ジェット機とドラゴン
最近の長谷部は、かなり気が利く。
ツムジとコルニクスが喧嘩を始めたと思ったら、自らあんな提案をするとは思わなかった。
これも普段から頭を使っている、官兵衛の護衛を務めているからかな?
この調子なら、イッシーの次にリーダーが適しているのは長谷部になるかもしれないね。
長谷部のおかげで、二人して空に上がる事にはなったのだが、何故か僕がツムジで、兄がコルニクスに乗るのが決まっている気がする。
二人とも、自ら僕達の前で屈むし。
話し合いでもしてたのかと考えたけど、あの二人の事だ。
普段は絶対に話さないと思う。
本能的に、お互いの前に来ただけ?
後で聞いてみたい事案だね。
兄を乗せたコルニクスは、物凄い勢いで飛んでいった。
ツムジ曰く、ただ速いところを見せつけたいカッコつけ烏らしい。
ツムジも本気になれば、アレくらいはと言っていたが、僕達を気にして安全に飛ぶ彼女の方が好きだけどね。
そんな兄とコルニクスが、イッシーの援護に成功していた。
墜落していく護衛機に、トドメを刺すのが僕と水嶋爺さんの役目だ。
護衛機の動きを見逃さないように見ていたら、イッシーがバレルロールなんかしていた。
あの人、後ろの又左の事考えてないでしょ?
それとも信頼してるから出来たのかな?
どちらにしろ、普通はやらないよね。
「変態って・・・」
イッシーが軽く凹んでいるが、悪いが訂正する気は無い。
だって後ろの又左が、俺の話に同意してるんだから。
多分、又左に相談もしないでやったんだろう。
そうじゃなかったら、又左があんなすぐに頷かないって。
「護衛機はこれで最後か?」
「どうでしょう?ただ一つ気になる事が」
又左はイッシーが三機に追われて逃げ回っている最中、一機だけ外れていく機体を見たらしい。
それは他の機体と違い、真っ赤に塗装されていたとの事だった。
「そんなの居たか?」
「イッシー殿は、三機の攻撃を避けるのに集中されていた。気付かないのも無理は無い」
「赤いのか。三倍速いとか言うんじゃないだろうな?」
「あ!速いかどうかは分かりませんが、前にこの羽のような物は付いてなかったです」
羽?
プロペラの事か?
え、プロペラが無い飛行機って言ったら・・・。
「ジェット機か!?」
「あ、いや。名前は知らないです」
又左が赤いジェット機を見ていた。
でも、一機だけ外れる理由が分からない。
「どっちの方に飛んでいった?」
「向こうの方ですね。あぁ、ブルー殿が戦っている方です」
ブルーの戦っている方?
白いドラゴンの援護でも、しようっていうのか?
俺程度が考えても仕方ない。
一旦、弟達を呼ぼう。
ブルーの方に飛んでいったジェット機ねえ。
仮にそのジェット機が現代並みの戦闘機だとして、ミサイルとか効くかな?
まあでも、目眩しとか嫌がらせにはなるか。
「それってどれくらい前?」
「結構前ですよ。我々が攻撃に転じる前ですから」
「なあ、それってマズくないか?」
水嶋爺さんが、何か勘付いたらしい。
「お互いに最大戦力が拮抗していて、それが牽制にしか使えない場合、どうする?」
「どうするって、その最大戦力以外で勝っているなら、そのまま戦いは続行。負けているなら、どうにかしてその最大戦力を持ち出すでしょ」
「じゃあ、その最大戦力を持ち出されたら、俺達はどうなる?」
「いつかは全滅するね。あ!時間稼ぎか!?」
ジェット機はブルーを倒さなくても良い。
時間を稼いで、その間に白いドラゴンが船を攻撃させれば、僕達が帰る場所は無くなる。
「クソッ!かなりマズイぞ」
「コルニクス、全力で行け!」
「ブルー様の方っすよね。了解っすー」
兄はマズイという言葉だけで、ブルーの方へと向かっていった。
全速力を出せと言われたコルニクスは、僕達から瞬く間に離れていく。
これ、ツムジの全力より速くないか?
