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帰還祭その2

 マッツンのお腹センサーというのは、なかなか侮れない。

 見た目は美人でマッツンの好みなのに、それでも一切近付いていないというのだ。

 ついでにゴブリン達も距離を取っているみたいだけど、それは野生の勘なのか?

 もしくはマッツンが怯えてるから、ただ単に危険だと思っているのかの、どちらかだろう。

 せっかくなので痛い目に、じゃなかった。

 友人になってもらいたいので、敢えて突き放す事にした。


 船から戻ってきたハクトを、僕は蘭丸が話があると案内した。

 勿論、結婚の報告の為だ。

 しかしハクトは、出来た男だね。

 僕は今でこそ、ちゃんと祝う気持ちはある。

 だけど決まった直後は、リア充爆ぜろの気持ちの方が強かった。

 それなのにハクトは、驚きこそしたがしっかりと祝っていたのだ。

 蘭丸とセリカの為に、ケーキも作るという。

 はぁ、コイツも僕達を置いて、良い人見つけるんだろうなぁ。


 そして祭り当日。

 僕は目を疑った。

 アレだけリュミエールを避けていたマッツンが、一番目立って登場したからだ。

 どういう心境の変化なのだろうか。






 神輿なんかこの街にあったっけ?

 いつ作ったのか分からない神輿。

 かなり出来栄えは良い。

 急ごしらえには見えないくらい、立派な神輿だ。



「アレ、誰が作ったの?」


「田中達に教えてもらって、ゴブリン達が自主的に作ったみたいですよ」


 へぇ。

 何故、あの三バカが神輿なんか教えたのか分からないけど、かなり綺麗だ。

 というか、神輿の作り方なんかよく知ってたな。



「ちなみに作ったのは、かなり前らしいですね。使う機会が無くて、初めて蔵から出したんじゃないですか」


「前から!?暇だなぁ。あー、ゴブリン達はそうでもないか」


 暇なのはマッツン一人だけ。

 どうせ田中達と話していたマッツンが、作りたいとか言ったんだろう。

 でもまあ、今回は良いかな。

 神輿を見たのなんか、久しぶりだし。

 大学時代だって見てない。

 小学生か中学生くらいの時が、最後じゃないか?



「神輿か。こうやって見ると、日本の伝統文化って感じがする」


「俺もだ。大人になってからは仕事ばかりで、祭りに行くなんて無かったもんなぁ」


「ですよね。特に一人で行くなんて・・・」


 佐藤さんとイッシーが並んで、しみじみとしている。

 話が聞こえてきたけど、あまり突っ込んではいけない気がしたので、聞こえないフリをしておいた。



「イッシーさん!祭りなんだから、ハメを外す女の子が居てもおかしくない!」


「なるほど!俺達にもまだ、ワンナイトラブがあるかもしれないな。行くぞ、佐藤!」


 二人は気合を入れて、何処かへ行ってしまった。

 間違ってもリュミエールの所には、行かないでほしい。



「それ!ワッショイ!ワッショイ!」


 何故だろう?

 意外とマッツンが様になっている。

 上半身は裸に法被で腹が出ているのだが、それが悪くないのだ。

 こういうおじさん、祭りに居たなと思い出すからか?



「オ・レ・サ・マ、フィーバー!!フィバフィバフィーバー!」


 調子に乗ったマッツンは、神輿の上で踊り始めた。

 何故かディスコで踊るようなダンスで、この世界ではあまり見ないからか、皆も興奮している。

 神輿を担いでいるゴブリン達も、それに呼応して更に神輿を荒々しく振り始めた。



「異世界ナイトフィーバー!!俺様のダンスを見ろおぉぉあぁぁ!!助けてー!!」


 ダンスに合わせて神輿の動きが荒くなったせいで、マッツンは落ちてしまった。

 それに気付かないゴブリン達は、落ちたマッツンを踏んづけている。



「アバッ!ちょ、タンマ!痛い、痛いんですけど!」


 頭を踏まれないように手で覆いながら、身体は踏まれまくるマッツン。

 結局、神輿だけが先へ行ってしまった。



「イタタタ。ハッ!フィーバー!」


 神輿に置いてけぼりにされたマッツンは立ち上がると、観客に向かってポーズを取る。

 ボロボロなのに堂々としているマッツンに、観客は大きな拍手で応えたのだった。






「俺様、やり切った」


「そう。それは良かったね」


 僕はマッツンを出店のベンチに座らせて、酒を奢っている。

 最後は微妙だったけど、面白いモノを見せてもらったお礼だ。



「なんか冷たいな。もしかして、俺様が周囲の注目を集めちゃって、嫉妬してる?」


「それは無い」


 注目を集める為に、ゴブリン達に踏まれて蹴られてボロボロになるのは嫌だから。



「うっ!お腹がギュルギュル言い始めてきた」


 まさかのお腹センサーか?

