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阿鼻叫喚と祝福

 神輿良いよね。

 担ぐのはごめんだけど、遠くからカキ氷でも食べながら見るのは楽しい。

 普段はあんまり外に出たくないけど、祭りだけは音が聞こえると、出店に行きたくなったんだよなぁ。

 やはり王国から魚介類が手に入るようになって、タコ焼きが作れるようになったのは大きかった。

 お好み焼きも悪くはないんだけど、祭りって言ったら焼きそばタコ焼きカキ氷が、僕の中ではマストだ。


 マッツンには笑わせてもらったし、僕から酒を奢らせてもらった。

 あんな風に自分を曝け出せるのは、なかなか勇気が要るよね。

 普段は馬鹿だなと思うけど、羨ましくも思える。

 それは兄にも共通して言える事だけど。


 いよいよ、蘭丸の結婚発表が始まった。

 思ったんだけど、何故城を使うのに僕達には一言無かったんだろう?

 断ると思ったのかな。

 他の奴に言われたら、駄目って言いそう。

 でも蘭丸なら、断らないつもりだった。

 全ては長可さんの手のひらの上で、行われている気がする。

 しかし、蘭丸があそこまで日和るとは思わなかったな。

 思わず駆け出したけど、兄も同じ事を考えていたのは少し嬉しかった。

 覚悟を決めた蘭丸が大きな声で告白してたけど、僕なら恥ずかしくてあの場から逃げ出してると思う。






 言いよった!