「や、やるわね。アタシより、ちょーっとばかり速いんじゃないかしら」
負け惜しみを言うツムジ。
これは確実にコルニクスの方が速いな。
「よし!赤いジェット機は、兄さんに任せよう。僕達は見失った爆撃機を墜とす。向こうが船を狙うなら、こっちも本隊である爆撃機を狙おう」
「魔王様、それは我々にお任せを」
又左は任せろと言うが、広い空で見失った爆撃機を探すのは容易ではない。
それをフライトライク二台だけで、見つける事が出来るのか?
「魔王、お前は船を守れ。万が一船が攻撃された時、あのバケモノに対抗出来るのはお前だけだ」
「なるほど。分かった。代わりに探すだけなら、長谷部一人でも出来る」
「助かる。船は頼んだぞ」
僕達は船へ戻り、最悪の事態に備える事になった。
これがコルニクスの全力か。
速過ぎるだろ。
これはもう、目を開けていられない。
「キャプテン、赤いのが見えました!」
「マジか!?良くやった!それで、どうなってる?」
俺は前方が見えない。
コルニクスに状況説明を求めた。
「マズイっす。白いドラゴンが、こっちに飛んでくるっす」
「何!?うおあぁ!」
コルニクスが言った直後、衝撃波が俺達を襲った。
どうやらすれ違ったらしい。
「ど、どうします?」
「ブルーの方へ行け!」
「ハイっす!」
コルニクスは返事をすると、再び物凄いスピードで直進していった。
ものの数秒で勢いが弱くなり、俺は目を開けると、そこには赤い機体に翻弄されるブルーの姿があった。
「コルニクス、ブルーの方へ近付け」
「赤い機体に攻撃するんじゃなく?」
「まずは奴に、白いドラゴンを追わせる」
「なる!流石はキャプテンっすー。でも!」
コルニクスは、赤い機体が飛んでいく予想進路へと向かっていった。
ぶつかる直前に通り過ぎると、赤い機体がふらついているのが見えた。
コイツ、意外にやるな。
「ブルー!赤いのは俺が引き受ける。お前は白いのを追え!」
「ごめんなさい〜!何故か視線が奴を追うんです〜」
「何?」
赤い色が関係してるのか?
「マズイっすー。俺も目で追うというか、追わされてますー。視線を釘付け?」
「変な事言うな!なるほど。俺も同じだから、向こうの機体にはそういう能力を持った奴が居るって事だ」
召喚者の能力だと確信した俺は、コルニクスに撃墜を命じる。
「さっき簡単に接近したお前なら、ジェット機だろうが追えるだろ!?」
「お?俺、頼られてるぅ!でもキャプテン、あの鉄屑はちょっと他と違うっすよ」
「何が?」
「羽の部分が無いから、狙う場所が分からないっす。それとさっき近くで聞いた感じ、鉄屑って呼んでるけど鉄じゃないかも?」
「聞いた感じって何だ?」
「さっきすれ違った時に、反響音を聞いたんすよー。そしたら鉄とは、ちょい違うかなーみたいな」
なるほど。
判断の仕方が独特だが、鉄じゃないならミスリルか何かだろう。
下手にコルニクスにやらせると、コイツが怪我をする可能性もありそうだ。
「俺が翼をぶっ壊す。お前は俺が、翼を壊せるように近付いてくれ」
「近付くだけならお茶の子さいさいー!」
視線が外せないなら、その視線の先に飛べば良い。
コルニクスはジェット機の進路へと、突っ込んでいった。
ジェット機はそれに勘付いたのか、イッシーが見せたようなバレルロールで、俺達を避けようとしている。
「その動き、船の上で覚えたからー!」
「うおっ!」
鏡写しのように、バレルロールをするコルニクス。
俺は予想外の動きに、ちょっと驚いてしまった。
これを咄嗟にやられて落ちなかった又左は、凄いとしか言えないな。
「ぬおりゃあぁぁ!!」
俺が持っているのも、幸いミスリル製のバットなんでね。
鉄球が使えないから、ミスリルのバットにしておいて正解だった。
翼に対しておもいきりバットを振ると、当たった部分から垂直に翼は折り曲がった。
落ちていくジェット機を見た俺は、視線がまだ外せない事に気付く。