 すると後ろから、リュミエールがやって来た。

 見えなくても反応するとか。

 お腹センサーの精度、恐るべしだな!



「アナタがさっき踊ってた人ね。とても良いモノを見せてもらったわ」


「どわっ!あ、ありがとうございます・・・」


「また後で踊るんでしょ?その時も楽しみにしてるから」


「ハイ!お任せを!」


 敬礼するマッツンに、リュミエールは肩を叩いてから僕達から離れていった。

 見えなくなるまで敬礼し、カチンコチンに固まっているマッツン。

 その硬直がようやく解けると、彼は大きく息を吐いた。



「なんだ、慣れたんじゃなかったのか。あんな派手に登場したから、もう彼女に慣れたのかと思ってたよ」


「諦めたんだよ!俺様のように目立つ奴は、どうせいつかは見つかるんだ。だったら最初からド派手に目立ってやろうと思ったんだ」


 諦めるとか、そういう話なのかな。

 普通に接していれば、怯えるような事にはならないと思うけど。



「でも、さっきの感じだと怖くなかったでしょ?」


「うーむ、何とも言えん。だが、楽しみにしてると言われたからには、全力でフィーバーする!それと、やっぱり良い匂いがした」


 結局は惚れかけてるじゃねーか!



 しかしマッツンも、彼女には逆らえない。

 それならおもいきって、彼女とくっついてしまえば静かになるような?

 ゴブリン達も、彼女の言う事なら聞きそうだし。

 下手したら、マッツンからリーダー交代もあるぞ。



「マッツン!ここに居たのか。知らない間に神輿から居なくなってたから、探しに来たんだよ」


 現れたのは、カッちゃんナオちゃんハンちゃんの三人。

 三人はマッツンに、飲みに行こうと誘って手を引いている。



「よーし!次のナイトフィーバーまで飲むぞ!魔王、じゃあな!」


「飲み過ぎて下手なダンス見せたら、怒られるかもしれないからな。程々にしておきなよ」


「なっ!確かにその通りだ。気を付けよう」


 飲む気満々だった彼だったが、僕の言葉に少し意気消沈した。

 余計な一言だったかな?

 それでも四人は楽しそうに、人混みの中へと消えていった。







 陽が傾き、辺りはかなり暗くなってきた。

 いよいよ夜の部のスタートである。



 そして夜の部には、越前国から持ち帰ったクリスタルが、ふんだんに使われている。

 クリスタルの中には光魔法が入っていて、アポイタカラと連結されていた。

 最初はアポイタカラのこういう使い方は、良いのかなとも思った。

 しかしコバに言わせると、アポイタカラと複数のクリスタルを用いた実験になっているらしい。

 上手くいけば、様々な用途に使えるかもという話だ。



「提灯ではないが、なかなか綺麗であろう?」


「提灯は作らなかったの?」


「作らなかったのではない。作れなかったのだ」


「え?」


 コバの説明によると、流石に提灯のような和紙と細い竹を使った細工が出来るのは、手先の器用な小人族だけだった。

 たったの三日で、街全体に行き渡らせるだけの提灯を作り上げるのは、無理だったらしい。



「ただし、城の外部にはいくつかあるはずである」


 よくよく城の方を見てみると、確かにピンクや黄色、水色っぽい灯りが見える。

 それが提灯だったらしい。



「もっと街中の広場とかで、使えば良かったのに。城のあんな上の方じゃ、気付かない人の方が多いんじゃない?」


「問題無いのである。何故なら、あの提灯の中心を見てみるが良い」


「提灯の中心?」


 よく観察してみると、大きな扉がある。

 その前には、複数人が立てるようなバルコニーが作られていた。

 いつの間に作られたのだろうか?



