白いドラゴン改め
泣ける。
僕の親友が、結婚する事になったんです。
小さな頃からずっと一緒で、え?
今も小さい?
ほっとけ!
しかし、本当に結婚する事になるとは。
まいったね。
彼はこれで、大人の仲間入りをするわけだ。
蘭丸の結婚で思ったけど、又左達は結婚しないのかな?
利家って言ったら、まつっていう有名な奥さんが居るんだけど。
何でだろ?
蘭丸とセリカの結婚を機に、白いドラゴンは森家から城へと移る事になった。
僕の友人という事になっているが、長可さんとゴリアテは魔王不在で彼女が城に泊まるのを許さなかったらしい。
僕としてはどちらでも良いかなと思うけど、そういう事はキッチリしておかないと駄目だと言われた。
そして白いドラゴンと話していて思ったのだが、ドラゴンはほとんどの連中が自意識過剰なのかもしれない。
そんな話をしなきゃ良かったと、今でも後悔している。
彼女の名前を、僕が決めなきゃいけないのだから。
一人で決める自信は無い。
失敗したら、僕の心臓は無くなるからだ。
こういう時はね、誰かを巻き込むに限る。
巻き込むなら、普段からタダ飯を食ってる人だよね。
僕の心の叫びを聞いたズンタッタは、溜め息を吐いた。
コトの重大さに気付いたようだ。
「こんなくだらない事で、呼び出されるとは」
「くだらない!?」
「魔王様、仮にも陛下は帝国の王ですぞ。そのような事に巻き込まないでいただきたい」
ズンタッタとビビディに、何故か説教される僕。
あまりにムカついたので、僕は言ってやった。
「お前達、さっきの話を聞いてなかったのか?下手をすれば、安土は滅ぼされるからな」
「だーかーら!それは魔王様が、ちゃんとした名前を考えれば問題無い事ですよね?」
「お前等、馬鹿にしてんだろ!僕が白いドラゴンが気に入る名前を、考えられると思うなよ!」
興奮して立ち上がったズンタッタに、僕は言ってやったよ。
自分で言ってて少し悲しいけど。
だが背に腹は、心臓を抉られるよりかはマシである。
「まあまあ皆さん。陛下もいらっしゃるのですから、落ち着きましょうよ。魔王様は、どのような名前を考えていらっしゃるのですか?」
アデルモが僕とズンタッタの間に入ると、ズンタッタをなだめ始めた。
ズンタッタもバスティの前だと理解して、大きく息を吐いて静かに僕の返答を待っている。
「昨日答えたのは、花子だよ。そしたら心臓抉るわよって、目が笑ってない笑顔で言われた」
「そりゃそうでしょう」
そうなのか?
和風の服が似合うから、花子でも似合うと思ったのに。
「他には考えましたか?」
やはり聞いてきたか。
僕も馬鹿ではない。
寝られなかった間に、名前を考えていたのさ。
「やっぱり、ドラゴンっぽさを残そうかと思ってね。僕としてはドラゴンから取って、ドラ美を推したい!ドラゴンっぽさを残しつつ、美しいって字も入れてあるよ。って、アレ?」
僕が一晩掛けて考えた名前だぞ。
どうして皆、溜め息を吐いているんだ?
「ズンタッタ」
「ハイ、私が悪かったです」
バスティの一言で、ズンタッタは謝ってから席に座った。
え?
どういう事?
「皆、分かったかい?魔王に任せていたら、私達がお世話になっている安土が、亡くなるかもしれない。ここは一つ、皆で協力して良い名前を考えよう」
「そうだよ。皆、考えて・・・ん?ドラ美は駄目って事?」
「心臓抉られても良いから、聞いてみると良いですよ」
どうにも腑に落ちない気持ちを悶々と抱えたまま、会議は始まった。
最初にアイディアを出してきたのは、ビビディだった。
「花子ではなく、華子にしてみては?」
そうね。
僕の胸に、白いドラゴンの爪が突き立てられたかな。
「ビーよ、それはあんまりだ」
流石はズンタッタ!
