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海の王者、空の支配者

 やっぱり映画を観ているか、いないかの差かな?

 フライトライクに乗りたいと言ってきたのは、佐藤さんと長谷部だった。

 二人とも想像していたのは、映画での空を飛ぶシーンだ。

 日本人だからというわけではない。

 時代は違うけど、水嶋爺さんは自らパイロットになろうとはしなかったし。

 蘭丸とハクトは恐怖の方が勝っていたけど、僕達にとってはワクワクの方が大きい。

 僕だってちゃんと離着陸出来ると分かっていれば、立候補しても良かったと思ってるからね。


 しかし、まだ完璧ではないフライトライクの前に、とうとう敵の飛行機が飛んできた。

 武器を取り付けていないフライトライクは、後ろに攻撃役を乗せて対抗する事に決まった。

 嫌がる蘭丸を乗せるのは、とても楽しい、いや、心苦しい選択だった。


 僕としては、嫌がっていても結果は出ると思ってたんだよね。

 小回りが利く方が、空なら勝てると思ってたから。

 でも、ブルーが気になる事を言ってきた。

 彼が言うには、どうやら帝国に白いドラゴンが味方をしているという話だった。







 僕達よりブルーの方が、先に白いドラゴンの気配を感じ取っていた。

 レーダーでは飛行機より大きいというが、まだ見えてこない。



「来ます!」


 来ますというより、既に来ていたと言った方が良い。

 凄い速さで船の上を通り過ぎていく、大きな物体。

 あんなに大きいのに、ハッキリと形が見えないくらい速かった。

 しかも通り過ぎたのに、音が聞こえない。

 ん?

 これはマズイ!



「太田!衝撃波から官兵衛を守れ!」


「衝撃波?うわっ!」


 通り過ぎてから数秒して、音と一緒に大きな衝撃波がやって来た。

 大きく波が立ち、船は転覆しないまでも左右に揺れていた。



「お、おいおい・・・。流石にあんなのには勝てないぞ」


 佐藤さんは顔を青くして言った。

 イッシーは無言だが、同じような感想なのだろう。

 攻撃担当の又左や水嶋爺さんですら、絶句している。



「まあまあ。暗くならないで。ここは私に任せてよ」


「ブルー殿!?」


「流石にね、あんなの相手にさせるのは無理だと分かってるから。私が相手をしている間に、鉄屑の方をよろしくね」


「あ、あんなのに勝てるんですか!?」


「勝てるかって言われたら、どうなんだろう?負けるつもりは無いけど、勝てる気もしないのが本音かなぁ」


 ブルーはのらりくらりとした言い回しだが、目は笑っていない。

 実際には勝機を見出そうとして、白いドラゴンが通った道筋を見ていた。



「とりあえず頼みたいのは、船から遠ざける事は出来る?」


「極力は試してみますけど、あんまり期待しないでほしいな。遠くで戦えば引き離されるし、だからと言って接近戦をしてくるとも思えないし」


「この船と初陣のフライトライク組に、攻撃が向かないようにしてくれれば良いよ」


「それくらいなら大丈夫かと」


 一番怖いのは、皆が帰ってくるべき船の撃沈。

 そして帰ってくるはずの人達が、帰ってこない事。

 どちらか一方を達成しても、意味が無い。



「そんじゃまあ、我が物顔で飛んでいる馬鹿に挨拶してきます。ご飯の用意、よろしくぅ!」


 緊張を感じさせない言葉を口にしたブルーは、そのまま海へと飛び込んだ。

 少しだけ肩が軽くなったかな?