 この野郎、こんな大勢の前で言いやがりましたよ。

 俺は蘭丸の顔を覗き込んだが、実に堂々としている。

 なんだかもう、俺達が知ってる蘭丸じゃないみたいだ。



 街中からの拍手と歓声が凄い。

 でもそれだけじゃないな。

 中には男の嫉妬のような声も聞こえてくる。

 美人の嫁さんもらえれば、そりゃそうなるわな。

 俺だって彼女欲しいし。



「言質は取ったわ。これで蘭丸も逃げられないわね」


 風魔法で聞こえる長可さんの声。

 どうやら風魔法がまだ発動していると思わなかったらしく、裏の声が聞こえていた。



「お前、もしかしてハメられたんじゃ?」


「うーん、どうなんだろう?」


「そんなに結婚は嫌でしたか?」


「そ、そんな事は無いぞ!別に結婚してもしなくても、俺は俺だし」


 しどろもどろになる蘭丸に、セリカは更に言い寄ろうとした。

 しかしその瞬間、再び街中が暗くなった。



「何だ?これも演出か?」


「俺は聞いてないぞ。お前は?」


「私は・・・」


 セリカは、何か知っているような感じではある。

 安土全体が暗闇に包まれた事で、街中からもどよめきが始まった。



「このままだと混乱して、怪我人が出そうだぞ」


「おい、どうなってるんだ!?」


 蘭丸も普段着慣れない羽織袴などのせいか、真っ暗なバルコニーを動くのは危険だと動かない。

 何が起きるのか、長可さんからも説明は無い。

 そして、それは始まった。



「静まれ!」






 女性の大きな声が、安土全体に響き渡る。

 長可さんではないその声に、皆は聞き入った。

 すると、急に空が明るくなったではないか。

 明るくなった空を見上げた皆が見たモノ。

 それは城の真上を飛ぶ、ドラゴンだった。



「うわあぁぁぁ!!」


「ドラゴンの襲撃だあぁぁぁ!!」


 誰かが走って、街から逃げ出そうとしている。

 その声を聞いた街の住民達は、同じように慌てて我先にと走り始めた。

 混乱する安土に、ゴリアテ達がどうにかして鎮静化をしようと行動を始めた。



「止まれ!止まれ!」


「止まれるか!攻撃されたら、一瞬で殺されるぞ!」


 ゴリアテ達の防衛隊も、流石に住民を攻撃する事は出来ない。

 結局は言葉で鎮めようと頑張ったが、どうにも効果は薄かった。



 混乱の最中、俺は空を見上げる。

 想像していたのと違うといった雰囲気の、リュミエールが居た。



「お前、もしかしてこのタイミングで名前を披露しようとしたんだろ?」


「ギクッ!で、でも、長可から提案されたのよ。アタシは悪くない」


 皆が上を見上げたタイミング。

 それが蘭丸達の発表だったんだろう。

 その直後に自分も乗れば、街の人全員の注目を浴びれると長可さんから言われたらしい。



「ハァ、そこのエルフの人」


「は、はい!」


 やっぱり居たか。

 風魔法でスピーカー代わりに声を風に乗せてたから、絶対に近くに風魔法が使えるエルフが居ると思ったんだ。



「俺の声を届けてくれ」







「皆、聞いてくれ!俺は阿久野です」


 俺の声が聞こえたからか、少しずつ静かになってきた。



「俺の話を聞いてくれるか?確かに今、ドラゴンが現れたけど、何もされてないからな。もし攻撃するつもりなら、俺達皆死んでるから」


 ようやく理解してくれた。

 攻撃してこないドラゴンに、皆は恐る恐る空を見上げた。



「ほら、お膳立てしたぞ。お前言え!」


「こ、このタイミング!?」


「皆が注目してるだろ。今なら誰もが忘れないぞ」


「あーもう!こんなはずじゃなかったのに」


 リュミエールは予定と違うと渋ったが、ヤケになったのか。

 とうとう声を挙げた。



「アタシはリュミエール。この通り、ドラゴンよ」


 話し始めた途端、街中がどよめいた。

 どうやらドラゴンが喋るとは、誰も想像していなかったらしい。

 意思疎通が出来ると分かったからか、皆は逆に静まり返った。

 下手に騒いだら、怒らせる事になるとでも思ったのだろう。

 これなら逆に伝えやすいかもしれない。

 だったら俺も手伝ってやるか。



「リュミエールはどうして、このタイミングで現れたんだ?」


「どうして?それはアタシが・・・あ、なるほど。アタシはこの二人を、祝福する為に来たのよ」


 二人を祝福という言葉が、街中を駆け巡る。

 暴れる為ではないと分かって、全員が安堵した瞬間だった。



「アタシ、リュミエールが来たのは、この前途ある若者達を祝福してあげようというワケなのよ!リュミエールであるアタシはね、セリカにお世話になってるからね」


 事あるごとに、リュミエールという名前を連発するなぁ。

 目立ちたがりみたいで、あまり良い印象じゃないんだが。

 悪目立ちでも良いのか?



「と、とにかく、アンタ達は幸せになりなさい。アタシが祝ってあげてるんだから、ならないと駄目なのよ」


 幸せの押し売りって、こういう事を言うんだっけ?



「だったら少しくらい、何かしてやれよ」


「魔王、ちっさいクセに生意気ね。仕方ない、アタシの力をとくと見なさい。光あれ!」


「え?」


 リュミエールは、以前ブルーに攻撃したような光線を四方の空に放った。

 それは街の上空まで行くと、更に光が爆散した。

 最初は何かと怯えていた連中も、光の粒子が街の中へ降っていくのを見て言った。



「うわぁ、綺麗」


「凄い、光の雨が降っているみたいだ」


 感嘆の声が挙がるのを聞いたリュミエールは、得意げに言い放つ。



「どう?ドラゴンって言ったって、別に暴れるだけが能じゃないのよ。やろうと思えば、人を感動させる事だって出来るんだから」


 同じような光線を、バンバン連発するリュミエール。

 これ、触ると溶けるとか無いよな?



「ちなみに触れると、少しだけ自己回復力が上がるわよ」


 逆でしたか!

