光の特性
白いドラゴンは、どうやら煽りに弱いっぽい。
自分が下に見ている相手を馬鹿にするのは良いけど、逆に図星を言われると駄目らしい。
コイツ相手に口喧嘩をしたら、確実に勝てる自信はある。
ただ、実際は口で戦うものじゃない。
怒らせた代償に、翼から光線を撃たれてしまった。
太田がバルデッシュで防いでくれたから良かったけど、煽り過ぎには注意が必要だね。
煽ってはいるけど、実際は対抗策は無い。
ブルーが追いつくまでの時間稼ぎに、僕は魔力を振り絞って、エクスすら驚いた音魔法を使った。
それでも消費量が多過ぎて、僕は人形の姿でいる事が保てなくなってしまった。
まさか、太田と蘭丸が死んだと勘違いするとは。
号泣する太田はいつもの事だけど、蘭丸には悪い事をしたなぁ。
というか、兄も死んだと勘違いするのはいかがなものかと?
ハッキリ言って、魔力を使い切った段階で身体には戻ってたんだよね。
それなのに気付かないなんて。
魔力を使い切ったおかげで、ブルーは追いついたんだけど。
その代わりに白いドラゴンは怒り心頭。
まさかブルーが手も足も出ずに、一方的な展開になるとは。
だけど、調子に乗った奴は良い事を教えてくれた。
光と同じだってね。
さて、ここからは理科の実験に移ります。
弟の言葉をそのまま言ったんだが、これ絶対に怒らせただけじゃね?
ブルーの血飛沫が、強くなった気がするもんよ。
「イテテテ。目は戻ってきたけど、どちらにしろ俺でも見えないかも?」
「身体は大丈夫なのか?」
「大丈夫大丈夫。俺、そこまで弱くないから。でも、心配してくれるなんて、やっぱり坊ちゃんは優しいなぁ」
うーん、傷だらけの割には余裕があるようにも見えるけど。
痩せ我慢してる?
「弱くないねぇ。アタシに攻撃が当たらないのに、それもいつまで吐けるかな?」
たまに姿を見せる時に、ブルーも水砲とか撃っている。
しかし、白いドラゴンが居た場所が光ると、その瞬間にブルーの身体は傷ついていた。
やはり当てる手段は無いらしい。
「さてと、クソガキが言ってたねぇ。大きな攻撃をすれば良いんだろう?」
いやらしい声で言いやがる。
誰だよ、そんな事言った奴は。
俺だよ!
あー、何であんな事言わせたんだ!?
(まあまあ。大丈夫だよ。奴は自爆するか、弾かれるから。多分だけどね)
自爆?
弾かれる?
何を言ってるんだ?
(ブルーにはこう言うんだ)
はあ、そんなんで防げるのか?
(多分ね。最悪は食らうかもしれないけど、威力は激減するはずだよ)
多分なのか。
だけど、自信が無くて言ってるような言葉じゃないな。
「早くやれよ。このブサイクドラゴン!」
「アンタ、言ったわね!だったらさっさと殺してあげる!」
ブルーもよく言うなあ。
それでも、タダではやられるつもりはないみたいだ。
さっきから水砲を連射している。
「行くわよ!死になさい!」
白いドラゴンが、上空高くまで上がっていったのが見える。
どのくらいまで上がったんだろう?
あ、光った!
(今だ!)
「潜れ!」
「え?」
ブルーはよく分からずに、海の中へと潜った。
今思えば、説明していないから、咄嗟に動いてくれないとヤバかったな。
光った数秒後、激しい音が海面を襲った。
「いったぁい!」
そこには海面に対して顔面を打ちつけた、白いドラゴンの姿があった。
ぶつけた勢いで、船の横を白いドラゴンが滑っていく。
「何で?どうして!?」
俺も太田も蘭丸も、何が起きたのかサッパリ分かっていない。
混乱した俺達だが、向こうの混乱はそれを上回っていたらしい。
「何で?どうして?」
俺が言った言葉を、そっくりそのまま言う白いドラゴン。
(上手くいった!ブルーは何処だ!?)
ブルー?
まだ海中だけど。
あぁ、今出てきた。
(言え!)
「ブルー!奴を海水で覆え!」
「はい?」
「早く!」
「い、イエッサー!」
ブルーが返事をすると、遠くから高さ何十メートルといった波が押し寄せてくる。
僕達まで全て覆うつもりか!?
