていないよね?」


 撃つ気は無い。

 ただの脅しだ。

 でも、自分達だけが助かった理由も分かっていないんだろう。

 殺されると思って、あたふた言い訳を始めている。

 聞くに耐えないので、聞き流しているけど。


「お前達は自分達が何をしているのか分かっているのか?もしこの村の連中を助けても、この先にもう命は無い。王国全土の兵がお前達を葬りに来るからな」


「王国全土で何人くらいの兵が居るの?」


「10万は居るはずだ。お前達はその10万人に踏み躙られて死んでいくのだ!」


 結構多いな。

 装備が貧弱でも物量で負けるかもしれない。

 でも、それは相手が分かっていればの話だけど。


「一つ聞いていい?誰がキミ達が捕まっている事を伝えるの?それに誰が僕達がやりましたって伝えに行くの?」


「生き残りが必ず居るはずだ!」


「生き残りはアンタ達だけだよ。空から監視していたからね」


「空からだと?出鱈目言うな!空なんか飛べる魔族は、鳥人やハーピィだけだろうが!」


 そうなんですか?

 初めて知ったわ。

 とても素晴らしい情報をありがとう。


「ツムジ、出てきていいよ」


「ハイハ〜イ!」


 幻獣グリフォンの姿を目にして、嘘ではないと悟ったらしい。

 初めて見る幻獣の姿に、言葉も出てこない様子だ。


「信じてもらえたかな?このグリフォンに空から村の監視を頼み、誰も生き残りが居ないのは確実なんだよね。それでもう一度聞くけど、誰が僕達が襲ったって、王国に伝えるの?」


「・・・何故、俺達ばかりがこんな目に遭うんだ」


「何故?それは逆に聞きたいね。何故お前達は魔族を襲うんだ?しかも狙って小人族のような力の無い魔族を」


「魔族は俺達ヒト族を城から追い出したではないか!信長公に取り入り優遇され、俺達の祖先を追い出した!」


「それは権力だけに傘を着て、無能だったからでしょ?」


「違う!俺達の祖先は、ヒト族の繁栄の為に働いていた。それなのに、信長公は認めなかった」


「ヒト族の為に働いたのは、奴隷にされた魔族だろ?お前達の祖先は、それの上で贅沢に暮らしていただけじゃないのか?」


 僕が聞いているのはこの辺りまで。

 ラコーンの語らなかった事実があるのかどうか。


「魔族はヒト族の為に働いていた。それの何が悪い?それなりの待遇はしていたはずだ」


「ヒト族の為に働いていたのではなく、奴隷だから仕方なく働いていたの間違いなのでは?魔族がヒト族より力があり有能だから、信長公に優遇されたんじゃないのかな?」


「それでも俺達の祖先は、王国を繁栄させた。それを有能とは言わないのか!」


「王国を繁栄させたのは、自分達の祖先である貴族である。それなのに信長は認めなかった。そこまでは分かった。それと魔族を襲う理由は関係無いだろう?」


「魔族さえ居なければ、俺達の祖先は辺境の何も無い土地になど来る事は無かったんだ」


 そこで逆恨みが発生しているのか。

 魔族が居なければヒト族が優遇されて然るべきだと。


「それでも信長公は、有能なヒト族は仕官させたんじゃなかったっけ?それに選ばれなかった時点で、既に有能ではなかったんじゃないの?」


「何も無い土地を一から作り上げた我が祖先は、信長公の恩赦を待った。それなのに!」


 ん?

 何も無い土地を一から作り上げた?

 それ、結構凄い事じゃない?


「僕の考えだから、あくまでも推論として聞いてほしい。アンタ達の祖先は左遷されたのではなく、任されたんじゃないの?何も無い土地を一から都市を作り上げるなんて、そうそう出来る事じゃない。逆に出来ると思ったから、信長公からその土地を任されたんじゃないかな?」


「しかし、信長公は祖先に対して良い感情は無かったと。

 それに何故、恩赦をくださらなかったのか!?」


「信長公って世界を平定した後、すぐに亡くなったんじゃなかったっけ?中央ではそのゴタゴタがあったとは考えられない?」


「確かにすぐ亡くなられた。では恩赦の件は!?」


「作った都市を全て任せるっていうのが、褒美だったとは考えられないかな?確か王国って、めちゃくちゃ広大だったと思ったけど」


「・・・わ、我々は間違っていたのか?」


「あくまでも僕の考えだから。でも、なんとなく聞いてたらそんな気がしたんだよね」


 勘違いから全ての歯車が狂う事もある。

 この人達は、自分の人生の大半を逆恨みに費やしたと言っても過言ではない。

 可哀想な気もするけど、残念だけどその罪は消える事は無い。




「お前達には、生き残った小人族からの断罪が待っている。自分達がした事を悔やみ、弱いと罵った者に命乞いでもするがいい。僕達はアンタ等にこれ以上関与するつもりは無い」

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