「何アレ?」


「まあ見ておれ。真田家の面々が、協力して作り上げたバルコニーである。もうすぐ始まるはずである」


 始まる?

 すると光魔法で照らされていたクリスタルが、一斉に消灯した。

 安土城は全ての灯りが消されていて、真っ暗だ。



「皆様、今日は魔王様の帰還祭にお越しいただき、ありがとうございます。住民の方やそれ以外の方も、楽しんでいただけてますでしょうか?」


「長可さん?」


 何処からか、長可さんの声が聞こえる。

 これは風魔法を利用した、スピーカーのような物らしい。

 これはクリスタルなどは使用せず、エルフの魔法で行なっているとの事だった。



「それでは夜の部は、まずこちらの発表からさせていただきます」


「は?発表って、もしかして?」


「知っておるのか?吾輩もバルコニーを作る理由を聞いたのだが、教えてもらえなかったのだぞ」


 長可さんが昌幸に、バルコニー製作の話を持っていった時、コバもその場に居たらしい。

 しかし理由は、教えてもらえなかったとの事だ。



「それでは皆様。次世代のエルフを治める事になる我が息子、森成利こと蘭丸の発表をお聞き下さい!」


「マジか・・・」


「どういう事であるか?」


 コバは、意味が分からないから良い。

 しかし僕には分かった。

 彼女の狙いが分かってしまったのだ。



 僕はてっきり、長可さんが風魔法を使って発表するものだとばかり思っていた。

 だが彼女の狙いは、自分の口から皆に言わせる事なのだ。

 安土中の注目を浴びさせて、後には引けない所まで追い込む。

 当初は一人前になってからとか言っていたのに、いざ認めたら本人の意思は関係無し。

 身内だけに知らせる方法だって、あったはずなのに。

 何という恐ろしい母親だ。



「お、提灯がまた明るくなったのである。ん?ハート?」


「ハ、ハハハ・・・」


 ここまで来ると、完全に晒し者みたいだ。

 僕なら逃げ出してる。



【そうか?俺もこれくらい、派手にやりたいけど】


 本気!?

 やっぱりスポットライトを浴びてきた人は、違うんだな。

 いよいよ登場らしい。

 扉が開き、蘭丸とセリカと思われる二人が、城の中から出てきた。



「蘭丸の奴もコスプレしておるのか。しかし、紋付の羽織袴とは。ん?隣に居る白無垢は・・・まさか」


 コバもとうとう理解したらしい。

 そして街の何処からか、佐藤さんとイッシーの叫び声が聞こえる。

 アレは祝っているような感じではないな。

 イケメンに先を越された、悲哀に満ちた叫び声だ。



「えー、ご紹介に与りました森成利です」


 どうやら扉の方には、他のエルフがスタンバイしているのだろう。

 蘭丸の声も、街中に聞こえていた。

 しかし問題なのは、彼の言葉がこの後続かない事だ。



「どうしたのであるか?」


 流石に見上げている皆も、長い沈黙に違和感を覚え始めてきた。

 僕は何故か、何も考えずに城の方へと走り始めた。



【変わるか?お前がしたい事、なんとなく分かるぞ】


 お願いしたい。

 後は頼んだ。





 俺は身体強化をして屋根の上へと飛び上がり、そのまま城の外壁からバルコニーへ向かった。



「魔王様!?」


 長可さんの声が、風魔法に乗って街中に響いた。

 そのせいか、城を駆け上がっているのが俺だと分かり、歓声が上がっている。



「蘭丸!」


「マオ、お前何しに来たんだ?」


「発破を掛けに来たんだろうが!いつまでガチガチに固まってるつもりだ」


 セリカは固まっている蘭丸の横で、自ら言ってくれる事を待っていた。

 何とも健気な姿で、これに応えない蘭丸が、なんつーかホント腹立つ。



「今のお前、ダサいぞ。自分で言ったクセに、いつまでもクヨクヨ悩む必要なんか無いだろ。お前がそんなだと、愛想を尽かされてもおかしくないな。セリカが惚れた蘭丸は、こんな軟弱者じゃねぇ!」







「言ったな!俺は軟弱者じゃない!俺はセリカを守る。まだ完全に一人前とは言えないかもしれないが、俺の全てを懸けて守ると誓おう。俺、森成利はセリカと婚姻を結びます!」

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