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空戦訓練

 まさか空を飛ぶトライクが、完成するとはね。

 元々、コバの中では飛行機やヘリのような物を作る事は考えていたらしい。

 やはり前回の安土襲撃での爆撃機は、かなり衝撃的だったようだ。

 向こうはこっちが、対空戦が出来ない事を知っていたんだろう。

 当時なら空で戦えたのは、ツムジだけだと思う。


 だが、そのツムジ対策とも言えるのだろう。

 爆撃機とは違う飛行機も混じって飛んでいたので、おそらくは護衛機が作られたと思われる。

 そこまで相手の飛行機の数は多くない。

 個人的に言えば、ツムジとコルニクスに任せれば、何とかなる気もするんだけどね。

 ツムジは炎が吐けるし、コルニクスはツムジよりも速く飛べる。

 コルニクスは近くを高速で飛ぶだけで、乱気流を起こせると思うんだよね。


 とは言っても、向こうの飛行機が増えればそうも言っていられない。

 やはりフライトライクは必須なのだ。

 だけど、僕がテストパイロットなのはいただけない。

 案の定、着陸の事を考えていなかったという欠点が見つかった。

 空でクルクルあんなに回ったせいか、少し気持ち悪かったよ。

 コバは自分がテストパイロットじゃなくて喜んでたけど、僕だって自ら志願したわけじゃないんだけど。

 怪我人が出なかったので、その辺は良かったとは思う。






 コバは僕の事故に近い着陸を見て、すぐに船内へ戻っていった。

 ちなみに小型の僕用のトライクは、放置されている。

 という事は、次は僕は乗らなくて済む?

 そうかそうか。



「次はキミの番だ」


 僕はイッシーの肩を叩き、甲板から船内へ戻ろうとした。

 だが、それを聞いたイッシーは僕の肩を掴み、慌てて聞いてくる。



「ちょっと!何故俺になるのさ!?」


「見てみなよ。小型のトライクを直そうともしない。次は違う車体で、チャレンジしているって事だよ」


「違うって!たまたまトイレとかに行ったんだって!」


 どうしても認めたくないイッシーだったが、信之が呼びに来た事で彼は肩を落とした。



「実験台!実験台!」


「うるさいぞ!」


「モルモット!モルモット!」


「コノヤロ!」


 僕の冷やかしを聞きながら、彼は船内へと向かっていった。







 後日、マイナーチェンジされたフライトライクが発表された。

 テストパイロットは、予想通りのイッシー。

 しかし彼の顔は、前日に見せた焦りや落胆は無い。



「落ち着いてるね。どういう心境の変化?」


 僕が聞くと、彼は少し考えてから答えた。



「いや、怖いと思ってたんだけどさ。コバじゃなくて信之達の説明を丁寧に聞いていたら、意外と難しくなかった」


「もう乗ったの?」


「あぁ。そんなに高い位置までは上がっていないけど、普通に離着陸は出来るぞ」


 本人はそう言っているが、後に信之から聞いた話では、やはり勘が良いらしい。

 信之も試しに乗ったと言ったが、最初から難なく乗れたのはイッシーだけだったという。



「今日のテスト次第で、これを二機増やすらしい。他のパイロット、決めておけよ」


 そう言うと彼は、ヘルメットのバイザーを下ろしてから、空へと上がっていった。



「なんかムカつくな」


「マオくん、もう少し隠そうよ」


「だって、アイツがあんなに安全に乗れてるのは、僕という尊い犠牲があったからなのに!」


「坊ちゃん、意外と根に持つのね」


 簡単に言うが、これでも結構怖い目に遭ったのよ?

 ただ、やっぱり僕の出番は今回は無いと思われる。

 だって、あの後も僕のサイズは用意されていないから。



 というよりも、コバに圧力が掛かったという噂を耳にした。

 その圧力を掛けたのは、なんと二人。

 二人って言い方で良いのか?

 その二人とは、ツムジとコルニクスである。

 空を飛ぶのに、魔王自らが操る必要は無い!