「どわあぁぁ!!」
波が船を襲うと、甲板に居た俺達は全員頭から水を浴びた。
ツムジやコルニクスも避けきれなかったようで、甲板へと落ちてきた。
顔を拭いて空を見上げると、波が白いドラゴンを覆っていく。
「馬鹿ね。アタシの速さなら、水くらい」
再び光ったその瞬間、俺は続けざまに言う。
「壁を小さくしろ!」
「イエッサー!」
水のカーテンが、上から海面へと押し潰していく。
最後には一メートルくらいのシャボン玉のような水の球が出来た。
こんな事して、何が起きるんだ?
「え?」
「アレ?アイツ、何処に行った?海中?」
俺達は辺りを見回したが、白いドラゴンが出てくる様子は無い。
潜られたかと思ったブルーも、頭を海中へと入れて辺りを探った。
「居ないんだけど。逃げられた?」
ブルーすら、何が起きたか分かっていない。
俺もよく分からないから、説明しようがない。
(説明しよう。白いドラゴンは今、あの水の球の中に閉じ込められている)
な、なんだってえぇぇ!!
もう少しマトモな嘘を考えた方が良いぞ。
(馬鹿にしてんのか!?この野郎、説明するから代わりやがれ)
フゥ。
なまじ頭が良いと、おかしくなっちゃうのかねぇ。
(はよせんかい!)
あんの馬鹿兄め。
さてと、ブルー達に説明をしなくては。
「皆様、理科の実験にお付き合いいただき、ありがとうございました。今から、何が起きたのかを説明します」
「魔王様?生きてたんですか!?よ、よ゛がっだあぁぁ!!」
「ちょっ!痛い!イダダダダ!!死ぬ、死んじゃう!今度は本当に死んじゃうから!」
僕の声を聞いた太田が、力の限り抱きしめてきた。
野郎なら抱きつかれるのも嫌だけど、それ以上に圧死するって!
「お前、本当に生きてたんだな。この野郎!」
「ちゃんと説明すれば良かったね。ごめん」
蘭丸は鼻をすすると、顔を背けた。
ちょっと泣いてるような気がしたけど、気のせいだろう。
「坊ちゃん、何処に行ったのか知ってるんですか?」
「アタシはなんとなく分かったわ。理由は分からないけど」
「おいバケモノ。適当な事言ってるんじゃないだろうな?」
「バ烏には分からないかもね」
喧嘩が始まるかと思いきや、ブルーが軽く咳き込むと、二人は静かになった。
「坊ちゃんが説明してくれるって言ってるんだ。ちゃんと聞きなさい」
「ごめんなさい・・・」
「とぅいまてーん!アイター!」
謝罪する気ゼロのコルニクスは、ブルーから顔面に水を掛けられた。
どうやら魔力が込められていたらしく、痛がっている。
「ゴホン!じゃあ説明するね。もう場所は分かってると思う。あの水の球の中に、白いドラゴンは閉じ込めてある」
「でも、あんな所に入らなくないっすかー?」
「コルニクスくん、良い質問だねー」
「うへへ、そうでもないっすー」
軽く褒めたからか、機嫌が良くなったコルニクス。
コイツ、兄さんと同じで扱いが楽かもしれない。
あ、楽とか言っちゃった。
「坊ちゃん、俺も分からないんだけど。どうして白いドラゴンは出てこないんだ?」
「それはだね、光と同化してるからだよ」
僕が気付いた点は、いくつかある。
まず第一に、光線を直接浴びない限り、ダメージは無い。
光線や同化した光は、特に熱を持っていない。
光になった後は必ず、離れて元の姿に戻っていたという事だ。
そして僕が言っていた理科の実験だが、これは光の屈折や反射が関係している。
中学生の時に習うのだが、光には入射角と反射角というものが存在する。
もし奴が真上から一直線に落ちてきたら、ヤバいかなとも思ったんだけど。
ブルーの場所と白いドラゴンの空へ上がった位置を見るに、それは無いと確信していた。
では、何故白いドラゴンは海面に頭をぶつけたのか?
