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船の行き先

 入射角と反射角。

 中学生で習う理科の勉強を思い出せば、多少は分かる事なのだが。

 兄はサッパリ分からないらしい。

 というか、この船に乗っている人の中で、僕の話を理解したのはコバと官兵衛だけだった。

 流石に官兵衛も、日本の理科など習っていない。

 説明をすると、興味深そうに聞いてくれたのが印象的だった。

 それに対して、佐藤さんやイッシーは・・・。

 いや、何も言うまい。

 水嶋爺さんは、習ってないかもしれないので知らなくても仕方ないけどね。


 長々と説明した結果、とりあえず水の球に白いドラゴンは封じられたと納得してくれた。

 問題は、この水の球をどうするかなんだよね。

 僕達もこんなのを維持したまま、安土に帰るなんて出来ないし、ブルーもお断りだと言う。

 エクスに引き渡すという考えもあったけど、やっぱり殺されるのが分かっててそれをするのは、ちょっとね。


 結果的に、僕達は奴を逃す事にした。

 対応策も分かったし、多分次に会う時までには何とかなると思った。

 泣いてるから反省してるかと思い、ブルーに頼んでいざ出してみたら、憎まれ口を叩かれたのは予想外だったけど。






 白いドラゴンはそう言うと、僕をチラ見して飛んでいってしまった。

 光と同化していなくてもかなり速く、一分足らずであの巨体は見えなくなっていく。



「本当に良かったのかなぁ?」


「ホントだよ!お前の考えが、全く理解出来ん!」


 ブルーの言葉に賛同する蘭丸。



 彼の悩みは、安土が襲われたらどうするのかという事だった。

 僕達だけなら追い払えても、街の皆を守れるのかという考えに至ったらしい。

 巨大な鏡を使えば、さっきと同じ事が出来ると思う。

 次に来るまでに対策を施せば、脅威にはならないはずだ。


 そもそも僕は、さっきの様子だと敵対しない気がするけどね。

 いつか本当に、安土に遊びに来そうな気がするよ。



「しかしブルー様は、本当に治りが早いですね。ワタクシも早いと言われますが、敵いませんよ」


「これでもドラゴンだからねぇ。とは言っても、旦那や白いのと比べても、俺は早いかな。そこは水を司るところの長所だと思うよ」


 さっきまで血飛沫がガンガンに舞っていたのに、今のブルーには傷跡がほとんど無い。

 ただ、血は減っているらしいので、激しく動くと辛いらしい。



「ブルーもお疲れさま。ハクトの料理を食べながら、爆撃機を探しに行った連中を待とうか」



 佐藤さんとイッシーは、結果的に爆撃機を二機撃墜したらしい。

 長谷部も白いドラゴンが居なくなった後に、手伝いをしていた。

 ただ、イッシーの確認によると四機居たと思われるらしく、残りの二機は見逃してしまったとの事。

 彼等は一時間ほどして、帰還した。







 長かった船路も、とうとう終わりを迎える。

 もうすぐ川に入るのだ。



「ブルー、本当にありがとう」


「やめて下さいよ!俺も最初は坊ちゃん達に攻撃しちゃったし、これでチャラって感じで良くないですか?」


 チャラと言うけど、かなり僕達が得した気分だ。

 彼からすると、逆にハクトのご飯を毎日食べられて得した気分だったと言っている。

 優先度の高さが僕達とは大きく違うけど、本人が納得しているのでこれで良いのかな。



「もうすぐ川になるけど、ブルーは海以外では生活出来ないの?」


「そんな事無いですよ」


「川とか水が近くないと駄目?」


「別に大丈夫かな」


 なんだよ。

 てっきり水を司るって言うから、水が近くないと駄目なんだと思ってた。

 だったら、陸でも生活出来るのかな?



「海に居る理由は?」


「居心地かなぁ。ずっと本来のドラゴンになっていられるし、魚も美味いし。肉、あんまり好きじゃないんで」


 なるほどね。

 首都圏の空気が澱んでいるのと、ほとんど同じ理由かな。

 生活出来なくはないけど、わざわざ苦しい思いをしてまで陸に上がる必要性を感じないってところだろう。

 安土の近くに湖でも作れば、案外引っ越してくるかも?



