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秀吉の行方

 何だろうなぁ。

 こういう合コンっぽいノリを見ると、唾を吐きたくなるのは僕だけか?

 特に自分が参加しているわけでもないのに、近くから見ていると尚更ね。

 僻みじゃないよ?

 僻みではないけども、そういう気持ちになるんですよ。


 ただね、やっぱり上手くいかなかった。

 そもそも見た目が近いだけで、やっぱり妖怪なんだよ。

 そこを踏まえて、ちゃんと気持ちを強く持たないと駄目だったのに。

 歯が黒いとか首が飛ぶとかでビビっちゃってさあ、何やってんだろうね。

 まあ、水嶋爺さんがアドバイスをしたから、二人は乗り気になったけど。

 いきなりプロポーズは無いだろ。

 しかもフラれるし。

 プププ、メシウマ・・・。


 コホン!

 いやぁ残念な結果になってしまって、僕も心が痛いなぁ。

 四人分の甘味代なんか、官兵衛一人の比じゃないくらい安いし、全然良いですよぉ〜。

 まさかお店から泣きながら走って逃げる男とか、本当に見れるとは思わなかったもんね。

 あぁ、長谷部くん。

 二人に怒るのは仕方ないけど、これ以上傷口に塩を塗りたくるのはやめてあげたまえ。







 長谷部の言ったセリフは、確かに常識的に考えると当たり前の事だ。

 逆ギレしてるし、金は払わないで店は出てるし。

 しかも飲食代は、見た目子供の僕に支払わせてる。

 印象が最悪なのは誰が見ても明らかだ。

 でも、僕は気にしない。



「良いんだよ、長谷部くん。今日はとても良いモノを見せてもらった。それに比べたら彼等がした事なんて、何とも思わないさ」


 僕は極上のアルカイックスマイルを見せた。



「長谷部くん!?」


 長谷部は僕の言葉に反応しているが、そんな事はどうでも良い。

 佐藤さんとイッシーの二人の方が、面白・・・間違えた。

 傷心気味なのだから。



「阿久野くん!」


「流石は魔王様だぁ!俺達はアンタに付いていくぅぅ!!」


「プッ!アハハハ!!駄目だ。やっぱり笑ってしまう」


 二人が僕に抱きついてきたところで、やはり我慢が出来なかった。

 笑いが込み上げてきて声を出して笑う時、二人は真顔になった。



「・・・この鬼畜!」


「この悪魔が!」


「へぶぅ!」


 俺に左右からビンタをすると、二人は走り去っていく。

 僕の顔は、ビンタでピンボールのように弾かれて、真っ赤になっていた。



「クソー、本気で殴りやがった」


「いや、今のはアンタが悪いでしょ。性悪なところが滲み出てたよ」


「だって、二人だけ良い思いをしようだなんて、おかしいだろ!長谷部だって彼女欲しくないのか!?」


 こういう話になった途端に、距離を置く官兵衛。

 水嶋爺さんは面白そうに、長谷部を見ていた。



「お、俺は硬派だから!女は良いんだよ」


「馬鹿だなぁ。そんな事言ってると、気付いたら佐藤さんみたいになっちゃうぞ。お前だって好みのタイプとか居るだろ?」


「うーん、それもちょっとなぁ。俺も清楚でおとなしい・・・はっ!いかん、口車に乗せられるところだった」


 チッ!