それでは危険だと分かっている。
「私は白いドラゴンなので、白子が良いと思います」
「流石はズー!良い名前を考えるな」
白子!
良いねぇ。
彼女の爪が胸を突き刺して、僕の心臓を鷲掴みにされた頃合いです。
「二人とも!魔王様の前で、そんな事を言わないで下さいよ」
ほほう?
アデルモは、国王直属だった二人に気後れするかと思ったのだが。
意外に負けていないじゃないか。
これは期待出来そうだ。
「ではアデルモ殿。貴殿はどんな名前を推すかな?」
「そうですね。光を司るドラゴンなので、ヒカリはどうでしょうか?」
「キミ!本気で言っているのかね!?」
「え?本気ですが、何か?」
ふむ、期待した僕が馬鹿だった。
ヒカリは僕も候補に入れたんだよ。
でも、安直過ぎるとか言われそうでやめたんだよね。
アデルモは、僕と考えが似ている。
結論から言うと、アテにならない事が分かった。
「バスティ、ここはやはりライプスブルグという国の王だったキミに期待するしかないようだ」
「ハッハー!任せてくれよ。ここはね、やはり皆の良い所を組み合わせれば、大丈夫だと思うんだ」
「つまり?」
「華白ヒカリはどうだろう?」
「おぉ!陛下、流石です!」
「このビビディ、敬服致しましたぞ!」
「わ、私もです!」
華白ヒカリか。
うむ、僕の心臓は無くなってしまったらしい。
断言しよう。
二日後に、この安土は滅亡する!
「さて、辞世の句でも残すとしよう。後世に残るような、良い句を考えるぞー」
「魔王様、自棄にならないで下さいよ」
「冗談ですよ。冗談」
ズンタッタとビビディが、笑いながら冗談だと言ってくる。
しかし、一人だけはそうは思っていなかったらしい。
「華白ヒカリ、良いじゃないですか!いや〜、流石は陛下ですね」
「アデルモ殿、本気で言ってる?」
「ええ、ハイ」
彼には御退場願おうかな。
本気でそう思えてきた。
「それじゃ、皆。ここからは、ちゃんと本気でね」
バスティの一言で、彼等の雰囲気も変わった。
アデルモは変わっても、関係無い気がするけど。
「陛下はどうですか?」
「私かい?そうだねぇ、ヒカリを使うのは、アリだと思っているんだけれど。ただ、そのままというのはね」
「ライトニングやシャインですか」
「しかし、女性に使う名ではないと思うが」
おぉ!
三人の会話が素晴らしい!
なんというか、僕いらない子になってる。
ふふふ、話を聞いてるだけに徹しよう。
「リヒトもどちらかというと、男性に多い名前だしねぇ。何か良い案があれば良いのだが。アデルモくんはどう思うかな?」
「わ、私ですか!?華白ヒカリも良いと思うのですが。ヒカリであれば、そうですね。我々が魔族の方から聞いた言葉に、リュミエールというのがあります」
「リュミエールか。良いのではないか?」
「そうだねえ。女性っぽさもあるし、私も悪くないと思うよ」
「陛下にそう言っていただけると、嬉しいです」
「と、いうわけなのだが。如何かな?」
ハッ!
聞いているだけで決まってしまった。
僕、赤べこみたいに頷いてるだけだったわ。
「素晴らしい!やはり僕が見込んだ四人だけあるな。彼女の名前は、リュミエールに決定だ!」
会議はあのまま終了。
四人は面倒そうな顔で、部屋を出ていった。
ただし、まだ決定ではないんだよね。
彼女が本当に気に入ってくれるかが、問題なのだから。
これで駄目なら、僕は心臓を抉られる。
ドラゴンである彼女なら、本気でやりかねない。
悪いけど、やっぱり最終確認だけはしておこうと思う。
「というわけで、やって来ました」
「何よ。アタシ、バンドっていう音楽隊を観賞してたのに」
「それなら上手い奴が、旅に出てるよ。そのうち帰ってくると思うけど」
「本当に!?楽しみにしてるわ」
楽器は上手いが、性格は変だとは言わなかった。
初対面でどういう反応をするか、楽しみだなぁ。
「それで、何の用なの?」
「おっと!本題を忘れていた。一応ね、確認なんですけど」
「名前の事?」
「そう!そうです!やっぱり思ったのよ。ドラゴンみたいな長命種は、納得した名前にしてもらった方が良いと。だから発表前に、前もって確認してもらった方が良いかな〜なんて」
軽い感じで言えば、彼女もそう重く受け取らないと思うのよ。
駄目って言われたら、僕の心臓にリーチが掛かる!