 イッシー達もアクセルを握る手から、力が抜けた気がする。



「あの白いドラゴンが船から離れたら、離陸チャンスだ」







 ブルーは海の中で元の姿に戻ると、船の周りを飛んでいる白いドラゴンに向かって、水を吐いた。

 激流と言っても過言ではない。

 水の柱が空を、一直線に横へと移動している。



「青いの!」


「白いの。お前、何してんだ?」


「オホホホ!アタシは、ライプスブルグで敬われているからね。神竜だって呼ばれてるわ。だから彼等が困っている事に手を貸してるの」


「ハァ、ただ利用されてる馬鹿か」



 やはりドラゴンのサイズともなると、声も大きい。

 二人の会話が、船まで聞こえてきている。

 おそらくは空を飛んでいる飛行機にも、この会話は聞こえているのだろう。



「妬まないでほしいわね。海には滅多に人は来ないもの。アンタなんか、存在すら知られてなかったんじゃない?」


「うるさい。旦那に負けて空を逃げ回ってる奴が、何を偉そうな事を」


「あらあら?自分の事は棚に上げてるのね」


「お前と違って、私は負けを認めたからな。それに今は、旦那の友人達と旅を満喫してる最中だ。この場から去れ」


「フン!あの忌々しい赤いのが友人?だったら尚更、痛めつけないと。あの赤いのが、後で悔しそうにする顔を拝んであげる」



 なるほど。

 赤いのと呼んでいるのは、多分エクスの事だろう。

 パワーバランス的には、エクスがこの二人?よりかは上位に居るようだ。

 しかし、負けを認めていない白いドラゴンは、エクスへの嫌がらせとして僕達を攻撃する事を決めたらしい。



「悪いがそれは阻止させてもらう。旦那の為というのもあるが、ハクトの料理は私に合う。美味しいご飯の為に、お前は死ね!」


 ブルーは海の中から尻尾を振ると、水の刃が空へと飛んでいった。

 軽々と避ける白いドラゴンは、ブルーの言葉を聞いて声色が変わった。



「アンタ、敵対しようっていうんだ。ドルトクーゼンの敵になるのなら、お前こそ死ね!」


 白いドラゴンが大きな声で啼くと、ブルーが居た辺りの海面から水飛沫が上がった。

 超音波か何かで攻撃しているようだ。



「逃げ回るだけの雑魚が。海の全てを知り尽くした私に、敵うわけがないだろう」


「逃げ回るだけなのはどっちだ!水の中に隠れ棲むアンタに、空を舞い飛ぶアタシに敵うわけないんだよ!」



 ブルーは海上から吼え、白いドラゴンは空中から啼いた。

 これから僕達とは次元が違う戦いが、始まるのだろう。

 海と空を支配すると豪語する二人。


 僕達は巻き込まれないように、船を後退させた。

 そしてブルーは、海中からソナー信号のようなモノを送ってきたらしい。

 おそらくは、白いドラゴンを引き付ける事に成功したという合図だろう。

 コバはブリッジに居たらしく、その信号を受けて甲板へと合図を出した。



「空へ行くのである!」







 イッシーが覚悟を決めて、一番に空へと飛んでいく。

 又左は槍を持って後ろに座っているが、こうやって見ると本当に攻撃出来るのか不安になってきた。



「俺達も続くぞ」


 佐藤さんと長谷部も空へと上がると、ある一定の高さまで達した三人は、そこで何かを話し合っていた。

 するとイッシーは、一人飛行機へと向かって一直線に飛んでいった。



「あんなにスピード出るんだ。僕の時とは違って、使いこなしてる感がある」


「速いですね。しかもしっかりと、攻撃を避けています」


 官兵衛が言う通り、向こうからの攻撃があった。

 やはり予想は当たっていたようだ。

 大きな機体の爆撃機の周りの飛行機は、護衛機だったらしい。

 しかし、これは大きなチャンスだ。



 言っても向こうはプロペラ機。

 誘導ミサイル搭載のジェット戦闘機というわけではない。

 プロペラ機も小回りが利く方ではあるが、それは更に小回りが利くフライトライクの前では無意味なのだ。



「食らえ!」


 又左が大きく槍を振るった。

 しかし槍は飛行機には当たらない。



「い、イッシー殿!」


「無理だから!そんな大きな槍をぶん回したら、反動でトライクも動くって」


「それでは小手先の攻撃しか出来ないぞ」