 見透かされたように言われて、ちょっと気まずいですなぁ。



 ただ、効果は抜群だったみたいだ。

 さっきまでは恐怖に怯えていた連中が、今では名前の大合唱になっている。



「リュミエール!リュミエール!」


 自分の名前が知れ渡ったからか、満足気なリュミエール。



「しばらくはこの安土に、厄介になるから。何か怪我とか病気で困った事があったら、城に来なさい。アタシが何とかしてあげる」


「しばらく!?城!?お前、何を言ってるんだ!?」


「心の狭い魔王ね。それじゃ皆、またね〜」


 リュミエールが発光しなくなると、辺りは真っ暗になった。

 すると、見計ったかのように再び照明が点灯する。



「皆さん、祝福されし二人に拍手を。白いドラゴンであるリュミエール様に感謝を」


 長可さんの声が聞こえると、皆は拍手で応える。

 いつまでも鳴り止まないそれに、蘭丸達は気まずそうに扉を閉めた。







 扉を閉めた途端に座り込む蘭丸。

 頭をガシガシと掻くと、ため息を吐いた。



「やられた。完全に母上に踊らされたな」


「まさか、リュミエールの名前の披露を、お前の結婚に利用するとはね。ぶっちゃけ官兵衛並みの策士だぞ」


「勘弁して下さい。オイラだって、あんな事を思い付きませんよ」


 官兵衛は苦笑いしながら、やって来た。

 隣には長谷部とロゼが居る。

 どうやらロゼが、セリカを祝いに来たらしい。



「オイラは怖くて、ドラゴンを利用しようなどと考えませんよ」


「あら、利用だなんて。これは取引よ。取引」


 長可さんが満面の笑みを浮かべて登場すると、その後ろからリュミエールも現れた。



「そうよ。これは持ちつ持たれつ。長可にもアタシにもメリットがあったの。ウィンウィンの関係ってヤツね」


「リュミエール様、ありがとうございました。あの光の雨の演出、素晴らしかったですわ」


「長可もずっと混乱に堪えて、照明を点けなかったのは助かったわよ」


 二人で話し始めてしまった。

 三者面談で偶然会った、保護者みたいな会話になっている。



「なんか、どっと疲れた。戦ってる時の方が疲れないよ」


「まあな。俺もリュミエールが出てきて、混乱しちゃった時は焦ったぞ。それで、この後はどうする?」


「あー、俺はこのまま家に帰るよ」


 蘭丸は疲れたと言って、セリカと帰る事になった。



「官兵衛は?」


「オイラは二人と、お祭りを楽しみたいと思います」


 両手に持ったタコ焼きとお好み焼きを見て、食べ歩きだと俺は悟った。

 五人は早々に立ち去ると、リュミエールと長可さんの声だけが聞こえる。



「リュミエールは、長可さんと話してるし。アレ?俺、一人じゃね?」


(駄目だ!悲しくなるから、それは言ってはいけない。それに、僕達の親友、ハクトがまだ居るじゃないか)



 そ、そうだ。

 ハクトに会いに行こう。



「総料理長は疲れたと言って、帰られましたけど」


 調理室に言った俺達は、色々と試作されたケーキを見て、そうだよなと思いながら部屋を出た。



(そういえば思い出したよ)


 何が?



(祭りって音楽とか聞いて楽しそうだから行くけど、一人だからさっさと食べたい物を食べて、帰ってたなって。祭りで一人だと、居場所が無いんだよね)


 ・・・部屋に戻って寝るか。



 俺は部屋に戻ると、ハクトの作ったケーキの余りが置かれていて、それを食べてから寝た。







 帰還祭という名の、結婚披露&名前披露祭りが終わって半年。

 ある人物達が帰ってきた。



「ロック達が戻ってきたって?」


「ハイ。しかも彼等、かなり凄い事をやったようです」


 凄い事?

 とにかく本人達から話を聞こう。



「ロック、ラビ、お疲れさま。旅はどうだった?」


「マオっち!俺っち、マジでこの世界に来て良かったよおぉぉ!!」


 いきなり泣き出すロック。

 何が何だか分からないのでラビを見ると、彼女も思いを巡らせていた。



「な、何があったの?」


「うおぉぉん!あ、そうね。説明しないと」


「いきなり泣き止むのやめてくれる?気持ち悪いから」


「はうっ!これだよ。やっぱりマオっちとコバっちの、このトゲトゲしい言葉が良いよね」


「変態だ!つまみ出せ!」


「うわー!ウソウソ!」


 慌てて立ち上がるロック。

 ん?

 身体が引き締まってる?



「気付いちゃった?」


「身体なんか鍛えてたっけ?以前と比べると、一回りくらい大きくなった気がするんだけど」


「魔物に襲われたりしたからねぇ。事務所のアイドルを守るのは、社長の役目だし」


 それ、意味が違う気がするけど。

 ただ、ラビも頷いているので流す事にした。



「それで、何があったの?」






「聞いちゃう?俺っち達、ある種族を仲間に出来たよ。その名も、ローレライ。美人さんが多かったんだけど、歌が上手くてね。ちなみに親戚も居るらしくて、海の方にはセイレーンっていう人達が居るんだって。ぜひ俺っちの事務所に入れたいんだけど、海行く?」

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