「そうね。アナタの言う通りだわ。今後ずっと呼ばれるのだから、アタシも納得した名前が良いわね」
イエス!
僕の超大勝利!
これなら間違えても、問題は無いわけだ。
だったら・・・。
「ドラ美という名前はどうで」
「あ?」
「嘘です!それはボツになった名前でした!」
危ない。
目が怖かった。
視線だけで、心臓を鷲掴みにされた気分でした。
一晩掛けて考えた名前が、ひと睨みされて終わるとは。
僕だけだったら、マジで心臓無くなってるところだった。
「しょうもない事を言うと、怒るわよ?」
「すいません!本当はですね、リュミエールという名前を、考えたんだけど。どうかな?」
「リュミエールか。悪くないわね。どういう意味?」
「一部の魔族の言葉で、光という意味なんだけど」
「アタシにピッタリね!気に入ったわ。アタシは今からリュミエール。明後日の発表が楽しみね」
「気に入ってもらえて良かったよ」
本当は魔族の言葉というより、フランス語なんだけどね。
どうしてアデルモが、フランス語で光を知っていたかは分からない。
ただ、吸血鬼族も使ってたから、魔族と仲が良いアデルモの一族が知っててもおかしくないのかも。
「それと、ちょっとお願いがあるんだけど」
「何?」
「その名前お披露目の件、もう少し先延ばし出来ないかな?」
「・・・何故?」
う・・・。
さっきまでの機嫌の良さが、無くなっていく。
だが、どうせなら一緒が良いのだ!
「あの時の船に乗っていた連中が、もうすぐ安土に帰ってくる。その時には帰還を祝したお祭りがあるから、その時に同時にやるのはどうかなと思ったんだけど」
「お祭り?」
「簡単に言えば、パーっと飲んで騒いでするだけなんだけど。あっ!ハクトも帰ってくるから、ブルーが食べてた料理と同じ物も食べられるぞ」
「良いわね!分かったわ。盛り上がってる時の方が、派手そうだしね。いつやるか分かったら、連絡してちょうだい」
彼女はそう言って、再び街の中に消えていった。
なんとかなった。
名前の件もクリアしたし、お披露目会も皆の帰還と合わせてやれる。
これで本当に、僕も休めそうだ。
「ん?」
街のベンチに座り込んで、初めて気付いた。
マッツンが遠くから、こっちを見ている。
もしかして美人だから、彼女の事が気になっているのかな?
マッツンをリュミエールに押し付けるのも、面白いな。
痛い目を見るのも僕じゃないし。
グフフ、アリだね。
「おーい!マッツン!」
「魔王か。あの女は戻ってこないな?」
やはり気になってるっぽいな。
よしよし、これなら大丈夫。
「彼女の事が気になった?紹介してあげようか?」
「しょ、紹介だと!?」
「美人だよ〜。マッツンも美人は好きでしょ?」
「美人は好きだが、アレは遠慮しておく」
あら?
どういう事だ?
もしかして、安土に来ていきなりアタック仕掛けて玉砕してるのか?
「一回失敗したくらいで、へこたれるなよ。僕が二人の仲を取り持つからさ」
「取り持つぅ!?」
マッツンの反応がおかしいぞ。
てっきり喜んでくれると思ったのに。
すると彼から、予想外の言葉が出てきた。
「お前、アレが何者か分かって言ってるのか?化け物だぞ!いかに俺様が強くても、アレには勝てる気がしない。アレに関わったらダメだと、俺のお腹反応が言っている」