 彼女達がコバへ文句をブーブー言ったという話が、何処からか入ってきたのだ。

 それを聞いた僕は、あながち間違っていないなと納得したのだった。



「しかし二人か。誰か希望する人居るかな?」


「後ろに乗るなら良いんだけど、自分で操るのはね」


「俺もそこがギリギリの妥協点だ」


 ハクトと蘭丸は、間違いなく運転したくないと言う。



 アポイタカラによる魔力供給があるから、ヒト族や獣人でも可能なのだが。

 どうやらそれを考慮しても、又左は候補から外しておきたいな。

 僕の中では、飛行機に突撃していく姿しか思い浮かぶ姿しか思いつかないからだ。

 流石に希少な乗り物を、突撃前提で乗られるのは怖い。



「やっぱりイッシーさんは、上手いな」


「空飛ぶ乗り物か。しかし俺は、自分が操る気にはなれないな」


「そう?俺はあの光景を見ると、乗ってみたいですけどね」


「ホント?あと二人、運転手が必要なんだけど」


 佐藤さんはイッシーを見て、自分も乗ってみるのはアリかもと言った。

 水嶋爺さんは乗り気ではないが、後部座席なら問題無さそうだ。



「俺でも良いの?」


「今回はヒト族でも乗れるからね。佐藤さんでもOKだよ」


「マジっすか?だったら俺も乗りたい!」


「長谷部か」


 そうなると、官兵衛の護衛が居なくなってしまうんだけど。

 まあ大丈夫かな。



「よし!追加パイロットは、佐藤さんと長谷部で決まり!」







 運が良かったと思う。

 アレからしばらく、飛行機による追撃が無かった。

 おかげでイッシーを筆頭に、佐藤さんと長谷部の訓練を重ねる事が出来た。

 今では三人とも、操るのがかなり上手くなっている。



「いやー、良いっすね。映画みたいだ」


「俺もそう思う。欲を言えば、スケボー型の浮くタイプが乗りたかったな」


「それを言い出したら、気付いたらタイムワープする車とかも欲しくなるんだろ?」


「流石はイッシーさん。知ってますね」


「それは俺も見てますよ」


 三人のパイロット達は、某映画の影響が大きいらしい。

 空飛ぶバイクなら、僕は違うSF映画が出てくるんだけどな。



「三人とも、なかなか上手くなったのである。これからは後部座席に人を乗せて、バランスがどう変わるのかを慣れていって・・・む?」


 コバの説明を遮るように、警戒警報が鳴り響き始めた。

 どうやら再び、飛行機がやって来たらしい。



「敵さん、おいでなすったな」


「俺達の初陣か」


 三人は意気揚々と、フライトライクへと向かっていく。

 そしてコバに、戦果を期待しろと言った。

 しかし、そのコバの方はあまり浮かない顔をしている。



「どうした?」


「お前達に戦果を期待するのは無理である。何故なら、このフライトライクには武器が無い」


「・・・え?」


 試作機として作られたフライトライク。

 三人が乗っているテスト機体は、まだ武装が装着されていなかった。



「後部座席に人を乗せて、彼等に攻撃してもらうしかないのである」


「何ぃぃぃ!!」


「ぶっつけ本番だが、それしか方法が無い。そして、誰が後ろに座るかなのだが」


 視線を逸らすハクトと蘭丸。

 後ろならと言っていたのに、やはり嫌なものは嫌らしい。

 そんな中、自ら名乗り出る者が現れた。



「私が乗りましょう」


「又左か。そうだね。又左の槍なら長いし、空中戦でも使えるかもしれない。任せても良いんじゃない?」


「吾輩も異論は無いのである」


 コバも問題無いという事で、又左はイッシーの後ろに乗ってもらう事にした。



「俺も行こう。甲板から狙うより、空から直接の方が当たるだろう」


「爺さんか。うむ、吾輩からもお願いする」


 コバが珍しくお願いすると言うので、二人目は水嶋爺さんに決定した。

 そうなると残りは一人だが・・・。



「太田!」


「ハイ!既に準備は出来てます!」


「お前は留守番ね」


「任せて下さい!あんな鉄の塊、叩き落とし・・・え?」


「体重のバランスを考えると、慣れてない皆と太田は、相性がちょっとね」


「そんな!?」


 太田はやる気満々だったらしい。

 確かに目の端で、バルデッシュをブンブン振っているのが見えていた。

 自分が選ばれると思っていたようだが、残念!