「俺に良い考えがある」



 フラつくイッシーのトライクに、護衛機は一斉に機銃を撃ってきた。

 イッシーはそれを上昇して避けると、一機の護衛機の背後へとピッタリ張り付く。

 イッシーはスピードを上げて、背後を取った護衛機の真上を取ると、そこから急降下を始めた。



「行くぞ!叩きつけろ!」


「うおおぉぉぉ!!」


 護衛機の横を、猛スピードで駆け抜けるトライク。

 又左の槍が片翼を斬り裂くと、護衛機は斜めになりながら降下していった。

 海へと落ちた護衛機は、爆発して煙を上げている。



「よっしゃあ!」


「イッシー殿!」


 振り返るイッシーと固く握手する又左。

 初めての対空戦闘を、格闘戦で勝ってしまった。



「スゲーな、あの二人」


「本当ですよ。慣れない物に乗って銃で撃たれてるのに、接近していくなんて。本当にイッシー殿は凄い」


 僕と官兵衛の言葉を聞いた太田は、少し悔しそうだった。

 太田専用フライトライクも、いつか用意してあげようと思う。



「マズイですよ!下に落ちたから、上からバンバン撃たれてます」


「太田が乗ってたら、身体が大きくて当たってるんじゃない?」


「ハッハッハ!ワタクシなら、当たっても耐えられますけどね」


 あまりに出番が無い太田は、何故か得意げにそう言った。

 当たる事前提だが、機銃は普通の銃より弾が大きい。

 耐えられるのか疑問に思ったけど、それを言うと強く反論してきそうだったので、何も言わなかった。



「大丈夫みたいですね。イッシー殿にも護衛機が居ますから」







「コエー!マジで空の上、コエー!」


「うるさい!蘭丸、弓に集中してくれ」


「うるせージジイ!お前、何でそんなに冷静で居られるんだ!?」


「ジジイって呼ぶな!下を見なきゃ良いだろうが。特に今は上しか見てないんだ。下を気にしなければ、普通のトライクに乗って攻撃しているのと変わらん」


 叫びながら矢を放つ蘭丸。

 その横には、冷静に銃を構えて撃つ水嶋爺さんが、蘭丸へとアドバイスを送っている。

 しかし、蘭丸はそんな事は聞いていないと、半ばヤケになりながら叫んだ。



「空の上に居る事は変わりないだろ!あ、敵がこっちにキタキタキター!やめてー!」


「本当にうるさいなぁ。だったら接近戦に変えるか?」


 耳元で叫ばれている長谷部は、うんざりした声で聞いていた。

 しかし蘭丸は、ワーワーギャーギャー言うだけで、長谷部の問いに返事をしない。

 キレた長谷部は、急加速した。



「お、オイオイオイオイ!お前、何やってんのおぉぉぉ!!」


「うるさいこのヘタレ!テメーでなんとかしてみやがれ!」


「だからって一直線に突っ込むなぁぁぁ!!」


 機銃を撃ちながら、長谷部に突っ込んでくる護衛機。

 機体ごとぶつかろうと、護衛機は真っ直ぐに飛んできていた。

 泣き叫ぶ蘭丸に、長谷部は言った。



「ふ、フハハ!スリルあるぜぇ。こんなチキンレース、俺でも初めてだぁ」


 ある意味興奮している長谷部に、蘭丸は後ろからリーゼントをモフモフ叩いた。



「バカヤロー!俺を巻き込むな!」


「うるせー!怖かったらテメーで、ヤツを落としやがれ!」


「う、うおわあぁぁぁ!!チクショオォォォ!!」


 蘭丸は弓に、ありったけの魔力を込めた。

 自分が捻り出せるだけの魔力を込めると、鏃が赤く光っていた。



「撃てえぇぇ!!」


「こんのバカヤロウ!」


 目の前に迫ったプロペラを、赤い鏃がぶち壊す。

 矢はプロペラを弾いただけでなく、そのまま機体を貫き、空の彼方へと消えていった。



「おぉ!スゲーじゃん!」


「・・・」


「アレ?蘭丸?」


「・・・」


 蘭丸は気絶していた。

 護衛機とぶつかる直前だった恐怖と、それを避けないトライク。

 そしてありったけの魔力を込めた疲労感で、気を失っていた。







「なんでぇコイツ。自分で凄い事したのに、全然分かってねぇでやんの。しかもビビって気絶してるし。スゲー奴なのかヘタレなのか、よく分からねーな」

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