「白いドラゴンにも言ったけど、機会があったら安土に来てよ。他にも美味い物あるからさ」


「良いですねぇ。場所が分からないけど」


 ブルーは普段海に居るからか、陸地の勢力図がサッパリ分からないらしい。

 下手に上陸したら、帝国領の可能性もある。

 面倒なので、川を下ってもらった方が早そうだ。



「それじゃ、またよろしくね」


「坊ちゃんも元気で。あ、ついでに水魔法を教えときましょうか?」


「水魔法?どんな?」


「皆からは、タイダルウェーブって呼ばれてる魔法なんだけど。一応上級より更に上の魔法かな」


 タイダルウェーブって、マジか。

 それ、水がある所じゃないと使えないんじゃ?



「海以外でも使えるの?」


「そりゃ勿論。ただ、魔力消費は半端ないけどね。俺や白いのを抑えられる坊ちゃんなら、それだけの魔力量を持ってるでしょ」


「音魔法の維持よりかは、使用量は少ないだろうね。分かった。教えて下さい」



 僕は川に入るまでの半日間で、彼からタイダルウェーブを教わった。

 使い道があるかは分からないが、覚えておいて損はないと思われる。



「やっぱり坊ちゃん、魔王なんだな。魔法の筋が良いよね」


「そう?褒めても何も出ないよ」


「いやホントに思っただけ。おっと、もう川に入るか。それじゃ、俺はここでサヨナラだ。いつか本当に、安土に行くから。川を上れば行けるだよね?」


「そうだよ。分かりやすいように、目印でも作っておくから。よろしくね」


「分かった。ハクト、美味しいご飯をありがとう。皆も元気で。では、さらばだ!」


 僕と握手をした後、何故かハクトにも握手を求めた。

 ドラゴンから握手を求められるとは思わなかったハクトは、しどろもどろになりながらもそれに応えていた。


 彼は海へと飛び込むと、青い身体をしたドラゴンに戻っている。

 水砲を上空へと放った彼は、最後に大きな声で鳴いて海へと潜っていった。



「凄い!あんな大きな虹、初めて見ました」


「俺もだ。日本でもあんなの見なかったぞ」


「俺の時代も無かったな」


 ブルーの水砲で見えた虹は、この世界の人間も日本から来た人も、誰も見た事がないくらいの大きい虹だった。

 最後の置き土産には、何とも清々しい気持ちにさせてもらったよ。







 川に入ってから気付いたのだが、問題がある。

 この船、どうやって安土に持って帰るかという点だ。



 僕達が出港したのは、ライプスブルグの新しい首都であるツヴァイトフルス。

 しかしここは、他国の首都である。

 戦艦を他国に預けておくなど、言語道断。


 この川沿いにあるという領地なら、艦長を務める嘉隆の出身地、志摩があるんだけど。

 流石に魔族の領地ではあるが、ずっと置かせてもらうのも悪い気がする。

 やはりどうにかして、安土もしくは、そこに近い何処かに帰港出来るようにするしかないだろう。



「どうしようか。官兵衛、何か策ある?」


「ノーム達に頼るほか、ないでしょうね」


 彼が言うには、一番無難なのは川沿いに町を作る事だという。

 安土直轄地として街道を作って、港町として発展させるのはどうかという案だ。



 ただし問題点もある。

 町が完成するまで、この船は川に停泊させるしかない。


 完成した後も大変だ。

 誰が町を治めるのか。

 誰が港町へ移住するのか。

 その他諸々と、様々な難題が待っていた。



「又左とかは?能登村の村長やってたし」


「えぇ!?それは命令でしょうか?出来れば辞退したいのですが・・・」


 彼は魔王直属から、外れたくないらしい。

 肩書き云々よりも、戦いや他のイベントに呼ばれなくなる事が増えそうだと言っていた。

 何を危惧しているのか分からないけど、無理矢理任せてもあまり発展しなさそうな気もする。

 僕は又左を諦めた。



「そうだ!イッシー殿はどうですか?」


「俺!?」


「部隊の方々全員で移住するのも、あながち悪くないと思うんですが」


 又左はイッシーの名を挙げると、本人はあまりに突然の事に驚いていた。

 本人は戸惑っていて、今すぐに返答は出来ないと思われる。



「でもなぁ」