 外した理由は他にもあって、長谷部が居ない間は太田に官兵衛を守ってほしいと思ったのもある。

 守備力だけで言えば、太田は安土で一番だからね。



「ワタクシ、最近影が薄い気がするんですけど?」


「気のせいだよ。気のせい」



 影が薄いとは言わないけど、僕の前ではあまり戦っていないからかも。

 別に戦いだけが全てじゃない。

 太田は字が綺麗なので、代筆してもらったりしているしね。

 元々の彼から考えれば、あまり戦いだけに特化してもらうのもどうかと思う。

 今度それも、感謝と共に伝えておこう。



「となると、残るは」


 二人とも一斉に、僕から視線を逸らしている。

 絶対に呼ばれたくないという感じだ。

 ここは一つ、僕が肩を叩くしかないな。



 出来れば、某テレビ番組の全ての出演者の飲食代を支払うように、何度か行き来してから肩を叩きたかった。

 しかし時間がそれを許さない。

 僕はすぐに彼の目の前に行って、肩を叩いた。



「蘭丸、頼んだよ」







「何でだー!何で俺なんだー!」


「槍が使える。弓も使える。もっと言えば、魔法も使える。近中遠距離、全てをこなせるのはキミしか居ない!」


 泣き叫ぶ蘭丸だが、そういう理由なので仕方ない。

 ガックリと項垂れる蘭丸の横で、ピョンピョンと跳ねながら喜ぶハクト。

 それも蘭丸の中で、叫びたい要因なのかもしれない。



「攻撃方法は任せる。いや、弓の方が良いかな?槍だと振った時に、トライクのバランスを崩すし」


「それは駄目だ!俺が落ちるかもしれない」


 真顔で落ちるかもと言う蘭丸。

 苦笑いの長谷部は、どっちでも良いと答えた。



「魔王様よ、俺をナメないでくれよな。俺だって日本に居た頃は、単車でブイブイ言わせて」


「弓で行く!良いな!」


「あ、ハイ・・・」


 リーゼントが折れんばかりに、顔を近付けて凄む蘭丸。

 長谷部は珍しく、蘭丸の気迫に負けて力無く返答した。



「まあまあ。甲板から私も狙い撃つから、皆は戦闘に集中している間に鉄屑を落としていくよ」


 ブルーの心強い言葉に、五人は頷いた。

 蘭丸は一人でブツブツ言っているので、聞こえていないと思う。



「来ました!この前と同じです」


「総員、第一種戦闘配置!」


 おぉ!

 これまた映画でよく聞く言葉。

 出来れば僕が言いたかったけど、どうしてコバが指揮をしているんだ?



「フライトライク、発進!」







 勝ったな。


【ああ】



 良い。

 このセリフ、言ってみたかった。

 まだ戦ってもいないから、声に出してないけど。

 兄も乗ってくるとは思わなかった。



【俺だって第一種戦闘配置って、言いたかったもの】


 だよね。

 今度から司令役は僕達がやろうね。



「コバと官兵衛は船内へ」


「いや、オイラは甲板に居ます」


「太田、官兵衛を守ってくれ」


「御意」


 官兵衛は実際に外から空を見たいと言うので、甲板に残る事になった。

 太田が護衛を引き受けると言うと、コバは官兵衛から、足代わりに使っている神輿のような機械を預かると言った。

 何やら改造をするという話らしい。



「オイラも空飛んじゃうんですかね?そんなわけ無いか。アハハ」


「その通りである」


「・・・へ?」


「今後は歩行タイプではなく、浮遊タイプに変える予定である。大きな段差や二階から飛び降りても、全く問題無く動けるようになるのである」


 説明を聞いた官兵衛は、安堵の溜め息を吐いた。

 空を見て、あんな風に戦うのかと思っていたらしい。



「イッシー殿を先頭に、会敵します!」


 どうやら飛行機と接触するみたいだな。

 向こうは僕達が空を飛んで反撃するとは、思ってみなかっただろう。

 これは本当に勝ったな。



「・・・ブルー殿?」


「坊ちゃん、マズイな。皆を戻した方が良い」


「どうして?」


「悪い予感の方が、当たってしまったかもよ?」


「悪い予感?」


 何を言っているのか、ちょっと分からない。

 そんな時、慌てた声で報告が入った。



「もう一機、何かが飛んできます!三倍の速さどころじゃない!?しかも飛行機よりも影が大きいです!」


「な、何が来た!?」






「ほらね。坊ちゃん、悪いけど今回は援護出来そうもないかもしれない。後から来たのは、多分白いドラゴンだ。アイツ、本当に帝国に肩入れしてるっぽいですね。ま、俺も坊ちゃんに手を貸してるから、文句は言えないけど」

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