 惜しかった。



「そんな事を言ったら、爺さんだって」


「俺はもう、見た目がこんなだからな。もう無理だろう」


「いやいや!世の中には枯れ専という言葉もあってだな」


 枯れ専を突き詰めれば、爺さんにたどり着く人も居るだろう。

 しかも元軍人だし、性格とかも含めて爺さんはモテてもおかしくない気がする。



「ま、あの二人だけ得をするのはムカつくって事だよ」


「そういうところは、本当に魔王らしいなと思うよ」







 あの傷心騒動から二週間ほどが経った。

 コバと百目鬼の研究がひと段落したので、一度城に報告する事になったのだ。

 城に集まった僕と官兵衛とコバ。

 そして蘭丸。

 長谷部は今回、護衛から外れている。



「百目鬼よ。どうじゃ、クリスタルは見分けられるのか?」


「コバ殿の熱心な指導のおかげで」


「そうか。良くやった。今後は新しいクリスタルは、お前に一度目を通してもらう事にしよう」


 お市は百目鬼を褒めると、下がるように伝えた。



「魔王、そしてコバ。お主等には世話になった。クリスタルは選別したと聞いている。今回はタダで持っていくが良い」


「タダ!?適正価格って話じゃなかったっけ?」


「百目鬼への指導の対価じゃ。今後は適正価格にて、販売するからの」


 対価ねぇ。

 お得な気もするけど、タダって聞くとどうしても、腰が引けてしまう。

 何か裏がありそうって気持ちが勝るし、何よりタダより高い物は無いと、僕は思っている。

 だから、こっちも支払う事にした。



「こっちからも、コレを渡しておくよ」


「何じゃ?この小さな箱は」


「携帯電話だ。コバに頼んで、魔力ではなく妖力で動くようにしてもらった」


 使い方を教えると、新しい技術に興味津々のお市。

 権六も興味があるのか、横に来て覗いている。



「アンタは触ったら駄目だよ。馬鹿力で壊しそうだからね」


「そんな!?」


 次は自分の番だと片手を差し出していたが、渡されずに落胆していた。



「今は僕の番号だけしか教えない。だけど、今後もし門戸を開けるような事があれば、他の領主の連絡先を教えても良い。というより、領主を集めた会談に参加してくれると、話は早いかもね」


「それは今後考える。奴等に会う必要性があるのか。じっくり精査する」


 少しだけ態度が軟化した気もするかな。

 でも、そこまで頑なに会おうとしないのは何か理由があるのかな?

 気付いたら秀吉も居ないし、彼が出ていった理由も、はぐらかして話してくれない。



 官兵衛も本当は気になっているみたいなのだが、はぐらかす辺り、あまり強く聞けないのだろう。

 代わりに権六に聞いても、僕等と一緒にケルメンに居たからか知らないという。

 彼も強く聞けないから、どちらにしろ知らなかった。


 ここはやはり、僕が頑張らないと。

 官兵衛の為なら、ちょっとくらい怒鳴られても我慢出来る。

 あくまでも、ちょっとだけど・・・。



「秀吉は何処へ向かうとか言ってた?」


「さあな。知らん」


 秀吉は一応知り合いなんだよね。僕等もこれで帰るし、もしアイツも帰るなら、一緒に船で帰ろうと思ってるんだよ」


 それを聞いた官兵衛は、僅かに反応した。

 やはり秀吉の事が気になっているようだ。

 僕があまりしつこく聞くものだから、観念したらしい。

 怒られるかと思っていたけど、普通に話を始めてくれた。



「奴は追い出した」







 部屋の中がシーンと静まり返った。

 あまりに予想外の言葉だった。



「えっと、もう一回聞くけど。出ていったんじゃなくて、追い出したの?」


「その通りじゃ」


 流石に官兵衛もソワソワし始めた。

 蘭丸やコバを見ても、ちょっと動揺している。



「理由は?」


「彼奴、妾を馬鹿にしておった」


「は?それは無いでしょ!」



 彼女が言うには、秀吉は取引を持ち掛けた。

 それは秀吉が持ってきた幻の酒と言われている物と、クリスタルを交換したいという話だった。

 彼女はそれを聞いて激怒したという。



「良いか?酒はあくまでも嗜好品である。妾の楽しみの為に、越前国の重要な品であるクリスタルを、おいそれと手放すと思うか?」


「それで馬鹿にしていると?」


「妾がそのような物で、心が揺れると思われていたのでな」


 なるほどね。

 なんとなく何が言いたいのか分かったかも。



「もし酒じゃなくて、例えば栄養価の高い野菜とか果物だったら?特に雪国である越前国では作れないような、南国系の果物とかね。それを大量に送る代わりに、クリスタルを数個交換したい」