「何か不安でも?」


「いやね、イッシー隊が全員で移住しても良いんだけどさ。問題があるよね」


「手伝える事なら、手伝うけど。何?」


「俺達の部隊、ほとんど独身なんだが。女っ気の無い、野郎だらけの港町になっちゃうんだけど」


 想像をしてみたが、かなりむさ苦しい。

 これはマズイ。



「女性の移住希望者も、募るのはどうでしょうか?特に独身女性には、支度金を用意するとよろしいかと」


「良いね!それで行こう。イッシー、独身男性と人数比が合うかは分からないけど、それでどう?」


「検討はしてみる。俺だけの話じゃないから、今すぐには返事出来ないわ」


 イッシー隊と名乗ってはいるけど、元々はただの薄毛の人の集まりだったからね。

 そこに上下関係は存在しないみたいで、戦闘時の関係上でイッシーが率いてるだけみたいだ。



 とりあえずは港町を作りつつ、安土までの街道を作れば良いと思われる。

 そうすれば川沿いに面している事し、ツヴァイトフルスからの輸入もここを拠点に出来るかもしれない。

 意外と重要拠点になりそうかも?



「それでは仮の町長をイッシー殿をお任せするとして、早速ノーム達にこちらへ来ていただきましょう」



 官兵衛は携帯を取り出すと、長可さんへと電話を掛けた。

 要件を伝えると、彼女は二つ返事でノームの派遣に応じてくれた。

 しかし、予想外の出来事があったらしい。



「実は、魔王様のご友人だと名乗る方が、安土にお越しになられてまして」


「僕の友人?誰だ?」


「それが、本人は名乗らないのです。真実なのか嘘なのか、分からない次第でして」


 そんな怪しい奴、知らんがな。

 でも、どうして追い返さないんだろ。



「それで、今はどうしてるの?」


「最高の待遇で、おもてなししております」


「ハァ!?」


「あっ!駄目です。今は魔王様との連絡の最中で・・・キャッ!」


「長可さん?長可さん!?電話切れちゃったよ!」


 僕との電話に、無理矢理乱入しようとした?

 それとも長可さんから、電話を奪おうとしたのか?

 どちらにしろ、あんまり良い状況じゃない。



「おい!俺はここからトライクで帰るぞ!」


 蘭丸はさっきの電話の切れ方を聞いて、慌ててトライクに乗り込んだ。

 アクセルをふかす蘭丸だが、僕も心配なのだ。

 だからこそ、ここは頼りにしようと思う。



「コルニクス!」


「ハイっすー」


「蘭丸を乗せて、最速で安土へ向かえ」


「えー!また魔王様じゃないんすかー。ちょっち嫌なんですけど」


 コルニクスの不満のある声が、蘭丸にも聞こえている。

 蘭丸はコルニクスに頭を下げた。



「頼む!後でお前の頼みを、何でも聞いても良い。だから俺を乗せて、母の下へ向かってくれないか?」


「蘭丸・・・。お前、これで乗せなかったら召喚契約解除な」


「ファ!?さ、蘭丸さん。乗って下さい。俺が!最速で最短で安土へ向かいますから。俺が!」


 蘭丸の前で屈むコルニクス。

 最速なのは、お前の変わり身な。



「ツムジは僕を乗せて、それなりに速く安土に行ってくれる?」


「分かったわ」


 勝ち誇るツムジだったが、コルニクスは見ていない。

 契約解除が効いていて、ツムジと喧嘩するどころじゃないようだ。



「マオ、悪いな」


「僕も追い掛けるから。早く行ってやって」


「俺が!最速で向かいますから。魔王様、俺が!」


 グイグイと自己アピールしてくるな。



「そんな事する暇あるなら、はよ行け。じゃないと」


「コルニクス、行きまーす!」


 甲板から飛び上がったコルニクスは、数秒で見えなくなった。

 さてと、僕も誰だか分からない友人とやらに、会いに行くとしよう。

 長可さんに乱暴を働くような友人なんか、知らないけどね。





「悪いけど、皆はもう少し待ってて。ノーム達と入れ替わりで、安土に戻ってきてほしい。官兵衛はイッシーと一緒に、港町に関しての話し合いを進めておいてくれると助かる。じゃ、僕も安土に行ってくるね」

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