それは、入射角が大き過ぎたからだ。
ある一定より光が当たる角度が大きくなると、全ての光は反射してしまう。
だから光と同化した奴は、海中へと入る事が出来なかった。
最後に、奴を海水で覆おうとした時、逃げようとして再び光と同化した。
しかし、今度は反射角などの影響で、奴は水の壁を突き抜ける事が出来なくなった。
元の姿に戻るには、距離を取って戻れるだけの広さが必要なんだと思う。
今は小さな水の球の中に、光が閉じ込められているといった感じになっている。
だから奴は、元の姿に戻る事が出来なくなっているのだ。
というのを説明してみたのだが、誰も分かってくれなかった。
長々と話したのに・・・。
「つまりは、この水の球さえ維持してれば、奴は出てこれない?」
「その通り!」
「すっげー!魔王様、マジですげー!そんけーしますわー」
「そ、そう?えへへ」
ヤバいな。
コルニクスの率直な言葉が、妙に嬉しい。
魔力が尽きるまで粘った甲斐があったな。
「坊ちゃん、聞いても良い?」
「何?」
「この水の球、どうすれば良いのかな?」
どうすればと言われても、どうしようかね。
ステンレスボトルの中に突っ込むか?
って、そんな大きなボトル無いわ!
「ちなみに、何か言ってたりする?というか、聞こえるのかな?」
「聞こえますよ。簡単に言うと、泣いてます」
泣いてるのかよ!
とは言っても、敵だからなぁ。
「マオ、どうするんだ?ドラゴンなんて凄いモノを捕まえても、俺達じゃあ対応しきれないぞ」
ブルーとは海でお別れだし、この水の球を僕達が預かるわけにもいかない。
というか、維持出来ない。
それを考えると、ブルーに引き渡すしかないか。
「ブルーに任せても良い?」
「えぇ!?嫌ですよぉ〜。さっきから、すすり泣く声が聞こえるし。こんなのずっと聞いてたら、病気になりますって」
本気で嫌そうな声で言われてしまった。
そうなると他には・・・。
「エクスを呼んで、引き渡す?」
「それはやめた方が良いかと。多分コイツ、殺されますよ。今の言葉を聞いて、必死にそれだけはやめてって懇願してるし」
「僕の声、聞こえてるの?」
「聞こえてるみたいですよ」
水の中でも聞こえるって、意外かも。
しかし、どうするべきか。
閉じ込める事は出来ても、倒し方は分からない。
倒せるのはブルーかエクスだろうけど、本気で嫌がる相手にそれもどうかと思うんだよなぁ。
僕達の誰かが殺されたりしていれば、すぐにエクスに引き渡すと即答出来たけど。
ブルーの傷も既に治ってきているし、別に良いかなって気にもなってる。
よし、決めた!
「白いドラゴン、聞こえてるか?今後、帝国に協力しないって言うなら、出してあげても良いよ」
「魔王様!?」
「僕達は別に、お前が嫌いなわけじゃない。エクスやブルーみたいに、仲良くしてくれるドラゴンも居る。これからも帝国に協力して、僕達に害を為すなら許す事は出来ない。でもそうじゃないなら、安土に遊びに来ても良いよ」
「マオ!お前、何を言ってるんだ!?」
太田と蘭丸は、どうやら反対っぽい。
ブルーは苦笑いをしているけど、これでも考えてるんだけどな。
奴は帝国で持て囃されたから、それに協力したと言ってた。
だったら持て囃すまでは行かなくても、魔族側だってそれなりに良い所はあるんだぞと教えれば、敵対行為はしなくなるんじゃないかな?
「どうする?ちなみに安土に来れば、ブルーが毎日楽しみにするくらいの、美味い料理が食える。他にも遊ぶ場所とかもあるし、帝国に負けてるとは僕は思わないけど」
「・・・それで納得したみたいですよ。坊ちゃん、本当に出して良いんだよね?」
「良いよ」
ブルーは居なくても、対抗策は分かったからね。
襲来してくるまでに、準備しておけば良いだけだ。
「それじゃ、出しますよ」
船から離れた場所に水の球を移動させると、ブルーはそれを割った。
すると眩しい光が起き、空にはまた白いドラゴンが姿を現した。
「約束だよ?」
白いドラゴンを見て、僕は最後の確認をする。
「へーんだ!バーカバーカ!誰が約束なんか守るもんか!アタシの名演技に騙されちゃって、馬鹿じゃないの!?ただ、今回は見逃してあげるわ。青いの、アンタとの決着は次に預けておくから。じゃあね」