 僕が思い浮かべたのは、バナナやパイナップルだ。

 こういう果物は南国のイメージがある。

 下手したら、越前国の領民どころか権六とお市の二人も見た事が無いかもしれない。



「それなら、クリスタルの対象としては悪くない。領民が手に入る量を仕入れてくれるというなら、吝かでもないな」


 やっぱりね。



 秀吉は交渉の基準を間違えたんだ。

 お市を満足させる為に酒を用意して、気に入ってくれたならその酒とクリスタルを交換しようという話に持っていった。

 だけど彼女は、自分よりも領民を大切にする人だった。

 だから自分本位だと思われた彼女は、怒って秀吉を追い出したのか。

 でも、一応話には続きがあった。



「安心せい。追い出したとは言っても、元領主。裸一貫で追い出したわけではない。ちゃんと食料や燃料も用意して、丁寧に追い出した」


「丁寧に追い出したって、あんまり聞かない言葉だけどね」


「うるさい。だからその辺で、餓死したり野垂れ死にするような事は無いぞ」


 それを聞いた官兵衛は、安堵したみたいだ。

 大きく溜め息を吐いたのが聞こえた。



「この話はもう良いであろう。それよりも、百目鬼から聞いたぞ。更に希少なクリスタルを見つけたとか」


 それを聞いたコバは、勢いよく立ち上がった。

 周りの護衛が驚いて構えようとしていたが、次の瞬間には元に戻っていた。



「よくぞ聞いてくれた!この天才、ドクタアァァ!」


 シュバッ!

 スタタン!



「コバァァァ!!」


「・・・」


 凄く久しぶりに見たなぁ。

 しかし、権六もお市も反応しない。

 コバの声だけが、部屋の中に響いている。



「もう少し反応してくれても良いのだが。まあ良い。お市殿が言った通り、吾輩が百目鬼殿の指導に当たっていた際、新たなクリスタルを発見したのである」


「新しいクリスタル。どんなクリスタルなの?」


「フフフ。先日話した通り、二つの構造を持つクリスタルには、二系統の魔法が封じられると言ったのは覚えておるかな?そして今回発見したのは、なんと三つの構造を持っていたのである!」


 興奮しながら話すコバだが、問題はある。



 まずは、クリスタルの大きさだ。

 二系統のクリスタルでも容量が半分になると少ないのに、三つになったらどうなるのか?

 それに伴う重さも気になる。

 もしクリスタルが小さいなら、魔法を封じられる量も限られて、ほとんど意味が無い。

 だからといって大きければ、今度は持ち運びが難しい。

 そうなると戦いに用いるのは、不可能である。


 三つの魔法を封じる事が出来るメリットは分かるが、僕にはそれ以上のデメリットの方が多そうな気がしてならない。



「で、それは実用可能なの?」


「今はまだ、無理である」


「今はまだ?だったら今後は、使えるようになると?」


「そのつもりである」


 やはりデメリットが大きいみたいだ。

 しかし、何かしらの対策法を持っているみたいで、それ次第で実現可能といった感じかな。



「妾達にも使用可能なのかの?」


「申し訳ないが、無理である」


「ほう?何故じゃ」


「これを使用するには、クリスタル以外の物が必要である。しかしそれは、この越前国には無い」


 コバがまた、挑発的な言葉を口にし始めた。

 これはマズイ。



「分かった!もう良いよ」


「良くはない!越前国に無く、安土にはあるというのだな?」


 やはりお市はエキサイトしてきた。

 さっきから少し寒くなってきたのに、このままだと極寒になるぞ。



「ある!だが輸出は出来ん!」


「クリスタルと交換だとしてもか?」


「出来ん!」


「お前が決めるな!」


 コバが勝手に、その取引は応じられないという。

 それが何だか分からない僕は、勝手に断っているコバにちょっと頭に来ていた。



「魔王よ。お主の部下がこう言っておるのだが」


「ちょっと待って下さいね」


 僕はコバを部屋の片隅へと連れて行き、小声で話を聞いた。



「お前、何勝手に決めつけちゃってくれてんの!」


「しかし、それを安土以外に持ち出すのは許可出来ないのである」


「それって何だよ」






「アポイタカラである。今でこそ安全に作れるが、アレはゴルゴンの命を懸けた物。そんな物をおいそれと越前国へ渡して良いのか?答えは否である」

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