「ブルー!今なら攻撃当たるだろ!」
「あ、そっか!」
落ちていく赤いジェット機に、尻尾をぶつけるブルー。
流石はドラゴンだ。
ミスリルのボディをものともせず、機体は半分になり爆発四散した。
「お?気にならなくなった」
「ブルー!追え!」
「ハイハイ、急ぎます」
ブルーが大きな波を起こしながら、慌てて船の方へと向かっていく。
下手したら、船が波で転覆しかねない気もするけど。
嘉隆なら、そんな事は乗り越えられると信じよう。
「俺達も追うぞ。多分俺達の方が、ブルーより速い。あのジェット機のように、俺達も時間稼ぎしてやるんだ。追い付けるか?」
「追い付けるか?俺は最速の八咫烏。ドラゴンと言えども、負けないぜぃ!」
どうにも喋り方から下っ端感が抜けないが、自信はあるようだ。
確かに目が開けていられないくらいのスピードなら、最速と自己主張しても良いと思う。
「マジの全開バリバリMAXで行くんで。落ちないようにシクヨロ!」
どうやら兄さん達は、失敗したらしい。
ブリッジから物凄い速さの大きな物体が、こっちに飛んできていると報告があった。
「魔王様、ドラゴンを防ぐ手立てなんかあるのでしょうか?」
「あるか無いかなんて知らないよ。でも、やるしかないんだ」
太田も居るけど、流石に空を飛ぶヤツに攻撃なんか出来ない。
長谷部も同様だ。
でも、攻撃をする必要は無いと思われる。
「太田はクリスタルの力で、目を潰せ。長谷部は官兵衛と一緒に船内へ。さっきまでの衝撃波が手を抜いていたとしたら、生身で食らうのは危険だと思う」
「分かりました!官兵衛さん、行きましょう」
「魔王様、一つだけ。キャプテン達は、必ず追い付いてきます。時間稼ぎに徹して下さい」
「分かった。肝に銘じておく」
官兵衛はその言葉を残して、長谷部と船内へ入っていった。
ただ僕は、太田に言われて気付いたが、とある事を忘れていた。
「蘭丸殿はどうしますか?まだ気を失っていますが」
「あ・・・。コイツの力も借りたい。起こせるか?」
「御意」
太田は蘭丸の顔を、ペチペチと叩き始めた。
起きない蘭丸に、徐々に力が強くなっていく。
頬を叩く音が変わると、蘭丸は目を覚ました。
「痛いんだよ!この馬鹿!誰だ!?」
「起きました」
ブレない太田は、蘭丸がキレている事を気にしていない。
蘭丸は太田の胸ぐらを掴んでいるが、自分が何故叩かれていたのか分かっていなかった。
「バカタレ。そのまま寝てたら、寝たままあの世行きだった可能性だってあるんだぞ?」
白いドラゴンが迫っている事を教えると、蘭丸の顔つきは変わる。
自分達が危機に瀕している事を、理解したようだ。
「俺は何をすれば良いんだ?」
「船を守れ。とにかく、兄さんとブルー達が戻るまで船を守るんだ」
「分かった」
分かったとは言っているが、多分何をすれば良いかは分かっていないと思う。
曖昧な指示で申し訳ないが、僕も何をすれば良いのか分からないんだ。
「来ました!」
「太田、やれ!」
「太田ぁ、シャイィィニンンングゥゥゥゥ!!!」
太田の声は、いつもより大きい。
これだけの光だ。
普通に直視すれば失明するレベルだと思う。
これなら目眩しで、少しくらいドラゴンの方向がズレてもおかしくない。
だが、僕の考えは甘かった。
「真っ直ぐ来るぞ!衝撃波に備えろ!」
「太田殿、俺を支えてくれ。矢を放つ」
蘭丸はすれ違いざまに、矢を当てるつもりらしい。
だが、僕達は全員考えが甘かった。
「うわぁぁぁ!!」
見えないスピードで、船の上を通り過ぎていく。
表面の鉄板やミスリルが、剥がれて吹き飛ばされていった。
「速過ぎる!」
僕の声が聞こえたのか、通り過ぎて見えない所から、白いドラゴンが嘲笑してくる。
「オホホホ!馬鹿だねぇ。光を司ると言われるアタシに、光魔法など効くわけがないのに。お前達は赤の友人だと言ったな?奴に絶望感を与える為、全員死んでもらおう」




